六十三服目 Play Back(9)
「まったく、お前というヤツは」
親父と俺の二人と並走しながら、俺達とは違い、汗一つかかず……一人の男性が話しかけてくる。親父の武術の師匠である男性だ。
「相っっっっ変わらず当たりもしない勘のみで行動しおって。あと数メートル先に進んでいれば、確実にストリートギャングとの喧嘩になっておったぞ」
「ええっ!!? 親父ッ!!」
その言葉には、さすがの俺も怒りを覚え……親父を睨み付けた。
まさか俺達が、事件に巻き込まれるか否か……そのスレスレの所にいたとはッ。
「…………返す言葉もありません」
すると、珍しく親父が萎縮した。
いつも自信満々で大雑把な親父がだ。
それほど、親父は師匠の男性に弱いのか。
「……まぁ、見つかったからよしとしようか」
すると親父の師匠は、一度溜め息を吐いてから言う。
「だが貴様の息子が出る枠は……もう、諦めて『飛び入り参加枠』にて出場する他ないの。もう試合が始まっとる……というかウチの孫が戦う時間帯じゃないかどうしてくれるこの馬鹿弟子ウチの孫のデビュー戦を最初から見れんじゃないか!!」
「も、申し訳ありませんでした!!」
親父は、今度は頭を下げて謝罪した。
というか、親父の師匠……意外と子煩悩ならぬ孫煩悩!?
というかそれ以前に、親父の師匠のお孫さんも出るのか。
もしも俺とお孫さんが当たってしまったら、勝利を譲った方がいいのかな?
※
「フッ、良い試合だったぜチャーハン氏」
「チャーハンじゃねぇ! サーハンだ!」
『第一試合はまさかの、エンディゴ君の不戦勝という結果に終わってしまいましたが、第二試合は消化不良な我々には爽快な試合でしたねぇ解説のノーちゃん!!』
『ノーちゃん言うなや。それはともかく彼らには感謝しなければいけませんねぇ。まさか「裏ボクシング界の破壊者」とまで言われた男の息子・ジャックが来てくださるだけでなく、インドから遥々やってきてくださった、あの幻とも言われる、古代インド王家に伝承されていたという武術ムート・マハラージャの伝承者サーハン少年の試合が見られるとは思わなかったです。結果的にはサーハン少年が敗北してしまいましたが、良い試合でした。というか私にはどちらが勝ってもおかしくない高レヴェルな戦いのように見えていましたがどう思いますか、司会のシg――』
爺ちゃんの知り合いの息子が出場する予定であった第一試合だけでなく、第二試合までも終わってしまったのを、司会と解説の男性のマイク越しの声で知った。
どうやら爺ちゃんは、間に合わなかったみたいだ。
こうなった以上、もうその息子とやらは『飛び入り参加枠』でしか出場できなさそうだ。ちなみに『飛び入り参加枠』は、読んで字の如く飛び入り参加で出場する枠だ。これは出場者が、他の出場者による妨害などを受けて出場しにくくなった場合に備え、本大会の主催者が作った枠らしい。
まぁそのせいで誤解し、戦いの素人である成人男性までも乱入しかねない枠ではあるが、そこんところは係員が制圧するらしい……と全てパンフレットには書いてあった。どこまで本当かは、正直分からない。
なぜならば観客は……私から見てもマトモとは思えなかったからだ。
控室を少しの間だけ抜け出して、ちょっと観客を見たんだが……見渡す限り入れ墨だらけ!! しかもピアスなどの装飾品をつけていたり、髪の色を変えたり目が虚ろだったり……ヤバい感じしかしない!!
ここは子供のための格闘技試合の会場ではないのか!?
爺ちゃんが連れてきてくれたここは……いったい何なのか!?
『さぁ続きましては第三試合!! 今度は中米より遥々と!! 今こそ我らの神話復活の時!! ドラゴン……じゃなくてマスク・ド・コアトル選手!! そして、制した喧嘩は……幾時代ありまして百件以上!! 素手あり武器ありなんでもござれ!! ニューヨーク州のA級ピットファイターことタルカス・アルゴー君の戦いだぁ!!!!』
「喧嘩が俺様を呼んでいるゥゥゥゥ!!!!」
タルカスという名の少年……明らかに、百八十センチオーバーの背丈はある、私から見れば筋骨隆々な巨人も同然の私服の少年が、入場口から現れながら叫ぶ。
わ、私も別の入場口から歩を進めているが……何か言った方がいいのかな?
というか、それ以前に。
うん、これ絶対マトモな格闘技大会じゃないよね爺ちゃん!!?
「ウガーッ!! 勝ったら覚えてろォーッ!!!!」
そして私は……私を騙した爺ちゃんへの怒りをブチまけながら入場して、会場を沸かせつつ、まずはこの喧嘩野郎をどう倒し、生き残るべきかを考え始めた。




