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第二部

「率直に俺の感想を言うと、三浦と加藤の考えを合わせたようなものだな。」

 上田が、聞き込みから帰って来た山本に佐々木アナの番組の話と石川議員の話を終えると、山本は三浦と加藤で、動画を手に入れることと、その解析を指示し、今川・藤堂に石川議員の殺害についての情報を収集するように指示を出して、全員が部屋を出た後、上田が感想を聞いて山本が答えていた。

「どういうことですか?」

上田の問いに、山本は自分の知った情報と上田達が仕入れた情報を併せて考えてから、

「俺の考えたのは、今までの『坊ちゃん狩り』が全て、石川議員を殺すための目くらましだった。世の中には、権力者の手によって守られて好き勝手やっている人間がいる。その人間たちを刈って、その権力者を引きずり降ろしているように見せて、実は最初っから標的は一人だった。」

「じゃあ、警部は石川議員を恨んでいる人間が計画した一部の事件が大々的に報道され、完全に目くらましに成功して、石川議員を殺せたから、これで事件は終わるとお考えですか?」

「どうだろうな。首謀者が一人なら、その可能性はあるがな・・・」

「首謀者は複数いて、それぞれに目的があるなら事件はまだ続くってことですか?」

「でも、今回の石川殺害は動画の中で、その予告がされてたみたいだからな。

今後も同様の動画が流されたら、注意するべきだろうな。」

「そうですけど、動画が公開されてすぐ殺されたら、手の打ちようがないですよ。

どこの誰が狙われるのかは、動画を見て初めて分かるんですから。」

「まあ、とりあえず情報待ちだ。三浦たちの活躍に期待だな。」

山本が言う。上田は山本の言葉に少し疲労感が漂っているように感じ、

「お疲れですか、警部?」

「あん、まあ、そうだな。若いもんには、色々教えながら自分の仕事をしようと思うと、倍は疲れるな。言葉一つにしても選ばないといけない気がするし、何より、一人だと思ってたキャリアが二人だった時の衝撃だよ。」

「僕も加藤に聞いて、驚きましたよ。今川がキャリアとか、その雰囲気ゼロでしたから。」

「ああ、思えば上田と二人のころは楽だった。

気を使う必要もないし、ほっといても勝手に捜査してくれるし、何より役割分担がなかったから、そのへんを考えなくてよかったからな。」

「いや、僕にも気を使ってくださいよ。でも、わかります。加藤は飲み込みも早いし、めちゃくちゃ頑張る奴なんですけど。三浦ほどの扱いやすさがないですからね。昼飯買いに行かすだけで、気を使いましたよ。」

「部下を育てるってのも楽じゃないな。」

「そうですね。」

山本と上田は「ふう」とため息をついて、それから苦笑した。


「お久しぶりですね、山本さん・上田さん」

拘置所の面会所の向かい側に笑顔の五條がいる。情報がうまく集まらない中で、捜査は停滞状況にあった。特に石川の殺人事件については、部署の違い、管轄外でキャリア二人をもってしても、なかなか情報がなかった。画像の解析を行っていた三浦・加藤も今までの動画と同様に情報と呼べるほどのものは見つけられずにいた。その中で、弁護士の代理だという男が訪ねてきて、五條が面会を希望しているから一緒に来て欲しいと言われ、来てみたところ、五條は笑顔で二人を迎えていた。

「普通、公判中の被疑者は警察官に面会なんて求めないし、許可も出ないと思うがどうやった?」

山本が聞く、五條は笑顔で、

「少しコネがありまして、そのへんの融通が利くんですよ。」

「何ですかそのコネって?」

上田が聞く、

「まあ、担当の弁護士も検察官もゼミの先輩だったり後輩だったりで。

どうしてもと頼んだら一回限りで許してくれましたよ。」

「で、何の用事だ?わざわざ、無理なところを押して俺に会いたいって言った理由は何だ?」

山本が鋭く睨む。上田なら怖くて引きそうなくらいの視線も五條は笑顔でさらりと流している。

「実は、新聞は読まして貰っているんですけど、そこで、『坊ちゃん狩り』でしたか。あれを読んで、坂本の卒論のことを思い出して、何か役に立つかなと思いまして。」

「坂本さんの論文ですか?」上田が不思議そうに聞く。

「どんな内容だ?」山本が聞く。

「『犯罪者にならない人々』と題して、会社の社長・政治家等の権力者、そして犯罪を取締る側の警察官は、力が強くなるほどに法律と言うものが適用されなくなり、特に警察官の腐敗は社会の腐敗に直結する重要課題である。早急に改革をしなければ日本存亡の危機にあると説いた論文でした。」

「よくそれを書いて、警察庁に入れたな。」山本が言うと五條は笑い、

「それは裏の卒論ですから。表立っての論文はただの窃盗罪に関する論文でしたから。」

「なるほど、未発表の論文に沿った事件が起きているということは、坂本が何らかの形で関与してるのではないかと思ったってことか。」

「いいえ、坂本の論文は発表されています。」

「えっ、でも・・・」上田が言いかけると、五條が

「そうですね。実際に坂本は警察庁で働いてます。

外国の学会に発表された論文は、さすがに警察庁も確認してなかったですし、発覚した時には、すでに簡単にクビにできない権力を持ってましたから、坂本は。」

「で、結局お前は何がしたい?」山本の問いに、

「ホームレスは見つかりましたか?」

「携帯の名義貸しをしたホームレスか?」山本が聞き返す。

「残念ながらまだ、消息すらつかめてませんよ。」

上田が代わりに答えた。五條は悲しそうな顔をして、

「そうですか・・・・」と言って黙った。

「ホームレスは殺された、違うか?」山本が聞く。

「何のことかわかりませんね。それに、誰に殺されたというんです?」

「黒木さんとか。」上田が言うと、五條は一瞬目を見開いて、直ぐ笑顔になってから声をあげて笑い、

「あはは、黒木さんがホームレスを殺す意味がないじゃないですか。上田さんも面白いこと言いますね。」

「真犯人は黒木だった。」山本が真剣な顔で言う。

「山本さんまで、どうしたんですか?

犯人は僕です。真犯人もくそもありませんよ。」

「確かに計画をし、実行したのは五條さん、お前だ。

でも、教唆し、幇助したのは黒木なんじゃないかと俺は思ってる。」

「山本さんの妄想もそこまで行くと精神科の受診が必要ですよ。」

五條は笑っている。そこへ、刑務官が「あと5分だ」と伝えた。

「時間もないようですし、簡潔に言いますが、犯人は五條進です。私がすべて一人で実行しました。

もし黒幕がいたとしても、僕はその存在を公にするつもりはありません。

僕は、僕の目的を現実に体現できた。これ以上求めることもありません。大人しく判決を待ち、その罪を全て背負います。

それが、ご迷惑をかけた小田さんや林さん、長田さんや篠田君、佐々木さん・相田さんにできる償いだからです。」

「真実は墓の中までってことか?」山本が聞く。

「ご想像にお任せしますよ。」

五條は笑顔で言う。刑務官が「時間だ」と言って五條を連れていこうとする。

「ああ、最後に斎藤(さいとう)(つとむ)と言う男を調べたらどうでしょうか。

僕らの3つ上のゼミの先輩に吉本と言う人がいるんですが、その人も面白いですね。それでは。」

「おい、吉本って、」

山本が呼び止めようとするが、五條はにこりと笑って拘置所の奥に消えていった。上田が、

「吉本ってもしかして、坂本さんの上司の?」

「可能性はあるかもしれない。それに斎藤勤。」

「今回の事件にかかわってるんですかね?」

五條の笑顔の裏に隠された真実は、山本には見当もつかないほどの大きな闇なのかもしれないと思いながら五條の消えたドアを山本は見続けていた。

「どうしますか?五條さんの言うことを信じて、斎藤勤と吉本さんのことを調べますか?」

 帰りの車の中上田が聞く、山本は車の窓の外を見ながら、

「五條の言う『吉本』が俺らの知ってる『吉本』とは限らない。

だからと言って、何のヒントもない斎藤と言う男を探すのも難しい。

何より、他の奴らになんて言って調べさせる?」

「そうですよね。三浦くらいなら、なんとか行けそうですけど、他の三人に五條がヒントをくれたから、それで捜査しようとは言えないですからね。」

「だからと言って、あからさまに出されたヒントを見逃すほど俺らの捜査も進んでない。」

「難しいですね。本当にどうしますか?」

「とりあえず、斎藤については上田が一人で頼む。俺が動くと周りが不審がるし、指示を出す必要もある。」

「わかりました。吉本さんの方は?」

「俺らの知ってる吉本かどうかは、今川に聞けば何か聞き出せるかもしれないだろう。とりあえずは身近な情報収集だ。」

「とりあえず、ばっかりですね。」

「情報が少なすぎる。仕方ないですまない状況だからな。今は何でもやるしかないだろ。」

「本当に、大変な捜査ですよ。」

上田がぼやくのを聞いて、山本はため息をついた。


「今川・藤堂、報告を頼む。」

捜査が難航する中、山本は全員を呼出し、捜査の進行状況を聞いていた。

「正直、こちらが情報を求めても答えてくれる人がいないというのが現状です。

ただ、藤堂の同期が最近、警視庁の捜査一課に入ったということなので、そこから情報を貰えないか今交渉中です。」

「そうか、三浦・加藤はどうだ?」

「凶器・服装等はこれまでと同じで特定できる物はありませんでした。

それに、車の車種は特定できましたが、どこにでもある物でその所有者からの捜査は不可能だと思います。ナンバープレート等にも目隠しがされていて、見えませんでした。」

三浦の報告を聞きながら、進展のない捜査に苛立ちを覚える山本だった。

「でも、警部。自分の同期の交番勤務してるやつが、真っ先に現場に向かっていったらしくて、ボコられてた石川のグループの奴の一人が、覆面男の一人が関西弁で話しているのを聞いたと証言したそうです。」

加藤が言うと、山本は加藤の方を向き聞いた。

「それは、上に報告されていることか?」

「いえ、報告はしたそうですが、そいつが頭部に重傷を受けていたことや、そのすぐあと意識を失ったことから、信用性に欠けるとの判断がされたそうです。

ただ、そいつは確かに聞いたと答えてたそうなんで、何か糸口になるかもしれません。」

「その同期の奴に直接話を聞きたい。何とかなるか?」

「大丈夫だと思います。自分が何とかします。」

加藤が言いきり、山本も「頼む」と言って、今川の方を見て、

「話は変わるが、監査官の吉本さんってどんな人だ?」

「吉本さんですか?」今川が驚いて聞き返す。

「何か疑ってるんですか?」藤堂が聞く、

「いや、この前も見逃してくれたし、どんな人なのか気になっただけだ。」

「そうですね・・・・・。吉本さんは、ザ・キャリアって感じの人で、警察組織を守るためには人の感情を捨てられる機械みたいな人です。先輩でも同期でも後輩でも、不正を働いた警官は全て懲戒免職にしなければ気が済まない人です。」

今川が言う。

「どこの大学とか、親しくしてる人とかはわかるか?」

山本の問いに答えたのは、藤堂だった。

「吉本さんは、警部と同じ京泉大学ですよ。ゼミも一緒かは聞いたことないですけど。」

「本当か?」

身を乗り出して聞いた山本に驚いた藤堂が

「どうかしたんですか?」と聞く。

「いや、そうなると坂本は吉本の後輩ってことになるよなと思ってな。」

「ああ、そうですね。でも、吉本さんは坂本さんには頭が上がらないと思います。」

「お、おい藤堂・・・・」

今川がそれは言うなと言わんばかり藤堂に声をかける。

「どういうことだ?」

山本が聞くと、藤堂は今川を気にするようなこともなく、

「ここまで言ったら、一緒ですよ。噂で聞いた話なんで、事実かどうかはわかりませんが、吉本さんが監査中だった警官が自殺したことがあって、その時の取調べが拷問のようだったらしく、それを苦に警官が自殺した、と言う話が広がりました。当然、そんな取調べをすること自体が違法ですし、キャリアだから何をしてもいいと思ってるなんて話まで出て、左遷されそうになったらしいんです。

そこで、坂本さんが、自分は取り調べに同行していたが、噂のようなことは一切なかったと証言して、さらに、その警官の自室から覚せい剤が見つかったということも明らかにして、その警官が薬物中毒で幻覚を見ていたのではないかと言ったために、吉本さんは無罪放免で、今の職場に居続けられていると言うことです。」

「つまり、吉本さんは坂本に恩を感じている上に、本当のことを話されたら終わりだから、言うことを聞くしかないということか?」

山本が聞くと、

「噂通りならそうなりますね。でも、監査官が自分の不正を隠し、同じ監査官である坂本さんも、それに協力したとなると今の事件とやってること同じですけど。」

「警部、あくまで噂です。キャリアの中には自分の出世のためにデマを流す人もいるということだったので、吉本さんの出世を阻もうとした誰かの嫌がらせかもしれないとも聞いてます。」

今川が藤堂の発言に補足を行っている。

「まあ、いい。今川は吉本とはどういう関係だ?」

山本が聞くと、今川は「えっ」と驚いた。山本は続けて、

「この前のやり取りといい、お互いに面識があると言った感じだった。

同じキャリアだからというなら、藤堂に対しても何らかのアクションがあったはずだがそれもなかった。つまり二人の間に何かあるということだろう?」

「実は、僕もここに来るまで、監査室にいました。つまり、吉本さんは元上司です。」

「えっ、そうなんですか?」

藤堂が驚くが、山本はそれを無視して

「何で異動になった?」

「僕が、監査官に向かなかったからです。同じ警察官を疑うことができず、今の部署に来ました。」

「まあ、向き不向きは何にでもあるからな。」

山本が言う。

「吉本さんにはよくして頂いていたんですが、期待に応えられなかったことは後悔してます。」

「じゃあ、お前から見て坂本はどうだ?一緒の部署だったんだろう。」

「いえ、僕が異動になってから、坂本さんが監査室に入られたので、実際の面識はないですけど、でも、噂くらいなら聞いてます・・・・。」

 今川は言うべきか迷っていると言った感じで黙り込んだので、山本は

「坂本に関しては、俺は疑ってるから、何でもいいから情報が欲しい。」

とだけ言って、今川を見た。今川も少し考えてから、

「あくまで噂ですが、坂本さんの叔父さんが前警察庁次長だったらしく、その叔父さんは今でも警察庁に影響力を持っているということで、キャリアの中でも坂本さんには逆らえない人が多いそうです。特に上層部に近い年配の方たちは、前次長に直接お世話になった人たちなので、坂本さんが過激なことをしても、もみ消すくらいはやるだろうと言われてます。」

「前次長の甥っ子か・・・。で、過激なこととは?」

「吉本さんが一回漏らしたことがあるんですけど、どこの管轄にも、どこの部署にも一人は正義感に燃える熱血な刑事がいる。その刑事の後ろで、確証のない案件に関して、自分の知りえた情報をいうだけだそうです。」

 この話を聞いて、加藤と藤堂は何がいけないのかと言った顔で首をかしげている。それに向かって山本が、

「簡単なことだろ。確証がないからその熱血刑事に踏み込ませて、無理やり逮捕するきっかけを作ろうとしたってことだよ。」

 藤堂は理解したようだったが加藤はまだのようで、今川が、

「つまりな、加藤。例えば、覚せい剤の事件を調べていて、使用していることに関しては、ある程度、判明してるけど、でも確たる証拠がない。

 そこで、熱血刑事にそのことを吹き込むと熱血刑事がその男について調べだす。一緒について行って、証拠が見つかればそれでよし。見つからなければ自分の用意したモノではめて、尿検査などを強制的に行う。覚せい剤が見つからなくても、尿検査で陽性が出れば、逮捕できる。」

「違法捜査じゃないですか!」

加藤が言うと、周りにいた人すべてが「そうだよ」と言った。

「で、実際は何をした?」山本が聞くと、

「これも噂ですが、3年程前に暴力団が一斉に検挙されて、警官が二人銃撃戦で負傷した事件がありましたがご存知ですか?」

「ああ、警官の一人は死亡、もう一人は確か退職したとかいう奴か?」

山本が聞くと、今川は暗い顔で頷き、

「はい、その事件でその暴力団は壊滅、警官一人の犠牲で暴力団が一つ潰せたということで、色々と議論になりました。」

「えっ、もしかして負傷した警官が坂本さんだったんですか?」

 上田が聞くと、山本が、

「バカか、もう一人は退職したって言ってるだろうが。」

「あっ、そうですよね。」

上田が言うと、今川が

「実は、現場に向かったのは三人で、確かに一人は退職されましたけど、負傷したのは坂本さんです。坂本さんは足を撃たれて、身動きが取れなくなり、それをかばった先輩警官が撃たれて亡くなったそうです。」

「坂本が焚き付けたから、その先輩刑事は死んだってことか?」

 山本が聞くが、今川は

「そのことについては、真実を知っているのは坂本さんだけです。

 ただ、応援に駆け付けた警官が事件後、退職された警官が坂本さんに向かって、

『おまえがあんなこと言わなければ、安藤さんは死なずに済んだ』と叫びながら胸ぐらをつかんでいたそうです。それを見て、功積が欲しかった坂本さんが安藤という先輩刑事を焚き付けたせいで、安藤刑事は死んだという噂が広がりました。」

「じゃあ、何で世間的には負傷した警官が退職したことになってるんだ?」

 山本が聞くと、

「これも噂ですが、前次長が坂本さんは現場には行っていなかった、この事件には関係ないということに無理やりしようとしたみたいです。本人は反論したそうですが、それも・・・」

 今川の言葉がだんだん小さくなり、黙り込んだ。

「それで、退職した警官がけがをして、辞めたということになったわけか。」

 山本が言うと、今川は頷き、

「はい。その事件の後、現場に出しておくとまた何をするかわからないということで内勤をしていたそうですけど、能力の高さから監査官の方が向いているとなって、今の職場になったそうです。」

「なるほどな。坂本は自分が坊ちゃん扱いされたくなかった。でも、それを有無を言わさず、前次長がもみ消した。そうなると、当たり前のように親に守られて悪さしてる奴なんて許せないだろうな。」

 山本が言うと、全員が黙り込む。そこに藤堂の電話が鳴り、藤堂が

「例の同期です。」

 と言って電話に出た。藤堂は短く話してから、

「現状で流せる情報ができたから、教えてくれるそうです。直接会って聞いてきます。」

と言って部屋を出ていこうとすると、今川が「僕も行く」と言って出ていった。

部屋に残った4人の中で最初にしゃべったのは三浦だった。

「藤堂って、同期とは仲いいんですかね?」

この部屋に残っている誰にも、その答えができる者はいなくて沈黙が続いた。


「藤堂の言っていたことどう思いますか?」

報告を終え、各自、自分の仕事に戻っていき、部屋に残った上田が山本に対して、聞いた。山本は少し考えてから、

「吉本さんの違法捜査のもみ消しを坂本が本当にしたのか、どうかか?」

「はい、優秀な人で、前次長の甥っ子ならそれも可能ですよね。」

「相手がゼミの先輩だから坂本が助けるのかというと、まだ疑問は残るだろう。」

山本が言うと上田が考えてから、

「警察組織を守るため、あるいは、誰かに吉本さんを助けるように頼まれて、ということはないでしょうか?」

「坂本関係で行くと、黒木じゃないかとも思うが、黒木が吉本をかばうほどの関係があるか疑問だな。それに、黒木は革新派だから、不正をそのままもみ消すより公にした上で、改正の音頭をとるような奴だ。

実際、この前の強要罪に関する改正もあいつの発議が元で改正までされている。」

「他に、坂本さんに頼める立場なのは、叔父である前次長とかですか?」

「坂本のすべての人間関係を把握してないから、そうなるかもしれないが、

じゃあ、前次長はなんで吉本さんを助ける必要があるのかって疑問が残るだろ。」

「そうですね・・・。」

 解決しない問題を目の前にあきらめ気味に二人はため息をついた。

山本は周囲を確認してから、

「上田、例の斎藤については何かわかったか?」

 上田も山本の問いを聞いて、周囲を確認してから、

「前科者や犯罪被害者を探しましたが、該当者はありませんでした。

交通違反もなかったですし、五條さんが調べろと言ったからには、何か重要な人物なのかと思ったんですが。」

「世間的に見て、ごく普通の一般人で、五條の事件あるいは今回の事件に関しては重要人物ってことなのかもしれないな。」

「一般人まで調べられるかというとさすがに・・・・。」

「OB会関係はどうだ?」

「連絡役だった五條さんが抜けて、まだ全体の把握ができていないということなので、わからないそうです。OB会にも参加してるかどうかもわからないそうです。」

「手がかりゼロだな。上田、今後はどうやって調べる?」

聞かれた上田は、考え込んでから、

「適当にインターネットで検索しますかね。後は事件の重要人物なら逃亡したかもしれませんし、渡航歴の調査とか、失踪者リストの照会ですね。」

「どれも、繋がりそうにない気がするな。」

「そうですね。公開捜査ならもっとやりようがあるんですけど、僕だけでやると限界がありますよ。」

「それなら、人員を増やして、しらみつぶしにするとか、あるいは五条にもう一回面会できないか頼んでみるとかどうですか?」

 二人は後ろからした声に驚いて振り返ると三浦がドアのところに立っていた。

「いつから居たんだ?」

山本が聞くと、三浦はあきれたと言った感じで肩をすくめ、

「上田さんが、交通違反がって言ってるあたりですよ。

 何か調べてるなら教えてくれたらいいじゃないですか。」

 三浦が怒り気味に言い、上田が、

「いや、だってお前スパイじゃん。」

そう言いながら笑う。三浦は痛いところを突かれたと言った感じで

「もういいじゃないですか、その話は。で、誰を探してるんですか?」

山本は一連の事情を説明し最後に、

「どこに敵が紛れてるかわからない状況だからな。できるだけ内密にしなければいけなかった。」

と言った。三浦も事情を理解して、

「じゃあ、斎藤勤っていう人物で、京泉大学法学部出身の三橋ゼミ生だったことだけで、身元を特定しようと思ってたってことですよね?」

「まあ、そうなるな。」

 三浦がそんな無茶なと言った感じで言ったのに対して、上田も苦笑しながら返した。

「でも、京泉大学の三橋ゼミの出身なら、一流企業とか、官僚とか、社長とかいうことも考えられますよね?」

「言っとくが、お前らのその勝手な妄想は真実ではないからな。」

山本が言うと、二人は「すみません」と言ったが、内心ではキャリア警官に国会議員や30歳で個人資産20億も持っている会社副社長等この妄想には多くの事実が混ざってる上に、目の前の警部も30代後半で警部まで昇進していることから間違ってはいない気がしていた。

「今回の事件に関係するなら、地方の警察官とか監査官って可能性もありますね。

五條の事件関係なら、五條の会社の同僚とか、あるいは銀行関係の人ってことも考えられますよ。」

 三浦が言うと、上田も「なるほど・・・・。」と言って自分になかった発想だと思って感心していた。

「じゃあとりあえず、上田はさっき言ってた内容で調査を続けてくれ。三浦は警察関係者に該当者がいないかのチェックと、銀行強盗事件の関係者の方もよろしく頼む。」

「結局、僕の方が大変な調査じゃないですか。」

 三浦が文句を言うが、山本と上田は

「頼んだぞ、スパイ。」と言って笑った。

三浦もこの話になると断ることができないし、文句を言う意味がないことも分かっているので「わかりましたよ・・・・・」と言うしかなかった。


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