第一章 第十二話『ジョンのダンジョン作り』
村に逗留することになったフリーダ嬢とジョンは今、森のそばまで来ていた。村と森の間に広がる空き地で『ダンジョンマスター』の鍛錬をするためにやってきたのだ。誘拐事件以降、今までずっとまともに鍛錬に励むことができていなかったので、村に来て落ち着いてきたので久々に再開することとなった。これからここが『ダンジョンマスター』の修練場となる。
フリーダ嬢はいつものギルド職員の制服ではなく、冬が近いこともあり、地味な色合いの厚手の服を着込んでいた。同じく、厚手のズボンと編み上げブーツを履いている。外で動きやすい格好だった。ジョンも似たような格好をしている。
「さあ、まずは今までのおさらいよ」
「はい!」
フリーダ嬢が合図をすると、ジョンは手元に球体を出現させた。空いてしまった鍛錬を思い出すように、球体の出現と維持を繰り返し行う。その後、力を使うことに慣れたところでダンジョンの再現訓練だ。
「これでどうですか?」
何度か、ダンジョンの再現と消失を繰り返して、ダンジョンの再現具合を確かめてもらうためにフリーダ嬢に声をかける。
「うん、外見は大丈夫そうね。でも、中はどうかしらね?」
そう言って、中の様子を確かめるため、ジョンを伴って中に入る。壁や床が壊れていないか目で見て手で触って確かめていく。小さなナイフを取り出して、壁の表面を削ってみたり、様々な方法で問題ないかを確認する。
「うん、中も問題なさそうね」
ナイフを片付けながら、フリーダ嬢が呟いた。そして、様子を見ていたジョンの方へ振り返る。
「ダンジョン作りに関しては何の問題もなさそうだから、そろそろ次の段階に進みましょうか」
「次の段階?」
「そうよ。今のままじゃ、ジョンの力は不十分。だから、これからあなたにはダンジョンにつきものの魔物を出現させてもらうわ。初心者用ダンジョンだとしても訓練用の魔物は必要なんだから」
総ジョンに告げるが、すぐに肩をすくめる。
「といっても、いきなり自由意思のある魔物なんかを出現されても、制御しきれなくて困るんだけどね。まずは、命令しないと動かないゴーレムか何かから始めてみましょうか」
ゴーレム。土人形。魔力により、無機物に一定の形を与え、整えた物。自由意思はなく、命令に従うだけの存在。込められた魔力の強さでいかようにも変化するので、一定の強さというものがない物。
ジョンはギルドでそう教わった。
「ゴーレムですか。それはどうすればいいんですか? 今まで『ダンジョンマスター』でそういうものを出現させたことがないのでよくわからないんですが」
「『ダンジョンマスター』の魔物は何処かから呼び寄せたりしたものじゃない。ジョンが想像した物が魔物として出現するの。だから、魔物を出現させるには、ジョンの知識がものを言うわ。詳しく想像できればできるほど精緻な魔物になる。まあ、強さの方はジョンの強さに準拠するんだけどね。ゴーレムなら想像もしやすいし、最初に練習するにはいい題材だと思うわ。私も助言してあげるから、『ダンジョンマスター』でいろいろ試してみましょう」
「なんだかわかったようなわからないような……物は試し、ですね。とりあえず作ってみます」
ジョンはフリーダ嬢の言葉に従って、球体上でゴーレムを想像してみる。自分の前に出現するように配置し、魔力を解放した。
すると、ダンジョン内の床が盛り上がり、想像したゴーレムに似た何かが出来上がる。その体はボロボロで、表面はこすっただけで削れていきそうなほどもろく、叩けば簡単に壊れてしまいそうな代物だった。
「一回でできるなんて思わないようにね。ほら、目の前のゴーレムを見ながらもっと硬かったら……もっと人に似てたらとか、想像を膨らませるのよ」
「……こうですか?」
ジョンが目の前のゴーレムもどきを見ながら、さらに想像を深めていく。表面はこすったって壊れない。形はもっと細身でゴツゴツしていない。そうやって、どんどん想像力を強固にしていった。それに合わせて、目の前のゴーレムもどきも形を変えていき、だんだんジョンの想像したものに近くなる。
「うん、いい感じよ。その調子」
フリーダ嬢が、目の前で形を変えていくゴーレムを見ながら、ジョンを褒める。だんだん形が良くなり、強そうにも見えてくる頃、今日の訓練は終了となった。ゴーレムは崩れ去り、ダンジョンは跡形もなく消して、二人は村に帰っていった。
その日から、ジョンの訓練はゴーレム作りとなり、何日も続いていった。
気が付けば、ジョンがこの村に帰ってきてからひと月程が経っていた。
ジョンが村に帰ってきた理由の種まきの手伝いも無事終わり、今は『ダンジョンマスター』の鍛錬に明け暮れていた。フリーダ嬢から村長へそのことが伝えられていて了承も得ているので、他の村人の間ではさほど問題にはなっていない。
その日も、ジョンはフリーダ嬢と一緒に空き地に作ったダンジョン内で鍛錬に励んでいると、ダンジョンの入口からマリーの声が響いてきた。フリーダ嬢を予備に来たらしい。
「姉様~、オーマさんが来たってー」
「あら? もうそんな時期なのね。わかったわ。すぐ行くから待ってて! ジョン、今日の訓練はここまで、戻りましょうか」
「そうですね」
鍛錬を中止した事で、ジョンgな作り出したゴーレムが崩れ去る。そしてジョンとフリーダ嬢がダンジョンを出たところで、ダンジョン自体も消滅する。ここにいる全員が見慣れたものだ。
村に戻る道すがら、マリーとフリーダ嬢は楽しそうに会話していた。
「ねえ、姉様。今日は編み物をしてみたの。よかったら後で見て欲しいな?」
「いいわよ。戻ったら見せてね、マリー」
「やった! 約束ね!」
「へえ、マリーが編み物ねぇ。珍しい」
フリーダ譲渡の約束に喜ぶマリーを見て、ジョンがその発言に驚いた。普段ならいやいややらされているであろう編み物を、自分から進んでしていたのだ。普段を知っているだけに、本当に珍しいと思ってしまう。
「もう、ジョンったら、茶化さないでよ!」
「どういう風の吹き回しかなぁって思ってさ。だって、マリー外で動く方が好きでしょ」
「だから! 姉様の前でそういうことは言わないで!」
そんなジョンとマリーのやり取りを隣で見ながら、フリーダ嬢はくすくすと笑ってしまう。
このひと月でマリーとフリーダ嬢は相当仲良くなっていた。きっかけはマリーが街でのジョンの様子を知りたくて、フリーダ嬢に尋ねた事だった。ジョンの話をしているうちにだんだん二人は仲良くなって、最初こそ村長宅に居候していたフリーダ嬢も、今ではマリーの家で暮らしている。もともと、この辺りの家は広く、空き部屋がある事なんて当たり前なので、フリーダ嬢が居候しても何の問題もなかった。マクシー達も快くそれを受け入れ、マリーは本当の姉ができたかのようにフリーダ嬢に懐いていた。呼び名も、新愛を込めてなんと呼ぼうか悩んでいたマリーに、フリーダ嬢が姉と呼んでもいいのよ? と言った事で大いに喜び、それ以後はずっと姉様と呼んでいる。
三人が村に帰った時、中央広場にはオーマとライアーが来ていた。荷物を積んだ馬の轡を持って、ジョン達が戻ってくるのを今か今か止まっているようだった。
二人は、フリーダ嬢が村から離れる際の交代要員で、フリーダ嬢が街に帰らなければならない時に代わりにやってきて、戻っている間のジョンの先生役を引き受ける手はずになっていた。といってもライアーに関しては見張り役なので、村周辺で不穏な動きがないか調査するのが役目だが。
「やあ、フリーダもジョンも元気そうだね」
オーマが中央広間に入ってきた二人に声をかける。
「先生!」
ジョンが、久々に見たオーマに興奮して、駆け寄った。
「先生こそ、お元気そうで何よりです!」
「あなたが来たってことは、戻らなきゃいけないのね。いつまでにここを発てばいいのかしら?」
ジョンとオーまが話している間にそばまでやってきたフリーダ嬢が、オーマに尋ねる。
「明日か明後日までには出発してもらいたいな。まあ、一日二日遅れたところで何か変わるわけではないと思うけどね」
「そう、じゃあ、明日出発できるように準備してくるわね。後のことはよろしく」
「了解。細かい事はジョンに聞くよ。今後の予定も考えないといけないからね」
「そうしてちょうだい。私は家に戻るわ」
フリーダ嬢が急ぎ足で、マリーの家へと帰っていく。
「あ、姉様。私も手伝うわ」
そんなフリーダ上のあとを追って、マリーも家に帰っていった。
残されたオーマは今後の予定を決めるため、ジョンに今まで何をしていたのかを聞いてきた。
「ジョンは今、フリーダに何を教わってるのかな?」
「ここのところずっと魔物作りを教わっています。あ、でも、本物の魔物を作っちゃうと危ないそうなので、暴れないゴーレム系を作る練習をやってますね」
「そうなのかい。ふむ……」
オーマは顎に手を当てて、何やら考え込む。少し考えた後、考えが纏まったのか顎から手を離し、ジョンを見る。
「細かい事は明日フリーダが出発してから改めて確認させてもらうよ。今後の予定もその時話すから、覚悟しておいてね」
なにか含みがあるような言い方に、ジョンはたじろぐ。
「何か怖いですよ、先生……わかりました。そのつもりでいます」
オーマはにこやかに笑って、解散となった。その後、今日から泊めてもらう村長の家へと向かうのだった。
翌日。
「それじゃあ、ジョン、またね。オーマも、くれぐれも無理はさせないでよ?」
「わかってるさ。フリーダも気をつけて行ってくるといい」
「姉様、早く帰ってきてね?」
「マリー、心配しないで。まだまだジョンには教えることがたくさんあるから、できるだけ早く戻ってくるわ。そしたらまた、一緒に遊びましょうね」
「うん。じゃあね」
最後は、フリーダ嬢と別れを惜しむマリーを横で見ていたジョンに声をかける。
「ジョン、できるだけ急いで戻ってくるつもりだけど、無理はしないようにね。オーマの言う事を聞いて、しっかり学びなさい」
「わかってます。俺もまだちkらの使い方が未熟なのはよく理解していますから」
「そう。それならいいんだけど。じゃあ、行ってくるわね」
フリーダ嬢を乗せた馬車は、一路ヒューゲルシュタットを目指して旅立っていった。後に残されたジョン達は、思い思いにそれを見送り、各々が行動を開始した。
「ジョン、もっと鍛え込んで、戻ってきたフリーダを驚かせてやろう」
「はい! 先生」
それからいつものようにオーマと一緒に空き地へと移動する。そこにダンジョンを出現させて、中に入った。後ろから付いてきてたオーマは、その手馴れた様子に若干開いた口が塞がらない。
「……本当に、ダンジョンを修練場に使ってるんだね」
「ええ、外は寒いですから。ダンジョン内だったら、松明をつけて灯りついでに暖かくできますし、重宝してます」
「そうなのか」
そんな風に、軽く会話をしながら準備を進めていく。ダンジョン内は広い一室仕様で、様々な事ができるように作っていた。中央には大きな篝火、壁際に明かり用の松明が並んでいる。
「さて、ジョン。君は今『ダンジョンマスター』で何ができるようになっている?」
オーマがジョンに色々な確認をとっていく。フリーダ嬢に習っている魔物作りの様子やダンジョンの内装・外装の変更など、気になる事を聞いて来ては、昨日より深く考えを纏めていった。
「ジョン、君はフリーダにまものづくりを習っているが、それだけじゃまだ完璧にダンジョンを作っているとは言えない。だから、最後の要素を私が教えることにしたよ」
「それは?」
「罠だ。ダンジョンには様々な罠が侵入者を待ち構えている。それは、製作者の思考によって気づかなければ死に直結するような危険な罠や、ふざけているとしか思えないような遊びの罠まで、本当に様々だ。私が教えるのは、知らなければ死ぬほど危険な罠達だ。それを知り、学び、作り出せるようにこれから鍛えていく。他の人に経験させるには自分が深く理解していなければいけないよ」
オーマはギルドに記録されている様々な危険な罠の知識をジョンに教えた。罠の発見の仕方、回避の仕方、解除の仕方等を実際にジョンに再現させたりして、一つ一つ教えていった。
「罠の中には複数の罠を連続して仕掛けて、侵入者を追い詰めていくものもあったりする。これは最初の一つを回避してもその後の罠全てを回避、または解除しなければ最終的には同じで、多大な労力を侵入者に強いる。そういった罠についても覚えておいて」
途中から、連携型の罠の講義が挟まり、罠の効率的な配置方法やゴーレムを罠にわざと突っ込ませて威力を実際に見てみたりと、怖い事まで実践させていった。
「まあ、罠にもいろいろあるからね。代表的な落とし穴や隠し矢なんかは広く知られているから対処もしやすいけれど、滅多にないような変わり種なんかだとどういう事が起こるのか予測できない。無理やり着せ替えさせてきたり、こっちの行動を強要してきたりする罠だって、実際にはあったんだ。まあ、役に立つ罠だったかといえばそういうわけではないけれど。幅広く、罠の知識は持っておいたほうがいい」
ジョンに教えていく中、オーマはそういった類の罠もたくさん教えてくれた。役に立つかは別としても、罠の全てを教えてくれるつもりらしかった。初心者用ダンジョンで使うことはまずないだろうが。
オーマとの罠修行は二週間ほど続いた。その頃になると、ジョンもかなりの罠を配置、連携させられるようになっていた。だが、フリーダ嬢が戻ってきた事で、この鍛錬は終了となった。
「ただいまー。ジョン、かわりない?」
「フリーダさん、なんか疲れてません?」
「気にしなくていいわ。それより、オーマにはいろいろ習ったんでしょ? 後で確認させてもらうからね」
フリーダ嬢が戻ってきた事で、入れ違いにオーマ達が村を離れる事となったのだ。
「それじゃあ、フリーダ。俺達は戻るから」
馬上からフリーダ嬢に声をかける。
「ええ、気をつけてね。マスターにいい報告を聞かせてあげて」
「そうするよ。それからジョン、約束は果たすように、ね」
「ええー……本当にしないといけないんですか?」
「ああ、約束しただろう? 何、実際問題ないから心配しなくていい。私が保証するよ」
胸を張るオーマにジョンは困ってしまう。だが、約束は約束なので、できるだけ話そうとは思っている。
「約束?」
オーマがジョンと何か約束をしたらしい。フリーダ嬢も気になったのだが、男同士の約束さ、とオーまに爽やかに言われてしまってはそれ以上は聞くに聞けなかった。だが、晴れやかなオーマと違って、ジョンの方は若干引き気味だった。
「じゃあ、また」
「またね」
「先生! さよなら!」
オーマが颯爽と走り去っていった。直接馬に荷物を積んで、身軽にどこへでも行ける。そんなオーマの後ろ姿に、冒険者とはかくあるべきなのかな、という思いを抱いて、ジョンはオーマを見送った。
ここから先はまたフリーダ嬢がジョンの先生だ。
だが、その前にオーマとの約束を果たすべく、ジョンはフリーダ嬢にひとつ提案した。
「フリーダさん、先生に色々教わって簡単なダンジョンを作ってみたんですが、挑戦してみてくれませんか?」
「ん? 珍しいわね。ジョンの方から何かして欲しいなんていうのは」
少し緊張気味のジョンを見て、本当に珍しいと思う。だが、それだけに頼みには答えてあげたくなる。ただ、ダンジョンに挑戦するだけではないことは、なんとなくわかる。
「いいわよ。オーマに何を教わったのか確かめさせてもらいましょうか」
オーマにどんな事を教わったのか、実際に見て確かめようと、ジョンの提案に乗ることにした。何が起きても対処できるように気合を入れる。
「じゃあ、作りますね!」
ジョンの気合とともに、『ダンジョンマスター』が発動する。雑草生い茂る空き地に、地面から壁がせり上がり、石組みのダンジョンが出現する。大きさは数十メートル四方か。二人の前に入口があり、挑む者を飲みこなんと大きく口を開けて待っていた。
「ふう、出来ました。フリーダさん、どうですか?」
「だいぶ立派なのが作れるようになったわね。今まで練習で作ってたものより大きいじゃない。でも、ジョン。これだけってことはないんでしょ?」
「それは入ってからのお楽しみってことで」
「まあ、その辺りの事は中に入ってから確かめさせてもらいましょうか」
そう言って、フリーダ嬢が勇み足でダンジョンの中へ入っていく。その後ろ姿を見送ってから、手元の球体に視線を落とした。そこには、ダンジョン内のフリーダ嬢の姿が映し出されていた。
中に入ったフリーダ嬢は、とりあえず入り口付近には何の変哲もないように感じられた。この辺りはまだ、練習に使ったダンジョンの雰囲気とよく似ている。ゆっくり歩を進め、何が変わったのか、これから何が起こるのか注意深く観察する。
「今のところは何もなさそうだけど……さて、これから何を見せてくれるのかしら?」
昔の事を思い出し、少しワクワクしながら辺りを見渡す。
ダンジョンの入口から少し進んだところで最初の角にぶつかった。左に直角に曲がっていて、奥の様子を見通せないようにしているようだ。
角の淵までたどり着いて、影から奥の様子を覗う。
奥は、これまでとその様相を変えていた。壁はゴツゴツとしていて、天然石を適当に積んだかのような有様だ。湿度も高い設定なのか、表面はうっすらと結露し、苔むしていた。湿地帯の地下で長年放置されていたかのような雰囲気だ。
フリーダ嬢はその変化に戸惑いつつも足を進めていく。湿った地面は滑りやすく、さらにコケまで生えているので、滑らないように恐る恐るといった感じか。
だが、そんな様子も通路の奥から飛んできたモノによって一変する。ヒュンッと風切り音と共に、フリーダ嬢目掛けて何かが飛んできたのだ。咄嗟に回避すると、”それ”は後ろの壁にぶつかって、高い金属音を響かせる。
「……矢?」
地面に落ちた”それ”は一本の矢だった。その事に気がついた時、今度は多方向からいくつもの矢がフリーダ嬢に降り掛かる。全方位とまでは言わないが、三・四方向から一斉にフリーダ嬢に襲いかかった。
フリーダ嬢は矢に驚きつつも、すぐに意識を切り替えて回避行動に出る。正面から来る分かりやすい矢は受け流すように弾き、他の方向の矢はできるだけ回避する。そして、回避しつつも少しずつ前に進んでいった。
そうやってフリーダ嬢の意識を周囲に向けさせているところに、今度は足元の罠だ。フリーダ嬢が何かを踏んだと思った時には、フリーダ嬢の足元が鈍い振動と共に下に向かって開いていく。観音開きのように。
落とし穴だと気がついた時、フリーダ嬢はなりふり構わず蓋部分を蹴って、一気に体を前へと進める。放り出すように前方へ体を投げ出し、落とし穴の直上から退避する。こんな状況でも、落とし穴の蓋が開くのがまだまだ遅いわねなどと考える余裕すらあった。滑りやすいはずの地面すら物ともしていない。
普通なら地面とぶつかるように転がりそうなものだが、フリーダ嬢は空中で姿勢を器用に変え、難なく落とし穴の淵に着地した。だが、そこで新たな罠が発動する。着地と同時に何かを踏まされたのか、足元からいきなり何かが飛び出してくる。
「あっ……と、まだまだね!」
足元から飛び出してきたのは、槍だった。それを確認するよりも先に、力強く跳んでいた。今度は足からの着地ではなく、一旦片手で地面に手を付いて、さらに跳ぶ。罠を確認するように、自分が跳んできた方向を向いて着地していた。
「ふう、びっくりした。まさかこんなに罠を連発してくるなんて……なによあれ、あんな物に当たったら、下手したら怪我だけじゃすまないんじゃない?」
今回、ジョンがオーマに教わって作った罠は、基本危険な物ばかりだ。下手をしなくてもかなり危ない代物だった。一応、矢や槍は刃引きしてあるが、結構な勢いで飛び出してくるのだ。打撲ですぶ様な威力ではない。
フリーダ嬢が、ジョンの罠を見てボヤく。オーマの差金なのだろうがかなりえぐい使い方をしてくるなぁ、と思う。フリーダ嬢自身はまだ余裕があるので、そんな感想めいた事を考えられた。
その後も、いくつもの罠がフリーダ嬢を襲い、一緒に訓練していた時よりももっと洗練された印象のゴーレム達が行く道を妨害してくる。だが、そんな物を正面から叩き潰しながら、フリーダ嬢は全ての罠とゴーレムを突破して出口にたどり着いていた。
そして、出口から外に出ると同時に叫んでいた。
「ジョオオォォン!! なんてことしてくれるの! 普通の人なら死んでたわよ! わかってる!?」
ジョンが仕掛けた罠の数々は、普通に死人が出るような物ばかりだった。フリーダ嬢だったからなんの問題もなく突破出来ているが、こんな物を初心者用ダンジョンに仕掛けられたなら、死人が出てもおかしくないと、ダンジョンから出ると同時にジョンに説教する。そして、この危険すぎる罠達は許可なく使用しないことを約束させられた。
「俺もわかってるんですけど、先生がフリーダさんなら大丈夫だって……フリーダさんを驚かせるには逆にこれぐらいのことはしないとダメだって、無理やり約束させられてました。まあ、俺もフリーダさんなら大丈夫だろうとは思ってましたけど」
「オーマも今度会った時は説教ね。でも、あれだけたくさんの罠を作れるようになったのね。ゴーレムの練度も上がってきたみたいだし、そろそろ本当に作ってもいいかも知れないわ」
「じゃあ、本当に作るんですね?」
「ええ、内容はこれから決めるとして、始めましょうか。『初心者用ダンジョン』作りを」
さあ、本格的にダンジョン作りを始めましょう。高らかに宣言して、ジョンとフリーダ嬢は行動を開始した。
「あ、もうあんな風に罠を連続で作っちゃダメよ?」
最後の最後に念押しされた。




