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第一章 閑話『とある親の独白』

閑話ですので、短いです。






 冒険者になるために村を出た義息子(むすこ)が帰ってきた。


「ただいま! 父さん! 母さん!」


 大声で駆け寄ってくる我が子を私達は迎え入れ、


「おかえり、ジョン」

「お帰りなさい」


 そのまま胸に飛び込んでくるままに抱きしめてやる。数ヶ月間も一人で暮らしていただろうに、こういうところを見ると、まだまだ子供なのだと感じて安心してしまった。冒険者になれたかどうかは別として、無事に返ってきてくれただけで、親としては安堵の気持ちだ。

 ふとジョンから視線を上げると、ジョンの後ろからマリーと見知らぬ女性がやってくる。誰かは知らないが、ジョンが連れてきたのなら何かしらの関係者なのだろう。私はその女性をいええと招き入れた。


「ようこそいらっしゃいました。狭い家ですが、どうぞ中へ」


 ジョンを放し、全員を家に招き入れながら、私はこの村に来る事になった時の事、ジョンがこの家に来た時の事を思い出していた。



 今から二十年以上前のことだ。

 小さい頃は普通の家だと思っていたが、こうして大人になり、農家をやっていると、私の生家は裕福な家庭だったと理解できる。その中で私は何不自由なく育った。そして、成人した。

 裕福な家の嫡男として生まれた私は、成人を機に妻を貰うこととなった。それで嫁いできたのが、カルラだ。家には跡取りが必要で、金はあるが地位がなかったらしい生家は、金がなく援助を求めてきていたカルラの生家に、援助の見返りとして娘を要求したのだ。カルラの生家は落ちぶれたとは言え、地位ある家系でその地位が欲しかった我が家はひどい要求をしたと思う。だが、それを飲まざるを得ないほどカルラの生家は困窮していたのだろう。渋った後頷いて、カルラが我が家に嫁ぐことが決定した。政略結婚だった。

 そんな風に決まった結婚だったが、私は妻に出会えて幸せだった。今もこうしてそばにいてくれる。そして、血は繋がってないとは言え、可愛いジョンがいるのだ。これで幸せでなかったらなんだというのだろうか。

 だが、当時は大変だった。

 大きな問題があったのだ。

 私と妻との間に、何時まで経っても一向に子供ができなかったのだ。我が家が妻に望むのは、家を継ぐ跡取りを作ること。それができなければ、嫁いできた意味がなかった。

 子供は授かり物だ。すぐにできることもあれば、なかなかできないこともある。それは家もわかっている。当たり前の話で、こればかりは運に任せるしかない。私も頑張っていたのだが、本当に子供ができなかった。

 一・二年は家も何も言わなかった。そういうこともあるだろうというくらいの感覚だったと思う。だが、四年五年経っても子供ができないと家の態度は変わっていった。なぜ子供ができないのかと強く妻に当たるようになった。終いにはカルラを妻に迎えたことは失敗だったと、妻に聞こえるように嫌味を言うようになった。

 私がそばにいる時は何も言わなかったようだが、いなければそんなひどい嫌味をいつまでもいつまでも言い続けていたという。私に気づかれないように、陰ながら泣いていたという話を、こちらに越してきてから妻から聞いた。

 そして、十年近くが過ぎて、家族の限界が来た。

 いつまでも子供のできない嫁などさっさと離縁して、新しい後妻を迎えろと強い口調で命じてきたのだ。もう、カルラとの間には子供など望むことはできないと。

 ここまで来ると、私も家のためにはそうするべきなのだろうとはわかっていた。家のためには子供が必要なのは確かではあるし、その為には現状、カルラと別れて新しい妻を迎えるのが一番いいと分かっていても、私にはそれができなかった。

 この十年、ともに歩んできたのはカルラだ。ずっと隣で私を支えてくれたのも彼女だ。家のため、そんなものの為に今まで支えてくれた妻を、愛する妻を手放すという選択肢は私の中には存在しなかった。彼女を捨てろという家も親戚も、彼女以上のものには成り得なかった。

 今にして思えば、別れた(てい)でどこか別の場所に匿うこともできたかもしれない。だが、当時はそんな発想すら思い浮かばないほど、私達は追い詰められていたのだと思う。

 だから……逃げた。

 逃げることを悪だという人もいるだろう。ほかにやりようがあっただろう、と。そういうことは後で思いつくことで、追い詰められた状態だとなかなか思いつくことができないものだ。ただ、そんな世間体よりも、このまま妻と別れさせられる事、別れさせられなかったとしても家からの嫌がらせで彼女が壊れてしまう方が私には怖かった。

 だから、妻を連れて全く知らない土地へ、この村へと移り住んだ。妻がいてくれたならほかはいらない、そんな気持ちだった。誰も知り合いのいない土地、妻を追い詰める者のいない村だったから、私も妻も楽になった。あの家にいた時より不憫だが、幸せに暮らせた。

 ロワ村に移り住んで一年程経過した頃だろうか。

 村での生活にも慣れ、マクシーやトーマス達の両親達と仲良くなり、幸せだった私達にさらに幸せになれる出来事が起こった。赤子を拾ったのだ。

 時折、私達夫婦は気晴らしに森を散歩することがあった。のんびりとした森の空気を吸い、何者にも縛られない生活を満喫していた時、赤子の泣く声が聞こえてきたのだ。


「オギャアア…オギャアア……」


 こんな人のいない森の中に赤子の声。不思議だった。

 近づいてみると、そこには布に包まれた金髪の赤子がいた。なぜそこにいたのか、なぜ捨てられていたのかは今もってわからない。この村自体、辺境の村だ。森も村人以外が近づくこともなく、逆に見知らぬ誰かがいたならばすぐに気づきそうなものだが、村人の誰も知らなかった。金髪の赤子なのだ。そんな者の親が目立たないわけがないはずなのに……。

 ただ、その赤子を拾った時、私達はこの子は神様が私達に授けてくれた特別な赤子なのだと思えた。カルラが赤子を拾い上げ、抱きしめる姿を見て、そんなふうに思っていた。すぐに村へと連れて戻り、育てる決心をした。ジョンと名付け、まだよそよそしい村人もいる中、マクシー達の協力もあって、ジョンはすくすくと順調に育ってくれた。金色の髪と碧の瞳がとても美しく、可愛かった。

 ジョンが来て数年経った頃だろうか。

 私達夫婦は、順調に育っていくジョンを見て、ある恐怖に囚われるようになった。それは、いつかジョンが私達を捨て、本当の両親を求めてこの村を去るのではないか。そんな恐怖だった。ジョンは見た目からして、この村、この国の住人とは違っている。私達との血の繋がりがないことも物心付けばすぐにわかることだ。だから、血の繋がった親を求めてしまっても仕方がないことなのかも知れない。

 この辺りの恐怖は因果応報とも言うべきものだろう。家を、家族を捨てた私達だからこそ、捨てることが出来る事、息子に捨てられるという事に強い恐怖を感じてしまっていたのだろう。

 そんな思いを抱いたまま、日々は過ぎていった。ただその日をただ待つのではなく、そうなった時でも息子の手助けになるように、覚悟と準備だけはしていた。この子が去ることがあったとしても、それで私達のジョンへの愛情が減るわけではない。そんな風に気持ちを切り替えて、数年間暮らしていた。

 そして、運命の収穫祭の夜。

 収穫祭が終わり、祭りから帰ってきたジョンが真剣な表情で大事な話があると言ってきた。ああ、ついにこの日が来たかと、私はジョンの表情を見て思ってしまった。

「座りなさい」

 私はジョンと話すため、椅子に座るように言った。カルラも私の隣に座り、家族全員が居間へと集まった。

 ジョンに話の先を促し、話を聞いていく。覚悟の表情で冒険者になりたいと告げる息子に、私は堪えきれずに笑い出してしまった。笑う私が悪いのは分かっていたが、止められなかった。

 いや、ジョンからしたら真剣な話なのだろう。だが、息子が話していることは私達からしたら分かりきっていたことで、そんな真剣な表情で告げるような内容ではなかった。むしろ、やっと自分の夢を明かしてくれたと、親として応援したい類の話なのに、怒られるかもしれない、ダメと言われるかもしれないと真剣に悩んでいた息子の行動は、大いに空回りで微笑ましかった。

 成りたいものの為に旅立つのと、本当の両親を捜す為に旅立つのとでは、親として感じるものがまるで違う。前者は巣立っていく息子を応援する気持ちになるが、後者はもう戻ってこないのではないかという恐怖がある。だから、前者だった事への気抜けと、やっと夢を打ち明けてくれた事への嬉しさで、さらに笑いは深くなった。今まで、ジョンが旅立つ時のために準備していたことが無駄ではなかったと思えてくる。そして、旅から戻ってきた息子を見て、大いに役立ってくれたようだと安心した。

 それとは別に、旅立つ直前までお金に触れさせてこなかった事は大いに反省すべきことだった。何事もなく帰ってきてくれたから良かったものの、世の中はお金で回っているということを私は知っていたはずなのに、お金に振り回されてカルラと家を出ることになった事から、ジョンにお金を扱わせることを避けてしまっていた。旅立ったジョンを思い、今更ながら後悔していたのだが、結果は杞憂に終わってくれた。



「ジョン君は、我が冒険者ギルドに必要な人材だと認識されており、冒険者としても素晴らしい素質があると保証いたします」

「それほどなのかい?」


 フリーダというギルド職員の話を聞き、私はにわかには信じられない気持ちになった。だが、ジョンが認められている事が分かって、ほっとした。


「ジョンは冒険者としてやっていけるんだな。思っていたより早い巣立ちだけれど、本当に良かった……」

「えっ? 父さん? 俺、まだこの村離れる気ないよ? 成人するまでこの村にいるよ!?」


 そんな息子の叫びに内心笑ってしまった。そんなふうに思ってくれていたんだな、ジョンは。

 ただ、これからのことを考えてフリーダにジョンを預けるべきだろう。


「そうか、無理しないで頑張るんだよ。フリーダさん、ジョンのことを頼みます」

「心配にはお呼びません。しっかり鍛えさせていただきます」



 そんな会話の後、息子は友達と楽しく日々を暮らしている。ジョンを見つけた森の片隅で、フリーダと村の子供達を巻き込んで何やらなっているようだが、今は見守っていこうと思っている。いつか再び冒険者として村を旅立つ時が来るとしても、私達はジョンを愛し、ジョンに愛される家族でありたい。そう、いつもいつまでも願っている。




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