三服目 不良達の集い
「クソがッ。あの転校生めぇ」
放課後の校舎裏。
須藤はそこに、己の不良仲間と共にやってきていた。
もはや一部の、不良が登場する漫画の中では定番といえば定番な場面である。
というか校舎裏という場所は、告白の場もしくは不良のたまり場……以外に使い道がないのだろうか。
「この俺に、恥をかかせやがって……ッ」
そして須藤は、カノアに対し怒りこそ覚えているが、その勢いで復讐してやろうとは考えられないでいた。
彼がバーカオブヴァーカーだから、というワケではない。
それ以前の問題。
あの衝撃的すぎる第一次接触の中で、彼は悟ったのである。
――あれ以上ヘタに動いたら、首を極められ落とされていたと。
それは、人間が持つ、生物としての直感。
何度も起こした、他校の不良との喧嘩を生き抜いてきた彼の経験則が導き出した結論だった。
「須藤さん、そこまで言うならリベンジしたらどうっすか?」
「そうそう。いつものようにやられたらやり返す精神で……あれ? どうしたんすか須藤さん?」
「…………ん? なんか言ったか?」
そして彼の中で芽生えた、生物であれば、誰でも持っている死への恐怖は、彼の取り巻きの不良男子の言葉への反応を遅らせるほど、彼に圧力を与えていた。
「えっ? あ、別になんでもありません」
「そ、そうそうなんでもないっすよあはははは」
須藤の反応の変化から、取り巻き達は何かを感じ取ったのだろうか。彼らは深く追及をしたりせずに、ただただごまかした。
※
「…………何なんだよ、あの転校生」
似たような思いは璃奈も抱いていた。ちなみに彼女がいる場所は、地味な校舎裏ではなく下校途中に寄ったレストランである。
「無駄にテンション高いし強いし……なんか喋り方とか変だし」
「その転校生の噂はウチのクラスにも来たよー」
璃奈の不良仲間である美彩が、机を挟んだ向こう側の席で笑いながら言った。
「メキシコっていうと愉快な国だよね? 彼女のテンションの高さとかってお国柄だったりするのかな?」
「その内、アミーゴとか叫ぶんじゃない?」
同じく不良仲間である陽が、クールな口調で話に加わる。
「あー、それはあるかも」
璃奈はゲンナリしながら言った。
「璃奈、大丈夫?」
美彩が心配して声をかける。
「あー、ゴメン。その、転校生がさ……うざくてうざくて」
璃奈は深いため息をつきながら言った。
そして、改めて彼女は思い返す。
隣の席で、しかも制服や教科書がまだ届いていないという転校生イベント発生のために教科書を貸したりなんだりでカノアと交流した際「おおっ!! こ、これが伝説のシロギャルというモノか!!」や「こ、この国の不良といえば長い丈のスカートではないのか!?」などとテンション高めの斜め上な反応をされた事を。
彼女でなくともゲンナリするだろう。
「あー、だりぃ。明日はガッコ休もうかな?」
「璃奈、その程度で休むとか言うなよ。それと下校時の飲み食いは禁止だ」
しかしそんな彼女のぼやきへの返事は、彼女がよく知る声によってされた。反射的に璃奈は声がした方を見た。
そこにはやはり……彼女達とは水と油な風紀委員男子がいた。
「うげぇ。霧彦」
「あー、霧彦クンだぁ~」
「うーす。風紀委員」
とはいえ全員が全員、璃奈と同じ反応ではないようだ。
それは彼が、持ち物検査の時などに、いかなる相手だろうと話しかけられるような性格をしているからか、それとも……。
「うーす、じゃない。帰ってから集まるならともかく下校時に飲み食いをするのは禁止だ。早く帰りなさい」
「えー、じゃあ霧彦クン、その代わり帰ったら私達と遊んでくれる~?」
霧彦は校則違反をしている璃奈達を風紀委員として注意した。
だが美彩に、男であれば聞き捨てならない交換条件を出されてしまう。
「いや、俺にはまだ見回りがある。今週土曜の午後には遊べるが」
「「いやマジメか」」
しかし彼女のハニトラが通用しないほど霧彦はまじめだった。璃奈と陽は同時にツッコんだ。




