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第一章 第十四話『襲撃』




「本当にギルドからなの?」


 フリーダ嬢が訝しげな表情でマリーに問いかけた。


「よくわかんないけど、本人がそう言ってるの。姉様、どうする?」


 マリーの言葉にフリーダ嬢は疑問を覚えた。そういう指令がある場合、オーマが持ってくるように事前に取り決めてあったはずだ。そして、フリーダ嬢が村を離れている間はオーマが代わりを務める事になっている。

 そう、そのはずなのだ。


「オーマじゃないのよね?」

「うん、違うよ。おじさんなら私も知ってるし」

「そう。なら、一度会いに戻るしかないわね。ジョン、ここを離れるから今日のダンジョンは終了して。子供達も一緒に戻るわよ」

「わかりました。なら、フリーダさんは先に戻っていてください。後から俺達も行きますから」

「そうね。そっちのほうがいいわね。じゃあ、先に行ってるわ」


 フリーダ嬢が、そそくさと早足で村へと帰っていく。

 それを見送ってからジョンは、子供達を集めるためにダンジョンに入っていく。それにマリーも付いてくる。


「ねえ、マリー。そのギルドからの使いってどんな格好してたかわかる?」

「んー、青い服を着てたのは覚えてるけど、細かい所までは見てないわ」


 マリーが思い出すように首をかしげるが、青い服装ぐらいしか思い出せなかった。

 青い服はギルドの基本の制服だ。知っている人間なら成り済ます事ぐらい簡単だろうと思う。ただ、上級職員であるフリーダ嬢に会うのに、成り済ますだろうかとも思う。なら、本当にギルドの人間なのかもしれない。

 ここであれこれ考えていても埒があかず、そんな事を思いながら、子供達を集めていく。


「全員揃ったね。ゴメンなんだけど、今日はもう終了だ。皆、村に戻るよ」


 えー、と子供達から残念そうな声が出るが、流石に監督者無しでダンジョン内をうろつかれるわけにはいかないので、なんとか宥めてから全員を連れて村へと戻っていった。



 一足先に村へ戻っていたフリーダ嬢が中央広場に行くと、そこには青い制服を着た青年が立っていた。まだ少し距離があるので、フリーダ嬢からは誰なのかわからない。


「フリーダ様!」


 青年がフリーダ嬢を見つけると、急いで駆け寄ってきた。


「フリーダ様、ギルドより至急街に戻るように、との指令が下りました! こちらが書状です」


 抱えていた羊皮紙を広げ、読み上げる。そして、それをフリーダ嬢に手渡した。

 正式な書状のようで、フリーダ嬢も恭しくそれを受け取る。そして、すぐに広げては内容を確かめるべく、隅から隅へと目を通していく。

 さして時間もかからず、目を通し終えたフリーダ嬢は羊皮紙を丸めて呟いた。


「……確かに本物のようね」


 内心では、もしかしたら偽物かも知れないという思いがあった。ジョンの件に関わる者を増やしたくないギルドとしては、こういった事はできるだけ知っている者達だけで済ませたいはずだからだ。

 だから、どうしても聞いておきたかった。


「ねえ、オーマはどうしたの? 普段ならオーマが使者も兼ねるはずよね?」


 青年は困ったように顔を伏せ、首を振る。


「申し訳ありません。私もそこまでは把握しておりません。ただ、急ぎだったので使者として立たされたのですが……」

「そう、わかったわ。仕方ないわね。私も急いで準備するから、あなたも速やかにギルドに帰りなさい」

「はっ」


 青年がフリーダ嬢に敬礼してから再び馬に飛び乗った。そして、すぐに馬を走らせ、颯爽と村を去っていったのだった。


「はぁ……」


 あそこであれ以上聞いても埒が明かないと話を切り上げたが、どうもこの事が気になって仕方が無かった。ギルドで何があったのか、オーマはどうしたのか、と様々な疑問が浮かぶが、はっきりした答えは出ない。だから、指令に従う他なかった。


「ジョン、話は聞いてたわね。そういうわけだから、少しの間私はギルドに戻ります。その間のダンジョンはお休みよ。流石に後からオーマが来てくれると思うけど、それまではダンジョンは作っちゃダメよ」


 ジョンの『ダンジョンマスター』で作られた物だが、中身は子供が遊び場にするには少々危険だ。すぐに指示を出せる者がいなければ、何かあった際に対処できないかも知れないのだ。


「わかっています。ただ、あの子達がそれで納得してくれるか……だから、初心者用ダンジョンじゃなくて、遊び場を作って開放しちゃダメですか?」

「遊び場? 何か考えがあるの?」

「その辺りは色々と」


 ジョンが言葉を濁す。ジョンが考えているのは罠を利用した遊具のような物を作ると言う物だった。だが、元が罠なだけに話を聞いたフリーダ嬢がどう思うかだけが不安だった。

 フリーダ嬢は少しの間考えてみた。そして、ジョンが子供達のために作った物が危険な物になるとは思えなかった。


「そうね。ジョンが作る物だしね。安全だと分かる物ならいいわ。ただし、ちゃんと監視はしてるのよ」

「了解です。俺もアイツ等に怪我して欲しいわけじゃないですから」


 ジョンがダンジョン開放の了承を得てからは、少しバタバタしていた。フリーダ嬢が戻るための荷造りを急いでしていく。マリーも手伝い、大急ぎだ。そして、ジョンもいくつかの罠を作ってみて、安全か確認していく作業をしていた。

 フリーダ嬢が荷造りを済ませた後、挨拶もそこそこに馬車へと乗り込み、勢いよく去っていった。

 それを見送るべく、村はずれまでやってきていたジョンとマリーは馬車が、充分離れた事を確認した所で、村へと戻るために踵を返す。


「あーあ、姉様行っちゃった」

「すぐに戻ってくるさ。さ、村に戻ろう」

「あ、ジョンって、ダンジョン色々作れるの?」

「ん? 作れるよ。試した事の無い物もあるけどね。何かやりたい事でもあるの?」

「今は内緒。後で一緒に作れないか試してもいいかな?」

「秘密か。でも、いいよ。じゃあ、後で一緒に試してみようか」

「うん!」


 二人は並んでダンジョンについてあれやこれやと話しながら、村へと戻っていった。



 それから数日。

 教える者がいないダンジョンは、内容を変えて子供達の遊び場として、解放されていた。訓練的な物はなく、純粋に集まって遊べるようになった空間が広がっている。色々な罠を応用した遊具のような物があり、子供達を楽しませていた。中には、マリーが作れないか聞いてきたお城のような外観を持つ小さな建物もあり、一種の遊園地のような様相を呈している。子供達が家の手伝いを終えると真っ直ぐにダンジョンにやってきては夕方まで遊んで帰る、そんな場所になっていた。

 数日間は平和だった。今までなかった新しい遊戯場は子供達の歓声を響かせる、そんな新しい日常だった。

 だが、そんな日々は終わりを告げる。

 とある日の深夜、村は真っ赤に染まっていた……



 森の中を複数の男達が闊歩していた。


「お頭、見えてきやした。あの村ですぜ」

「そうみたいだな。たく、辺鄙な所に有りやがって!」


 お頭と呼ばれた男が、この地までやってくるための苦労を思い出し、悪態をついた。忌々しそうに村を睥睨し、吐き捨てる。後ろに控える男達に振り向いて、叫ぶ。


「野郎ども! さあ、仕事の時間だ! いつも通り、全てを奪っちまえ!」

「「「おおー!!!」」」


 男達の歓声が木霊する。

 そこには、服装も装備もまちまちな男達が数十人集まっていた。全員が全員、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。これから始まる楽しい祭りを今か今かと待ち望んでいた。

 彼らは山賊だった。エステリア王国内にもそういった集団が大小様々に存在している。その内の一つが、この男達だ。

 そんな彼らが、なぜ実りもなさそうな辺鄙な村を襲おうとしているのか。事の起こりは一週間以上前のことだ。

 規模が数十人になる大規模な山賊の元に、一人の男が訪ねてきたのだ。数十人の荒くれ者どもをものともせず怖気づいた様子もなく、お頭の前で依頼がある、と告げていた。

 最初こそ訝しげな視線を投げかけていた彼らだったが、提示された法外な依頼料に目が眩む事となった。


「依頼内容は、とある少年を攫ってきて欲しい。この国では滅多に見ない見た目だからすぐにわかる。引き受けてくれるなら、前金に金貨三十枚。成功報酬で追加金貨七十枚を支払おう」


 それは、山賊達が予期し得ない法外な金額だった。金貨一枚、日本円で約十万円程度なのだ。それを合計百枚支払うという。

 お頭は二言目には頷いていた。そして、遠路はるばる、目的の少年がいるというロワ村までやってきたのだ。

 今、山賊達が集まっているのは村の西側、川を挟んだ対岸の森だった。そこから舐めるように村を見つめていた。



「お父さん、お休みなさい」

「お休みマリー。いい夢を」


 マリーが自分に部屋に向かう前にマクシーにお休みの挨拶をしていく。

 マクシーはそんな愛娘に言葉を返して、自分も寝ようと就寝準備をする。いつものように着替え、いつものように布団に潜り込んだ。今は冬の時期、しっかり防寒しておかなければならない。

 だが、暖かい布団の中に潜り込んでいるというのにいつまでたっても寝付くことができなかった。いつも通りの行動のはずなのに、目が冴えて眠れない。布団の中でもぞもぞと動き、眠れそうな体勢を探して寝返りを繰り返す。


「……眠れない」


 それでも全く寝付けない状況に、気晴らしに夜の散歩を思いつく。冬の冷気で少し体を冷ましてから暖かい布団に入れば、眠くなるだろうと思う。

 一人部屋を抜け出し、外へ出る。だが、外に出た途端、マクシーは言いようのない得体の知れない違和感を感じ取った。


「なんだ?」


 何かが違う。そう感じる。だが、それが何なのかはっきりとはわからない。狩人の勘でも言うのだろうか。それが、何かを告げている。

 マクシーはすぐに室内に引き返し、眠っている妻とマリーを起こした。


「母さん、マリー。何かが変だ。倒産はちょっと見回りに行ってくるから、お前達は今からケヴィンさんの所に行っててくれないか?」

「お父さん?」


 ただならぬ印象の父に、マリーが小さな声で呟いた。


「心配しなくていい。ちょっと見て回ってくるだけだから。ケヴィンさんの所でおとなしく待ってるんだよ」


 怖がるマリーの頭を撫でて、妻と視線を交わす。妻がうなづいたことを確認して、マクシーは家を飛び出していった。

 外へ出たマクシーだったが、違和感の原因はまだ掴めていなかった。なので、とりあえず村の外周を回り、原因を探るために何か見落としはないかと様々な場所を探しながら、歩を進めていった。


「……静かだ」


 北側の森のそばまで来ると、ようやく気づく。夜の森が異様に静かなのだ。普段の喧騒が鳴りを潜め、森はいつも以上に静かに佇んでいた。

 森と村の間を森沿いに西へと向かう。家に近い東の森から移動してきたのだ。もうだいぶ西側に近づき、そろそろ川が見えてくる所まで来ていた。


「ん?」


 そこで、川の音に混じって微かな異音が聴こえてくる。寝静まっているはずのこの村で、こんな時間にも関わらず、水が跳ねる音が聞こえてくるのだ。

 マクシーは急いで川が見える場所まで移動した。そこから川を眺めると、川の中を何やら動く影があった。バシャバシャと水を蹴りながら、川を渡っている。しかも、それは一つだけではない。複数の影がある。まだ森の中から新しい影が湧き出してきてもいた。


「なんてことだ!」


 それらの影は、人だった。満月ではないにしろ、月が出ているので、マクシーには、それが武装した人間だと判断できた。それらが集団で村に向かっていた。

 この辺りの川は深くない。源流に近いせいもあるが、水量が多くないので、膝下ほどの深さしかない。そこを、複数の男達が水音を響かせながら渡っている。

 マクシーは、目の前の光景を口惜しげに見つめた。違和感があった。原因はあの影達が放つ殺気なのだろう。その殺気に当てられて、森が息を潜めたのだ。だが、現状自分一人では何もできない。ここから見えるだけでも十人以上。森の中からさらに湧き出している所を見ると、もっと多いはずだ。マクシー一人で迎え撃てる数ではなかった。


「急がないと……」


 相手に気付かれぬように急いで村へと踵を返す。異変を知らせるべく、教会へと向かった。

 中央広場東にある教会には大きな鐘が掛かっている。時刻を知らせるためや、何か祝い事などがあると盛大に鳴らされる祝福の鐘だ。今回は、それを使い、村人全員を叩き起す事を思いついたのだ。

 乱暴に教会へと入り、急ぎ神父の部屋へ行く。寝ている神父を無理やり起こした。


「神父様。起きてください!何者かが村に襲撃をかけてきています!」


 突然の事で未だ寝ぼけ眼だった神父だったが、マクシーの襲撃という一言に一気に意識を覚醒させる。


「それは本当ですか?」

「ええ。今、西の川を渡ってきています。急いで皆を起こさないと、大変なことになる!」

「わかりました。では、急ぎ鐘を鳴らす準備をします。準備が済み次第鳴らしますので、その間、できるだけ西の家々から人を逃がしてください。くれぐれも無理をしないように」

「わかっています。では、私は戦える者を起こして、できるだけ時間を稼ぎましょう」


 事情を理解した二人が、それぞれの出来る事を開始した。

 マクシーが西側の区画に戻る頃には、既にいくつかの家が襲撃を掛けられている所だった。寝ていた村人のうち、男は既に殺されているようで、聞こえてくるのは女性や子供の悲鳴ばかり。まだ小さいが、火の手も上がり始めている。


「これは大変だっ!」


 だが、マクシー一人で攻撃に打って出る訳には行かない。出来るだけ気付かれないように少し離れた家から順に人を起こしては逃げるように指示を出していく。そして、戦えそうな男達には武器を持ち、迎撃の準備をするように言う。

 その時、ゴーォンゴーォンと教会の鐘が鳴り響いた。時刻は深夜。普段鳴るはずのない時間の鐘に、村人達が叩き起される。

 その傍ら、その鐘を聞いた山賊達は、舌打ちをした。


「ちっ、気付かれたか!」


 鳴り響く鐘の音に、自分達の襲撃がバレた事を理解した。


「野郎共、もたもたしてる時間はなくなった! ガキを探せ! このまま逃げられちゃあ元も子もねえぞ!」

「「「おおおーっ」」」


 お頭の号令の元、山賊達は村へと散っていった。一人一人が殺しに慣れた連中だから、一人でもこんな小さな村の村人に遅れを取るはずがない。

 村人が家々から飛び出してくる。マクシーに話を聞いた者やこういう事を想定して準備していた者が武器を片手に、家族を守るように前に出る。女達は、自分の子供を守るように男の後ろから警戒しながら飛び出しては、すぐにその場を離れようと行動する。


「お前ら、ヤッちまえ! 目撃者は消す、が依頼人の要望だぜっ!」


 さらにお頭が煽り立てる。


「言われるまでもねえ! その命、置いてってもらおうか!」


 武器を振り上げ襲いかかる山賊に、男達が手にした武器で迎え撃つ。だが、農具を改造したような粗末な武器と山賊達の武器とでは、恐ろしく心もとなかった。


「お前達は早く逃げろ! 俺が時間を稼ぐ!」

「あなた!」

「パパァ!」


 山賊の攻撃を、かろうじて受け止めながら男は家族に逃げるように叫んでいた。妻が泣き叫ぶ我が子を抱いて走り去っていく様子を、男が見届けることはなかった。さして時間もかかることなく切り伏せられていた。


「へっ、素人が!」

「油断するなよ。全員が全員戦えないわけじゃないんだぞ」


 仲間が忠告する。

 男を切り伏せた山賊はそんな仲間の忠告を嘲るように笑ってから、次の獲物を探すように動き出した。


「わかってるよ。じゃあ次のえっ……」


 唐突に、その顔に矢が突き刺さっていた。

 言葉は途中で途切れ、頭を射抜かれた勢いで男が倒れる。


「おいっ! だから言わんこっちゃねえ!」


 山賊の仲間は、矢が飛んできた方向から身を守るべく、すぐさま建物の影に身を隠す。仲間が死んだというのに気にする様子はほとんどなかった。

 少し離れた所から、山賊を狙撃したマクシーは即座に身を隠したもう一人の山賊に舌打ちをしたい気持ちになった。もうちょっと動揺してくれれば、同じように射抜けたというのに。だが、すぐに気持ちを切り替えて、同じように村人と交戦している山賊を見つけては狙撃していった。辺りは既に火の勢いが強くなり、相当に明るくなっている。月明かりだけでは狙いにくかった者が、今でははっきりと見て取れるようになっていた。狙撃するには十分な明るさだった。抵抗する村人を援護するように、狙い定めていった。



 時は少し遡り、鐘の音が鳴り響くより前、マリー達親子がケヴィン宅を訪れていた。


「ケヴィンさん、ジョン、こんな夜分にごめんなさいね」


 マリーの母親がしきりに謝る。マクシーに言われたからといって何かあったわけでもないのに、こんな夜分に訪ねた事を良しとはあまり思っていない。


「いいんですよ。お気になさらずに。それよりも、マクシーのやつは一体どうしたんです?」

「わかりません。ただ、何か胸騒ぎがするんだとかで、出掛けました」

「そうですか。まあ、マクシーが戻ってくるまでのんびりしてください。どうせすぐに戻ってくるでしょうから」


 ケヴィンがカルラからコップを受け取ると、母親の前に置いた。


「寒かったでしょう。これでも飲んで温まってください」

「ありがとうございます」


 コップを受け取ると、中に入った暖かな飲み物にホッとした様子だった。


「ねえジョン。何があるのかなぁ?」

「さあ。まあ、待ってれば帰ってくるさ」


 マリーの問い掛けにあまり意識せずに返事をした。唐突な出来事だったが、それで何かが変わるだなんて、ジョンは全く気が付いていなかった。

 ジョンもケヴィンも夜分に訪れた客人を持て成して、慰めていた。どの道、マクシーが戻ってこない事には、なぜこういう事になったのかがわからない。それまでのんびり待てばいいと思っていた。

 だが、その思いは叶わなかった。

 ――ゴーォン、ゴーォン。

 こんな時間にも関わらず、教会の鐘が鳴り響いたのだ。


「こんな時間に鐘?」


 この鐘の音に不吉な物を感じて、ケヴィンはハッとなる。異変に気付いて急いで家を出る。そして、鐘の鳴る中央広場方向に視線を向けた。


「火事かっ!?」


 そこには、火の手が上がり、赤く染まり始めた空があった。

 それだけではない。赤く染まった方向からは微かだが悲鳴のような物も混じっているようにも感じた。何か、酷い事が起きている。それだけはよくわかった。

 同じように家から出て、空を見ていたジョンがケヴィンに問いかける。


「父さん! なんか危なくない!? 早く何とかしないと取り返しのつかないことにならない!?」

「マクシーはこれに気づいたのか……ジョン、お前は母さんやマリーを連れて避難しなさい。父さんは状況を確認してくる!」

「わかった!」


 ケヴィンが様子を見るべく中央広場へ走り出すより先に、状況は一変した。


「おい、いたぞ! あのガキだ!」


 山賊達がジョンを見つけたのだ。鐘の音に引かれて飛び出してきた村人を確認していた山賊の一人が、金髪のジョンを見つけて、はしゃいでいた。


「へへ、本当に聞いた通りの金髪だぜ! こりゃ、もしかしたらもっと高く売れるかもしれねえな!」


 山賊の声で、他の山賊達まで集まってくる。山賊達は、何やら下世話な話をしながら、ジョンへとにじり寄ってくる。全員、下卑た笑みを浮かべていた。


「ジョン……」


 マリーが山賊達の雰囲気に飲まれてジョンにしがみつく。大の大人が武器を片手に躙り寄ってくる光景は、恐怖以外の何者でもない。


「ジョン! 狙いはお前だ。ここはいいから皆を連れて逃げなさい!」


 ケヴィンがジョンを庇うように前に出る。山賊達の視線からジョンを隠すように立ち塞がる。


「ああ? なんだテメェ。死にてぇならさっさと殺してやるぜ?」


 先頭の山賊がケヴィンの行動に目くじらを立てる。武器を抜き、脅すように構えてくる。

 ケヴィンは背中を流れる冷や汗を感じながら、それでも精一杯虚勢を張る。ここで引いては、ジョン達が逃げる事ができないと思えた。


「ジョン! 逃げろ!」


 ジリジリと躙り寄ってくる山賊達を牽制するように、武器を構えた山賊に組み付いた。そのままできるだけ押さえ込み、ジョン達が逃げる時間を作るつもりだった。


「父さん!」

「逃げろ! ジョン! 早く!」

「あっ!? てめぇ!」


 流石に武器で脅している状態から、真っ向から組み付いてくるとは思っていなかった山賊は、不意をつかれてケヴィンに押さえ込まれてしまう。武器が触れないように腕を捕まれ、もみ合いになる。


「母さん達を連れて逃げろ! ジョン!!」


 必死にもがく山賊を押さえ込んで、ケヴィンが叫ぶ。


「父さん!?」

「ジョン、逃げるのよ。お父さんの気持ちを無駄にしないで!」


 カルラがケヴィンの意思を尊重して、ケヴィンの元に行こうとするジョンを必死に止める。


「でも、父さんが!!」

「何やってんだ。オメエはよ。おら、さっさとどけよ、オヤジが」


 近くにいた山賊が、もみ合いになっているケヴィンに斬りかかる。組み付いた状態の無防備な背中に剣が振り抜かれる。


「ぐおっ!?」


 ケヴィンから悲鳴が漏れる。だが、痛みに耐えて山賊を離さない。


「父さん!!」

「ジョン! 逃げるのよ! ほら、マリーも一緒に!!」


 必死でジョンに逃げるように言う。そばで目の前の惨状に恐怖し、凍りついているマリーにも一刻も早くこの場を離れるように背中を押す。

 ようやく、ジョン達が動き出した時には、既に遅かった。


「おっと、逃がさねえぜ」


 回り込んできた他の山賊に退路まで塞がれてしまっていた。


「この子達には手を出さないで!」

「てめえには用はないんだよ!」


 前はケヴィンが必死に止めてくれている。だから、後ろは私が守る。そういう意思でジョンとマリーを庇うように前に立ったカルラだったが、こんな意思など一顧だにしない山賊が一刀の元にカルラを切り伏せていた。なんの手加減もない攻撃で、カルラもまた倒れ伏す。


「母さん!?」

「は……早く……逃げ………て」


 男で、農業で鍛えられたケヴィンだから一撃目は耐えられた。だが、そうではないカルラは、ジョンに逃げろというのが精一杯で、すぐに力を無くす。流れ出る血の量が既にカルラが事切れてしまった事を告げていた。

 反対側でも、ケヴィンが何度も切りつけられて、倒れていた。組み付いていたはずの山賊がケヴィンから解放され、腹立たしげにケヴィンの体を蹴りつけている。


「このクソ親父が! いてえだろうが! このっ、このっ!」


 目の前で両親が共に地に倒れている光景に、ジョンはただ、見つめていることしかできなかった。


「父さん……母さん……?」


 茫然自失の状態で、逃げることも忘れていた。


「父さん! 母さん!! あっ、ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ジョンの喉から溢れんばかりの大絶叫が迸った。




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