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第一章 第十三話『チュートリアルダンジョン プロトタイプ』




 ジョンのダンジョン作成能力を肌で実感したフリーダ嬢は、二人で一緒に初心者用ダンジョンをどういうものにしていくかを話し合うこととなった。

 一人前の冒険者になるためには経験を積む事が最も重要なので、必要な瞬時の判断力、対応力を養えるように様々な事柄を用意して、個別に体験できるようにしようという話になった。一つずつ部屋で区切り、その中で罠や魔物に対処する。部屋ごとに別の物を用意して体験させるのだ。魔物に見立てたゴーレムで魔物の対処法を、罠の発見・対処・回避の方法、そして解除の仕方まで理解できるように作るのが今回のジョンのダンジョンマスターとしての目標だと、フリーダ嬢は説明してくれる。


「私はうちの冒険者に死んで欲しくないのよ。他のギルドでも同じでしょうけど、できるだけたくさんの事を経験して、何があっても生き残ってくれるようになるのが本当の意味での理想よ」


 そう語りながら、フリーダ嬢は試しに作ったダンジョンの部屋を見聞していく。

 部屋は縦長の長方形で、中には罠とゴーレムが設置されている。手前に罠、それを突破すると魔物に見立てたゴーレムが待ち構える。罠は危険がないように作っているが、それでもまともに引っかかれば怪我するぐらいには威力がある。そんな部屋が横に並び、入った扉から再び出て、次の部屋に移動する。

 フリーダ嬢が実際に中に入って、罠の発動やゴーレムの動きなどを見てもらい、部屋の善し悪しを確認してもらう。そして、改善できそうな箇所は随時改良していった。ギルド職員として、冒険者が死なない程度には危険で危機感を煽る代物になっている事を確かめていった。

 気が付けば、季節は本格的な冬に突入し、外は雪が積もるほど寒かった。ただ、ジョンが作り出すダンジョン内では、ジョンの力のおかげか寒さが和らぎ、天候に関わる事なく二人はああだこうだとダンジョンの内容を精査していた。

 いくつかの部屋を完成させ、まだまだ未完成の部屋が多いとある日、二人の元に二度目のオーマ到着の法が届いた。


「まだ全部完成してないっていうのに」


 フリーダ嬢が、まだ完成していないダンジョンに後ろ髪を引かれながら、街へと帰っていく。代わりに、先生役を交代したオーマが今のダンジョンを見て回っていた。


「へえ、こんな物を作ることにしたんだね」


 到着早々ジョンの元を訪れ、今訓練がどういう風になっているのか確かめに来たのだ。そこにあった、巨大でいくつもの部屋に分かれたダンジョンに驚きつつ、心惹かれるように呟いていた。


「まだ完成してないんですが。フリーダさんも戻ってくるまで時間がかかりますし、これからどうしたらいいのかな……」

「そこも私が引き継ぐ予定だから、いつも通りダンジョンを作っていけばいいよ。それより、約束は果たせたのかな?」


 オーマが言っているのは、フリーダ嬢を罠で驚かせるという約束の事だった。前回交代直後、ダンジョンに挑んでもらったのは、オーマとの約束があったからだ。フリーダ嬢に襲いかかった罠の数々の成果をオーマは聞きたいのだろう。


「フリーダさん、すごく驚いてました。ただ、先生の言った通り、全部の罠を難なく突破されちゃいましたけど。出てきた途端に説教されましたよ。もう、あんな風に罠を作ってはいけないって」

「まあ、そうだろうね。ダンジョンで最も注意しないといけない代物なんだから」


 ジョンと話しながら、オーマは苦笑する。

 躱しても躱しても襲いかかってくる罠達は、掛かった者の精神力をガリガリと削っていく。少しでも避けそびれると死が待っているのに、何時になれば終わるのか分からないのだ。最初から引っかからなければ問題ないはずだが、大抵の場合簡単な罠に見せかけているため、軽く躱した途端に逃げられない様に酷い罠が襲いかかってくるのは、恐怖以外の何者でもない。


「それより先生。ダンジョンの内容はこんな感じでいいんですか? 俺達も結構話し合いながら作ってるんですけど、だんだん煮詰まってきて……」


 ジョンもフリーダ嬢も思いつく限りの案を推敲して、ダンジョンを作っている。ただ、作っている本人が素人なので大体はフリーダ嬢の意見なのだが、一人だけの視点だと結構な漏れがあるものだ。ジョンもわからないことが多く、改めてオーマの意見を聞いてみたいと思った。


「んー、ぱっと見させてもらったけど、改善点はいくつかあるね。まあ、その辺りはフリーダ嬢が戻ってくるまでに改善しておこうか」


 現役冒険者として、実際の経験を交えながらオーマとジョンはダンジョンを改良していった。

 ダンジョン内の罠は解除できない物も多く、発見・回避を主軸に学ばせるために罠自体はそのまま発動させた方がいいという。弱体化できる物は弱体化し、できない物には安全地帯を作り、恐怖心を煽りながらも死なない、くらいの物にしていく。また、ダンジョン自体一つの部屋が終わったら終了ということはないので、個別の部屋を連続して並べて、一つ突破できれば次の部屋……と言う風にした方がいいとも言われたので、ダンジョンの部屋を一列に並べて、数珠繋ぎのような部屋割りへと変わっていった。各部屋毎に外通路も設置したので、突破した所から再び始められるようにもした。


「これくらいできれば問題ないだろう。後は実際に使ってみないとわからない事が多いだろうから、フリーダに相談してみるといい。私から見たら既に簡単すぎてこれ以上簡単にはできないからね」


 フリーダ嬢が戻ってくる直前、最終確認をしてもらって合格と言ってくれたオーマは、戻ってきたフリーダ嬢と再び入れ替わって街へと帰っていった。フリーダ嬢もオーマも帰る前に時間を作り、一旦集まってダンジョンの仕上がりに関して意見を交わしていた。その上で、出来上がったダンジョンを満足な様子で眺め、頷いていた。


「これだけできれば、後は実際に使ってもらわないとね。難しいとか簡単だとか、使用感とか。実を言うと既に協力要請してるの」

「え!?」

「もうそろそろ来る頃合なのよね」


 フリーダ嬢がダンジョンを眺めながら言った。


「もうこれを試してくれる人が見つかったんですか?」


 その一言はジョンには寝耳に水で、帰ってきたばかりのフリーダ嬢がいつそんな人物を連れてきたのか全くわからなかった。そろそろ来るとは、村に到着するということか、など考えていた。

 ジョンが驚いていると、村の方からマリーの声がした。


「姉様ー、連れてきたよー」

「こっちよ! はぐれないように気をつけてね!」


 フリーダ嬢がまりーに注意を促しながら、やってきた者達を迎えていた。


「ようこそ。来てくださいました」


 ギルド内での接客のように言葉遣いを改めて、フリーダ嬢が集まってくれた者達に挨拶していく。

 それを隣で眺めながら、ジョンは開いた口が塞がらなかった。

 先頭でやってきたのはマリーだった。その後ろにはトーマスとアークが。そして、そのさらに後ろには引率された村の子供達が集まっていたのだ。


「彼らが協力者よ!」


 フリーダ嬢がジョンに向かって宣言する。

 一様に張り切った表情の子供達が言葉を待つように、期待を込めてジョンを見つめている。先に本物の冒険者になったジョンへの憧れが見え隠れしていた。


「これは一体?」

「元々は、街で協力者を募って調整する予定だったのだけれど、あんな事があってこっちに来たでしょ? だから、改めて村長に声を掛けて協力出来そうな人を探してもらってたんだけど、どこでそれを聞きつけたのかこの子達が自分達がやりたいって言って聞かなくて。もともと素人が冒険者になるためのダンジョンなのだから、この子達が強くなれるのだったら成功ってことで、そのまま協力をお願いしたのよ」

「お兄ちゃん! 俺達もこれ頑張れば冒険者になれるんでしょ!?」

「私達も冒険者になりたいの! お願い、やらせて!」


 そうだそうだと、後ろの子供達が声を揃えて叫んでいる。集まっているのはジョンに年の近い子供が多いが、中には七、八歳の子供もいた。

 にわかに騒がしくなるが、そんな事より子供達が集まっている現状に頭が痛いジョンだった。


「この村って、冒険者に憧れてる子が多いのね。本当に、こんなに集まるとは思っていなかったわよ」


 フリーダ嬢がジョンの耳元で囁いた。

 この村は冒険者に救われた事で、その冒険者に憧れる子供は多い。ジョンもその一人だった。実際に冒険者になるべく外へ飛び出したのはジョンだけだったが、潜在的な冒険者願望を持つ子供は村の中にたくさんいる。ただ、現実的な手段がなく、そのままだったなら冒険者に憧れているだけで終わっていた物を、目の前に冒険者になるための手段ができたのだから、なりたいと言う願望が表に出ても不思議はない。

 彼らにジョンのダンジョンで経験を積んでもらえば、子供達の欲求は満たされ、ジョン達はどれだけできるようになる代物なのか確認ができる。この子達が強くなればなるほど、ジョンのダンジョンの有用性が実証され、ついでに素人目線での今後の改良点も見えてくる。ジョンにはギルド職員として、これからも教育の現場に携わってもらいたいとフリーダ嬢は考えていた。


「さあ、よく集まってくれたわね。これからどんな事をするのか一つ一つ教えていくから、しっかり覚えて帰ってね!」


 フリーダ嬢の案内で子供達と共にダンジョンに入る。子供達は初めて入るダンジョンに一様に驚き、部屋の中で待機させているゴーレムを見て喜ぶ子もいれば怯える子もいて、その反応は様々だった。


「まずは、私がお手本を見せます。最初は難しくないから安心してね」


 ジョンが、フリーダ嬢の合図でダンジョンの罠を発動させる。発動したのは落とし穴で、フリーダ嬢は穴が開き切るより先に淵に退避した。落とし穴は発見できなければ危険な罠だが、ジョンの落とし穴は底に柔らかい布のような物が敷かれており、深さも一メートルほど。落ちても怪我しないようになっている。

 フリーダ嬢は危なげなく、発動した落とし穴を飛び越えて、向こう岸からこちらを見た。


「落とし穴は、あることが分かってしまえば簡単によけられるわ。まずは、落とし穴がある事に気付く事。これが大事よ」


 落とし穴を元に戻して奥へ進むと、底には四足獣を模したゴーレムがいた。


「これは獣を模した敵です。こうやって、弱点を見つけて叩くと簡単に壊れるようになっていますから、焦らず弱点を見つけて叩いてね」


 フリーダ嬢が、弱点と思しき箇所を軽く叩く。四足獣の首の裏には丸い黒い箇所があり、フリーダ嬢がそこを叩くと簡単に崩れ去ってしまった。これは四足獣の弱点を知って見つけ出し、そこを的確に狙えるようにするための訓練だった。

 すんなりとゴーレムを倒し、奥へと続く扉に入る。これで、一つ目の部屋は突破したことになる。


「こんな感じで、いくつもの部屋が数珠なりに繋がっています。全ての部屋には罠とゴーレムがいるから、これらを突破していく事が目標です。この訓練が終われば、冒険者になれるかもしれないから頑張ってみてね」

「「「はい!!」」」


 子供達の声が唱和した。

 元気な返事をする子供達に満足げに頷くフリーダ嬢。一通りの部屋の手本を見せた後、子供達が挑戦しやすいように、一度ダンジョンの前まで戻る。


「それじゃあ、やってみましょうか!」


 フリーダ嬢の言葉で、興味が強かった子供が我先にとダンジョンに挑んでいく。


「ジョンのお兄さんが見守ってくれているから安心して挑んでみてね」


 怖がっている子供には、ジョンが見ていてくれると言う安心を与えて挑みやすくする。

 子供達はまずは見せられた通りに、覚えた手順をなぞって行く。罠を回避し、ゴーレムを倒す。初めての事でおっかなびっくりといった感じで罠を避け、ゴーレムに手を出していたが、自分の攻撃でゴーレムが崩れた際は、大いに喜んでいた。ちなみに、ゴーレムは遅いながらも動くので、その事に怯えて手が出せない子も少なからずいた。

 次第に子供達も慣れてきて、最初は一つ目の部屋を周回させていたが、次の部屋に進みたがる子供もいた。フリーダ嬢はそういう子供に許可を出しつつ、筋の良さそうな子供には目星をつけて、今後機会があれば勧誘してみようと画策していた。

 そんな中……


「はあぁ、難しいね、ジョン」


 マリーが少し進んだ先の部屋で、同じ箇所で何度も失敗して、その事をジョンにぼやいていた。


「マリーは運動音痴だったっけ? こんなこともできねえのかよ」


 ジョンを見ているマリーの横から、トーマスがマリーの言葉を冷やかした。その後をアークも続く。


「人には向き不向きが有るって言うしな。諦めずに頑張れよ、マリー」


 二人は、集まってくれた子供達の中では最年長となる。ジョンの幼馴染として、皆のお手本になるべくダンジョンの攻略に勤しんでいた。既に複数の部屋を誰の手も借りずに攻略していて、この調子なら思っていた以上の速さで全ての部屋を攻略してしまいそうだった。その事が、周囲の子供達の励みとなり、また、トーマス達は普段は感じることのない羨望の眼差しで見られる事への興奮で、楽しんで攻略に励んでいた。

 そうやって何日も子供達はダンジョンにやってきては攻略を楽しんでいた。最初こそ戸惑っていたが、数日もしないうちに簡単に罠やゴーレムを突破していくようになった。村には娯楽と言う物がほとんどなく、家の手伝いで半日近くが潰れてしまう中、昼過ぎから夕方ぐらいにダンジョン前に集まっては、ジョンが見守る中、ダンジョン攻略の競争をしてみたり、鬼ごっこのようにダンジョン内を駆け回ったりと、ダンジョンを遊技場のような感覚で楽しんでいた。特に、トーマス達は新しい仕掛けはないのかと直接ジョンに尋ねてくるほど熱心だった。

 だが、これらの出来事は子供の親にしてみたら怖い物だろう。ダンジョンという危険な場所で遊んでいるのだから当たり前だ。中には、ダンジョンに向かう事を無理やり止めさせる親もいたが、そういった親にはジョンとフリーダ嬢が直接出向いて、了承を取りに行ったりもした。自分達がきちんと監督しているので安心して欲しいと、ダンジョンの主であるジョンとギルド職員というしっかりとした肩書きを持つフリーダ嬢双方の説得に否と言える親はいなかった。

 そのうち、全ての部屋をほぼ全員が簡単に攻略できるようになっていた。慣れもあり、自分達の中で各部屋の攻略手順が確立されたのだろう。

 そうなると、ジョンは最後の大部屋を開放した。そこは、今までの部屋の集大成とも言える部屋で、迷路状のダンジョンに様々な罠やゴーレムが待ち構えている。中身は各部屋の内容が複数箇所不規則に配置してあり、各部屋に慣れた子供達でも油断していると失敗するという。教訓を教えていった。しかも、配置自体もジョンの気分次第でころころ変わるので、同じ作りを繰り返すというような事もなかった。

 今では畑仕事の手伝いが終わった子供達が集まって、このダンジョンで遊んで帰る、が定番になっていた。


「うん、いい感じね」


 フリーダ嬢が、ダンジョンで遊ぶ子供達を見ながら満足そうに立っていた。


「そうですね。トーマスなんかは新しい物はないのかって俺に聞いてくるくらい熱心ですし」

「子供達の動きも良くなってるみたいだし、結果は上々って所かしら。これ以上は実際に危険な場所に行かないと学べないようなこともあるけど、こればっかりは本当に冒険者になるって子じゃないとさせられないしね」


 ダンジョンの出口からグルッと回って入口に走って戻ってくる子供達。そしてまた、ダンジョンの中に入っていく。

 その様子をジョンは手元に浮いた球体で見つめていた。



 そんな、新しい遊技場となったダンジョンで子供達を見守っていたフリーダ嬢の元に、村から急いできたのだろう。慌てた様子のマリーが息を切らせながら走ってきた。


「姉様! 大変、大変! なんかギルドの方から使いの人が来て、至急姉様を呼んでって!」


 その言葉に、ジョンとフリーダ嬢は顔を見合わせた。


「ギルドからの使い??」




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