五十一服目 怪氣学園S(27)
薄暗い、鏡の向こう側の空間の中に、二人の少女が倒れていた。
全身が血にまみれ、今にも出血多量で死んでしまいかねない少女達――カノア・クロードと木下千桜が。
木下千桜の出血は、自傷行為によるもの。
暴走する自分を止めるため、彼女は、残った理性を総動員して包丁を腹に刺すという無茶をした。そしてただでさえ、不完全なる煙草の影響により、心身が弱っている状況で、そのような無茶を敢行したせいで、もはや彼女は、その場から少しも動く事はできなくなっていた。
一方で、カノア・クロードの出血は……そんな千桜から受けた傷だけが原因ではなかった。
確かに千桜により付けられた裂傷も、致命傷ではないが、放っておけば出血多量で死んでしまうレヴェルのモノではあった。しかし彼女の場合はそれに加え、直後に出会った存在と激しい戦闘を繰り広げたせいでもあった。
――…………ま、ずい……のじゃ……。
血が少なくなり、意識が朦朧としてきたカノアは、それでも体を動かそうとして……しかし千桜と同じく、まったく動かせない事に気付いて歯噛みした。
――……や、つと……会って、は……。
自分が戦った相手は、次に璃奈達を襲うと彼女は確信していた。
相手との戦いの中で、相手の目的を、なんとなくだが察する事ができたからだ。同時に、どう転んだところで……璃奈達では相手を倒せない事も。出血多量というハンデがあったとはいえ、それでも勝てなかったから……だけが理由ではない。
相手の存在からして、璃奈達では……どうあっても戦えないからだ。
しかしカノアは、諦められなかった。
自分や、今回の事件に巻き込んでしまった千桜達の命だけではない。
おそらく、今回の敵の幹部クラス以上の存在であろう……己が戦った相手の心の救済も。
しかし、いくら強い意志を、覚悟を持っていたとしても……ケガのせいで、体を動かせなくては何の意味もない。しかしそれでも、カノアは無理やり体を動かそうとして――。
――その空間に、何者かが侵入してきた事を音で察した。
※
「ッ!? おい! 転校生はどこ行った!?」
襲撃してきた売人達を全員殴り飛ばし、一息吐いたところで……ようやく璃奈はカノアがいない事に気付いた。
「…………おや? そういえばいないね」
肩で息をしながら……遅れて陽も、その事に気付く。
「ま、まさか……美彩くん達のように連れ去られたんじゃ……ッ」
倒した相手を起こして、尋問しようとしていた霧彦は、嫌な予感を覚え、すぐに相手を起こそうと動く。
「た、大変じゃねぇか!」
「は、早く売人起こして尋問しねぇと!」
佐護と宇摩も、霧彦が起こそうとしている相手へと近付く。
拘束するためのロープなどがないのだから、尋問するとしても、反撃される場合を考え、一人に絞った方がいいからだ。
そして、いよいよ相手を起こすため、霧彦が高速ビンタをしようとした……その時であった。
「………………す……け…………」
かすかにだが、聞こえた。
北校舎のどこかから……攫われた美彩の声が。
「美彩!?」
するとすぐに、璃奈は動いた。
声が聞こえてきた方向――北校舎二階の、向かって右側の廊下を真っ直ぐ進んだ先の、突き当たりの場所にある教室へと駆ける。
彼女の後を、慌てて陽達は追った。
霧彦も、今回ばかりは早歩きではなく全力疾走で璃奈を追う。
「待て璃奈! 罠だった場合も考えて慎重になれ!」
しかし、彼は璃奈とは違い冷静だった。
確かに同級生を守れなかった悔しさは、璃奈と同じく抱いているが……敵の罠に掛かる可能性もあるため、さすがに冷静さを保っていた。
そして、ついに璃奈が突き当たりにある教室に着いた時。
彼女は安堵だけでなく、血の気が引くほどの衝撃を覚えた。
なぜなら、そこには。
多くの血が付着した、乱れた着衣を身に纏った状態で、床に寝かされている美彩がいたのだから。




