街イレイムの夜
散り散りに逃げる人。
燃える家、崩れた壁。血の匂いと良くない物が燃えた匂いがあたりに充満する。
フレッチャの予定より時間がかかりはしたが、街イレイムを落とすことに成功した。
彼らは統治するために来たわけではない。食糧がなくなり攻め入ってきた過程がある。
だからそこに住まう人々の服従や忠誠がほしいわけではない。住人は全て食糧を奪う敵と認識された。
逃げ遅れた者は全て命を奪われる。動きの遅い者以外は走って街の外へと逃げていった。
「食糧は!? 飯はあるか! 探せ!!」
フレッチャは叫ぶ。
ここまでしたのは何のためか。同胞が命を散らしたのは何のためか。
15000もの兵で進行したフレッチャの軍は既に10000にも満たない。
傷を負ったものは捨て置き、空腹で倒れたものもまた見捨てた。
昨夜まで楽しく談笑していたものも同様に見捨てなくてはならない。
全ては国に置いてきた人々の生活を守るためなのだ。
腹が減ったフレッチャの体からは絶えず空腹を知らせる腹の虫が鳴いている。これは全ての兵に言えることだった。
「あ、ありました! こっちに!」
その声にフレッチャの足は勝手にそちらへと走っていく。
「どこだ!」
フレッチャが部屋に飛び込む。
そこには魔物の乾燥肉に日持ちする野菜、酒の数々。どんな宝石よりも価値がある光景がそこにはあった。
「よし! 喜べ!! ここに食糧はある! 酒もある! さあ、今日は腹いっぱい食おう!!」
手を叩き、拳を突上げ、叫ぶ。
兵士たちは食糧を手に持てるだけもって部屋から飛び出していく。
泣きながらむさぼり食う。喉に詰まらせては酒で流し込む。
街イレイムの夜は明け方まで歓喜の声が響いていた。