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魔剣聖者 ~異世界で、魔剣拾って、世直し旅路~  作者: 赤月草原
第一章 戦いの始まり
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漆黒の刀と純白の槍

 才雅と少女は共に困惑していた。突然襲ってきた狼を瞬時にやっつけた二本の刀と槍。荒々しく獣を刻みながら自分たちを斬らない刃の不可思議。その後、地面に突き刺さったまま何もない面妖な武器の佇まい。己の常識を超えた存在をただ茫然と眺めていた。

 刀は刀身から柄頭まで、鍔に至るまで真っ黒。直刃の紋様で切っ先は地面に隠れているが打ち刀よりやや短い気がした。槍は刀と対照に柄も刃も白く、柄頭にある宝石のような装飾品が木漏れ日の光に当たると眩しいくらいに輝いた。


「あれ、なんだか分かるか?」


「何も分かりません。私が知らないだけでそういう武器があるのかもしれませんが……」


 少女は、彼女の知見では計り知れないだろうが未知の武器の可能性はあるだろうという見解を述べた。だが才雅は、あんなもの知らぬ存ぜぬ稀に見ぬといった様子でそれらを気味悪がっていた。もしかしたら武器を操ってる輩がいて、自分たちを油断させているのではとも考えていた。


「でも、なんだか槍の方は……」


 そう言うと少女は白き槍に向かって踏み出す。才雅が静止しようと声をかけたがためらうことなく歩いた。そうして槍の前に立つとおもむろに柄を握り地面から引き抜いた。


「……大丈夫なのか?」


「なんだか、呼ばれた気がしたんです。」


 不思議なことを話す少女は槍の柄を撫でた。それが自分の物であるかのよう優しく包みこむかの如く槍を扱う。


「それ……あんたの?じゃないんだろ?」


「えぇ、そもそも槍なんて生まれてから一度も握った事ないですし。でも杖なら持ってたことがあって、無くしてから長物を持つのが恋しかったのかもしれません。」


 そんな発言が魔法を見たあとだったせいなのか分からないが、刀と共に生きてきたと言える才雅は強く共感した。なんだか少女と槍との心が通じ合っている様子が目に眩く思えた。となると才雅は残った黒き刀に目を向けた。刀が呼んでいる様子は分からないがデザインと漆黒の装飾には惹かれるものがあった。才雅は意を決して刀の前に立った。


「あなたも、その剣に呼ばれたんですか?」


「そういうのじゃないけど、なんだか自分に合う気がするんだ。」


 そうして才雅は刀に手をかけ地面から引き抜く。自分が思ってた通り刀身は短かったのだが柄の握りがしっくりきて、全体の重心が自分に合っていたことから、才雅はこの剣をえらく気に入った。


「そういえばこれ、血が付いて無いな。」


「確かに、綺麗なことに目がいって気が付きませんでした。」


 狼を斬ったはずの刀と槍に血が付いて無い事に気付く。刃もみると、堅い骨も斬ったはずなのに刃毀れひとつもない。どんな仕掛けか分からないが、才雅にとってもはや不思議なことが些細なことになりつつあった。


「さてと、これからどうしようか。」


 一悶着があったが、この場所の情報が何もない状態のままだった。焦げ跡からなにも得られず、少女に出会ったことで地球にいないかもしれない疑惑まで生まれた。降ってきた刀は気に入ったが鞘までついておらず未だに手に持ったままだ。


「人里が分かれば良いのですが、どうやら転送魔法で見知らぬ土地まで来たらしく、当てもなく進むしかないですね。」


 少女のある言葉に才雅が反応する。


「転送魔法って、もしかして光る魔法陣の?」


「はい、それだと思います。私が使ったものでも、ましてや使えるものでもないですが。」


「でもそんな魔法があるって事は知ってるんだな。」


「そうであっても今すぐ覚えられませんし、どこに行くかも分からない魔法なんてもう使えませんよ。」


「そ、そうか。」


 才雅はなにか策は無いかと少女に話しかける。


「地図は持ってない?自分の位置が分かるモノとか魔法とかは?」


「地図はありますけど、そういった魔法は覚えて無くて……そういうあなたは?」


「持ち物は刀しかない。ケータイがあれば良かったんだけど。」


「ケータイ?」


「知らないならいいや。」


「いいやじゃないです。何か解決策があれば……」


「あんたが知らないんじゃ望み薄だし、すぐさま取り出せるものでもない。」


 実のところ才雅は焦っていた。刀しか持っておらず見知らぬ少女に頼るしかない事に。刀を持っていても獣を追い払うことが出来ない不甲斐なさに。焦りからか苛立ちも表れてくる。


「そもそもあったとしてもちゃんと使えるか、どう、か、も?」


 ふと、才雅は自分の力が抜けていく状態に陥る。手足に力が入らず黒刀が手から離れると、才雅自身その場でバタンとうつ伏せに倒れてしまった。


「ちょっと、どうしたんですか?」


「あ……う……お……」


 疲れが溜まっていたのか、それにしては自分の中からごっそり抜け出たような喪失感に襲われて、やがて才雅は意識を失った。

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