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第六部

「匿名の情報によりますと、先日殺害された明智秀光議員のが関与していたとされる犯罪について、その証拠と共に報道関係各社に送付されています。その内容は・・・」

吉本逮捕から一日もしない間に、明智議員の悪事を告発する文書が届き、連日テレビや新聞はその話題ばかりである。山本達は、そのニュースを見ながら全員が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。情報番組のキャスターが、

「この件に、関連して既に10人近い国会議員の逮捕状が請求され、警察関係者の見立てでは、明日、明後日にも逮捕されるということです。」

「誰だよ、警察関係者って」

山本が感情もなく一人呟いた。そこに、キャスターが慌てて、

「今、入った情報によると、武田晴信警視総監が今回の事件を受けて、緊急会見を行うということです。」

部屋にいた全員がテレビの方を凝視した。

「お忙しい中お集まり頂き、ありがとうございます。

世に言う『坊っちゃん狩り』を含め、今回の明智元警察庁次長が関与した犯罪行為に関しまして、国民の皆様にお詫びとご報告をさせていただきます。

本当に申し訳ありませんでした。」

そう言って、総監は頭を下げ、報道陣からのフラッシュを無数に浴びている。総監は顔をあげ

「まず、『坊っちゃん狩り』に関しまして、被疑者は元機動隊に所属していた金原雄介、彼は明智元次長を殺害後、自殺しており、逮捕には至っておりません。もう一人の首謀者で、警察官僚で警視庁内では監査室に所属していた吉本直也に関しては、優秀な警察官の活躍により、自殺を防ぎ逮捕し、現在、取り調べを行っています。また、暴行並びに傷害、その幇助を行ったとして、全国で120近い警察官に現在事情を聴いております。

正義を守る警察官が犯罪行為に荷担したことを深くお詫び致します。

次に、明智元次長、今後は明智氏としますが、警察庁を退職後、現在報道されている通り様々な犯罪行為に関与していたとして、捜査を行い、関係者の逮捕並びに余罪の有無に至るまで追求して参ります。

失ってしまった信頼を取り戻すことは難しいことを理解した上で、国民の皆様にお願い致します。最後のチャンスで構いません。我々警察に国民の皆様の信頼回復のチャンスをください。」

総監はまた、頭を下げた。記者からの質問が始まり、

「総監は今回の事件の責任はどこにあると思われますか、また、総監自身の進退についてはいかがお考えですか?」

「責任の所在を明言することは難しく思います。

警察と言う組織全体が責任を感じるべきですし、仲間の愚行に気づくことにできなかった、私を含めたすべての警察官にその責任があると考えます。

その意味でも、私に辞任しろと言うかたがいることも理解しますし、そうするべきだと思います。」

「では、総監は辞任されるということでしょうか?」

「いえ、今回の事件の真相解明とこの先の警察、もっと言うなら国の未来にも関係する問題のなかで、確かに辞めてしまえば私は楽になれるでしょう。

でも、それはただ逃げているのと変わりません。私は今回の事件と今後の警察の未来が正しくなることを見届けることが、本当に責任をとると言うことだと考えます。

責任をまっとうするまで、また、警察組織のことを安心して任せることのできる人材が育つまで、皆様からの批判の矢面に立つ覚悟をしております。」

「つまり、辞任せずに組織を建て直すことが、総監の責任の取り方であると言うことですか?」

「勝手なことを言っている自覚はありますが、そういうことです。」

総監はまばゆいフラッシュの中、まばたきもせずに、ただ真っ直ぐ前を見ていた。そこに、違う記者が、

「具体的にどのような組織改革を行われるおつもりですか?」

「まず、従来にない捜査の為の課を作ります。

従来の捜査では、自分達の捜査対象が決まっており、それを一生懸命捜査してましたが、部署間の連絡や連携ができないために被害者が増えると言った現状がありました。新設する課では、事件の態様や管轄を関係なく、捜査を行います。さらに・・・」

総監が話し出そうとしたところで、山本がテレビの電源を切った。部屋にいた全員が山本を見たが、山本が

「こんなことしてずに、捜査だ。さっさとあの人が辞められるような警察にしないとな。」

「はい。」部屋にいた全員が声を併せた。

吉本とその関係者の捜査がまだ続いていたため、今川・加藤・藤堂は部屋を出ていった。残った山本と上田が一息つくと、三浦が部屋に駆け込んできて、

「警部、大変です・・・」

その言葉を遮って上田が

「あれ、三浦いついなくなったんだよ、さっきまで後ろにいたよな?」

「何言ってるんですか、ずっといませんでしたよ。

例の斎藤関係で情報があったので確認してたんですから。」

三浦の言葉を聞いて、二人は思い返すと確かに、三浦の姿がなかった気がした。普段当たり前のよう、そこにいるといざいなくなっても気づかないものだと二人が思っていると、

「そんなことより、大変なんですよ!」

山本が、うるさいなといった感じで、

「なんだよ?」

「斎藤勤が、一昨日の夜に交通事故で亡くなったそうです。」

「どういうことだ?誰かに轢かれたのか?」

山本の問いに、三浦は首を横に振り、

「いえ、単身で車を運転していたところ操作を誤って、壁に激突して、あたりどころが悪かったため死亡したとのことです。既に葬儀も終わってるみたいです。」

「そうか、斎藤の会社の場所わかるか?」

山本が聞くと、三浦は手帳をめくって場所を言った。

「上田、車の準備を頼む。」

「わかりました。」


「社長に、警察の方がどんなご用件ですか?」

若い会社員が嫌悪感を丸出しに問いかける。山本と上田は、三浦から聞いた場所を訪ね、ちょうど表に出ていた男に話しかけたところ、この反応が返って来た。若い会社員が続けて、

「社長は事故で死んだんだよ、飲酒もしてないし、眠くなるような薬を飲んでたわけでもない。これ以上警察に話すことなんかないんだよ。」

 大声でそう言い放った、その男は山本達をにらみつけている。

「大きな声出してどうした?」

 若い社員の声を聞いて、壮年の男性が建物から出てきて聞いた。若い社員が、

「竹中さん、警察が社長のことで話を聞きたいって来たんで、これ以上話すことはないって追い返してたところです。」

 それを聞いて、「竹中」と呼ばれた壮年の男は山本達に少し会釈して、山本達もそれに返す。竹中が若い社員に向かって、

「俺が相手するから、お前は中で作業を続けて来い。」

 若い男は渋々、建物に入っていった。竹中が、

「すみませんね。うちの会社は勤君の代から協力雇用主をやっていて、元受刑者とか少年院を出た子とかを受け入れてるんですよ。彼も少年院出たところを勤君が誘って入って来た奴ですし、たまたま友達といたところを補導されて、その友達が悪いことを裏でしてたらしくて、共犯だと思われて少年院に入ったので警察に関して恨みもありますし、最近では勤君の事故に関しても、何か勤君が事故を起こすようなことをしていたのではないかって疑って来たので、それに反発を続けてまして。

彼が一番、勤君を尊敬していると言っても過言じゃないですから仕方ないですけど。」

「そうですか。すみません、最近の事件で警察に対する信用を失っているにもかかわらず、そのような捜査を行ってしまって、警察関係者としてお詫びします。」

 山本がそう言って頭を下げたので、上田も頭を下げた。

「それで、今日はどのようなご用件で?」

 竹中が聞いたので、山本が、

「4か月前に起こった銀行強盗事件を覚えておられますか?」

 山本の問いに、竹中は不思議そうな顔で

「ええ、うちが何回か工事に言った支店が襲われたということだったのと、勤君の先輩が犯人だったということで印象に残ってますから。」

「五條のことを、竹中さんはご存知ということですか?」

「私は先代から、この会社に勤めてますし、勤君を小さい頃から知ってるので、その先輩の方も何度かお会いしてます。」

「そうですか・・・」

 山本が考え込むと、竹中が、

「銀行強盗事件と勤君が関係しているとお考えですか?」

「申し訳ありませんが、そういうことになります。」

 竹中は気分を害したのか、少し語気を強めて、

「どうしてそうなるんですか!」

「五條、本人から調べてみて面白いと言われて調べた結果、支店に仕掛けられた偽物の爆弾について、設置したのは斎藤勤さんではないかと思われたからです。」

「五條さんが、あなたにそう言ったんですか?」

 竹中は驚いているようだった。

「公判中に特別に面会した時にそのように、五條さんから聞きました。この山本警部と私もその場にいたので、五條さんが調べてみろと言ったことに関しては本当です。」

「あなたは、山本さんというんですか?」

「そうですが、どうかされましたか?」

 山本が聞くと、竹中は重ねて聞いた。

「勤君のゼミのOBの山本さんですか?」

「ええ、そうですね。」

 山本は質問の意味が分からないまま、聞かれたままに答えた。

「少し待っていてください。」

 そう言って、竹中は建物に入っていった。

 数分後、建物から出てきた竹中は、一枚の封筒を持っていた。竹中は山本にその手紙を渡した。山本が

「何ですか、これは?」

「勤君が、事故に遭う2・3日前に自分が留守中にゼミのOBの山本さんが来たらこれを渡してくれと頼まれていたものです。」

「中には何が?」

「さあ、中は見ないで欲しいと言われていたので・・・。」

「そうですか、ありがとうございます。少し確認させてもらいます。」

 山本は封筒を開け、手紙をと取り出す。


「拝啓、山本勘二様 

 この手紙をお読みということは、私が五條さんの銀行強盗に加担していたことをつきとめて、私に会いに来てくださったのだと思います。

私は、五條さんにとてもお世話になりましたので、あの人の目的を叶えるために助力することに対して、抵抗も後悔もありません。

 しかし、やはり犯罪に加担したことに関しての罪悪感から日々、体調が悪くなるのを感じていました。私の助力した部分に関しては山本さんがご想像されている通り、偽爆弾の設置です。点検と称して各箇所に細工を行い、一年をかけて、私一人ですべての作業を行いながら、爆弾を仕掛けていきました。

 今回の事件について、さらに言及するならば、五條さんの後ろに更に大きな存在がいるであろうと私は思っています。私も五條さんに加担したに過ぎないため、その後ろの存在が誰なのかまではわかりません。

 しかし、全ての元凶である人物はわかっています。山本さんもご存知の人間で、決して捕まえることのできない、完全犯罪を犯人の捕まらない犯罪と仮定するならば、あいつは完全犯罪者です。あいつとの出会いが、全ての人を狂わせ、どんな大物もあいつの掌の上で踊っている。私の言う、「あいつ」に関して、名前をいうことが五條さんの迷惑になると思われるので本名までは言及しませんが、山本さんのよく知る人物で、全ての元凶であるということ、そして、絶対に捕まえることのできない人物です。

 今後もきっと、あいつの思想に感化された人物によって、様々な犯罪が起こり、社会は変革を求められるでしょう。何十年先の議論ができる人間であっても、今を生きる誰かを幸せにできないのであれば、誰かを不幸にして得られる仮初の幸せに未来はないと思う、私は山本さんに全てを託すことにします。

あいつの計画を止めることができるのは、私の知る限りあなただけなのだから。」

 そこで、一枚目の便箋が終わり、山本が二枚目を見ると

「追伸、この手紙の内容は、一枚目に関しては公表していただいて構いませんが、

この二枚目に関しては公表しないでください。私の勝手で社員の皆さんに迷惑をおかけしてしまった上に、私は何かのきっかけをもって、自殺するつもりです。

 このことだけは公表しないで頂きたいのです。私が犯罪に加担した上に自殺したことを知られては、今まで私のような未熟者に力を貸してくれた社員の皆に申し訳がありません。どうか身勝手なことを申しているのは理解していますが、ご配慮いただけることを願っています。         敬具

斎藤 勤」 


山本は二枚目を懐にしまい、

「斎藤さん自身が、あの事件への加担を認めました。」

 そう言って、竹中に対して手紙を渡した。竹中は手紙を読みながら、涙を流していた。

「おそらく、私に捕まることを願っておられたと思うんですが、私が来る前に不慮の事故で亡くなってしまったのだと思います。すみません、私がもっと早く来ていれば、斎藤さんを死なせずに済みました。」

 山本はそう言って頭を下げた。竹中は山本を見て

「あなたは、優しい人ですね。私の方が勤君のことをずっと知っているんですよ。」

山本は竹中の言葉を聞いて、頭を上げ、竹中の顔を見ると、竹中は涙を流しながら優しく微笑んでいた。山本は竹中の言うことの真意を読み取り、もう一度深く頭を下げた。


「明智の作成していた法案は全てボツ。その指揮権を手に入れて、元々用意していたあなたの法案を提出。野党の中から大勢の犯罪者が浮き彫りになったため、反対勢力もない。すべて計画通りになりましたね。」

暗い部屋の中で、向かいあった黒木に向かって坂本が言う。

「残念ながら、全てが計画通りではないよ。吉本君が山本に捕まってしまったからね。彼の死までが計画の中にあったはずだ。それとも、君は彼に感情移入してしまったのかな?」

坂本は笑みを浮かべながら、

「吉本さんは、絶対に我々のことは話しませんよ。別にあの人が生きていたからといって問題があるというわけではないということです。」

「まあ、この前も言ったが、山本は本当に天才だよ。まさかあそこまで真相に近づき、そして吉本君を逮捕するところまで行ったのだからね。」

「何かと問題を抱えている人物が多いですが、優秀な部下がいますからね。」

「君はその優秀な部下も変人だと思うかな?」

「天才をオールマイティな才能の持ち主と仮定するなら、それは違いますね。彼らは一つの才能に関して突出しているだけで、総合力は劣ってますから。」

「全く違う才能が集まる中で、お互いに補い合う。それがチームというものだよ、坂本君」

 黒木が楽しそうに言うと、坂本が

「僕がさっき言った天才の定義に当てはまる人間を、僕は二人しか知りませんね。」

「ほう、誰だ?」

「あなたと山本さんですよ。もっと言うなら、この間、あなたの言っていた天才のことを凡人が変人と感じているというならば、僕の中で変人なのもあなたと山本さんだけですよ。」

「なるほど、そう来たか。」

 黒木は世間話を楽しそうにしているだけのような雰囲気でいる。

「ところで、坂本君。君の方はどうだ、叔父さんが犯罪者ということで何か不都合なことはないかな?」

「ええ、僕自身が積極的に情報を追及して、さらに各方面に圧力もかけてありますし、普段からの僕の行動を見て僕を責めることができる人間は、今の警察にはいませんから。」

「それでは、これからもよろしくお願いします、坂本さん。あなたの役割は今後の計画でも重要ですから。」

部屋のドアのところに控えた青年が二人に向かって話しかける。二人はにやりと笑いながら黒木が言った。

「お前の出番ももうすぐだな。」

暗い場所にいるため、顔を見ることができなかったが、その青年の口角が上がっていることだけは、坂本の位置からでもわかった。


「斎藤勤の言う『あいつ』って誰なんですかね?」

 斎藤の会社から戻って来て、署の廊下を歩きながら、上田が聞いた。

「今までの俺の考えからするなら、黒木かと思ったが、手紙の中には大物も掌の上で踊らされているとあった。この大物が黒木だとすると、元凶の人物は別にいると考えられるな。」

 山本が言うと、上田がひらめいたのか、

「坂本さんはどうですか?今回の事件でも最初に、裏で関与してると思ってた人ですし、三橋ゼミのOBですし。」

「ああ、その可能性もあるが、坂本なら捕まえられないというほどの人物かというと、そうじゃないだろう。」

「そうですね。『完全犯罪者』というには、少し弱い気がしますね。」

「俺が知っている人物で、出会った人を狂わせるほどの影響力があるのは、誰か、

もしかしたら、俺が知らないだけで、俺の身の回りにはまだ三橋ゼミだった奴がいるかもしれないな。」

「あり得ますね。藤堂とか今川とかならその可能性がありそうですよ。」

「いや、今までもこいつが後輩かと思うやつがいたから加藤も怪しいだろう。」

「三浦は・・・・・」

 そこまで上田が言いかけて、山本も一緒に「ないな。」と言った。

「何がですか?」

 いつの間にか部屋に戻ってきていたため、部屋にいた三浦に聞かれたらしく、三浦が聞いてきた。他の面々も戻ってきていたので、山本が、

「今川・加藤・藤堂、お前ら大学どこだ?」

「僕は京都大学です。」

今川が答え、藤堂が自慢げに、

「僕は東大法学部です。」

「自分は、日本大学です。」

 加藤が言うと、全員が驚いて、加藤を見た。

「えっ、どうしたんですか?」

 全員の視線を受けて、加藤も驚きながら聞いた。

「いや~、意外といい大学行ってたんだなと思って。」

 全員が同じことを思っていたが、藤堂が一番、最初に言った。

「お前、失礼だな。俺だって勉強ぐらいできるんだよ。」

 心外だと言わんばかりに言い、このままだと喧嘩になると感じたのか今川が、

「それがどうかしたんですか?」

「いや、俺の知らないだけで自分の周りにゼミの後輩がたくさんいるのかと思うと気持ち悪くてな。それで聞いてみただけで深い理由はないんだ。」

 大学を聞かれた3人と聞かれなかったうえに、話の流れから、最初に自分の聞いたことの意味が分かった三浦は少し怒っているように見えたが、一応納得していたところに、

「楽しそうですね、警部。」

 山本達が振り返ると、署長がいつもの笑顔で立っていた。

「どうしたんですか?」

 山本が聞くと、署長は後ろで組んでいた手をといて、手に持っていた物を山本に差し出し、山本が受け取り、

「何ですか?」

「異動命令ですね。武田総監自らの山本警部達へのです。」

「異動命令?」

 山本が不思議そうに言うので、署長は逆に驚き、

「おや、警部は総監の記者会見は見ておられなかったのですか?」

「途中まで見て、捜査に戻りましたので。」

「そうですか、総監が新しく本庁に作る課の人員が、警部とここにいる皆さんになったんですよ。ついでに言うと、その課の課長は上杉刑事部長が兼務されるので、実質、課で一番偉いのは山本警部ということになりますね。」

「何でそんな重要な仕事を俺にやらせるんですか総監は?」

「警部が、自分で言ったと聞きましたが?」

「何をですか?」

「自分の好き勝手に捜査できるなら本庁に異動してもいいと言ったと聞きましたよ、私は。」

「そんなこと言ったか?」

 山本は上田・加藤の方に向かってきいた。

「警部、確かに言ってましたよ。」

「自分もそう聞いた気がします。」

 上田・加藤がそう言うということは本当に言ったのかと思い、これから適当なことをいうのは気を付けようと山本は思い、さらにそれに気付くことが遅すぎたことに少し後悔した。

「それでは、正式に山本勘二警部とその部下5名に対して、警視庁特別犯罪捜査課への異動を命じます。」

 山本がしょうがないと言った感じで敬礼をし、

「承りました。」

 その後ろで上田達も敬礼をした。


「警察庁は現在、多くの官僚が抜け、骨抜き状態です。今のうちに警視庁側の力をつけ、官僚主義からの脱却を進めてください。

あいつらは、また何かの犯罪を用いて社会の変革を行うでしょう。まだ、こちら側の準備が整っていませんから、放置せざる得ませんが、必ず犯罪者として裁きを与えましょう。」

 明るい部屋の中には椅子に座った60代の男性と向かいあって、武田総監が姿勢を正して立っている。武田が、

「はい、とりあえず、山本が異動に応じたとの連絡を得ましたので、一つ問題が解決したものと思います。」

「そうですか、山本勘二君は、あいつらを潰すためにも必要な人材であり、かつ、あいつらとの重要なパイプでもありますから、悟られず、確実にあいつらを破滅に導く英雄になってもらいましょう。あいつらが彼を、世界を変える救世主に仕立て上げる前に。」

「その言い方もどうかと思いますよ。」

 武田がちゃかしたふうに言うと、男も笑い、

「あいつらはどうも。欧米の方の考え方に近いものを感じますね。やはり日本で言うなら、山本勘助から徳川家康になってもらわなければ。」

「私の部下なので、天下人になられるよりは、私を支え続けて欲しいですな。」

「後進を育てることも必要ですよ。期待していた後輩に裏切られるなんてこともありますからね。」

「黒木ですか?」

「まったく、どこでどう間違えば、ああなるのか。困ったものですよ。」

 そう言って、男は頭を掻いた。

「心中お察ししますよ、北条総理。」

 『総理』と呼ばれた男は、にこりと笑い、

「手綱の握りにくい部下をお持ちの君の方こそ、大変だと思いますよ。」

 武田はにやりと笑い、頭を下げて、「失礼します」と言って部屋を出た。

「家の中にわいた害虫は、早急に駆除しなければ、家が崩壊しますからね。」

 北条総理は一人でつぶやいた。

               

                〈終〉


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