十三服目 怪しき集い
「みなさん、本日はとても悲しい事が起きてしまいました」
一人の女性が、声を上げた。
まるで魔女を彷彿させる黒いローブに身を包み、ローブに付いているフードで、その顔の上半分を隠した女性だ。
そこは薄暗い部屋だった。明かりは、酸欠が心配になるほど多く立てられたロウソクのみで、さらにはその部屋の中で、妙な煙と香りを発する御香が焚かれているという……如何にも怪しげな雰囲気の場所だ。
そんな空間には、女性以外にも数人の男女がいた。
全員、女性と同じ装束である。そのため、互いに顔が識別できず……まるで仮面舞踏会のような怪しい集まりとなっている。
そんな彼らが、声を発した女性――彼らのリーダー格と思しき存在の言葉を聴き息を呑む。一部の者は、フードの下で不安そうに顔を歪ませた。
「我らが同志の一人が……この学園に混沌をもたらそうとする悪しき存在の野望を止めようとして、返り討ちにされました」
そんな中で、女性は彼らにさらなる報告をする。
彼らの中の不安が、これでもかと大きくなるほど……とても重要な報告を。
途端に、その場の空気が変わった。
集った同志達の不安は最高潮に達し、報告したリーダー格の女性へと「ほ、本当なのですか!?」や「わ、私達はやられてしまうのでしょうか!?」などと、今にも泣きそうな声で訊いてくる。
しかし女性は、慌てない。
みんなを落ち着かせるために、静かで、それでいて圧の込められた声で「心配は無用です」と告げた。
「みんなの力を合わせれば、勝てない敵などありません。だからどうかみなさん」
そして女性は、一度そこで言葉を切ると、深呼吸を挟む事で心を落ち着かせ……改めて、少々声を大きくしながら言った。
「かつての世界へと、還しましょう」
まるで見た目通り、呪文を唱えるかのように。
「神秘に満ち溢れた……かつての世界へと」
己の信者達の心の奥底まで、その言葉をズブズブと浸透させるように。
※
「むぅ。それにしても、憑依された者までいまだに目覚めないとは……想定外なのじゃ」
柳瀬家の風呂場の湯船に浸かりながら、カノアは両腕を組んだ状態で、眉間に皺を寄せていた。上から押し潰す事で小さくならないよう、その胸部の禁断の果実を下から抱えるような格好で。
少々、サイズが大きく見えるのは、そのせいであろうか。
「確かに今までも、気絶した者はいたが……全員数時間以内に目覚めていたぞ? なのになぜ、今回は……いやまさか」
だがそこまで考えれば、さすがのカノアもある可能性に思い至る。
「自供させないため……密売人がなんらかの口封じを? だとすると……どうやらこの事件、一筋縄ではいかないかもしれないのォ」
もしそれが本当ならば……犯人は二年A組の生徒と先生が病院に運ばれるまでの間に、校内を自由に動く事ができる存在である事を示している。それも、カノアとしては信じたくはないが、クラスメイトや先生が、その一員であるかもしれない可能性もある犯人だ。
「……協力を要請するにしても、慎重に人選をせねばのォ」
これからの潜入捜査を思い、カノアは少し気が重くなった。だが全員が敵というワケではあるまい……と考え直し、気持ちを切り替えた。
「よし、とりあえず明日は閉鎖された二年A組をまた調査して――」
そしてそう言いながら、湯船を出ようとした……その時だ。
「カノアちゃ~~ん! まさか半身浴によるデトックスでもしてるのですかぁ!? お風呂に時間かけ過ぎですよぉ!」
夕月の声が脱衣所の方から聞こえてきた。
するとカノアは「半身浴……そういえばそういう健康法もあったのォ」と今さらながら思い出し……ちょっとしたイタズラを思い付いた。
「フフン!! おかげで貴様よりも健康的、かつナイスボインなナイスバディーに生まれ変わったのじゃ!!」
「にゃ、ニャンですとぉ!!?」
得意気なカノアの嘘発言に、夕月は脱衣所で衝撃を受けた。カノアはそれを聞きながらクックッと笑みをこぼした。
というか半身浴は、肌はともかくバストサイズにまで影響を与えるような健康法であっただろうか……そんなワケはない。
「こ、こうしてはいられないのです!! 夕月も半身浴で、一美お姉ちゃん並みのナイスボディを手に入れてみせるのです!!」
「フフン。まぁとりあえず頑張るがいいのじゃ」
得意気にそう言い残すと、カノアはバストアップをしたように見えるよう、腕を組んだまま、慎ましき裸体の夕月と入れ替わる形で脱衣所に入った。幸いにも思惑通りに、夕月にその単純なトリックはバレずに、脱衣所へと入れた。
「まったく、単純なヤツじゃのォ」
ここまで思い通りにいくとは思わず、カノアはほくそ笑んだ……が途中で重大な問題に気付いた。
「ちょっと待て貴様! 一美さんの入浴はいったい誰が手伝うのじゃ、オイ!?」
一美「半身浴は確かに血行を良くしますが、バストアップに効果があるかと言えば……どっちなんでしょうねぇ?」
夕月「一美お姉ちゃんでも分からないのです!?」




