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第一章 第十話『脱出』




「……ん、うぅん」


 ジョンが目を覚ました時、真っ暗な部屋の中にいた。光源となるのは扉から漏れる淡い光のみで、その光景に、あれ、俺部屋で寝てたっけ? という疑問が浮かび、いつものように寝返りを打とうとする。だが、手も足も動かない。あれ? とそこでようやく、自分の手足が縛られていることに気がついた。後ろ手で両手を縛られ、足首にも何かが巻きついている。


「……はあ!?」


 驚きで体が跳ね上がるが、跳ねた体を支える術はなかった。手を付くことができず、重力に従って再び硬い石畳に体を強かに打ち付けてしまう。


「んぐっ」


 痛みで悶絶する。受身も取れず、衝撃が体を走り抜けた。

 肺が痺れ、呼吸を荒くしながら、ジョンはこれまでのことを思い出した。そうだ、俺はバンを人質にされて捕まったんだと直前の記憶が蘇る。そして、何らかの方法で気絶させられた。

 やっとのことで呼吸が整い、身動き出来ぬ体でどうにか紐を切って逃げられないものかと、もぞもぞと手や足を動かす。運良く紐が緩んだりしたら儲け物だろう。あまり期待をせずに、後ろ手を動かしている時にブチッと音がした時には驚いた。


「あれ?」


 後ろ手なので本当に紐が切れたのか確認することはできなかった。だが、本当に切れていたなら解けるかも知れないと、手首が擦れて傷つく事も構わず動かし続ける。擦れるぐらい、逃げられるかもしれない可能性に比べたら小さい問題だった。

 もぞもぞと一人でもがいていると、部屋の中から別の人の声が聞こえてきた。


「……んー、んんぅん」


 うめき声のような声に、ジョンははっとなる。もしかして見張りがいたのではと、疑心に駆られるが、そもそもそれだったら、部屋が暗いわけがないし、部屋の外で待つだろう。他にも捕まっている者がいたのかと、音のした方へ石畳を這って近づく。

 そこには、暗くてよく見えないがもう一人寝かされているようだった。まだ意識は戻っておらず、動かなかった。もしかしたら、ジョンと同じように縛られているのかもしれない。


「大丈夫か?」


 ジョンは小声で声をかける。軽く肩をぶつけるように揺すってみる。

 それで意識を取り戻したのだろう。再び呻き声とともに、その者がこちらを見上げたように感じた。


「何だ、お前?」


 声からして子供のようだった。ジョンの後方から扉の光が漏れているので、そこに人影があることだけはわかったようだ。それが誰なのか分かるより先に、自分の状態にも気がついた。


「なんだよこれ!?」


 思いの他大きな声が出る。それはそうだろう。両手足とも縛られて動けないのだから。


「しっ、静かに……!」


 あまり大きな声を出したら気づかれるだろうと忠告する。


「どういうことだよ、これは!? 何がどうなってんだ!」

「その声はバンか?」


 そこでようやく、転がされているのがバンだと気がついた。ジョンと同じようにここに連れてこられていたのだ。


「んん? その声はジョンなのか? あれからどうなったんだよ!?」


 バンの記憶は、腹を殴られた時から途切れていて、今の状況がよくわかっていないようだった。


「俺達はあいつらに捕まったらしい。それにしても、同じ部屋に閉じ込めるってどうなってるんだろう……?」

「そんなことより! どうにか逃げ出せないのか? 俺達殺されるのか!?」


 身動き取れない状況にパニックになりかけていた。


「落ち着いて。それならこうして捕まえておかないって。だから安心してよ」


 落ち着かせるように、バンに体をぶつける。真っ暗闇での体の触れ合いは少なからず恐怖心を薄めてくれたようだ。だんだんバンの呼吸は落ち着いていく。

 完全に落ち着いたところでバンが尋ねてくる。


「……それで、これからどうなるんだ?」

「それはわからない……ちょっとまって。感じからしてもう少しだから」

「どうしたんだよ?」


 ジョンの答えに、バンの頭に疑問が浮かぶ。何がもう少しなのか、と。

 そのうち、ブチブチッと何かが切れる音がした。


「よしっ、切れた!」


 ジョンの歓声とともにジョンの両手が解放される。縛っていた紐は石畳に落ちた。


「はあ!?」


 バンが両手をさするジョンに驚く。一応人影だけは見えているので、ジョンの両手が解放されたのがすぐわかったのだ。

 ジョンはそのまま、足首を縛る紐を解きにかかる。だが、暗くて何も見えず、扉のそばまで移動してその明かりで紐の結び目を確認し、どうにか解けないか色々試していく。そのうち、解き方がわかったジョンは、足首の紐を解いて自由になった。


「バン、もう少しの辛抱だからね」


 両手足が自由になったので、立ってバンのところへ戻り、今度はバンの紐に取り掛かる。そして、それほど時間をかけずにバンの両手足は自由になった。バンは手首をさすって、調子を確かめる。


「さあ、逃げよう」

「そうだな」


 二人は真っ暗な部屋の中、扉の前にうずくまり、外の様子を伺う。扉に耳を付け、外から何かしら音が聞こえないか耳を澄ます。だが、なんの音も聞こえてこなかった。


「見張りがいたりしないよな?」

「わからない。でも、何の音もしない……」

「これで扉が空いてたら笑えるよなぁ」

「そんな訳無いだろう。俺たちを閉じ込めておいて扉が開いてるなんて……」


 ジョンが取っ手に手をかけて、ゆっくりと回してみる。完全に回し切り、そのまま引く。


「……開いてる」

「はあ!?」


 バンの本日二度目の驚きだった。本当に開いてるなんて誰も思わない。

 開いた扉の向こうは通路のようだった。荒い木を打ち付けただけに見える粗末な壁に凸凹と適当に敷き詰められた石畳。壁の上部には何箇所か蝋燭が灯され、それが部屋の中に射し込んでいたようだ。通路上には他にもいくつかの扉が有り、ここと同じような部屋があるのだろうと推察できた。そして……見張りは誰もいない。


「誰もいない……」


 通路に顔を出し、そっと周囲を伺う。通路は左右に伸びていて、両方とも途中でジョン達のいる扉側とは反対の方向に折れ曲がっていた。そこから先はここからでは見通せない。


「ここはどこだろうか。地下かな?」


 壁の特徴や窓、明り取りがない事からここは地下なのだろうと思う。


「どっちが出口だ?」

「とりあえず、慎重に進んでみるしかないね」


 このまま留まっていても何も始まらない。逃げ出すためにはじっとしているわけには行かなかった。

 扉を出て、とりあえず右に進んでみる。できるだけ足音を立てないように静かに歩を進める。一つ目の曲がり角に来るとそこで立ち止まり、再び奥の様子を伺った。覗き込んだ先はまっすぐな通路だった。結構な長さの直線通路に、ここからでは見にくいが枝分かれしたかのような通路が何箇所も左右に伸びているようだった。


「なんだこれ。出口がどこにあるのか全くわかんねえよ」

「そうだね。でも、進んでみるしかない」


 慎重に奥へと進んでいく。左右に分かれる枝道を一本一本確認しながら出口を探した。途中、天然の岩盤がそのまま石壁として利用されている箇所などがあり、ここが地下だと示す証拠がいくつもあった。


「……まるで迷宮だな。魔物とかいたりして」

「馬鹿言わないでくれよ。そんなのいるわけ……ちょっとまって、いま迷宮って言った?」

「ああ、迷宮っつうか迷路っつうか……」


 バンの発言で、ジョンは閃くものがあった。もしかして……と思う。もし、それができるのなら脱出も容易くなるだろうと。


「バン、こっち来て」


 ジョンは周囲を確認しながら手近な部屋へバンを連れて入り込む。


「どうしたんだよ?」

「ちょっとまって」


 詳しく説明するよりも、自分の思いついた事が出来るのか確かめる方が先だったので、バンには待ってもらうしかなかった。意識を集中して『ダンジョンマスター』を発動させる。手元にジョンにしか見えない球体が浮かび、その中にジョンのいるマップが表示される。


「やった! 成功だ」


 ジョンはほっとした。これで脱出できる可能性が格段に上がる。


「ジョン、どうしたんだよ? 何が成功したんだ?」


 何も分かっていないバンが聞いてくる。


「うん、これで脱出の目処が立ったよ」

「ホントか!?」


 脱出経路を見つけることに成功したというジョンの言葉に、バンが喜ぶ。

 それからジョンはマップを確かめ、現在位置を確認する。このマップは地上部分に幾つもの建物が立ち並び、地下部分が蟻の巣のように張り巡らされた構造をしていた。いくつもの通路にいくつもの部屋。ジョン達がいるのは地下三層目で、どうやらまだ下があるようだった。マップ上で地上への道を探して、脱出経路を割り出す。


「地上への行き方は確認できたよ。大丈夫、無事脱出できそうだ」

「はー、それなら良かった。安心したぜ……安心したら気が抜けてきた。あ、そうだ。ジョンは盗られたもんとかなかったのか?」


 安心したら、頭が回り出したようだ。バンが盗られた物がなかったのかと聞いてくる。

 その言葉で、ジョンは初めて自分の持ち物検査をしていなかったことに気がついた。今の今まで全く思い出さなかったのだ。ポケットの中身を一つ一つ確かめていく。特に大事なギルドカードを入れていたポケットは念入りに確認した。だが、ギルドカードは見当たらない。ジョンは焦って何度もポケットの中を確かめるが、やはりない。

 血の気の引く思いがして、ジョンは青ざめた顔で震えながら笑った。


「ははっ……ない! ギルドカードがないよ!?」


 どこを探してもカードが見つからず、ジョンは慌てた。もしかしなくても、盗られたのだろう。すぐに取り返さなくては、と思うが、ここは敵のアジトだ。どこに持って行かれたなんてわかるはずがない。そういえば、最初に閉じ込められていた部屋すら確認していなかったことを思い出した。

 そうだ、マップで探そう、と焦りながらもマップを虱潰しに探していく。特に、人がいるような場所は念入りに探す。『ダンジョンマスター』はマップ上に敵や罠の他にもアイテムや精緻な地形なんかも表示できる。ただ、それらに関しては自分で意識しない限り、詳しい情報としては表れない。敵、もしくは人なんかも駒として表示はされているが、意識しない限り細かい情報は得られない。

 元居た部屋や人がいる部屋の構造を見ながらギルドカードがないか探していく。明らかになさそうな部屋は省略してもそれなりに時間がかかってしまった。


「……あった!」


 ようやく、ギルドカードを見つけることができた。カードはここから二階層上地下一階の複数の駒がが集まっている部屋の隅に置いてあった。脱出するためには遠回りになるが、大事なものだ。取り返しておきたい。


「バン、ここから出るのはギルドカードを取り戻してからでいい?」

「いいよ。どうせ俺一人じゃ脱出できないんだし。ただ、いまいちジョンが何してるかわかんねえから出れたら教えてくれよ?」

「ありがとう。じゃあ、早速そっちに移動するよ」


 二人は、急ぎ足で通路を進んでいく。その間ずっと、ジョンは『ダンジョンマスター』を発動させっぱなしで、自分達の近くに駒がない時は大胆に、近づいていくとその駒が離れるまで見つからないように隠れつつ駒の動きを監視した。そして、いなくなるとまた大胆に動くを繰り返した。

 マップで人の動きが監視出来る分、思っていたより時間もかからずに一階層まで上がってくることができた。階段を二度上がり一階層まで来ると、再び慎重に進んでいく。この階層には人が多かった。だから、『ダンジョンマスター』で人の位置がわかっても囲まれたらどうしようもなく、下手に動けば直ぐに見つかってしまうだろう。

 ジョン達はこの階層のギルドカードのある部屋に近く、人のいない一室に身を隠して、カードを取り戻すための機会を伺っていた。


「人が多いな。なんとか減って欲しいところだけど」

「どうする? 流石に囮とかはできねえよな」

「うーん……でも、いつまでもこうしてなん……しっ」


 ジョンの合図で会話が止まる。そのまま待っていると通路から二人の男の声が聞こえてきた。


「しっかし、なんだってさっさとガキを取りに来ないんだろうな? せっかく捕まえたのに、今は時間がないから受け取りに来れないとか。使いすら出せねえのかっての」

「さあな。俺達はボスの意向に従うだけさ。そこから先は考えるだけ無駄だ」

「そりゃそうだけど、これじゃあいつ金が貰えるかわかんねえしさぁ。まあ、前金だけでも結構額だったわけだけど?」

「顧客の考えなんてわかるわけないだろ。おら、さっさと行くぞ」


 二人組の会話は、何やらジョンの誘拐を依頼した者が、ジョンを受け取りに来ないことへの愚痴のようだった。ジョン達は顔を見合わせて、二人の会話について考えてみる。なぜかはわからないが、ジョンを攫うように依頼した人物は未だにジョンを受け取りに来ないらしい。そのおかげで未だジョン達が逃げ出したことが発覚していないのかもしれない。

 その二人は目的の部屋から出てきたようで、部屋の人数が二人減っていた。そのままじっと動かずに待っていると、部屋の人数は六人、五人と減っていき、三人にまで減っていた。通路を歩いていた二人の男も戻ってくる様子はなく、後一人でも減ればなんとかなりそうな数になる。だが、マップを確認してもこれ以上減るような動きはなかった。


「……動かないな」


 ジョンがマップを見ながらイライラと呟く。早く動けと、念じても一向に動きそうにない。早くギルドカードを取り戻して脱出したいのに、動かない状況に流石のジョンも苛立ちが募ってくる。

ああ、もう! とマップ上の駒を直接触ってみると(さわ)れたので、適当な部屋へと放り込んでみたりと苛立ちをぶつける様に動かしたりしていた。

 ジョンの祈りが届いたのか、遠くから扉の開く音が聞こえてくる。


「……酒取ってくるわ」

「あ、俺も行くわ」


 二人の男が部屋から出てくる声が、ジョン達の隠れている部屋まで聞こえる。ほとんど音のしない通路によく響いた。どうやら、三人のうち二人が酒を取りに別の部屋に行くようだった。

 これは好機だ、とジョンは思う。


「バン、部屋の人数が一人になった。これからギルドカードを取りに行くから、ここに隠れて待っててくれ」


 ジョンが動き出したので、バンはおうとだけ返事する。自分がついていっても足手纏いなのは、ここまで来るので十分わかっていた。


「上手くやれよ」

「ああ」


 バンには待機してもらいながら、一人で人が減った部屋へと向かう。通路上には誰も居らず、できるだけ小さくした自分の息遣いだけが聞こえていた。

 部屋までやってきたジョンは、ここからが本番だと扉の前で深呼吸してからゆっくりと扉を開ける。ここまで来ると、隠れてギルドカードだけを取って逃げるということができないので、できるだけ他に気づかれることなく事を進められるように気をつけなければならない。


「ん? 早いな。もう戻ったのか?」


 部屋に残っていた一人が、仲間の予想より早い帰還に驚いていた。戻ってくるまで時間がかかると思っていたらしく、かなり気を抜いているようだった。

 部屋から外が見えるほど扉が開くより早く、ジョンは部屋の中へと滑り込んだ。男が変な風に部屋に入ってきた者に別の驚きを感じ、さらに状況を飲みこむより前にできるだけ男に近づく。

 部屋はそれほど広くはなかった。これはマップでもわかっていたことだが、十人程が集まればいっぱいになりそうな部屋の中央にテーブルが一つとそれを囲うように複数個の椅子が適当に置いてあった。壁際には小さな机、その引き出しの中にジョンのギルドカードが仕舞ってある。


「何だてめえは!?」


 部屋に入ってきた不審者にようやく男が声を上げた。だが、男が護身用に下げている小さな剣を抜くより早く、ジョンはその首に飛びついていた。正面から勢いに任せた突進のように見せかけて、両手を伸ばして手に持っていた紐を男の首に引っ掛ける。そのまま壁を蹴って体を横にずらし、男の首を支点に後ろへ回り込んだ。腕を回して紐を交差させ、一気に締め上げる。この紐は、ジョン達を縛っていた紐だった。なにかの役に立つかもと持ってきていて正解だったとジョンは思う。

 男は、ジョンの体重と首を絞められた衝撃で、そのまま後ろへ倒れていくが、ジョンの体が支えになって完全には倒れられない。ジョンと背中合わせで首を絞められて、異変を伝えるための声も助けを呼ぶ声も上げられず、意識を持っていかれる。


「……がっ……あ…ぅぁ………」


 紐を解こうともがくが、全く力が入らない。そのまま、完全に力が抜けて腕が落ちる。

 ジョンは男の意識が失くなったところで紐を緩めた。これ以上続けたら本当に死んでしまうし、それは本意ではない。

 紐を緩めても男の意識は戻らない。だが、とりあえずの呼吸は戻ってきた。

 紐を外して、マップでギルドカードの在処を探し出す。素早く回収してカードを取り戻したジョンは静かに部屋を後にした。


「バン、ただいま。さ、出よう」


 バンの隠れていた部屋へ戻り、合流してから人気のない地上部分へと向かう。地上部分は地下部分とは違い人が少なく、民家に偽装した人気のない建物が立ち並んでいた。主だった建物には人がいるが、それ以外はもぬけの殻だ。偽装なのだから当たり前なのかもしれないが外へ繋がる適当な建物を選ぶだけで、ジョン達は簡単に脱出することができた。こういった偽装した建物にも一応の隠し通路があったので、隠し通路を見つけられるジョンの『ダンジョンマスター』なら簡単に逃げられるのだ。


「はあ、やっと出られた……」


 地上の建物から外へ出たら、一気にジョンから緊張が抜けた。肩から力が抜け、下手をするとその場で倒れそうなほど脱力する。


「やっと地上だぁ。あー、ジョンのおかげだわ」


 バンも緊張から解放されてホッとしていた。


「さ、さっさとここから離れよう。見つからないように」

「ああ、逃げるが勝ちだ、な」


 ジョンとバンは急いでそこから離れる。ここがどこかはわかっていないが、とりあえずこの場を離れることが最優先事項だった。ジョンの『ダンジョンマスター』はダンジョン内しか映し出さないので、外では役立たずだ。

 外はもうすっかり日が暮れて夜の帳が落ちていた。

 ジョン達は現在地を確認しつつ、できるだけ離れるように移動していた。次第に、土地感のあるバンが自分達のいる場所がわかってきて、ジョンを案内するように知っている道へと誘導してくれる。どうやらあの辺りはヒューゲルシュタットの南西の地区らしかった。バンが自分達のいる位置を理解して案内されて行き着いた先が中央街道の西側だったので間違いないだろう。まさか、ヒューゲルシュタットの地下にあれほどの規模の施設があるとは想像できなかった。もしかしたら、他の地区にもそういった地下施設があるのかもしれない。


「とりあえず、ギルドまで戻ろう。もしかしたら追手の類がいるかもしれない」

「そうだよな。やっぱ、このままだと危ないよな……」


 ジョン達は、たどり着いた中央街道から冒険者ギルドに向かって走り出した。


「……それにしても、ジョンはやっぱり"特別"だったんだな」


 戻る道すがら、バンが気晴らしに話しかけてきた。


「急にどうしたのさ」

「いや、普通はあんな所から脱出なんてできないから、さ。特別な力があるんだなって。変な行動もしてたし……」


 変な行動……ジョンが『ダンジョンマスター』発動中の手元の球体を眺めて動かない光景は、外から見たら相当に変な行動だろう。球体自体ジョンにしか見えない上、何もない空間を見つめたまま何やら考え込むのだから、何も知らなければ変人か異常者だろう。

 そこに思い至ってジョンは苦笑した。


「ああ、まあね。でもそのおかげで助かったんだ。よしと思ってよ。あとさ、あんまり詮索しないでくれると助かるんだけど」

「言わねえよ。ただ、お前が本当に"特別"なやつだって知って納得できた」

「なんだよ、それ」

「ジョンが冒険者になれた理由だよ。やっぱ、そう言う"特別"があったから子供でも冒険者になれたんだなって。俺も、こう見えて勉強にしろなんにしろ同い年のやつに負けたことなかったんだぜ? それで意気揚々と冒険者登録行ってみたら、俺は成れなくてお前は成ってる。俺とお前で何が違うんだ! て感じてたんだよ。逆恨みなのはわかってたけどさ」

「ああ、それで前に会った時は、あんな危ない感じだったのか」

「思い出させないでくれよ。俺も張り詰めてておかしくなってた自覚あるんだからさ」


 バンがバツの悪そうな顔でジョンに文句を言ってくる。だが、すぐに気を持ち直して、ジョンと最初に会った時のような晴れやかな笑顔で笑った。


「まあ、今回のことで吹っ切れたよ。俺が負けた相手は"特別"で、俺よりすごいやつだった。それだけだってな! けど、今すぐじゃなくてもいつか追いついてやるって、目標ができた!」


 これにはジョンの方が恥ずかしくなった。まだ、目標にされるようなすごい人物だと自分では思えないし、何も成してない。これから、冒険者として事を成していく予定なのだが、何ができるかはまだわかっていなかった。

 そうこうしているうちに、二人は中央街道を走っていて、いつの間にか冒険者ギルドのすぐそばまで戻って来ていた。




 バンを卑屈にするか吹っ切れさせるか迷いましたが、吹っ切る方向にしました。

 なんか暗くすると、ダンジョン内での会話がおかしくなる気がしたので……

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