小さな闘技場
才雅たちが駆け付けたその先には広場があり、町の人々が何かを囲むように群がっていた。人ごみの隙間から覗いてみると高台があるのと剣を構えた男性二人が睨み合っている。しかし険悪な雰囲気ではない。お互いの持っている剣は木で出来ている。観客も「いいぞ!」「負けるな!」と声援をかけていて喧嘩や乱闘といったものではないことが伺える。才雅はそれが試合のような催しだとすぐに理解した。だが念のため才雅は実態を知るために観客の一人に聞いてみる。
「スミマセン、これ一体何をやっているんですか?」
「ん?あぁ、豊国祭でやる出し物の模擬だそうだ。」
「豊国祭?」
なんでもこの試合、明日から開催されるホミタミアのお祭り「豊国祭」でやる行事の一つで、剣技で一番強い者を決める大会のデモンストレーションとのことだ。ルールは簡単。木剣で立ち会い、相手を打ち負かした方の勝ち(殺しは無し)という単純明快さ。騒ぎを聞いてホミタミアの腕自慢たちが押し寄せて来てるということだ。
そんな説明を才雅たちが聞いてると、どうやら先程の試合が終わったようで一人の男性が試合場の高台から残念そうに降りていった。するとおもむろに別の男性が登ってきて喋りだした。どうやら彼が司会進行役らしい。
「さあさあ皆さん、ただいまこの小さな闘技場でこのホミタミアで最強を決める戦いを行っております。腕に自信のある方はどうぞお試しあれ!」
どうやら今は対戦者を募っているらしい。司会の男は品定めしているように観客を見回す。ふと、男が才雅のことを凝視し始めた。
「坊っちゃん。あなた中々強そうですね。どうです、挑戦してみませんか?」
「俺?でも今傭兵団の見回り中でして……」
「まあまあ、見回りなんて暇なモノでしょう。ここいらで体を温めていかれませんか。」
「でも勝手にこんなことやったら後で何を言われるか……」
「勝ち残れば傭兵団としての良い評判になりますよ。それとも、怖じ気付いたのでしょうか?」
ここで体裁を気にしていた才雅の癪に触ってしまう。武人気質に育てられた才雅は「弱い」や「ビビり」、「怖い、怖がり」という後ろ向きな言葉につい反応してしまうのだ。
「……分かった。やろう。」
才雅は静かに怒りを顕にして高台に向かった。
「サイガさん。大丈夫なんですか?」
「あんなこと言われて引き下がるのは男じゃないし。まあ、いざとなったら俺が責任持つし……」
ティルアの制止をあしらった才雅は闘技場へついに登ってしまった。
「あぁそうだ、腰の真剣はこちらで預からせて頂きます。木剣以外使えないルールですから。」
司会の男が才雅の黒刀に口出しした。確かに木剣を使うというくらいだ。人死にが出ないようにするのは当然の処置だろう。
「あぁ、でもこれ俺以外触れないんだ。」
「またまたそんなこと言って、ルールはルールですから。」
そういうと司会の男は才雅から掠めとるように腰から黒刀を抜き取った。
「ひやああああああああぁぁぁ!」
その直後、司会の男が叫び声をあげて黒刀を手放した。勢いで刀は才雅の足元までやってきた。
「だから言ったのに……」
説明が遅れたが、黒刀は魔力を吸収する能力を失っていない。鞘に入れていても他人が触れることはできないのだ。どういう理屈か鞘に入れた状態なら才雅だけが持てるのだ。
「ごめん、ティルア、これ近くに置いといて。」
そういうと才雅はティルアに向かって黒刀を投げ渡そうとした。すると回りにいた観客が被害に遭わないようにティルアから離れた。
「え、えええええ!?」
なお、ティルアも例外に漏れず魔力を吸われるのだ。




