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ギルドコイン

 猫さんは少し怒ったように何事かを巨人のおっさんに耳打ちして去っていった。


 名前すら聞けないとは。残念。



「体力テストは合格だぞ! ハッハッハ! ギルドコインを渡そう」



 シルバーのキレイなコイン。小さく透明な魔石が中央に埋め込まれている。飾りもない字も書かれてないかなりシンプルなコインだ。



「どうやらワシの選んだ対戦相手が間違えだったようだが、まあ合格だ」


「間違え? どういうことだ?」



 合格したのに合格じゃないような態度とかまあまあ嫌なんだが。何ならもう一度受け直しても構わないぞ?



「いやいや、別におまえさんが悪いわけじゃない。ワシの見立てで入門者の苦手であろう職員を当てるんじゃが、そのなりでおまえさんが素早いとは思わなくてな」


「ん? ……ああ、そういうことか」



 重装歩兵みたいな装備だしな。たしかに重装歩兵の弱点は機動力のある騎兵とかになるのかな?


 弱点をどれだけ克服できるかとか工夫ができるかとか色々あるらしい。


 たしかにあれだけ避けてしまったら弱点ではないな。



「ある程度戦えるならギルドは歓迎しとる。じゃあそのコインに指を置いてくれ」


「こうか?」



 受付にコインを置いて人差し指で押さえる。


 手甲てっこう越しだが構わないのだろうか。



「そうそう。少しそのままにしておれよ」



 大丈夫みたいだな。


 しばらくするとコインの中央が水色に染まっていく。


 さらにキレイになったな。



「それをもう一度こっちへ寄越してくれ」


「ほい」


「おまえさん。確か名前は……」


「アカだ」


「おお、そうだったそうだった。鎧でわからんのだが、おまえさん、種族は何になる?」


「純人族だ。登録に種族もいるんだな」


「そりゃな。おまえさんも嫌な種族の一つや二つあるじゃろ? チームを組んでもらう事もあるからな。わしらの方であらそいが起きないように調整するじゃよ」



 俺からコインを受け取ったおっさんが専用の器具にコインをはめ込んでキーボードみたいな物をカタカタしている。


 カタカタって、パソコンでもあるのかこの世界。


 そうかそうか。種族毎に仲が良かったり悪かったりするのか。俺も気をつけないといけないな。



「ほれ。登録できたわい。期待の新人だな」


「そりゃどうも」


「そいつは無くすなよ。無くしても再発行はできるが、安くないからな」


「わかってるよ。無くすほどバカじゃない」


「ならよいが……とりあえず規則だからギルドのルール説明と行こうか」



 コインを受け取って袋に入れるふりをしてアイテム欄へ収納しておく。これで多分盗られることはないだろう。見たことないスキルもあるだろうから間違いなく安全とは言わないが、持って歩くよりははるかにいい。


 ルール説明は適当に相槌を打って受け流していく。


 ギルド同士はもちろん他ギルドとのケンカはご法度はっととかギルドの不利益になることはやめろとか、曖昧あいまいなルールが続く。


 基本的にはルールを破ったからといって即日除名ではなくて厳重注意からの改善が見られない場合除名らしい。本当かは怪しいが。


 会費は20日で銀貨2枚。まだ金の相場がわからないから高いのか安いのかわからない。払えないと除名。数回分をまとめて支払うこともできるらしい。



「うむ、こんなものじゃな」


「そうか。大体理解した」



 半分以上話聞いてないけど。



「いくら力があろうが初めは10級からだ。討伐依頼は全て受けることはできん」


「そうか、残念だ」


「まあ、おまえさんならすぐに9級に上がれるじゃろう。10級で受けられる依頼は素材採取じゃから仕事を受ける時にはそこに張り出された依頼表から自分の身の丈に合った依頼表をもって受付までこい」



 採取か……少なくとも今は外に出ることができない。すぐに金が必要なのだ。


 手持ちの売れそうな魔物はプチプチの9体しかない。これが銀貨2枚以上で売れなきゃ何か考えないといけないぞ?



「わかった。じゃあ、また明日来るとしよう」


「そうか。今日はまだ街に来たばかりみたいじゃからな。観光でも楽しんでこい」


「ああいや俺は……そうだな。観光もしないとな。そういえばここにくる途中にプチプチをいくつか倒したんだが、討伐依頼ではなく素材の買取はしてるのか?」



 観光に来たわけじゃないので否定しようとしたが、別に正直に話す必要もないだろう。


 持ってるプチプチについてもダメ元で聞いてみるか。



「もちろんじゃ。2階の受付で話してくれ」



 ラッキーだな。買取はしてくれるようだ。


 おっさんとの会話を適当に切り上げて2階への階段を上った。


 2階ではハンターが何組か魔物の素材を受付に置いて、商談か何かをしているのが見える。


 何を話しているかは聞こえないが、個室が良かったなぁ。


 受付が3つ、2つは対応中なので空いている受付へ向かう。



「ギルドコイン」



 受付へ顔を見せるなり手を出してそう言われた。


 焦げ茶色の……クマっぽい手だ。かわいい。


 手から辿って視線を顔まで這わせると、やっぱりクマだ。


 クマ獣人、かわいい。


 獣人が普通にいるのでかなり癒やされる世界だ。ずっと見ていられる。



「早く!」



 おっと見惚れていた。


 せっかちなようなので、アイテム欄から急いで取り出して、手に最初から持っていたのをよそおって渡す。



「素材? 鑑定?」


「素材だ」

 


 鑑定もしてくれるようだ。俺は自分でできるから利用することはないな。



「……何も持ってないようだけど冷やかしなの?」


「あ、いや、ちょっと待ってよ」



 確かに俺は今何も持ってない。


 早速アイテムバッグ(極小)を取り出し、袋の中から取り出すふりをしながらプチプチの死骸を受付カウンターへ並べていく。



「へぇ、便利な物を持ってるのね」



 クマさんに感心されてしまった。



「って、処理してない魔物そのまま持ってきたの!? はぁ……手数料取るからね」



 そして直ぐに面倒くさがられてしまう。



「時間かかるから、あっちのイスに座って。出来たら呼ぶから」



 言うとおりに壁際に設置された長椅子の一つに腰かけた。


 魔物は処理しないと手数料を取られるようだな。勉強になった。


 処理の仕方を知らないからそれも勉強しないといけないな。


 どこかで本を買おう。この世界の地図とか色々欲しいものができた。


 クマさんに言われたことが少し気になって辺りを見渡すと、ハンター達は大きめのバックパックを装備している人が多いことに気がついた。アレに魔物の素材を入れてるのか。なるほど。俺が手ぶらなので冷やかしだと思ったのか。


 ゲドル達は全員小さなポーチ程度しか持っていなかった。アレは駆け出しで金がないからか。



「アカ! 出来たわよ! 早く!」



 なぜ呼び捨てで、なぜかされているのだろうか。


 疑問を振り払い、急いでカウンターへ向かう。



「はい、まずこの魔物はプチプチね。魔石も取り出してなかったけど素人なの? まあいいけど。プチプチ肉が9個で1小銅貨と4鉄貨。プチプチの毛皮が9個で1小銀貨と4銅貨。魔石が9個で1銀貨と4小銀貨。合計で銀貨2枚と銅貨4枚と小銅貨1枚と鉄貨4枚」



 よし! 銀貨2枚揃った!


 プチプチ程度で銀貨2枚稼げるとは。魔物倒してたら知らず知らずお金が貯まりそうだ。ゲームでも知らず知らずお金貯まってたりするしね。



「で、手数料で小銀貨2枚だから、アカへ渡すのはこれだけね。あとギルドコインも返しとく」



 いつ俺の名前知ったんだろうか。あ、このギルドコインの情報か。


 俺の手元に銀貨1枚と小銀貨3枚、銅貨4枚、小銅貨1枚、鉄貨4枚が残った。


 ……………………いやいや、いやいやいやいや。


 銀貨2枚なくなってるやないか! 手数料で!



「終わったらさっさと離れて! 次の人の対応ができない!」


「ああ、はいはい!」



 逃げるようにカウンターから離れた。


 怖いなクマさん。ゆっくりしてたら直ぐ怒る。


 あー、しかしどうしようこれ。金無い。逮捕かな? ろうにぶち込まれるのだろうか。それはそれで面白いかもしれないけど、異世界冒険の初めで牢屋というのも嫌だな。何とか乗り切る術を考えよう。

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