やり込み
――ゲームの何が面白いのだろうか。
例えば、プレイヤースキルを磨くFPS。シューティングゲームだが、通常キャラが強くなるわけではない。――例外として強くなるものも存在するが。
プレイヤー自身が使用している武器の距離やリロード時間の把握、キャラの動き、敵の配置や行動、敵の銃口からの射線を読んでいくことにより強くなるもの。
例えば、キャラが自身が強くなるRPG。武器を揃え、レベルを上げてアイテムを手に入れ強敵となるBOSSを倒す。
例えば、ジャンルなんか問わず単純にゲームに登場するキャラクターが好きで人間模様やストーリーを楽しむ人もいるだろう。
他にもアドベンチャーや色々なシュミレーション、パズルにレースと色々存在する。
俺がゲームをしていて楽しいと感じる瞬間はどんなゲームも同じ。
――未知を自らが見つけるのが楽しいのだ。
行ってない街や場所、戦ったことない敵やダンジョン、そして手に入れたことの無い作ったことのないアイテム達。
それらを全て手に入れてこそ、俺は満足する。
俺の人生は全てにおいてゲームに捧げられた。
私生活には気を使わず、友達も作らない。腹に入れば飯なんかどうでもよかった。
そして、両親の残してくれた遺産で働きもしない。
全てがゲーム。優先順位はゲームが一番なのである。
目の前のモニターから目を離し俺は、ゲーム機からディスクを取り出した。
また一つ、ゲームをやり込んだのだ。
「次のゲームはどれにするか……」
まだまだゲームは無くならない。そうこうしているうちに新作のゲームは出続けている。
次にどうするかを考えている間に起動しっぱなしのスマホアプリの放置ゲーに手を伸ばしてとりあえずキャラを転生させた。
スマホアプリのゲームもやりこみ要素は多い。
通常のRPGを始め、今では全てのジャンルのゲームがプレイできてしまい、新作の出るスピードもテレビゲームやPCゲーに比べても早い。
その中でも俺が優先的にプレイするのが放置ゲーと呼ばれるスマホアプリでゲームが参入してきて現れたNEWジャンル。
このジャンルはアイテムを集める系のやりこみ要素はほとんど存在しない。キャラクターステータスや金をほぼ無限に増加させることができるゲームで、クエストをこなし敵を倒してステータスを上げるのだがそのほとんどが自動で行われる。
煩わしい時間を取られないので大変時間に優しいゲームなのだ。
あまりにもステータスがインフレを起こすので1,000を1a、1,000,000を1bと表示する工夫がなされているゲームも存在する。1zだと1,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000になるのだから短縮させて表示させるのは妥当な選択だろう。ステータス画面が数字の羅列で埋め尽くされてしまう。
ちなみに999zを超えると1000zではなく1aaになる工夫もされている。
次にやり込むゲームを決めてゲーム機へセット。
その時、スマホからけたたましいアラームが鳴り響いた。
不気味な音に画面を覗き込むと『緊急地震速報』の文字。
……大丈夫。
この建物はそう簡単には倒壊しない。耐震構造のしっかりしたマンションなのだから。
少しだけ緊張する体を誤魔化すために口に水分を含ませてゲーミングチェアーに腰掛ける。
……揺れ始めた。
ゲームに集中しよう。
ヘッドホンを耳に当てる。
不意の停電に対応できるように業務用といって差し支えない大容量のポータブル電源を備え付けてあるし、問題はない。大丈夫。
「う、うわ!」
体が浮くほどの強い揺れにゲーミングチェアーから落ちそうになる体を、机にしがみついて必死に耐えた。
モニターがどこかへ飛んでいくのが見える。
……これは、ヤバくはないか?
大丈夫。高いところに物を置いてはいない。理由は簡単で取るのが面倒だからだ。
頭に降り注いでくるものはないし、倒壊しないかぎり死ぬことはない。
……大丈夫。大丈夫。
何度も自分に言い聞かせる。
ミシッ――。
物がガラガラ落ちる音に負けない音量で建物が軋む音を聞いた。
……俺は今、ヘッドホンをしているのに、だ。
激しい揺れに机へしがみついたまま音が聞こえた方へ視線を向けた。
「をわ、わあああ!!」
天井が……天井が割れている。
次の瞬間ガレキが降り注ぎ、意識を失った。