七十三服目 Play Back(19)
解毒剤の副作用による体調悪化から、なんとか回復した時には……格闘技大会は次の局面を迎えていた。
師の言うところの、ベストエイトなる者を決める局面になったそうだ。
英語は分からないけど、会場中に設置されているTVに表示された表によれば、どうやら選手が残り八名になったようだ。
そして、その中には……私と、あの『マスク・ド・コアトル』とかいう覆面の子もいた。このまま勝ち進むのならば、私とマスク・ド・コアトルが決勝で激突する事を表は示している。
「次の試合までに回復してくれて、俺は師匠として嬉しいぞメイサ」
画面を眺めている私に、師は涙ぐみながら声をかけた。
「この俺の後任として、俺達が所属してる方の組織のボスのボディガードになってくれる日を、楽しみにしているからな」
「話が飛んでるよ、師匠」
私は苦笑を返した。
まだ決勝まで行けるかどうかも分からない段階で、気が早い話をされたから、というのもそうだけど……それと同じくらい、いや、それ以上に……私は本当にこのまま、師が与えてくれた道を進むだけでいいのかと悩み始めていたから。
師の特訓を受けている間に、格闘技が好きになった……というのも理由の一つだけど、その道を進んだ先に、私を助けてくれた、あの黒髪の子と会える未来があるのか。そう考えると、このままボディガードになる道を進むべきか悩んでしまう。
でも、今は師の……この大会に私を出場させてくれた師の努力に報いなきゃいけない。だから今は、この胸の内は言えない。言うとしても、この格闘技大会が無事に終わってからだ。
※
そして、私が次に対戦した選手は……思った以上に雑魚だった。
なんか、ダンベとかいう、アフリカのとある部族に伝わる、危険な格闘技であるとされる……ボクシングの一種のような格闘技の使い手だったけど。
もしかして、相手……今まで当たった相手が雑魚ばかりだったのかな。
それとも私ほど特訓をしていなかったのか。目の動きだけで相手の次の動きが予測できて、それですぐに関節技に持ち込んで勝てた。
関節技を食らった状態のまま殴ってきたけど、それでも、寝技でもあった関節技を受けてたために、相手のパンチの威力が削がれ、私にとっては我慢できるパンチになっていた。そしてその状態のまま……私の勝利となったのだが。
なんか、不完全燃焼だ。
準々決勝なんだからもう少しホネがある相手と当たっても――。
『おおっとぉ!? こ、ここで「飛び入り参加枠」を使ってきたかぁ!?』
『ほぅほぅ。ようやくそういう選手が出てきましたか。いやいや、解説者としては嬉しい展開で……あ、マイク必要? ならこれ使って?』
――すると、その時だった。
相手選手が運び出され、そして私が外に出ようとした時に、一人の、覆面をした少年が球形金網リングへと走ってきた。私の道着と、どこか似た服装だけど、色が違う。上が白で、下が黒。見た事はないけど、どこか懐かしさを覚える服装だ。
そんな少年へと、解説者が予備のマイクを投げる。
マイクが必要な選手用に用意されたマイクらしい。
そして、マイクを受け取るなり少年は叫ぶように言った。
『俺の名前は「ミスター・メシカ」!! 守りたい者を、守るため……そのための力を求めてここまで来た!!』
日本語。
私の祖父母の故郷の言語だった。
直後に、彼の言葉は数ヶ国語に翻訳され、字幕でTVに出る。
だけどその前に、私は、祖父母から日本語を教えられていたからこそ、その意味を瞬時に理解する。
するとその直度、会場がこれでもかと沸いた。
みんな、彼という予想外の選手を受け入れてくれたようだ。
そしてすぐに、覆面の選手こと『ミスター・メシカ』は私が入っている球形金網リングへと入ってきた。
彼は、ただならない雰囲気を纏う、私と同い歳くらいの少年だった。
そして、ただならないからこそ……私はすぐに、臨戦態勢を整えた。
「君、なんで戦っているの?」
するとその彼は、拙い英語で……私にそう問いかけてきた。




