六十六服目 Play Back(12)
『さぁ続きましては予選最終試合!!』
なんとなく宿命じみたモノを感じた、ルチャドーラのマスク・ド・コアトルの初戦が、彼女の勝利で終わってから時間は経過し、今度は私の初戦の時間になった。
『知ってる人は知っている!! 知らんヤツは今から覚えやがれ!! かつて格闘家業界のシンデレラボーイと呼ばれた伝説の武術家、ボギー・ホーガン!! その正統後継者である愛弟子……メイサ・ヤガミが本大会にやってきた!!』
ボギー・ホーガン。
私の師の名前である。
というかそんな二つ名で呼ばれていたのか師よ。
弟子である私もビックリだ。何だよシンデレラボーイって。
しかしここで苦笑するのは得策ではない。
やる気がないなら引っ込めと観客に言われかねないので、私はすぐ気持ちを切り替えて「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」と絶叫した。
観客も絶叫する。
鼓膜が破れそうなほどの大声量だ。
もしかして、師のファンもいるのか。
普通だったら警察に連絡されかねないあの師の。
現在、師は舞台裏に引っ込んではいるが、少なくとも私という重要参考人を警察に引き渡せば師を捕まえる一助になるだろうに。
いや、ファンだからこそ通報しないのか。
それとも私があの師の弟子だと信じていないのか。
まぁどっちにしろ、この大会を運営している組織にゲストとして呼ばれた以上、それなりに暴れるだけだけど。
『対するは!! チャイナタウンに来たら絶対一度は聞いた事があるこの人が来てくれた!! 裏社会では超S級のバウンティ・ハンターとして知られるリン・メイフォンの妹にして一番弟子!! リン・ミーシェンだぁッッッッ!!!!!!』
『ほぉ。ここで言うのもなんですが、指名手配犯の弟子とバウンティ・ハンターの弟子の夢の対決ですか。しかも二人共、美少女ときた。これは燃えと萌えを同時に覚えずにはいられませんね』
反対の入場口から、私と同じ東洋系の少女が現れる。
こちらは師と同じく道着を着込んでいるのに対し、向こうは……なんというか、袖がなく、丈が長く、スリットが腰の辺りまで入っているチャイナ服を着ている。しかも素足……マスク・ド・コアトルとはまた別の意味で観客ウケしそうなタイプの服を着ている。激しく動けば下着が見えないか?
「フフフ、正々堂々と戦いましょうね?」
と、私が相手に余計な心配をしている時だった。
いつの間にか試合開始は告げられており、そしてその戦う相手である少女が笑顔で、私に握手を求めてきた。数ヶ国語に翻訳された上で字幕でTVに出た、司会者の言葉を聞いていなかったのだろうか。私達は相容れぬ関係性だというのに、握手だと?
「フフフ、もしかして私があなたの経歴を気にしていると思っているのですか?」
怪訝な顔をする私に、彼女は私には分からない英語で言う。
「これは確かに、マトモな格闘技大会ではありませんが、しかしだからと言って、あなたの正体や、あなたの背後にいる指名手配犯を捕まえる事によって出る賞金の事を考えるのは得策ではありません。そんなくだらない事を考えると、足元をすくわれるのが勝負の世界というモノでしょう? なので私の場合は、正々堂々と戦わせていただきますわ」
「…………フン。何言ってるか分からないけど、握手くらいなら」
違法な地下格闘技大会の選手にしては珍しくマトモなヤツかもしれない。いや、もしやそれは私の偏見だろうか。探せばもっといるのだろうか。マトモなヤツは。
そう思い、私は彼女の握手に応じようとして……差し出した右手に、チクリと、かすかな痛みが走った。
「ッ!?!?」
な、なんだこの痛み!?
普通、握手でこんな痛みが走るワケが……ま、さか!?
慌てて手を離す。
と同時に相手の顔を改めて見て……怒りが湧いた。
「ごめんあそばせ♪」
彼女は邪悪な笑みを私に向けていた。
「あなたの正体を気にしてませんし、あなたの師を捕まえて賞金を得る事は考えていませんが……あなたを私の実験動物にしたいとは思っているんですの♪」
こいつ……何言ってるか分からないけど。
とにかくヤバいって事は本能で理解した。
何をされたかは知らないが、とにかく距離を……ッ!?
な、んだこれは……?
握手した右手が……燃えるように熱い!?!?




