百十七服目 葬儀の場で(前)
公立清雲高等学校の朝礼と、時を同じくして。
奥村美彩……メイサの実家に、多くの人が、準備のために出入りしていた。
今回、公立清雲高等学校で起きた事件の終盤で命を落としたメイサ達の、通夜の準備のためにである。
集まっているのはメイサの養父・克巳と、その妻でありメイサの養母である紗英の関係者。さらには璃奈や陽を始めとするメイサの関係者に、事件に巻き込まれる形で関わった、須藤、佐護、宇摩の三人。そしてメイサが幹部として所属していた……不完全なる煙草の密売組織の存在が発覚するキッカケとなった、海外出身の霊媒師カノアの関係者達だ。
だが、そのカノアは……さらに言えば、霧彦と、今回の事件の被害者の一人こと千桜はこの場にはいない。
彼女達は現在、カノアの関係者が手配した病院にいる。
千桜については身体検査のため。そしてカノアと霧彦については、事件の終盤で原因不明としか言いようがない意識不明の状態となったからだ。
いや、カノアについては、出血多量を原因とする虚脱もあるかもしれないが。
ちなみに霧彦については、カノアと同じく虚脱の可能性も挙げられたが、結局は原因不明の意識不明と、医学的には判断された。
※
「お忙しいところをお越しくださって、ありがとうございます」
喪服に身を包んだ、メイサの養父母……その家族である男性が頭を下げる。
すると同じく喪服に身を包んだ相手は「いや、顔を上げてください。どちらかと言えば、まず先に頭を下げなければいけないのは……あなたのご家族の事を細かく知ろうとしなかった我々の方です」と返した。
カノアが頼りにしている協力者の一人である中塚教授と、その教え子達だった。
確かに中塚の言う通り、売人の関係者が身内にいる可能性も考えて行動していたならば、今回の事件の結末は違ったモノになったかもしれない。
「いえ、義弟の知り合いであるあなた方は、ウチの家族を助けようとしてくれたんです。感謝こそすれ、怒る道理はありません」
※
「中塚教授、とか言ったっけ?」
奥村夫妻の家族に改めて頭を下げてから、メイサの自宅へと、生徒と共に入ってきた中塚に声をかける者がいた。
いったい誰だと思い、中塚は声のした方へと振り向いた。
と同時に、カノアの居候先の主人である一美を始めとする、中塚の生徒達も一斉に振り向いた。
すると、その視線の先にいたのは、喪服に身を包んだ陽だった。
「あら、あなた確か……」
一美はすぐに、相手が誰だかを理解する。
「ご無沙汰してます。一度、ご自宅に伺って以来ですね」
陽は一美に一度顔を向け、社交辞令としてそれだけ返すと、すぐにまた中塚へと視線を戻し、言った。
「それと、中塚教授……? カノア・クロードの関係者としてのあんたに訊きたい事があるんだけど」
「事件の詳細を知りたいのなら、生半可な覚悟で踏み込まない方がいいぞ」
返ってきた言葉は、拒絶とも警告とも取れるモノだった。
「こっちは遊びで研究をしているつもりはない。常に命の危機と向き合った上で、我々は動いている。君はクロード君の協力者ではあるけど……君達をそこまで危険な領域に踏み込ませたくないと、クロード君は思っていると思うがね」
中塚はそこで、一度肩を落とした。
まるで、危険な遊びを覚えんとする悪い子に対し「仕方ないな」とでも思うかのように。そして彼は、カノアの気持ちも考え、教師らしく再び陽を諭そうとする。
「その証拠に、彼女はこの惑星に起こっている事を話し――」
「ビリー・マンチェスター」
しかし中塚の口は、陽の口から出た名称を聞いた瞬間に固まった。
それを見た陽は「やっぱり」と、自分に言い聞かせるように呟きつつ確信した。
「やっぱり、ウチの家族の一員になったあの外国人は……カノア・クロードと関係あるみたいだね」




