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魔剣聖者 ~異世界で、魔剣拾って、世直し旅路~  作者: 赤月草原
第一章 戦いの始まり
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vsガイラン団長

 その声は低く、勇ましく、そして威圧感を言葉に乗せてくる。岩のごとく体躯は2mは届きそうなほどで如何にも力自慢というのが分かる。

 ホミタミア新都傭兵団を纏める男、ガイラン団長。現在、才雅とティルアの上司となっている人である。


「広場が騒がしいと思って来てみたら何をやっているのだ、サイガ。」


 才雅を威圧することを止めないガイランは弁明を求めた。するとガイランの後ろからティルアがスタスタとやってきた。


「違うんです。サイガさんは仕方なくこれに参加しているだけで何も下心などは無いんです。」


「ティルアも見てないで止めんか!」


 代わりに弁明しようとしたティルアだったが、ガイランの怒鳴り声に萎縮してしまった。才雅はガイランに対し、軽い怒りを感じてしまう。自分達に仕事を提供してくれた恩ある上司ではあるが、目下の者の状況も理解せず、ただ感情をぶつけているように見えたからだ。それは才雅の嫌いな人間のタイプの一つであった。


「申し訳ありません。戦闘本能を抑えきれなかった俺の責任です。ティルアは無関係です。」


「当たり前だ。とっとと戻ってこい!」


 実際そういう大人も学校や道場の先輩を見たことがあり、その度に一悶着起こしていたほどだ。


「俺が安い挑発に乗っかったのがいけないんです。だってこの世界、剣を持てば強くなれると勘違いしてる手応えの無い相手ばかりでしたから……」


 そして()()()才雅はつい売り言葉を送ってしまった。ガイラン団長は自分に向けられた煽りだと理解していた


「ほう……貴様、それはこの世界に生きるもの、つまり俺も含めた傭兵団のことも言っているのか?」


 ガイランの言葉に才雅は挑発の意味を含めた笑顔を団長に見せる。するとガイランが人混みを掻き分けて、否、ガイランの威圧により観客が道を作るように避けていき、そのままステージへと上がっていった。


「どうやら、上司として色々教えなければいけないようだ。御仁、よろしいか?」


「あっはい。大丈夫ですよ。」


 ガイランはステージへと上がると司会の男に了承を求めた。男は驚いたように見つめたあと、表情を笑顔に変えて木剣を渡した。


「さあさあ盛り上がって参りました。ヒジリサイガさん記念すべき10人目の相手はホミタミア新都の傭兵団団長を勤め、かつて郊外の村に出没した狂暴な岩石灰色熊(ロックグリズリー)の群れをたったひとりで倒し尽くした“剛健”のガイランだあああぁぁぁ。」


 ホミタミア新都傭兵団のガイラン団長といえばこの町では有名人らしい。団長の紹介がされると周囲の人々は異様な盛り上がりを見せた。才雅は団長の意外な人気と討伐経歴に驚いたが、その団長の構えを見て府に落ちる。剣を両手で持ったと思ったら切っ先を上に向けて右横へ構える。所謂八相の構えを取るのだが、これが妙に堂に入っている。団長はただならぬ存在感を放ち才雅を必ず倒すという自信を示すように睨み付けていた。

 団長の怒りを含ませながらも堅実で真剣な態度を見せつけられた才雅は、構えを正す。身体の右側を向けた半身の構えであるが右手足はあまり前に出さずにいる。自ら攻撃していくのではなく相手の出方を伺う、どちらかといえば受け身の型と言える。

 もはや司会の男が進行したわけでも合図を出したわけでもないのだが、才雅と団長は構え始め間合いを詰めている。


「うおおおおおおおお!!」


 団長が雄叫びをあげ力一杯に木剣を振るう。才雅に対して容赦なく袈裟斬りを仕掛けるが才雅はこれを左に避ける。だが避けられたところで終わりではなく、団長はそのまま素早く振り回し上段から真っ向に斬りかかる。ここまで誰がその動きを追えただろうか。ティルア含めた観客は団長が早めに片を付けるために速攻をしかけてきたと思った。才雅はそれをまともに受けたとも思った。

 だが違った。才雅は分かっていた。もとの世界にいた時から今までの経験則で団長がどう動くか予想していた。そして予想が当たれば後は反撃するだけ。真っ向から向かってきた団長の懐まで迫り、右手で胸ぐらを掴み木剣を持ったままの左腕は団長の右腕を組み押さえ、まるで一本背負いをするかのように才雅は団長を投げた。


「ぐ、ふううぅっ。」


 背中から勢いよく落ちた団長は呼吸ができない苦しみと背面の痛みで動きが止まってしまう。その間に才雅は木剣を団長の喉に突き立てる。


「っ!……ああぁ、認めざるを得ない。お前さんの強さをな。」


 団長が敗けを認め決着が付いた。観客達はそう分かった途端、才雅に大きな歓声を送った。団長の攻撃をしのぐ実力と巨体を投げ飛ばす技量を讃えて拍手喝采が止まない。

 やっと息が調った団長は才雅に手を貸してもらって起き上がった。


「団長ってスゴい人なんですね。思いきりの良い斬撃にビックリしてしまいました。」


「ふん。それを避けたお前さんに言われたんじゃ皮肉にしか聞こえねえよ。」


「構えに強さが出ているところとか見習いたいと思いました。」


「そこで止めなきゃ意味無いだろうが。全く、祭りの本番も近いっていうのに新人がこんなところで暇潰ししてて、注意しに行ったら返り討ちに合うなんて示しが付かねえよ。」


 団長の言い分に、冷静に考えればそうだと才雅はやっと気付いた。


「それは……まぁ、そうですよね。ごめんなさい。」


「そんな簡単に謝るな。俺の実力不足でもある。」


 お互いが反省し終えると団長はおもむろに右手を伸ばしてきた。才雅はそれが握手の動作だと気付く。この世界にも互いを認め会う手段として握手があることに才雅は感心の心を持って握手を交わした。


「また手合わせしてくれるな。」


「はい、もちろん。」


「あの~、少々よろしいですか?」


 と、ここで司会の男が二人に横やりを入れてきた。


「明日、祭りの本番でお願いしたいことがありまして……」


「?」


 2人はそのまま話を聞いていた。

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