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陰気な読書家の役割  作者: Lovewave秋ノ助
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陰気な小説家と怪しい本

 当時の僕は、というより今の僕もなんだけど、かなり憂鬱になっていたんだ。なんで憂鬱なのかって事はさほど重要じゃない、とにかくやる気が起きなくて、色んなことにイライラしていたんだ。それですこしでも気を紛らわそうと、珍しく外をでて遠出でもしてみようと思ったんだ。気分はまるで、制服を着て家を出て、酒を飲みに行く太宰治みたいな、情けなくて、申し訳ない気持ちだった。そんな時に、あの本をみつけたんだ。

 電車に乗って、二時間と三十分くらい。未だに切符を手渡しで売るような、寂れ切った地方線の終点、観光地ですらないほど田舎の森を僕はトボトボと歩いていた。あの有名な詩人の、我泣きぬれて蟹とたわむるという部分が頭の中でずっと浮かんでは消えたりしていた。虚ろな気持ちの中、何気なくうなだれた僕の目に、奇妙な光が飛び込んできた。そこに何か運命的な何かを感じた僕は、その光の正体を突き止めようと森の奥地へと進んでいった。

 そこは暗い森の中でも、ひと際暗い所だった。今更怖くなって、帰ろうと踵を返した僕のつま先に、コツンと何か固い物が当たった。見ると、何か固い物が地面に埋まっていて、その一部が顔を出してるみたいだった。

 もう説明するまでもないと思うけど、それは本だった。青い表紙に、女性が手を組んで祈っている模様が刻み込んであった。大きさも厚さも丁度辞書くらいで題名は無く、持ってみるとズッシリと重かった。

 僕はそれを、家に持ち帰ることにした。本を大切にしようという気持ちもあったし、誰も来ないような辺鄙な所に置いてある本が、どんな内容なのか非常に気になったからだ。いま思えばあの時からおかしな本だった。埋まっていたにもかかわらず土は一切ついていなかったし、湿ってもいなかった。全く、あんな本放っておけばよかったんだ。

 あとはまあトントン拍子に、家に帰って本を机の上に置いて、さあ読むぞと開いたとたんにフッと意識が無くなって、きずいたらこんな森の中に居たという訳だ。

 これを読んでいるということは、多少の違いはあれど、似たようによくわからない過程を経てここに迷い込んだのだと思う。そしてこれを読んでいるということは、僕は既にここで帰らぬ人となってしまっていることだろう。何の参考にもならないかもしれないが、この手帳が少しでもあなたの役に立つことを、空の上から祈っておくよ。

 

 


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