表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/413

   三十服目 怪氣学園S(6)


 霧彦と陽、そして美彩は、体育館倉庫の幽霊により精神を侵蝕され、苦痛の表情を浮かべるカノアと璃奈を見た。


 しかし三人には、それ以上何もできなかった。

 美彩は動かず、霧彦は動けるものの、立てないほどのダメージを()っている。陽は体育館倉庫内にあるボールなどを幽霊に投げ付けたりしたが、幽霊の攻撃は通るのにこちらの攻撃は通らないという理不尽な現象が起きるせいで無駄に終わった。


 ――このまま、同級生が苦しむ姿を見ているしかないのか。


 霧彦達は、悔しさと共にそう思った……その瞬間だった。


『ッッッッ!?!? ■■■■■■――――――――ッッッッ!!!!』


 体育館倉庫の幽霊が、突然頭を抱えて苦しみ出した。

 おかげでカノアと璃奈は(はりつけ)の状態から解放され、同時に床へと(くずお)れる。

 さらにはそのショックが気付(きつ)けになったのか、カノアはすぐに正気に戻り、(ふところ)に入れていたパイプ煙草を口に(くわ)えた。


「…………幽霊には、悪い事をしたのじゃ」

 幽霊が苦しむ姿を見届けつつ、パイプ煙草に新たに煙草の葉と火を入れカノアは告げる。


「確かに貴様の過去も、なかなか凄惨(せいさん)なモノではあったが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 言い終えるなりカノアは、浄化の紫煙を幽霊へ吹き付けた。

 幽霊はさらに苦しんだが、次第に落ち着き始め……最終的には(おだ)やかな顔のまま消滅した。


 ――成仏した。


 誰もがそう感じた。

 と同時に、周囲の氣の質が変わり始める。


 幽霊が発していた、憎悪に満ちた氣から。

 まるで大自然の中の(ごと)き、清々(すがすが)しい氣へと。


 だが周囲の氣が変わろうとも。

 霧彦達には、カノア達にいったい、何が起こったのか理解できず……(けわ)しい顔をした。


     ※


 一方、璃奈は別の意味で困惑していた。


 ――…………い、いったい……今の映像は(なん)だったんだ?


 なんとか体に力を入れ、上半身を起こしながら思う。

 最初の映像の内容は、さすがに分かった。あれは体育館倉庫の幽霊の記憶の映像だろう。それも、彼女にとってはとても()まわしい記憶。幽霊となってしまった原因であろう記憶。


 ――強姦。


 加害者は過去の、この高校の不良生徒か。

 同じ女として、見ているだけでとても不快になる記憶だった。


 だが相手が、彼女の服を乱暴に脱がし、そして行為に及ぼうとした、まさにその瞬間……別の映像に切り替わった。


 ――わずかながら月明かりが差し込む、暗い空間の中。


 そこには一人の成人男性と、一人の少年がいた。

 二人は地面に転がっていた岩を椅子代わりにして座っていた。

 そんな中で成人男性は、何かを(つぶや)いてからパイプ煙草を吹かして……そこで璃奈は吐き気を覚えた。


 強姦されかける映像も、確かに吐き気を(もよお)すほど不快であったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 だがその映像は、同じ映像を見て苦しみ出した幽霊が拘束を解いたのと同時に、唐突(とうとつ)に終わった。何が起こったのか一瞬理解できず、璃奈は(あっ)()に取られた。だがその直後。もしも、あのまま映像を見続けていたら……みんながいる前であるにも拘わらず吐いていたかもしれない嫌な予感が、なぜか頭を(よぎ)った。


 それだけ映像は、詳細こそ理解できなかったが……いや(むし)ろ、()()()()()()()()()()()であるような嫌な予感がする〝記憶〟だった。


 ――…………まさか、転校生の……?


 床に(くずお)れつつ、カノアが幽霊を浄化する様子を眺めながら璃奈は思う。

 幽霊の記憶の映像でも、己の記憶でもない。さらにはカノアが口にした言葉からして、そうとしか考えられない。


 ――…………いったいこいつ、過去に何が……?


 そして改めて璃奈は、疑問に思う。

 己のクラスメイトにして、煙術師としては師と言うべきカノア・クロードは……果たしてどんな道を歩んできたのかを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うむう、パイプ煙草の煙によって、一時的にでも霊体への攻撃能力を有する……とまではいかんのですな。 裏で暗躍する人間相手となると役に立ってくれそうだけど、こうして霊体相手となると弱点にもなり…
[一言] カノアちゃん……! いったいどんな過去が……!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ