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魔剣聖者 ~異世界で、魔剣拾って、世直し旅路~  作者: 赤月草原
第一章 戦いの始まり
9/20

闘うことと闘えるということ

 才雅は魔力を出すことに苦戦していた。この世界に来てから、文字通り自分の中から湧いて出たものをそう簡単に扱えるわけがない。

 体の内側に液体のような、はたまた気体のようなものが、むず痒く蠢いているところまでは感じられる。それを自在に操り体外に出そうとするのがなかなかどうしても難しい。どうしてなのかは自分が今までやったことのない作業をやろうとしているからなのだから当たり前だろう。

 しかしティルア曰く「自分の中にある魔力なので絶対に自分で操れる」らしい。また「魔力が出せるようにならないと魔力量や質を上げるのは難しい」とも言っていた。

 ここまで上手くいかないと自分に魔法は使えないと踏ん切って諦めようとも考えた。でもそれはそれで、自分自身に負けた気がして納得がいかなかった。

 嫌な考えが脳裏をよぎる。出来ない自分が嫌いになっていく。でもどこかで妥協せざるを得ないこともあるかもしれない。魔力を出す練習中は才雅を大いに悩ませた。

 そんな日が続いたある日、才雅はふとあの黒刀のことを思い出した。もしあれに触ったあの時から自分に魔力が宿ったとしたら、もしあれに触れている時だけ魔力が使えるなら、あれに魔力を吸われていることを使っていると言えるなら触れていれば魔力量や質を上げられるのでは?

 それを思いついた日の夜にはランニングと称して外へ出て見回りをしている村人の目を盗みあの森へ向かった。用心のため刀は帯びて行った。暗い森を月明かりだけ灯す中探索の時に歩いた記憶だけを頼りに進んでいく。

 道なき道を進んで行くものだったが強くなったら刀を取りに戻ってくるつもりだったため、ほとんど迷わず刀の場所まで行けた。実際強くなったかと言えるのか才雅もそうとは考えていなかった。しかし強くなるために出来ることをしたいと考え、刀の元へやってきた。

 魔力を知らずに持っていたあの時と、初めて魔力を感じて驚いたあの時とも違う。きちんと自分の中の魔力と向き合うため、いざ刀の力を借りようと才雅は手に取る。

 改めて手にした刀は才雅の魔力を容赦なく吸収し、一分もしないで才雅の魔力を全部持っていこうとした。才雅はその寸前で刀を手から離すと思いきり疲れたように地面に座り込む。短い間だったが確かに体全体から腕を経由して魔力が流れていくのを感じとることができた。

 これを踏まえて才雅は、少し体力が回復するともう一度手にして今度は数秒で刀を地面に突き刺した。こうすれば次から柄に触るだけで魔力の流れを感じる練習が出来るわけだ。あまり遅くならないよう初日はこれくらいで終えたが、次の日から夜のランニングの時間はこの練習が加わることになった。

 最初こそ魔力を吸われては休むといったルーティンだったが徐々に魔力を吸われる時間が長くなったり逆に回復にかかる時間が短くなったりしたことで確実に成長を実感していた。時間が伸びた事を実感してからは地面から抜いて素振りや構えの型などもやってみせた。

 それを幾度と続けていくうちに持ち帰りたいと頭に浮かんでいた。いや、もう持ち帰れるのではと考えた。そう思ったが吉日と言わんばかりにその日の夜、少し運んでは休み、少し運んでは休みを繰り返し、途中長い時間休憩してしまったこともあり、村長の家へと帰ったころにはすっかり一夜を明かし、体力も残り僅かなところを駆け込むように戻ってきた。



「……とまあ、そういうわけで無事に刀を持ち帰る事が出来たってわけです。」


「全然無事じゃないですよ!一晩ずっと心配したんですから!!」


 才雅は昨晩のことをティルアと村長一家に説明してた。あの後ぐっすりと寝入った才雅が目を覚ましたのは昼前のことだった。目覚めてすぐ昼食(遅い朝食というべきか)を取ったあと朝帰りした説明を求められた。目的を果たした才雅はトレーニングの全てを話した。


「アンタ、そこまでやると執念というかただのバカよ。」


「ホント、怒る前に呆れちまうよ。」


「……夜の見回りはもっと強化すべきだな。」


 リリアとオルリアは才雅の行動に呆れかえり、ウォルテアはそれと同時に村の外に出入り出来てしまう見回りの体制を改めていた。


「どうしてそこまで、あの剣が必要なのですか?」


「どうしてと言うか……確かに今必要っていうわけじゃないし、一日でちょっとずつ運んでも良かったんだけど……」


 ミリアがもっともな質問を才雅に投げかける。才雅は持ち帰った刀を見つめ、物思うように語る。


「俺がこの世界に来て、狼と戦えなかったり、森の歩き方を知らなかったり、力仕事で役に立てなかったり、俺が何とも弱い存在かを思い知らされて、そんな自分が嫌いになってきたから、どうしても強くなったっていう証明が欲しかったから、かな?」


 才雅は道場の子。前提や過程がどうあれ、一番に強いか弱いかが気になる男の子だった。異世界での基準が違うといえど才雅の中でそんな概念がすぐに変わるわけではない。才雅はどこまでも高みを目指す人間であった。


「こんなことしなくてもお前さんは十分強いよ。」


 ウォルテアが才雅の胸の内に答えるように話しかける。


「サイガ、お前は諦めることをしない。あの剣の事を捨て置けないことも、仕事が上手くいかないことも、お前は何ひとつ諦めず向き合った。それは誰もが出来る事じゃない。立派な、強い心を持っているよ。」


 才雅と出会って間もないウォルテアでも分かった。才雅が持っている強さを、育まれてきた強さを。別の世界に来ても保ち続ける心の強さを諭した。才雅もそのことを気付いてないわけではないが、認めてもらうとちょっと照れ臭くなった。

 そんな話を聞き終わったミリアは聞きたいことがあった。


「それで、サイガさんはあの剣を持つとどのくらい強いのですか?」


「えっ!?」


「あれを持てると強くなったってことになるんですよね。今はどれくらいの強さになったのですか?」


「あぁ、あれを持てるようになれば強くなった証明になるんだっけ?さっきの話だと?」


 ミリアとリリアは短期間で才雅が見違えるほど強くなったのか気になりだした。だが才雅本人は少しバツが悪そうだった。


「えっと、持てるようになったのは一分半くらいで……道中とか獣とか寝ていたらしくて遭わなかったし……実戦どころか立ち合いもまだで……まぁあんな練習じゃ出来なくて当たり前というか……」


 説明がだんだん言い訳に変わっていく才雅をみんなが見つめていた。


「そもそも人とか動物とか殺すのはまた別問題というか……闘うことと闘えることは心構えが違うというか……」


「ヒジリさん、魔力を出す練習をしてましたが……」


 ティルアはさらに魔力についても言及した。


「出せるようになったよ。ホラ!」


 そういうと才雅は右の掌を差し出しボッと魔力を出した。あの時と違いすぐに消えずに野球ボールくらいの大きさの魔力の塊がその場に留まっていた。


「……これだけしか出来ないけど。」


 ただそれだけだった。

 そのあと、才雅はオルリアに無駄に心配かけたとして思いっ切り怒られた。

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