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本野夢詩 短編集1

キリギリスの贈り物

作者: 本野夢詩

あるところに、(あり)とキリギリスがいました。蟻達は、冬に備えて食べ物を集めたりしていたが、キリギリスは一心不乱に羽を擦り、綺麗な音を奏でていました。そんなキリギリスを見て蟻達はこう言ました。

「ねえ、キリギリスさん。君は、冬に備えなくていいの?」

それを聞いたキリギリスは、こう答えました。

「やあ、蟻さん達。僕は冬になる前には死ぬから、その必要はないのさ。だから命尽きる前にいい相手を見つけて命のリレーを繋ぐことが、僕の使命さ」

それを聞いた蟻達から

「そうなんだ。私達もあまり長くは生きられないけど、あなたはもっと短い命なのね」

「キリギリスさんの演奏が聴けなくなるのはいやだわ」

と別れを惜しむ声が挙がりました。働く蟻達にとってキリギリスの演奏は、まさに仕事の疲れを吹き飛ばすものになっていたからです。

「そう言われてうれしいよ。だから早くいい相手を見つけて、君達に贈り物をする。秋が終わる頃に、この場所に贈り物を用意しておくから、楽しみにしてね」

キリギリスはそう言った後、演奏を再開しました。


秋に入り、キリギリスの演奏はどこか切実で悲壮な雰囲気を漂わせていた。

「いい相手が見つかるといいわね」

蟻達はキリギリスの健闘を祈りつつ、冬籠もりの準備を進めました。


そして秋が終りを迎える頃、キリギリスの演奏がぴたりと止まりました。一晩経って、蟻達が約束の場所に向かうと、そこには達成感に満ちた表情を浮かべて死んだキリギリスが、切り株の上に横たわっていました。

「よかったわ。いい相手を見つけたのね」

「さよなら、キリギリスさん」

蟻達は泣きながら、そう言ってキリギリスからの贈り物を巣に運びました。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  すごくまじめな童話ととらえてよいのか、それともショートショート的なパロディなのか、どちらだろうと迷ってしまったのが素直な第一印象でした。いえ、タイトルが「キリギリスの贈り物」とあり、さら…
[良い点] 拝見に来ました。 キリギリスの死生観としては、これが正しいんですよね。 むしろ生殖を女王に委任してる働き蟻の方が生物としてはおかしいんじゃないかと。 そして、ラストシーンをあれだけ「綺麗…
[良い点] 素敵な解釈。 [気になる点] 勿論盗作なんて思ってませんが、読み終えた後、元の『アリとキリギリス』ってどんなんだっけと検索すると、似たような解釈のブログとかが転がってた事。
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