第9話
地上戦艦シェルム・リューグナーには様々な乗り物が搭載されている。
車はもちろん飛行機まで用途に応じた装備が施され常に万全の体制で整備されている。
これらは王都から譲り受けた物も多いがマンフレートが個人的に開発した物も数多くある。
ジギスムントとコンスタンツェの2人が整備している移動要塞エスポワール・カプリスもマンフレートが開発したものである。
要塞といっても地上戦艦シェルム・リューグナーに比べれば小さなものである、それでも小規模な砦ほどの大きさはあり中で生活する事も可能である。
用いられている技術は最新のものでありマンフレートの持つ技術の全てが込められている。
ジギスムントとコンスタンツェ以外にもセ-ルマン・アルシミ-ではないが技術者やヴィエルジュも手伝っており作業は順調である。
日の変わる時間を過ぎた頃マンフレートに連れられベルンハルトとクリスティーネが現われる。
「これですか、お話していた要塞というのは」
クリスティーネが移動要塞エスポワール・カプリスを見上げながら呟く。
「そうだ、ここの区画はシェルム・リューグナーのメインコンピューターからも完全に隠されている。
通路も複雑に隠されていて普通の手段では来ることはできない。
ワシの永年思い描いていた夢、聖地に振りまわされる事のない世界。
遠い未来に向けた希望の種とならんと開発したものだ。
これを渡しておこう」
マンフレートは1つのキューブをクリスティーネに手渡す。
「時間が無くて間に合わなかったが今回アイシェラから教わった技術をワシなりに整理したものだ。
信頼できるセ-ルマン・アルシミ-の協力が得られたなら解読するといい。
ベルンハルトにはこの剣を柄にアマトゥールがはめ込まれておる。
ワシの永年のシャ-ル・ヴィエルジュの研究の全てに先日の戦闘記録からベルンハルト用に調整したものだ。
これも信頼できるセ-ルマン・アルシミ-の協力が得られたなら成長させるといい。
それと刀身には新たに開発した技術エネルギー拡散コーティングで光剣の刃を散らすことができる。
相手が光剣なら刃を防ぐ事もできなくなるだろう」
受け取った大剣は白銀の柄から刀身まで一体成形されたもので柄に卵のような半透明の乳白色の琥珀が埋め込まれており中にヴィエルジュの胎児が見える。
そこでマンフレートはクリスティーネに顔を向ける。
「ではあとは任せるが本当にいいんだね」
「ここを訪れたことと私のハイエルフとしての永遠の命に意味があるのなら私はこの世界の記録と記憶を書き綴りましょう。
神々の黄昏へと続く物語を(Une histoire pour suivre le Crépuscule de Dieux)」
マンフレートが移動要塞エスポワール・カプリスの最終調整を終えて部屋に戻るともう9時をまわっていた。
昨日のラインハルトの宣言どおりなら廃墟の街に突入しキラーマシンとの戦いが始まるのは12時あと3時間もない。
机の上の写真立てを手に取りマンフレートは部屋をあとにする。
そのまま廊下を歩き向かった先はアリュウの部屋である。
部屋のコンソールを操作すると画面にアンネリーゼの弟が映しだされる。
「すまなかったな、私の独りよがりな想いで生まれる前にその精神を壊してしまった。
本来ならばヴィエルジュとして良きマーテルと出会えていたかも知れないのに目覚める事もなく永い間ずっと闇に閉じ込めてしまった。
すまない、もう終わりにしよう」
コンソールに人差し指をアンネリーゼの弟の身体が燃えあがる。
その身体が燃え尽きるのを見届けるとマンフレートは静かにその時を待ち続ける。
艦橋では目標である廃墟の街を視認したことをラインハルトに報告をして到着が待たれていた。
数人の騎士をともなってラインハルトが訪れると街の手前で停止して無人偵察機を飛ばすように指示がだされる。
遅れてフェオドラが艦橋に入ってきてラインハルトに報告する。
「マンフレート先生ですが艦内のどこにも確認できません。
急いで捜すように部下には命じておきましたが」
「いや作戦前だ騎士達は休ませておくように。
保安警備隊のペーターに連絡を取って捜索を命じるように」
「分かりました、では部下には作戦までは休むように伝えます」
作戦前にマンフレートの意見と判断を仰ごうとしたが朝からその行方が全く分からないでいる。
先ほどまでフェオドラがマンフレートの部屋を中心に捜索していたが手がかりすら見つからないでいる。
このまま休ませずに万が一作戦に支障がでては本末転倒である。
そこで保安警備隊のペーターに代わりに捜索を命じたのである。
ペーター・シュライガーはラインハルトやフェオドラから見ても狂信者と呼ぶべき人物である。
ラインハルトへの崇拝はもはや常軌を逸しているがそれでも有能であり命じられない限りは規律を無視して暴走する事もないので保安警備隊を任せているのである。
必然的に保安警備隊はラインハルトの崇拝者が多数を占めるがペーターは徹底的な実力主義者で潔癖者であるので無能な者は入隊さえできないうえに賄賂も通じないので信頼できる者達が揃っている。
アンネリーゼはマンフレートにお茶を届けようと部屋を訪ねるがその時間には珍しく留守であった。
しばらく待つが戻ってこないので捜しに行く事にする。
マンフレートの行動範囲は部屋を中心としたその区画のみであるから捜すのに時間はかからないはずであったがどこにもいないので不安になる。
そこに保安警備隊を率いたペーター・シュライガーが現われる。
「あら確か保安警備隊の・・・」
「ペーター・シュライガーであります。
マンフレート先生のお世話をなされているアンネリーゼさんですね。
実はマンフレート先生と連絡がつかずに捜索を命じられたのですがご協力願えますでしょうか」
「それなら私も捜していたのでご一緒しましょうペーターさん」
「ではまずは先生のお部屋に行きましょう。
何か手がかりがあるかもしれませんからね」
あらためてマンフレートの部屋を訪れてペーターは全員に部屋の捜索を命じる。
「この部屋は鍵がかかっておりますな」
ペーターは机の横の扉を眺めながらアンネリーゼに訪ねる。
「そのお部屋はラインハルトさんの治療のためのお部屋ですわ。
開けますので待っていてくださいね」
そう言うとアンネリーゼは机のコンソールを操作して部屋のドアを開ける。
「っこここがラインハルト様の治療が行われているお部屋。
ッ失礼いたします」
緊張して上ずった声でそう言うとペーターは中に入り、ついてこようとする副官を手で制し不満の目で睨まれる。
「ここにはラインハルト様が訪れるのだぞ何かあっては大変ではないか。
ここは責任を持って私が調べるメリル副隊長は他を頼む」
メリルは仕方なく脇の机に目をやる。
そこではアンネリーゼが机のコンソールを操作している。
「あら、先生のメッセージですわ」
その言葉にメリルが近づくとアンネリーゼが、
「分かりましたわ先生の居るところが」
そのことを伝えにペーターに声をかけようと部屋を覗くとベッドの前で震えながら、
「この上でラインハルト様が身体を寝かせて治療を・・・」
メリルは手にナイフを持って躊躇なくペーターに投げる。
倒錯していたにも関わらず片手でそれを受け止めるとペーターはメリルに、
「バカ者ッ!ラインハルト様のベッドにキズがついたらどうするつもりだ」
「見つかったみたいですよ、隊長。
仕事に戻ってくださいね」
その言葉にペーターはすぐに部屋をでてアンネリーゼに訪ねると机のコンソールを操作して円形の部屋が壁ごと回転する。
先ほど入ってきたドアとはずれた位置に新たなドアが現われる。
「こんな仕掛けがあるとはどういうことだ」
「こちらですわ、私も知りませんでしたわこの部屋は随分昔から訪れているのに」
アンネリーゼの見た目はまだ7~8才である随分昔と言われても物心ついてからと考えても5年前ではあてにはならないなと考えながらもペーターはその後をついていく。
「この部屋ですわ、先生私捜しましたのよ」
ドアを開けアンネリーゼが中に入りながら不満げにだが甘えるようにそう言う。
「ャアアアァァァーーー」
突然のアンネリーゼのその叫びにペーター達は部屋に駆け入る。
中は血の匂いが立ち込めており目を見開くアンネリーゼの視線の先にはマンフレートの首が床に転がっている。
マンフレートの横たわる身体の前には1人の少年が立っている。
黒髪で長身の肘の上まで裾を折った黒いコートと黒いブーツとコートの下のシャツまで黒い少年アリュウである。
手に持つ漆黒の刀身の太刀からマンフレートを殺したのは間違いなく全員で囲むようにペーターが指示する。
メリルは震えてくず折れるアンネリーゼを抱きかかえ壁際まで下がる。
ペーターの合図で全員が一斉に動きアリュウに斬りかかっていくが次々と腕を斬られ首を斬られ胴を断たれる。
部屋の床が血で溢れ刻まれた肉体が散乱する。
アリュウの目が部屋の壁際で震えるメリルに向けられ一足飛びで斬りかかる。
その前に飛び出したペーターが光剣で受け止めて左手からナイフを投げる。
いったん後に跳んで退がるアリュウから目を離さずメリルに叫ぶ。
「メリル、こいつは危険だすぐに逃げろ」
「何を言っているんですか、だったら私も」
ペーターは懐から小さなケースを取り出してメリルに放り投げる。
「ちょっと早いが誕生日プレゼントだ。
いいから行け任務を優先するんだ」
メリルが外に飛び出すのを確認するとペーターは左手にも光剣を握る。
「どうやらここまでか、俺はやっぱり主役にはなれなかったなメリル」
街の広場の小高い丘となったその上ではラインハルトの演説が始まろうとしていた。
艦内全てのモニターにはラインハルトとその後に控える騎士達が映しだされている。
突如、廃墟の街の手前で停まっていた艦の動力炉が作動し始める。
「艦橋につなげて状況を確認するよに今さら放送を止・・・」
全速で走りだす艦の衝撃が大きな揺れを引き起こす。
「バカな廃墟の街に向かって全速力でだと。
急いで止めるんだこのままでは街に突っ込むぞ」
艦橋に連絡を取った騎士が悲鳴混じりに叫びをあげる。
そのとき甲板に1人の愛くるしい少女アンネリーゼが現われ一同の方に歩いてくる。
「っひぃー!」
撮影をしていた1人が思わず悲鳴をあげる。
血まみれのアンネリーゼが抱えているのはマンフレートの生首であった。
ラインハルトの前までくるとアンネリーゼはその生首を掲げて見せて、
「ラインハルト、マンフレートが首だけになちゃったのお願い助けて」
幽鬼のような表情でアンネリーゼは訪ねる。
「何を言ってるんだ小娘ッ!
死んだ者を生き返らせられるものか」
その言葉を投げかけた騎士を見つめアンネリーゼは呟く。
「うそ、マンフレートは死んでないよ。
だって聖地の技術は凄いんでしょうマンフレートだって助けられるよ。
ねえ、ラインハルトそうだよね」
「ジャマだ小娘、今は忙しいのだ後にしないか」
騎士の1人がアンネリーゼの腕からマンフレートの首とりあげる。
「返して私約束したの、だからマンフレートを返して」
「気でも狂っているのかこの小娘は」
次の瞬間に騎士の右腕が切断され手に持つマンフレートの首ごと地に落ちる。
「ウアアアァァァーーーッ」
「何だ、何が起きたのだ」
「素手の衝波斬でマイルズの腕を斬ったんだっ。
あの娘まさか騎士か」
マンフレートの首を抱えると愛おしそうに抱きしめるアンネリーゼを誰もが驚きの目で見つめる。
「ダメなの私、聖地で約束したからマンフレートの弟の面倒を一生見るって。
だから私からマンフレートを奪わないで」
「なな何を言っているんだこの娘は」
騎士や撮影スタッフだけでなく集ってる群衆にもざわめきが広がり始める。
「ねえラインハルトお願いマンフレート助けて約束したでしょう。
私のお願い何でも聞いてくれるって」
そこでようやく気付き始めた者が現われるラインハルトが微動だにしてないことに。
「ええいっ、とりあえず娘を捕まえるんだ。
このままでは埒があかん」
その声に数人の騎士がアンネリーゼに駆け出す。
しかしアンネリーゼが横に薙ぎ払った腕に全員が身体をバラバラに吹き飛ばされる。
「ダメなのよ王様への反逆は死罪なのよ」
「まままさかっ、王なのかあの娘が」
「何を言っている王はラインハルト様に決まっているだろう」
集る群衆を巻き込んで喧騒が広がっていく中その声が響く、
「胸に王様の証があるもん」
全員の視線が群集の最前列にいるティモに集る。
「昨日、おじいちゃんが言ってたもん。
王様は胸に王様の証を持っているって」
その言葉に何人かがラインハルトに向かうが突然振り向いたその腕で顔を掴まれる。
「私に触れるな」
そう言うと掴んだ男を投げ飛ばす。
「娘お前もだ今はおとなしく部屋にも・・・」
一際巨大な揺れが艦内に響き渡り警報が鳴り響く。
「廃墟の街に船が突入しました、キラーマシンが次々と襲ってきます早く出撃を」
艦橋から悲鳴のような報告が通信機を通して伝えられる。
甲板に黒髪の少女アイシェラが1人長い髪を風になびかせて立っている。
全身を血に染めたアリュウがその後に歩み寄る。
「来たか、見ろこのおびただしいキラーマシン共を、お前が本気で戦うのに申し分ないだろう。
黒騎士とは本来は戦いを求める血に飢えた修羅でなければならないというのにお前は自分の力を恐れて戦いを避けるばかりだったからな悪いが強制介入させてもらった。
黒騎士システムの真の目的は遥か未来に起こる現神と人類の全面戦争〈神々の黄昏〉で生まれるであろう〈神殺し〉のために戦闘経験を蓄積させることにある。
そう未だ眠る真のアイシェラが黒き死の花嫁として目覚めるその日まで・・・。
お前達は代々の黒騎士と3人目のアイシェラはそのための贄であり供物なのだ。
戦いの果て歴代の黒騎士が死ぬたびに3人目のアイシェラはリセットされ新たな黒き死の洗礼者として次の黒騎士を選ぶ。
そうして戦闘経験だけを蓄積して遥か未来の真の〈神殺し〉と〈愛殺羅〉に届けるのだ。
言っておくが3人目のアイシェラは本当にお前を愛しているよ。
それは歴代の黒騎士全てにも同じことが言えるがな。
3人目のアイシェラは全身全霊をかけて黒騎士を愛し愛される。
だからこそ常に最高の戦闘経験値を記録できる。
なぜなら互いに愛し想い合う心こそが限界を超えて真の強さを生みだすからだ。
だからこそ私達はアイシェラ、愛を殺す羅刹なのだよ」
アリュウの頬を流れ落ちる涙を風があざ笑うように吹き流していく。
「安心しろ戦いは私でなく3人目のアイシェラの役目だからな。
私は万が一の不具合の事態に外部から強制介入を行うために用意された人格に過ぎない。
理解したなら戦えそして殺せ壊せ滅せよ、お前の愛するアイシェラのために。
それこそが3人目のアイシェラが唯一許されたお前への愛の証なのだからな」
不意にアイシェラの身体が風に揺られるように倒れアリュウが支える。
「ごめんなさい・・・、アリュウ。
ごめ・・・」
その涙を拭いアリュウはアイシェラに優しく語りかける。
「誤らなくていい、何1つ誤ることなどないのだから。
さあ始めよう僕達の愛を未来に刻むために」
「ウィ、モア・マ-テル」
アリュウはアイシェラに優しく口付けをする。
アリュウとアイシェラをあざ笑うように風は冷たく吹き抜けていく。
広場では混乱が加速していた艦内放送でシェルム・リューグナーが廃墟の街に突入したことキラーマシンが艦内に侵入したことなどが次々に告げられていく。
「騎士達今すぐに出撃だ、このままでは一方的に艦が破壊されるだけだ」
その言葉にほとんどの騎士が従い広場に残るのはフェオドラとわずかな騎士だけとなる。
「ねえラインハルトお願いマンフレートを助けてたった1人の弟なの」
「ええいッ!やめろ私に話しかけるな」
相変わらずアンネリーゼはその場の誰にも理解できないことを呟きその言葉にラインハルトは半狂乱になっている。
フェオドラがモニターに目を向けると円盤のような下半身から三面六臂の上半身を生やしたキラーマシンが埋め尽くしている。
モニターの映像が切り替わると甲板の上に2つの人影が見える。
逃げ遅れたのかと思ったそのとき、
「ィアアアァァァーーーッ」
アンネリーゼが悲鳴をあげてその画面を目を剥いて睨んでいる。
そのまま沈み込むように膝を曲げ顔を埋めるように塞ぎこんでしまう。
突如、立ち上がり顔を上げるとその表情いや眼には先ほどまでとは違う迫力が覇気がみなぎっている。
「そうだ、ようやく思い出したいや封じていた記憶が解放された。
私はこの年のまま変わらないのにマンフレートあなただけは年老いていく。
それでも私が聖地とかわした契約はあなたの面倒を見続けることだった。
だからあなたは・・・。
本当にバカで優しい子あなた1人で罪を背負う必要などなかったのに」
愛おしそうにマンフレートの首を抱きしめるとアンネリーゼは目を瞑る。
顔を上げラインハルトを振り向くと、
「いつまで呆けているこの痴れ者がッ!
記憶を解放し我の鎧となりて共にマンフレートの仇を討つのだ我がヴィエルジュよ」
ラインハルトが硬直したかと思うとゆっくりと姿勢を正し、
「ウィ、モア・マ-テル」
胸の鎧を力付くで引き剥がしその服のボタンを強引に引きちぎるとラインハルトの胸に乳白色の宝石が現われ光輝く。
ラインハルトの体を中心にクリスタルフィールドが形成されると亜空間に圧縮されていた純白のシャ-ル・ヴィエルジュがクリスタルフィールドごとラインハルトをその胸に収めるように現われる
驚くその場の全員を無視するようにアンネリーゼは純白のシャ-ル・ヴィエルジュに乗り込む。
ラインハルトの背中の翼が展開されると光子エネルギーが収束されていく。
収束した光子エネルギーをバリアに変換してラインハルトは飛び上がり天井の装甲を次々と破壊して突き進み外に飛び出す。
そして漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュにグラヴィリィオンに襲い掛かる。
メリルは地上戦艦が廃墟に突入する前に配下とともに脱出を終えていた。
砂漠を歩き続けること1時間通信機に連絡が入り指示された場所に向かう。
そこにはフードとマントで全身を覆った長身の男が待っていた。
「今回の任務は失敗だったな」
「申しわけありません、ですがこれを」
さしだしたその手にはペーターが最後にメリルに渡した小さなケースがある。
「あの艦で開発され実戦投入された技術のデータになります」
男はそれを受け取り懐に入れる。
「安心するがいい確かに潜入を含め準備に時間を要したがシェルム・リューグナー以外の王都にも我らの駒は配置されている。
ペーターの事は残念だったがな。
このまま王都フォルクローアに戻ってもお咎めはないだろう」
男の背後の砂の中から地中潜艦が浮上する。
「では、帰るぞ我らの王都に」
群がるキラーマシンは胸の粒子加速器から次々と中間子反物質を放射し地上戦艦シェルム・リューグナーを破壊していく。
対消滅による爆発にはさしもの地上戦艦の厚い装甲も意味を成さずに次々と破壊されていく。
シャ-ル・ヴィエルジュさえも1撃で消滅し騎士達も次々と逃げ惑う中で殺されていく。
既に艦橋も破壊され指揮系統も乱れている地上戦艦はタダのデカイだけの的でしかなかった。
艦内では混乱が次々と波及し逃げる事も忘れ祈る者達が次々と炎と爆発に飲み込まれていく。
フェオドラはラインハルトがヴィエルジュであったショックから呆然としたまま自身のヴィエルジュに担がれていた。
「もういい、ここで死なせてくれ・・・」
「ダメです、お嬢様をお守りするとそれがバルドア様との最後の約束なのですから。
あのとき燃える炎の中でバルドア様は私と戦うことよりお嬢様を逃げ延びさせることを選ばれたのです。
だから私は何があってもお嬢様をお守りします」
「初めて聞いたぞその話なんで・・・」
「お嬢様にとってバルドア様はお父上はいつでも戦いから逃げない騎士としての憧れでしたから」
炎に包まれ逃げ場の無くなったことを悟りヴィエルジュは、
「お嬢様、大丈夫ですよ。
私のデゥセルヴォを使ってお嬢様をクリスタル・フィールドで包んで撃ちだします」
「なななにをそんな・・・」
フェオドラに麻酔を打ち眠らせるとヴィエルジュはブラウスのボタンを外しはずし胸の宝石デゥセルヴォに触れると力付くで引き抜く。
「ごめんなさい、あなたをマーテルと呼んであげられなくて。
私にとってマーテルはどうしてもバルドア様だけだったの、ごめんなさい。
さようなら、フェオドラ」
デゥセルヴォをフェオドラの胸で握らせるとクリスタル・フィールドを発生させて亜空間のシャ-ル・ヴィエルジュのエネルギーを使って外に撃ちだす。
クリスタル・フィールド内には外部の衝撃が伝わらないので強引な方法であるがこれが最も安全な方法でもある。
どれくらいの時間が過ぎただろうか目を覚ましたフェオドラは砂漠に横たわっていた。
辺りには廃墟の街も地上戦艦も見えない。
「なんで今さらまた私を助けるんだよ、ローザッ」
その手のデゥセルヴォを握りしめフェオドラは呟く。
地上戦艦シェルム・リューグナーの甲板の上では2体の鋼の巨人純白と漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュが群がるキラーマシンを巻き込みながら死闘を続けている。
ラインハルトの全身から放たれる光がキラーマシンを焼き尽くしながらグラヴィリィオンに迫り。
グラヴィリィオンの放つマイクロ・ブラックホールがキラーマシンを飲み込みながらラインハルトに迫る。
ラインハルトの全身が光の粒子となって加速しグラヴィリィオンが空間を湾曲しテレポートする。
ラインハルトの光の刃とグラヴィリィオンの闇の刃がぶつかり合い巻き込まれたキラーマシンが次々と斬り裂かれる。
やがて甲板の上に逃げ惑う人々が現われ口々に救いを求め戦いあう純白と漆黒の鋼の巨人に群がる。
ラインハルトの全身から放たれる光が群がる人々を瞬時に蒸発し、グラヴィリィオンの放つマイクロ・ブラックホールが群がる人々を飲み込んでいく。
巨大な揺れと共にシェルム・リューグナーの各部で大爆発が起こり始める。
祈り膝を折る全ての人々を、救いを求め群がる全ての人々を、何もできない全ての人々を・・・。
炎と爆発があざ笑うように次々とシェルム・リューグナーとそこに留まる者達を飲み込んでいく。
炎で崩れいくシェルム・リューグナーの上で純白と漆黒の鋼の巨人は群がる異形を巻き込みながら尚も戦い続ける。