七十服目 Play Back(16)
「あの道着の子……ブラジリアン柔術の使い手か?」
タルカスの一撃を受けた事による腹痛がなんとか治まってきた頃。
私は試合の様子を、カメラのリアルタイム映像で見ながら呟いた。
しかし、ブラジリアン柔術は寝技中心で、突き技はなかったハズ。
私が聞いたところによると、日本から南米に来た武術家が現地人に教え、そしてその現地人が改良に改良を加えてブラジリアン柔術はでき……その改良の過程で、突き技などが排除された、らしいが。
道着の子の師匠であるボギー・ホーガンは……残念ながら知らないけど、まさかそのホーガンさんが、ブラジリアン柔術を本来の日本の武術寄りの格闘技に変えて作ったのが、あの道着の子の使う格闘技の正体か?
だとしたらあの道着の子は、突き技も投げ技も関節技も使う私と同じ……万能型の格闘家か。
もしもぶつかる事があったら、少々厄介かもしれないな。
※
「ほぉ、道着の子も面白かったが……チャイナ服の子の方も、面白い暗器を使っておったな」
「えっ!? 師匠分かったんですか!? チャイナ服の子の暗器が!」
親父の師匠――クロードさんから覆面を渡され、それを被っているそばで。親父とクロードさんが試合を、立ち席から観戦しながら言葉を交わす。
「…………お前、気付かなかったのか?」
クロードさんが親父にジト目を向けた。
「霧彦君はともかく、お前に分からなかったとは……はぁ。それでもお前、ワシの弟子か? いや、格闘方面での弟子ではないけど」
…………えっ? 格闘方面の弟子じゃない?
俺はその言葉に驚愕した。
ずっとクロードさんは、親父の格闘技の師匠だと思ってたのに……違ったのか。でも、だとしたらクロードさんは親父に、何を授けたんだ?
「し、師匠……人には得手不得手がありますよ」
親父は苦笑しながら返した。
だがこめかみが痙攣しているところからして、少々頭に来ている……というのはさすがの俺でも分かった。だけど師匠が分かっている以上、弟子もある程度推測を立てられなきゃカッコ悪いぞ親父。
「……まぁいい」
クロードさんは嘆息してから言った。
「あのチャイナ服の子はな、前髪に極細の針を仕込んでいたのじゃ」
「なっ!? 前髪に……ッ! じゃ、じゃあ前髪を弄っていたのは!?」
親父が驚愕する。
もちろん俺も驚愕した。
まさか前髪に暗器を隠して、そして前髪を弄る際にその指で極細の針を取って、相手と対峙していたなんて……っていうか今知ったけど、この大会って武器の使用が許されているのか!?
クロードさんが気付いたくらいだ。
きっと試合関係者の中にも気付いた人がいるに違いない。
にも拘わらず、試合が続行されるだなんて……この大会、いったい何なんだ!?
「あ、そうそう」
しかし俺のそんな驚きを余所に、クロードさんは飄々とした調子の日本語で俺に言う。
「霧彦君には『ミスター・メシカ』というリング名で、飛び入りで参加してもらうからよろしくね♪」




