十服目 柳瀬家の食卓
「いやぁ悪いね柳瀬君。まさか俺達もディナーに呼んでもらえるとは」
その日の夜、カノアの居候先である柳瀬家は賑やかだった。
本来の住人である一美、夕月、そして居候のカノアに加え、新たに四人の来客が加わったのだ。
「いえいえ中塚教授、お気になさらないでください」
一美は己の車椅子を操り、自分の席の前に着けると、机を挟んだ反対側に座る、白衣を身に纏った男性、そしてその男性の右隣に座る、ウェーブがかかった茶髪の女性に言った。
「中塚教授と羽澤さんには、時々助けてもらっていますし」
「ふ、フン! べ、別にアンタを助けようとしたワケじゃないわよ」
茶髪の女性こと羽澤美緒が、顔を赤くしながらツンとした態度をとった。
「ムフフ~~♪ ミオちゃんもなかなかのツンデレですねぇ♪」
その様子を見て、夕月は思わずニヤけてしまう。
「ええ。まるで桐谷さんみたいですよね」
一美は、先日、刑務所の面会室で面会した同じゼミのメンバーを思い出しながら言った。子供が出来たおかげなのか、彼女は刑務所にいながらも、何が何でも生き抜こうとする活力に満ちていた。
「むぅ!! これが伝説のジャパニーズ・ツンデレっ!! まさかお目にかかれるとは思わなかったのじゃッ!!」
カノアは無駄に興奮した。
「誰がツンデレよッ!!!!」
当然の事ながら、美緒はブチギレた。
「アハハハ……というか、お嬢。自分達もお邪魔してすみません」
するとその時、中塚教授の左隣の、そのまた左隣に座るガタイの良い成年・斎藤堅至が、苦笑しながら一美に声をかけた。
「食卓を狭くしてしまったみたいで……オイ嶽武者丸、お前も一応言っとけ」
今度は中塚教授の左隣に座る同僚に、堅至は声をかけた。
「松阪牛ごっつぁんです、お嬢!!」
「いやまず狭くした事を謝ろうよ!?」
まさかの返答に、堅至は思わずツッコミを入れた。
「いえいえ。楽しんでもらえて何よりです」
そう言いながら一美は、熱したホットプレートにA5ランクの松阪牛を並べた。先日受けた仕事の報酬の不足分として、仕事の依頼主から渡された分が、まだまだ残っているのである。ちなみに今夜は焼肉ディナーだ。
「ところでカノアちゃん」
何枚か牛肉を焼き、その内の数枚を、タレの入った自分用の小皿に入れたところで……一美は話を切り出した。
「学校から連絡が来たんですけど」
保護者としては、決して看過できない話題を。
するとその瞬間。
焼けた肉にタレをつけて、口に運ぼうとしていたカノアの体が、金縛りを受けたかのように硬直した。
「おやおやぁ? もしかして、さっそく問題でも起こしたですかぁ~~?」
夕月はカノアをからかうなり、松阪牛数枚をご飯と共にかき込んだ。
「穏やかじゃなさそうね」
美緒はそう言ってから、タレをつけた松阪牛を口に運び「あぁこの味! そして舌触り……久々だわッ」と言った。彼女はかつて松阪牛を食べた事があるようだ。
「し、仕事道具を見られただけなのじゃッ! しかも風紀委員に!」
カノアはなんとか金縛り状態を解き、意見した。
「それはさすがに……マズいでしょう、カノアちゃん」
一美は苦い顔をした。
「仕事をする時は、ちゃんと、誰もが視認できない状況にしないと……特にカノアちゃんの場合はいろいろ誤解を受けやすいから」
「していたのじゃ!!」
カノアは、必死に弁明した。
「でもなぜかあの風紀委員は、ワシを視認しおったのじゃ!!」
「ほぅ。それはなかなかアムェイズィングな話だなッ」
するとその時、二人の話に中塚教授が割り込んだ。
明らかに人に教える側がどうこうの雰囲気ではない。というかその目は水を得た魚の如く生き生きしていた。
「クロード君! その風紀委員を今すぐ俺に紹介したまえ! 君の認識阻害が通じないとはッ! 是非ともその風紀委員をトコトン調べ上げたい!!」
「相変わらずマッドサイエンティストかアンタはぁ!!」
暴走を始めた中塚教授を、美緒はゲンコツで無理やり黙らせた。




