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florist  作者: 鳴門ミシン屋
20/33

番外 マリーとラグラス

番外編です。

時系列ちょっと前です。

 教会での特別授業やアキレアとの戦い、そしてフリードとの邂逅。それらの出来事が全て詰まった一日、その真夜中の話。



 「ん…」

朝を迎えたらすぐに出発をしてリーゼロッテの屋敷に向かう、そんな夜にラグラスはふと目を覚ましてしまった。室内の暗さからまだ朝と呼ぶ時間帯でないことをすぐに察した彼女は月の位置を確認しようと窓の方向に目を向けた。

「あれ…」

寝ぼけ眼をこすりながら目を凝らしてみると、自身と同じように窓の外に視線をやる人物がいた。

「マリー、何してるの?」

ラグラスがそう声をかけると、マリーがゆっくりとこちらを向いた。月明かりに照らされたマリーの黒髪はいつにも増して美しく思えた。

「ちょっと目が覚めちゃって、それで月を見てた」

「…眠れないの?」

「その内眠れるよ。ラグラスこそ大丈夫?」

マリーの声色はとても優しいものだった。赤子にささやくようなそんな優しさを感じた。

 マリーとこうして二人きりで言葉を交わすというのは初めてかもしれないとラグラスは思った。二人が出会ってから数日しか経っていないのだから当然ではあるのだが、ラグラスは「そんな気がしないな」と心の中で思っていた。

「ちょっとだけ話さない?」

だからマリーからそう言われた時、ラグラスは胸を高鳴らせた。

「私も同じこと考えてた!」

隣でフリージアやシオンが眠っていることを忘れて思わず、やや大きめの声を出してしまった。すぐに気が付いて、眠る二人の様子をじっと見つめたが起きる気配はなさそうだった。

「…こっちに来て小声で話そ?」

ラグラスが手招きをして、マリーはゆっくりとラグラスが横になるベッドに腰を沈めた。

 マリーの髪からは甘い香りがした気がした。

「ラグラスが羨ましい」

腰を落ち着けるなりマリーの口からそんな言葉が漏れた。

「羨ましい?私が?」

「うん」

マリーの言葉の真意がラグラスには分からなかった。整った顔立ち、美しい黒髪、そして何よりも傷を癒す力。羨しいという感情は自分が抱くべき物だ、そう思った。

「だって、力があるから」

「…力?そんなのないけどなあ」

「戦う力、敵に向かっていく力。私にはそれがない。今日だってフリージアがいなくなっただけで怯えて何も出来なかった」

フリージアがフリードになったこと、アキレアという脅威が目の前にいたこと、マリーはただ立ちすくんでいただけだった。

「でも、マリーには傷を治す力があるじゃん。私からすればそっちの方が羨ましいよ」

素直な気持ちを吐き出したマリーに対して、ラグラスも正面からぶつかる。

「私の戦う力?って言っても劣ってばかりの中途半端な物だし、敵に向かっていくって言っても考えなしの無謀な特攻ばかりだし…」

「でも羨ましい。私も戦いたい」

その言葉には意志が込められていた。

「フリージアやシオン、二人と肩を並べられるようになりたい」

まっすぐなマリーの瞳を見つめながら、ラグラスは小さく微笑んだ。

「…それは私も同じだな。足を引っ張ってばかりだもんね。戦いにしてもさっきみたいな話し合いにしてもさ」

フリージアやシオンは強い。強くなる必要があったことも何となく分かっている。

「無力であることを、無知であることを、仕方ないことだと言いたくない。これから自然と身に付くなんて思えない」

だからと言って自分がそうなれていないことを、強くなれてないことを言い訳のようにはしたくない。

「一緒にいるのは今なんだ。必要だと思ってるのは今なんだ。今どうにかしなきゃいけないんだ」

明日は一緒にいられるかもしれない。じゃあ、あさっては?その次の日は?一年後は?十年後は?

 今ここにいる一行はその場の流れのような物で共にいるだけなのだ。そこに結ばれた絆は確かなものではない。

 けれど、一緒にいたい。一緒に戦いたい。それがラグラスにいつの間にか芽生えていた気持ちだった。

「ありがとう」

マリーが呟くように言葉にした。

「私が言葉に出来なかったことを全部言ってくれた。…心の中読んだりしてないよね?」

「そんな力があったらいいのにね」

はにかむようにラグラスが笑った。

「二人で頑張ろう。頼ってもらえるようになるまで」

「そして、守ってもらえるんじゃなくて守ってあげられるようになるまで、だよね?」

今度はマリーがラグラスの考えを先んじて言葉にした。

「そろそろ寝よう。明日も朝から大変だろうし」

少しだけ繋がりが強いことを確かめ合った二人はそうして眠りにつくことにした。

「おやすみ」

二人の少女の寝息を伴って夜は静かに過ぎていく。

「…それまではちゃんと守るよ」

フリージアが微かな声で呟いた。

 小さくとも強い意志が込められた誓いの言葉だった。

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