七十八服目 Play Back(24)
『いやぁ、まさかの「飛び入り参加枠」の選手でしたねしゅげぇ!!』
『ええ、まったくです。残念ながら負けてしまいましたが……我々を最後までハラハラさせる試合を見せてくれました。というかラスト……まるで義経を守り切った弁慶を彷彿させる凄まじいモノを感じさせ――』
司会と解説がそんな会話をしている間に、私は師と共に、会場内にある救護室へと向かっていた。顔色を診るために、敢えて覆面を大会専属の医師に脱がされた、対戦相手であった少年に付き添うためだ。
少年を診た、本大会の専属医師曰く、どうやら酸素不足により非常に危険な状態らしい。私は医療関係に詳しくないので、医師の言葉を私にも分かるよう説明してくれた師の言葉によると、だが。
とにかく、私は相手を殺しかけたらしい。
いろいろ綺麗事や、師への侮辱の言葉を聞かされたけれど……さすがに、殺そうとまでは思っていなかった。いや、でも……ボスのボディガードになるからには、常に相手を殺す覚悟は必要かもしれないけど……胸が、苦しい。
相手が死ぬかもしれないと思うと、どうしても心が揺れる。
私は……私は、これから先も、師と一緒に裏の世界を渡り歩くかもしれないのにこれじゃ……私は、師の足手まといになってしまうじゃないか。
落ち着け、落ち着け私……!!
しかしどう自分に言い聞かせても、動揺は抑えられない。
それどころか、相手の顔色が悪くなる度に動揺が強くなる。
「大したガキだ」
そんな時、師は、担架で運ばれる、私の対戦相手だった少年を見ながら言った。
「女子供を殴れないような性格なのか、それとも女子供を、優先的に守るべき存在だと決めているのかは知らんが……最後まで、メイサ相手に本気を出さないどころか、それでも自分の覚悟が本気である事を伝えようと、極め技を受けながらもそのまま立ち上がりやがった。末恐ろしいガキだ」
「ッ!? だ、だから私に手加減を!?」
少年が救急救命室に運ばれていくのを横目に見ながら、私は師に訊ねた。
「ああ。これはさすがに……弁護士次第じゃ、自首も考えなきゃいけないかな?」
※
「な、なんて凄まじい試合なんだ」
メイサ・ヤガミという少女と、ミスター・メシカという覆面少年の試合を、選手控室のTVで見ていて、私は……気が早いけど決勝戦の事を思った。
あの強さ、メイサはおそらく決勝戦に上がってくるだろう。
そして私は、これから倒していく相手次第では……彼女と激突するだろう。
おそらくは、私の全てを懸けなければ勝てない……彼女と。
そう思うと、気分が高揚した。
確かに彼女は私と同じ万能型で厄介だ。
しかしだからと言って、怖いとは思わない。
寧ろ、自分が全力を出しても大丈夫な相手にようやく出会えた……その喜びが、心の大半を占めているかもしれない。
そして、その姿を。
見ているかどうかは分からないけれど……爺ちゃんに見せる。
私が、ルチャ・リブレで何かを成し遂げる度に喜んでくれた爺ちゃんに。
そしてこの大会で勝てば、どれだけ喜んでくれるだろう。
そう考えると、どんな相手だろうと絶対に勝とうという気になる。
「決勝で待ってろ、メイサ・ヤガミッ」
画面に映る彼女に。
対戦相手の少年に付き添っている彼女に。
私は、私にだけ聞こえる小さい声で呼びかけた。
その裏で、彼女が何を思っていたかを知らずに。




