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陰気な読書家の役割  作者: Lovewave秋ノ助
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陰気な読書家の最後?

すっかり気分も冷めて、普段の小心者になった僕が最初に出会ったのは、獣のような音をだす花だった。うなり声の響く森の中を恐る恐る進んでいると、足元で「グワッ」と、犬とも鳥ともつかないような変なこえがした。しまった、かなり背の低い奴がいたのかと、素早く後ろの木の陰に隠れたが、相手は一向に動く気配がない。さては踏んでしまった時に死んでしまったのかしらと顔だけ出してみると、パンジー位の背丈の花が、細い茎をパキッと折られて、花弁を地面にまき散らしていた。まさかそんな筈はあるまいしとその場を去ろうとしたその時、花弁の一つが「グッ」と、さっき聞こえた声でそう鳴いた。これだけでも僕はもう満腹なのだが、翼の生えた鼠が居たり、内容はわからないけれども、かなり複雑な会話をしているらしい鳥が居たり、挙句の果てには透明な木が群生していて、額を痛めながら進まなければならない所もあった。それらの不思議な生物に触れていく中で、僕の頭はこの世界について少しでも解明していこうと、確からしいことをまとめていこうとようやく回転しだした。


-覚悟していたことではあるが、ここは現実とはまるで世界のようだ。さっきの花には声帯らしき組織は一切見当たらなかったし、鼠に付いていた羽は蝙蝠のそれのような形だった。あれでは、とても鼠一匹が飛ぶのに必要な浮力を生み出せるとは思えない。この世界の物理法則が違うということは、十中八九ないと考えていいだろう。今感じている重力は僕の世界のものと殆ど、というか一切変わらないし、同じ見た目の花でも喋るはなと喋らない花があった。恐らく、この世界には僕らの世界に存在するものとは別のエネルギーがあり、それが特定の生物に影響しているのだろう。-


 そんな事を考えながら森を歩いている内に、その時はやってきた。「グオオオオオオオ」と、後ろから大きな声と、何かが走ってくる音が聞こえてくると思った瞬間、僕の体は大きく吹っ飛び、目の前にある木の幹に頭から思いっきり突っ込んだ。生まれて初めての大ケガで、何かを考えている余裕は全く無く、頭の中に「?」の文字が浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。薄れゆく視界の中で、僕の目に最後に写ったものは、赤い体毛を光らせ、荒っぽく息をしている三メートルはあろうかという巨大な熊だった。


 目が覚めたら、僕は机に突っ伏していて、本はいつの間にかパタンと閉じていた。まるで怪談小説の主人公が、気絶した時に大抵助かるみたいなそんな展開だなとか、あれは夢だったのかなとか、しばらくは馬鹿なことを考えていたと思う。

 さっきまでのことを、ただの夢だと一蹴するのは簡単だ。けれどもあの土の匂い、花の感触、木にぶつかった時の痛みを経験してなお、それらを虚構の物だと笑い飛ばすのはあまりにも愚かな行為だろう。とにかく、数日は経過を見て、追って記録したいと思う。


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