一服目 不良少女と風紀委員男子
もっと、ラブコメの勉強をせねば。
「璃奈!! またお前スカート丈短くして!! 丈は膝より下だって何度俺に言わせれば気が済むんだ!!?」
「ウッセーんだよこの石頭!! アタシのスカート丈に、いちいち口出しすんじゃねぇ!!」
早朝。
高校の校門前で、男女の大声が炸裂した。
かつて世界の中心であったりした英国から見て、極東に位置する弓状列島の一部地域の学校ではまだまだ存在する朝の一幕……ようは、身だしなみおよび、持ち物検査でのやりとりである。
「というかなんだよその着崩しっぷりは!!? 俺はお前をそんな娘に育てた覚えはありませんよ!!?」
「育てられた覚えがねぇ……ていうか霧彦、お前はアタシのオカンか!!?」
大げさに言えば学校の秩序を守ろうとする勢力と個性を貫こうとする勢力による聖戦たるその衝突は、しかし両者それぞれの台詞からして……夫婦漫才に見えなくもない有様となっていた。
二人が幼馴染である事もその要因だろう。
ちなみに生徒指導の先生と不良生徒ではなく、風紀委員と不良生徒の衝突だ。
そして道行く他の生徒はそんな二人の関係性を知っているのか、苦笑したりニヤニヤしたりしながら校門前を通り過ぎようと――。
「おっとお前、地毛が黒だって事はもう分かってるからな」
――したが一部の生徒はできなかった。
風紀委員である霧彦が、驚いた事に不良の幼馴染から視線を外さずに、その生徒の制服の首根っこを掴んだのだ。
掴まれた生徒は、驚愕したまま「ぐぇ」と、潰れたカエルのような声を上げた。それを見た不良少女も驚愕した。
なぜよそ見をしてて、自分以外の校則違反者の存在に気づけたんだよと、幼馴染の知らない一面を知って逆に恐怖さえ覚えた。
「はぁ、まったく油断できないな……璃奈、今回は注意だけだけど、次見つけたら反省文だからな」
しかしそんな不良幼馴染の感じた事など知ってか知らずか、霧彦はため息をつきながら言った。
するとそれを聞いた不良幼馴染こと璃奈は、遅れて「ハッ」とその事に気づくと「う、ウッセーバーカ!」とまるで小学生男子のような捨て台詞を吐いてスタコラと校門を通り過ぎた。
「やれやれ」
幼馴染の後ろ姿を見届けると、霧彦は次に、自分が首根っこを掴んでいる毛染め不良生徒へと視線を向けた。
「で、お前その髪は……ってちょい待ちそこの子!」
しかし注意をしようとしたまさにその時だった。
その毛を染めた不良生徒の後ろを、自然な感じで通り過ぎようとする一人の少女がいたので、霧彦は慌てて声をかけて止めた。
「ダメじゃないか勝手に入っちゃ。君、どこの小学校の子? 休みって、ワケじゃないでしょ? 小学校には行かなくていいの?」
霧彦達が通う高校の制服とは異なる制服に、百センチより少し上くらいの低身長と、明らかに高校生ではない少女だ。しかも髪の色こそ黒ではあるが、褐色の肌に青い瞳と少々日本人離れしている。
もしや日本在住の外国人小学生か、と当たりをつけ、霧彦は少女に威圧感を与えないよう気をつけながら話しかけた。
「…………オイ貴様。それはワシに言ったのかのォ?」
しかし少女は、不服だったのだろうか。
眉間にしわを寄せ眼光を鋭くしながら霧彦に問い返す。
「……ワシ?」
明らかに小学生が日常的に使うとは思えない一人称を聞き、霧彦は首を傾げた。
もしや、日本語を間違えて覚えたんじゃなかろうかと霧彦は思った……のだが、すぐにその少女が、鞄から一冊の手帳を出したのを見て驚愕した。
その手帳は明らかに霧彦達が通うこの『公立清雲高等学校』の生徒手帳であり、さらにいえば、それを覆う透明なカバーに差し込む形で入れられていたのは、どこからどう見ても……彼女の写真が貼りつけてある学生証だったからだ。
「ワシは今日からこの高校の生徒なのじゃ。確か……二年B組だったかのォ?」
少女はまたしても、小学生どころか高校生でも一部を除いてありえない言葉遣いで言った。
「…………し……」
霧彦は、信じられないと言いたげな顔で少女と学生証を見比べた。
「…………しかも、同じ……クラスかよ……」
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