十二服目 夜中の決闘!?
「じゃあねぇ~、また明日ぁ~~!」
「また明日、璃奈」
「ああ。また学校でな」
璃奈は放課後、不良仲間である美彩と陽と共にレストランで夕食をとると、適当にダベり、そのまま解散した。
以前集まり、霧彦に見つかったレストランではない。
というか次に見つかれば、校則により反省文なので、嫌だろうが何だろうが別のレストランに行かねばならないのだが。
ちなみに今回彼女達が入ったのは、路地裏にある隠れ家的なレストランである。
店主のその日の気分で出る料理が変わるという、旅番組で出てもおかしくはないほど変わったレストランであったのだが、幸運にも料理の味も見栄えも良かった。嫌いな食材も出なかった。
なので、璃奈達は満足したまま解散できた。
しかし、彼女のその満足感は……突然急降下した。
「フハハハハ――――ッッッッ!!!! さすがのカノアちゃんも!! 夕月の俊足の前ではドンガメも同然なのですぅ!!!!」
「き、貴様ァ!! チカラを使っておいてそれを言うかァ!!!!」
目の前の丁字路を恐ろしい速さで通過するJCと、それを息切れしながら遅れて追いかける知り合いを目撃したせいだ。
「…………は?」
隣の席の、煩わしい転校生少女との再会、そして彼女の知り合いらしい、まるでジェットババアの如き俊足の少女の出現という、ワケの分からない展開を前に……璃奈は唖然とした。
するとその瞬間。
限界が近かったのだろうか。その隣の席の煩わしい転校生ことカノアがフラフラになったかと思うと、その揺れる視界の中で璃奈の存在を視認し「むぅ!! そこにいるのは伝説のシロギャルではないか!!」と、先ほどまで疲れていたのが嘘のように大声で話しかけてきた。
「白ギャルって呼ぶな!!」
璃奈はすかさずツッコミを入れた。
「ていうか、なんでこんな場所にいるのじゃ? それも制服で」
しかしカノアはそんなツッコミをスルーして、璃奈にごくごく当たり前な質問をしてきた。
まるで、自分のような不良高校生を補導しようとする警官のような質問だったため、璃奈は一瞬嫌な顔をしたが、相手がクラスメイトである事を思い出しなんとか平静を保った。もしも警官であったなら、全力で口撃による喧嘩を売っている。
「そ、そう言うお前こそなんで走ってんだよ。こんな時間に」
璃奈はなんとか平静を保ち、いろいろと言い訳を考えて……まずは話題を変える作戦で自分への質問をはぐらかしてみてはどうかと思い、彼女は試しにそれを実行した。
「うむ!! 実はな……居候先の住人である板胸エセJCと競っててのォ」
すると案外うまくいった。
いやもしかしてカノアがバカなのか。
「話せば長くなるが、今ちょっとした理由で、松阪牛の肉が家に大量にあるのじゃが……それを食べててそのエセJCが『太った後にダイエットすれば、巨乳になるとか聞いた事があるですぅ!!』とか言って肉を大量に食べて、その後にマラソンをするという生活を始めたのじゃ。それでもし本当にエセJCが巨乳になったら、ワシとそいつの間にある優位性が覆されると思って、ワシも同じ生活を始めた、というワケなのじゃよ」
しかしその内容は、あまりにも阿呆なモノだった。
聞いた璃奈は思わず「いやお前らアホだろ」と笑ってしまった。
「というか、知らねぇのかお前? 人間が痩せる時はな、胸から痩せるパターンが多いんだぜ?」
「な、なにィ!? 知らなかったのじゃァ!!!!」
璃奈の告げた事実に、カノアは雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
「まぁそんなワケだ。ダイエットも、ほどほどにな」
煩わしい転校生の、面白いところが見つかるとは思っていなかった璃奈は、笑いながら最後にそう言い残すと、そのままその場から立ち去ろうとした。
「待つのじゃ伝説のシロギャル!!」
しかし数歩歩いたところで、カノアに呼び止められた。
「いやだから白ギャルって呼ぶな――」
璃奈はすかさず、もはやパブロフの犬のような反射でツッコミを入れた……次の瞬間。彼女の身を白い煙が覆った。
「ブフォォ!? な、これっ!? ゲホッ! ゲホッ!」
いきなりの予測不能な展開に、璃奈は手で煙を払いながら困惑した。
「さっきの情報の礼じゃ。なにやら不穏な空気を纏っていたからの。軽くハラっておいたぞ」
しかし直後に聞こえてきた、まったく内容が理解できない転校生の台詞のおかげで、璃奈はこれが転校生の仕業だとすぐに理解した。
すかさず「待てこのっ!」と、璃奈は煙を払いながら、鬼のような形相でカノアを捜した……のだが、煙が晴れた頃にはカノアの姿はなかった。
やっぱあいつとは仲良くできねぇ、と璃奈は思った。




