移動手段、確保!
街へ向かうのにどうするか。
他の村よりも近い場所に家を造ったといえど、歩いて半日はかかる。
自分一人なら全力で走って往復半日程度だが今回はベントも行きたがっている。
テレポートのような一瞬で移動する速さは必要ないが、馬車レベルの速さがほしい。
となると、作るしかないだろう。
まず、用意しなくてはならないのは馬。
この世界の馬は一度見た。とてもではないが、俺の知っている馬とはかけ離れた化け物だった。ツノは生えてるし足は6本ある。
口は頭の半分まで裂けている、羽も生えている。どうみても馬とは呼べなかった。
そんな事を思いながら俺は一人、みんなに隠れるように森の中に入っていく。
しばらく離れたところで魔法を発動する。
「ああ、召喚!」
ああ、というのは馬の名前だ。
正直、適当に名前を付けて今更後悔しているが、競馬ゲームというのはどうしても子どもがワラワラ産まれすぎて真面目に名前を付けるのは最初の数匹になってしまう。
そして産まれるのはああ、だったりいい、うう、最終的にはああああ、ぐらいまでいく。召喚する欄にはそういった適当に付けてしまった名前が沢山並んでいて、申し訳ない気持ちになる。
1頭で馬車を引くのもいいが、何かあったときのために2頭にする。
ああ、といい、で馬車を引くことにしよう。
馬車の本体は、作りたいがそんな時間はない。
今回は手持ちのアイテムを改造して使おう。
豪華である必要はないし、屋根なんかついてなくていい。
アーティファクト 手押し車(木製) を取り出す。
これを元に木材で改造して馬に引かせれば完璧だな。
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「それは……一体?」
森から連れてきた馬2頭を見たベントがかなり警戒した様子で聞いてきた。
多分こちらには居ない生物で初めて見たからベントには気持ち悪く映っているに違いない。
俺だってこっちの世界の馬を化け物と思うんだから仕方ない。
「これは馬……ではないな、俺の移動手段だ。まあ、馬車みたいなものだ」
「馬車? なんだか変な魔物だな」
ベントの発言で確信した。あの馬車に繋がれていた馬は魔物だ。
何らかの方法でテイムした状態のようだな。
この馬は魔物じゃないのだから間違いなくそういうことだろう。
「見ての通り、こいつに攻撃力はない。魔物に攻撃されればプチプチ相手でも勝てないと思う」
「そうなのか!? なんか、弱い魔物だな」
なにせただの競走馬だからな。荷馬車を引くのも正直怪しいが、我慢してもらおう。
手押し車(改造済み)だがスプリングなんかはもちろん取り付けてない。車輪は大きめにしたがゴムも付いてないし道も舗装されていないから、かなりの振動が予想される。
スキルMAXで改造したから大丈夫と信じているが、壊れるかもしれない。なにせただの木だ。金属部品0でどれほどの強度が出せたのかはあやしい。
幌、馬車によくある屋根代わりの布もつけてないから良く言えば風や森の香り等の自然をそのまま体験できるスタイルとなっている。
まあ、それも楽しみながら向かうか。




