お金が無いので
アイテム欄を確認する。
アーティファクト 金の延べ棒 ✕ 2009
アーティファクト 銀の延べ棒 ✕ 2891
アーティファクト 銅の延べ棒 ✕ 5210
アーティファクト 金塊 ✕ 3688
アーティファクト 銀塊 ✕ 5906
アーティファクト 銅塊 ✕ 12369
アーティファクト 鉄塊 ✕ 28956
アーティファクト 岩 ✕ 95672
各種ゲーム内通貨だった金貨や銀貨に銅貨、Gや各種宝石等など、これらは間違いなく売れる。そう、売れそうなものはいくらでもある。
ただ使う事に抵抗はないのだが、これらを売りたくない。俺の持つこの世界には無いアイテムが知りもしない他人に流れるのがどういう影響を及ぼすのかわからないからだ。
特にこの全てのアイテム名の前に付いたアーティファクトが気になる。
アーティファクトが沢山世に出回ったらどう考えても変だろう。
せっかく集めた前世のコレクションを使うのではなく手放すというのもすごく嫌だ。
……何もいい案が思いつかない。
ギルドに用はないので足早に建物から出た。
あたりにゲドルは居なかったので、多分仲間と合流したのだろう。噴水広場で待ち合わせとか言っていたしな。
背伸びを少しすると、お腹がグーっと鳴る。……何も食ってないな、そういえば。あれだけ身体も動かしたし腹も減るだろう。
腹が減ったし目標額には足りないが金もあるから一旦なにか食べよう。
マップを開いて、ゲドルに教えてもらった店を一つ一つ確認していく。
宿屋、宿屋、回復アイテムの店、短剣屋、盾屋、宿屋、宿屋、家具屋。
飯屋でも酒場でも構わないんだが、ない。
ということは……宿屋で何か食えるのかもしれない。宿屋多いし。
ギルドから一番近くの宿屋へと足を伸ばして中へ入った。
宿の中は明るく、沢山の発光体が置かれている不思議な宿だ。
明かりは火が使われているわけではなく、拳ぐらいから親指ぐらいまでの石が発光してあちこちに置かれている。
ギルドでは気にならなかったが、ギルドの中もそこそこ明るかったので同じものが使われていたのだろう。
なかなか高級宿屋感がある。他もこんな感じなのだろうか。
キョロキョロと見るだけでも楽しいので辺りを確認しながらカウンターへ向かう。
カウンター向こうには普通の人間……に見える男が1人。
普通の人間なのか違う種族なのか疑心暗鬼になってきた。どの種族だろうが別に構わないんだが。
「すまないが、ここで飯を食うことはできないか?」
「お食事、ですか? すみませんが、当店は宿ですので宿泊のみとなります」
「ああ、そう。残念。じゃあ、このあたりで飯を食えるところは無いだろうか」
背が高く髪をキチッとセットしたイケメン風の男がカウンター裏から地図を取り出した。
この街の地図みたいだ。
かなり粗い地図ではあるが、この街の全容がボヤッとわかった。
「現在はここ。ギルド地区になります」
ギルドやギルドチームの拠点が立ち並ぶエリアらしい。
お食事処は一切ない。
「噴水広場まで行っていただいて――」
噴水まで戻ってそこから別の道に入った辺りが食地区。
食地区では主に魔物肉、野菜を販売していて、食堂の類は少なく手を加えた料理は総じて値が高いらしい。
そういえばプチプチ肉も買い取られてたな。あれも食べるのだろうか。
高い……のか。じゃあまあ、もういいか。飯は諦めよう。はぁ……。
親切に対応してくれたし、泊まるならここにしよう。
「ちなみに、ここは一泊いくらになるんだ?」
「小銀貨4枚になります」
キッツい。金が無いのに更に無くなる。少なくとも今は無理だな。
とりあえず感謝だけ告げて、宿を出た。
飯も食えなきゃ金もない。金が無いから宿もない。こりゃ笑えてきたな。
持ち物を売ればいいんだが、そもそも買い取ってもらえるのかも怪しい。
色々と全てにおいて不安要素だらけだ。情報がなさ過ぎる。
案内役とかいないし、異世界での俺の自由度高くないか? ゲームだったらクソゲーだな。説明も無くスタートさせるとか何なんだ。
おっと、腹が減ってイライラしているようだ。気をつけなくては。
適当に目的もなく歩いていると一つの看板が目に止まった。
ものすごく大きい看板だったので目に入ったと言ったほうが正しいな。俺の身長よりでかい縦長の看板が地面に突き刺さっている。
“錬金術ギルド”
異世界語で書かれたその文字はしっかり俺の分かる言語で字幕翻訳されている。ありがたや。
錬金術なら俺も使える。どうせ後で入る予定でいたのだから今入るか。
なんとなく、そのまま建物の中へと入ってみた。
両開きの扉を押し入ると、中から薬品の匂いが立ち込めてきた。まさに錬金術といった感じ、というより調合的な匂いだろうか。
そのあたりで調合している様子はないが、受付でガラス瓶の蓋を一本一本開けたり臭ったり覗いたり、鑑定のようなことをしているように見える。
それほど混雑していない。時間帯なのか元々錬金術師が少ないのか。
客はイスに腰かけたエルフ耳の男と受付で瓶を出している小柄の黒フード以外に人はいないようだ。
窓口は3つ。
対応中の一つを除いて、2つの窓口に人はいない。
誰もいないが、そこに立って窓口の奥にいる職員に声をかける。
「少し聞きたい事があるのだが」
誰もこちらを見ない。書類をカキカキしている。
本日は窓口が一つなのだろうか。
だとしたら、小柄の黒フードが終わるまで待つだけなんだが、用事もないし。
どうするべきかその場に立って悩んでいると一番近くに座っていた額から長めの角を2つ生やしたメガネ女子がコチラにやってきた。
「ご依頼でしょうか」
喉まで出かけた「聞こえてたなら返事してくれないですかね?」という言葉を飲み込む。それを聞いても何の問題も解決しないからだ。
そして、この世界の常識を知らない人間はあれこれ言うべきではないだろう。
「ギルドに入りたいんだが――」
「はぁ……失礼ですが、錬金術を扱えるようには見えないのですが?」
まだ喋っている途中だったが、ため息を被せて心底面倒臭そうな顔をしている。
人を見た目で判断するとは何事だ! ……俺も見た目で判断するけど。じゃあお互い様だな。
「錬金術は使えるから問題ない」
「はぁ……そうですか。では、“ご自身で”作った品を持ってきて頂いて、それが本物であるとされたなら錬金術ギルドへ入る事が出来ます」
よろしいですか? ご自身ですよ。とご自身を念押ししてくる。
また貴族か何かだと思われているのだろうか。太っているだけで。
それにしても貴族にそんな態度をとっても大丈夫なのだろうか。ギルドがその辺りの無名貴族と同格かそれに近いものがあるのかもしれない。
ただ、今現在手持ちの自身で作ったアイテムがない。
アーティファクトでよければいくらでも俺が作った物があるが、本当に俺が作ったと判定されるか怪しい。
まだ一回もこの世界で錬金術を使ってないのだから自身で作ったアイテムがないのは仕方がない。
早速どこかで使ってみるか。その品を持ってくればいい。
「わかった。ならば少し待っていろ。今は持ってきていないのでな」
どこかでアイテムも調達しなくてはならない。
ゲドルに聞いた店のどこかに入ろう。あの回復アイテムの店がいいかもしれないな。
早速ギルドを後にしてマップを開きながら足早に回復アイテムの店へと向かった。