敵軍総指揮官 フレッチャ
進行は予定よりやや遅れつつも、概ね問題なく進んでいた。
敵の抵抗が思いの外強く激しい。
すぐに街イレイムへと到達予定でいたリザードマンのフレッチャは、近隣の村で奪った野菜に生でかじりついた。
ここには食べるものがある。それだけで十分だった。
本来なら魔物が発生する土地だからこそ、土に野菜がほとんど育たない国でもやってこられたのだ。
明らかに国の魔物の数が減少していた。それ自体は喜ばしいことと、最初のうちは魔物被害が少なくなり喜んでいたが、すぐに研究者から懸念があがった。
「このまま減少速度が進み続ければ、300日もしないうちに食糧不足に」という報告内容だった。
比例して国の人口は上がっている。食料は無くなり子供は生まれる。
魔法の発達により寿命は伸びて、老人も増える。
研究者の言う300日に達することもなく、村が村を襲うという報告が各地から上がり始めた。
食料がない。ただそれだけだった。苦味が酷く食べられた物ではない雑草すらなくなった。毒ではないから口に入ればなんでもよかった。
自国の特産物は沢山の岩肌の山脈に囲まれた豊富な鉱石。他国へ鉱石と食料の交渉も行ったが、元より閉鎖的な自国との交流は少ない。いきなり食料をよこせといっても受け入れられるわけもなく。
それは世界的に食料不足が進行している証拠でもあった。
痩せ細った体で剣を握る兵たち。フレッチャ自身も決して健康的な体ではない。周りには色々な種族の貴族たちがいたが、一年前の姿とはかけ離れていた。
一年でそれだけ食糧問題が深刻化してしまったのだ。貴族でこれだから平民はさらにひどい。
村から略奪したといえど、15000もの兵を引き連れてきた代償として口に入る食糧は総指揮官のフレッチャですらごく少量で、他の兵はやはりそのあたりの雑草をむさぼり食っていた。
軍の通った後は一本のきれいな道ができるほど、雑草を食らう。
村で一休みを終えたフレッチャの軍は街イレイムへと足を進める。
一日すら止まったり休んだりすることは許されない。時間が過ぎればそれだけ腹が減るのだから。
フレッチャは思っていた。ここもまた、明らかに魔物が少ないと。