五十三服目 怪氣学園S(29)
「…………ば、番長……殿……もっと、急いで……ほしいのじゃッ」
そして現在。
自分が千桜共々、須藤に両脇で抱えられて移動しているのを把握し、自分で歩けない事に申し訳なさを覚えながらも、それでも非常事態であるため、カノアは須藤に指示をした。
「し、ろギャルたちを……会わせては、いけないのじゃ……ッ」
「黙ってろ!! 急いでやっから!!」
そう言いながらも須藤は、速くは動けずにいた。
なにせ両脇に、大量に出血したカノアと千桜を抱えているのだ。
無理に速度を出して傷が広がり、死んでしまっては元も子もないために、迂闊に速度を出せるワケがない。
しかしある程度、移動中にカノアから事情を聞いてしまっているが故に……彼も悔しく思わずにはいられない。
なぜならば。
今回の事件の黒幕は――。
※
「…………なんだって?」
同時刻。
教え子からの報告を聞き、中塚は眉根を寄せながら耳を疑った。
なぜならば、もしも、教え子の推測通り、売人が不完全なる煙草の臭いを完璧に消せるアイテムを完成させていたとするならば――。
「俺達どころか、煙術師にも……誰が売人か判別できないじゃぁないか」
※
「美彩!! しっかりしろ、美彩!!」
倒れていた親友の無残な有様に、璃奈は一瞬、動揺したが、すぐに彼女は美彩に駆け寄った。そして傷に障らないよう注意しつつ、大声で呼びかける。
霧彦達が遅れて、彼女達がいる教室に入ってきたところで、美彩の体はかすかに動いた。ただし全身に大ケガを負っている関係上、このまま話している暇はない。カノアと千桜の行方は気になるが……まずは、見つかった美彩を病院に連れていくためにも、早く、一度脱出しなければ。
「…………り、な?」
「ッ!! 美彩!!」
そして、璃奈が美彩をおんぶしようとしたまさにその時。
美彩が意識を取り戻したのを声から察し、璃奈はこの時……完全に油断した。
「……よかった…………役者が、揃った……みたいで……」
「…………え?」
そして、その隙を突くかのように。
璃奈の意識は、そこで一度……途切れた。
※
次に璃奈が目を覚ましたのは、見知らぬ一室の中だった。
教室ではない。部屋全体がコンクリートのような硬い材質で出来ている、質素な場所だ。そんな中で璃奈は、鉄製の椅子に座らされ、さらにはその状態のまま、手足と体が鎖で、椅子に縛り付けられている。
そんなあまりの超展開に、璃奈の頭は……当たり前だが追い付かず、頭上に疑問符を浮かべる事しかできなかった。
「…………んんっ……あれ? ここは……?」
しかし超展開は、留まる事を知らない。
なんと彼女の背後から、霧彦の声が聞こえてきたのだ。
「はぁ!? 霧彦!? なんでお前もここに!? つうかここどこだ!?」
「璃奈!? 後ろにいるのは璃奈なのか!? というか、いったい何が起こったんだ!?」
璃奈の存在が分からないかのように、霧彦は叫ぶ。
もしかすると、背中合わせに椅子が配置されているのかもしれない。
「アタシも知らねーよ!! 霧彦は覚えてないのかよ!? というか、そんなこと言ってねぇで助けろよ!! 鎖で縛られてんだよ!! 早く美彩を助けなきゃいけねぇのに縛られたままでいられるか!!」
「………スマンが、俺も縛られてる。璃奈とは違って、普通に縄なんだが」
「はぁああああ!?!?!?」
ワケが分からない超展開が連続し、さらに璃奈は混乱した。
「ゴメンね? 璃奈は異様に腕力あるから、万全を期して鎖にしたんだ♪」
そして、そんな彼女の混乱にトドメを刺すかのように。
ついに一人の少女が、本性を剥き出しにして二人の横に現れる。
今回の事件を起こした黒幕。
不完全なる煙草の売人としての美彩が。




