キリギリスの贈り物
あるところに、蟻とキリギリスがいました。蟻達は、冬に備えて食べ物を集めたりしていたが、キリギリスは一心不乱に羽を擦り、綺麗な音を奏でていました。そんなキリギリスを見て蟻達はこう言ました。
「ねえ、キリギリスさん。君は、冬に備えなくていいの?」
それを聞いたキリギリスは、こう答えました。
「やあ、蟻さん達。僕は冬になる前には死ぬから、その必要はないのさ。だから命尽きる前にいい相手を見つけて命のリレーを繋ぐことが、僕の使命さ」
それを聞いた蟻達から
「そうなんだ。私達もあまり長くは生きられないけど、あなたはもっと短い命なのね」
「キリギリスさんの演奏が聴けなくなるのはいやだわ」
と別れを惜しむ声が挙がりました。働く蟻達にとってキリギリスの演奏は、まさに仕事の疲れを吹き飛ばすものになっていたからです。
「そう言われてうれしいよ。だから早くいい相手を見つけて、君達に贈り物をする。秋が終わる頃に、この場所に贈り物を用意しておくから、楽しみにしてね」
キリギリスはそう言った後、演奏を再開しました。
秋に入り、キリギリスの演奏はどこか切実で悲壮な雰囲気を漂わせていた。
「いい相手が見つかるといいわね」
蟻達はキリギリスの健闘を祈りつつ、冬籠もりの準備を進めました。
そして秋が終りを迎える頃、キリギリスの演奏がぴたりと止まりました。一晩経って、蟻達が約束の場所に向かうと、そこには達成感に満ちた表情を浮かべて死んだキリギリスが、切り株の上に横たわっていました。
「よかったわ。いい相手を見つけたのね」
「さよなら、キリギリスさん」
蟻達は泣きながら、そう言ってキリギリスからの贈り物を巣に運びました。