第6話
エアツェールングの森は1,000メートル以上にも及ぶ針葉樹が覆いつくす森というよりは樹海である。
巨大で様々なドラゴンがここを縄張りにしていることもあり人間はおろか他の種族も魔獣も近づかない魔境である。
ジギスムントとコンスタンツェは森の入り口で各機から送られてくる情報の収集を優先させ森の中に入るのはベルンハルト達12人となる。
ベルンハルト達12人がカバンを開きアマトゥールを起動させる。
カバンから宙に浮くとアマトゥールを中心にクリスタルフィールドが形成される。
アマトゥールを飲みこむように亜空間に圧縮されている蒼のシャ-ル・ヴィエルジュ=アルバートが荘厳な姿を現す。
ベルンハルト達12人にはアマトゥールとの意志疎通のために額冠を与えられており、それぞれの額冠には各アマトゥールの胸の宝石デゥセルヴォから胚核を採取し培養した宝石がはめ込まれている。
アルバートが片膝をつき右手を差し伸べて胸の操縦席にへと誘導する。
「おお、これがシャ-ル・ヴィエルジュの操縦席になるのか」
ベルンハルトを始め誰もが興奮気味にその席に座る。
アルバートは3機ごとに4部隊に分かれて森の中を進むことになる。
1時間ほどは何事も無く最初に遭遇したのはヨアヒムの部隊である。
湖にでたヨアヒムは砂漠の暮らしが長かったこともあり外にでたい衝動を押さえつつ湖に近づく。
「凄いなオアシスの井戸なんて目じゃない水量だな」
「本当だな、これだけの水があれば毎年不足で人が死ぬ事もないだろうに」
フーゴーも湖に近づきその光景に圧倒される。
しばらく湖の前に留まるがヨアヒムは仕事を優先させようと湖沿いに森の奥を目指す。
それが湖から顔を覗かせてこちらを窺っている事にも気付かずヨアヒム達は湖沿いに進んでいく。
湖の半ばを過ぎたところで突如水面を叩き割るように湖からドラゴンが姿を現す。
蛇のように長い体を持つドラゴンがその口から高圧の水流を吐き出すとフーゴーのアルバートが水圧に耐え切れずに瞬くまに破壊される。
「ちくっしょうっ!フーゴーの敵だ」
トマスのアルバートが背中の大型砲を両肩に担がせドラゴンに向けて放つ。
狙い違わず大型の榴弾がドラゴンの頭で爆発を起こす。
「やったかぁ!この爆発ならいくら・・・」
トマスの言葉は爆発の煙を突き破った水流に遮られることになる。
瞬時に破壊されるトマスのアルバートを見てヨアヒムはドラゴンに向けて光剣の刃を抜き放ち振り下ろす。
衝波斬がたてつづけに放たれるがドラゴンの硬い鱗は真空の刃をも弾き返す。
「誤ったな相手が水の中ではこちらから攻めることができん」
続けざまに放たれる水流は次第に速さを増し避け続けるのも難しくなる。
「つい湖に心を奪われてしまいここが戦場であることを忘れてしまった。
君にも見せたかったよロッティ、今回は帰れそうに・・・」
幾度目かに放たれた水流はヨアヒムのその言葉とアルバートを飲み込んで押し潰す。
森の入り口でジギスムントとコンスタンツェはシャ-ル・ヴィエルジュ=アルバートから送られてきたデータでヨアヒム、フーゴー、トマスがドラゴンとの戦闘に入ったことを確認した。
「通常より1.5倍の重装甲が耐えられぬ水圧か、榴弾の爆発にも無傷とは」
「ですがこれ以上の重装甲では機動力を失い的になってまうだけです」
「確かになヨアヒムはあの重装甲でよく避けているが・・・」
「衝波斬の速度も並みの騎士よりあります。
しかし相手が水の中では接近できないのでこれ以上は・・・」
「ここまでか」
ヨアヒムのアルバートからのデータの途絶を確認しジギスムントは残りの9人にヨアヒム、フーゴー、トマスのことを伝える。
合わせて榴弾が有効でないので背中に大型砲を搭載している機体はそれを捨てるようにも言う。
ついでに湖だけでなく岩場や沼地など足場の不利な場所での戦闘も避けるように注意する。
ジギスムントからの連絡を受けベルンハルトは3チームが互いに連携をとれる距離を維持することを提案し実行する。
ベルンハルトの隊を真ん中に右にゲオルク左にスヴェンの部隊が互いに5分の距離をとる。
「ゴオアアアァァァーーーッ!」
前方から轟き響き渡るその雄たけびに全員が警戒を高める。
そのまま直進して15分ほど森の開いた場所にでる。
切り立った岩山の下で翼の無い2足歩行の赤いドラゴンが巨大な牛のような獣を貪っていた。
「デカイな30メートルはあるか。
ゲオルクとスヴェンを待って仕掛けるぞ」
ドラゴンはベルンハルトを無視して食事を続けており攻撃を仕掛けてくる様子はない。
しばらくするとゲオルクとスヴェンの隊がベルンハルトの隊に合流する。
「俺とゲオルクとスヴェンで仕掛ける。
他は距離をとって援護を頼む」
ベルンハルトとゲオルクとスヴェンが光剣の刃を抜き放ちドラゴンに迫る。
その後から衝波斬が真空の刃となって走る。
「まだ早いぞ!オイゲン」
スヴェンが叫びオイゲンの放った衝波斬がドラゴンの硬い鱗に弾き返される。
ようやく気付いたのかドラゴンが食事をやめ顔を上げてベルンハルト達に顔を向ける。
「ゴオアアアァァァーーーッ!」
甲高く吼えあげるとベルンハルト達に向かって駆けてくる。
ベルンハルトはアルバートの体ごと回転させると旋風を巻き起こしてドラゴンに放つ。
旋風に絡めとられドラゴンの足が止まる。
ゲオルクとスヴェンも体ごと回転させるとドラゴンに向かって旋風を放つ。
ドラゴンを絡めとる旋風にあらたに2つの旋風が加わり風が加速する。
加速する旋風にドラゴンの硬い鱗が挽き裂かれる。
「よし、このまま押し切るぞ」
ベルンハルト達が勝利を確信したとき、
「ゴオアアアアアアァァァーーーッ!」
後のベルンハルト達が歩いてきた方から複数の雄たけびが轟き辺りの空気が震える。
「まさか他にいるのかッ」
ゲオルクが後方を確認する前に同種の赤いドラゴンが5匹飛び出してくる。
「避けろッ!アインズ」
避けきれないと思ったアインズは剣を振り下ろして真空の刃を3本放つ。
迫る真空の刃を無視してそのまま駆けるとドラゴンはアインズのアルバートに頭からぶつかる。
胸部装甲をひしゃげながらアインズのアルバートが宙を舞う。
ベルテが光剣の刃の出力を上げ空気との摩擦を利用して炎を巻き起こす。
ドラゴンに炎の剣で斬りかかると接触の瞬間に光剣の刃の出力を最大に上げる。
爆裂する炎の剣に腹を裂かれドラゴンが悲鳴をあげるが口を広げベルテのアルバートの肩に喰らいつく。
ドラゴンの顎に締めあげられ肩が潰されるとそのまま力任せにベルテのアルバートは空に放り投げられる。
「バラバラで戦っていては勝てないな。
いったん退くべきだな」
ゲオルクがベルンハルトに撤退を呼びかける。
「ああ、1匹でも総がかりなのにこれではな」
ベルンハルトはアルバートの出力を瞬間だけ最大に引き上げると機体を揺らす。
3体のアルバートの残像から3本の真空の刃が放たれると交わるようにベルテが傷つけたドラゴンの腹を破る。
たまらず悲鳴をあげてドラゴンが地に倒れる。
そのままベルンハルトはゲオルクとスヴェンとともに生き残った全員に撤退を呼びかけると崖の右側へと駆ける。
後から着いてくるアルバートはダニーとブルタの2機だけである。
「4機もやられたか」
「いや、残念ながらこちらは致命傷だな」
そう口にするブルタのアルバートの胸には深く爪が突き刺さっている。
「爪を斬るのがせいぜいとは情けないぜ。
足止めはするお前達はこのまま森の入り口まで逃げろ」
そう言うとブルタはその場でアルバートを体ごと回転させ竜巻を造りだす。
「すまぬッ、ブルタ」
「気にするな、ベルンハルト。
最後にシャ-ル・ヴィエルジュに乗って騎士らしく戦えたのだむしろ俺は嬉しいんだ」
ブルタはアルバートと光剣の刃の出力を最大に上げる。
「マギーすまんな、やはり俺はこのバカな生き方を・・・」
炎をはらんだ竜巻がドラゴンを飲み込むと大爆発を巻き起こす。
ジギスムントとコンスタンツェはシャ-ル・ヴィエルジュ=アルバートから送られてくるデータを余さず記録し続ける。
「爆裂剣でも軽い傷しか与えられないか」
「ベルンハルトさんは凄いですね。
アマトゥールの性能で3体の残像からの衝波連斬まで使えるとは」
「コンスタンツェと同じノーブルを持つヴィエルジュならば1対1でも負けなかっただろうな。
とはいえ今回はここまでだろうな」
「ウィ、これ以上の戦闘続行は不可能と判断します」
「そうだな、ベルンハルトとゲオルクとスヴェンは騎士としても優秀だ。
このままシェルム・リューグナーへ連れ戻っても責められることはないだろう。
マンフレート先生もこれだけのデータがあれば十分だろう」
「待ってくださいジギスムント様。
高速で近づく飛行物体がベルンハルトさん達に迫っています」
「もう少しベルンハルト達に近づかんと詳細は分からんか。
警戒するように呼びかけてくれコンスタンツェ」
「ウィ、モア・マーテル」
ベルンハルトとゲオルクとスヴェンとダニーは森を出るために駆け走る。
「みんな聞いてくれ、ジギスムントさんからだ。
空から近づいてくる物があるらしい。
くれぐれも用心してくれ」
ベルンハルトのその言葉が終わる間もなく大地が黒い影に覆われる。
空を見上げると大きすぎて全貌が全く見えない何かが空を覆っている。
「なんだあれはっ」
ダニーが半ば呆けたように呟く。
上空からの凄まじい突風にあおられ4機のアルバートがバランスを崩す。
転倒するダニーのアルバートを助け起こしにゲオルクが向かう。
刹那、空から甲高い悲鳴があがりダニーとゲオルクのアルバートが震える。
「なななんだっ」
何事も無いことを不思議に思いながら空を見上げる。
距離をとって上空に離れたのでようやく全貌が見える巨大な翼を広げる長い尾と長い首を持つ生物がゲオルクの瞳に映る。
「鳥じゃないな、魔獣か」
空から再び空から甲高い悲鳴があがりダニーとゲオルクのアルバートが震える。
刹那、アルバートが崩壊する。
ダニーとゲオルクが圧壊するアルバートに押し潰される。
ジギスムントはコンスタンツェに何が起こったのか解析を急がせる。
「分かりました、共振現象です。
最初の悲鳴でアルバートの固有振動数を計測して第2射でそれに合わせて超音波を放って物質崩壊をまねいています」
「防ぐ事のできない音の波による攻撃か。
これでは逃げる事もできんか」
ベルンハルトとスヴェンは全力で走るが相手の巨大さから無理だと判断せざるを得ない。
「アマトゥールを捨てるしかないな。
このままでは反撃もできずに一方的に殺されるだけだ」
「何を言う騎士としてようやく得たシャ-ル・ヴィエルジュだぞ」
ベルンハルトの言葉にスヴェンが反論する。
「しかし、このままでは」
ベルンハルトはアルバート胸部装甲を開き顔をだす。
「急ぐんだスヴェン、生きていれば汚辱を注ぐ機会もあろう」
ベルンハルトがアルバートから飛び降りるのを見てスヴェンも決断する。
胸部装甲を開きスヴェンが飛び降りると空から甲高い悲鳴が聞こえてアルバートが粉砕される。
ベルンハルトが上空を見上げると謎の魔獣は空の上で旋回しているのが見える。
しばらく身を隠すべきかと考えていると、
「ゴオアアアアアアァァァーーーッ!」
複数の雄たけびが轟き辺りの空気が震えわたる。
「先ほどのドラゴンどもか」
ベルンハルトがスヴェンに目を向けるとアルバートの粉砕に巻き込まれたのか動けずに地に伏している。
地響きが轟き周囲から先ほどのドラゴンが現われる。
「囲まれていたかッ」
ドラゴンがスヴェンに喰らいつくのを見てここまでかとベルンハルトが思った瞬間。
「ギャアアアァァァーーーッ!」
断末魔ににも似た悲鳴が響き渡る。
目を向けると漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュが腰の刀を抜き放ちドラゴン達を次々と斬り伏せている。
あの硬い鱗をいとも容易く斬り裂き瞬くまに全滅させていく。
ベルンハルトに漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュから右手が差し出される。
「早く乗れドラゴンに目をつけられている。
急いでこの森から出るぞ」
ベルンハルトは一瞬考えるが選択肢は無いその右手に乗ると漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュが走りだす。
「ドラゴンはあの赤いのは君が倒した以外にもまだいるのか」
ベルンハルトのその言葉に漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュから、
「あれはドラゴンじゃない、ただのデカイだけのトカゲだ」
「何を言っているんだここはドラゴンの縄張りなのだろう。
それに先ほど君もドラゴンに目をつけられていると・・・」
「だから上のあれがドラゴンなんだ」
その言葉にベルンハルトは空を見上げ旋回するように飛んでいる魔獣を見る。
「あれがドラゴン・・・」
「そうだ、さっきまでの赤いのはタダのトカゲに過ぎない」
漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュの言葉にベルンハルトは愕然とする。
9体のシャ-ル・ヴィエルジュが全く歯が立たない相手がタダのトカゲでしかなかったというのだ。
「舌を噛むぞ、おしゃべりはここまでだ」
そう言うと漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュは尚も加速する。
空の上のドラゴンが甲高い悲鳴をあげるがバリアに阻まれて機体には届かない。
森を抜け出るためにひたすら漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュは走り続ける。
アリュウとアイシェラはベルンハルトを漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュ=グラヴィリィオンの右手に乗せエアツェールングの森の出口に向かって走り続ける。
上空のドラゴンは未だにそこに居続けグラヴィリィオンを狙い続けている。
あともう少しで森の出口というところで異変が起こる。
操縦席が白い光に包まれると、
「神殺しの継承者よ、忌まわしき黒き死の洗礼者よ。
今回は命までは奪わずにおこう、されど今一度己が身に宿る奇しき縁の業を思い出すがよい」
アリュウとアイシェラの体を衝撃が貫き2人の意識は闇に沈む。
突然、漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュが前のめりに倒れ地面にぶつかる前に掻き消える。
ベルンハルトが宙に投げ出されるが地面に近かったのでケガは無い。
ベルンハルトが振り返るとそこに2人の少年と少女が倒れている。
「まさかな・・・」
ベルンハルトが助け起こすとその顔はセネスの町で出会った少女アイシェラのものであった。
少年の体を起こしその顔に目を向ける。
その顔は確かにアイシェラの連れの少年の顔であった。
「まさか、こんな少年と少女があの赤いドラゴンいやトカゲを・・・」
ベルンハルが呆然と呟き空を見るとそこにはもうドラゴンはいなかった。
「ひき返したのか、どちらにせよ長居は無用だな」
ベルンハルトはアリュウとアイシェラを抱えて森の出口に向かって走りだす。
エアツェールングの森をでるとジギスムントとコンスタンツェが待っていた。
「1日待て戻ってこなければ帰るつもりだったが無事なのは1人だけか」
そこでジギスムントはベルンハルトに抱えられている少年と少女に目を向ける。
「森で偶然出会ってな、どうやら私を心配して追いかけてきたらしい」
ベルンハルトはひとまず森でのことは伏せておくことにした。
ジギスムントの立場が分からない以上は2人がどのような処遇になるか分からないからだ。
「そうか、確か子供がいると言ってたな」
「その子の友達なんだ、娘に言われて追いかけてきたのかもしれん」
「分かった、ひとまずセネスの町に戻ろう。
まずは連絡をして王都の判断を待つことになるのでな。
まだ軽々しいことは言えないがベルンハルトなら王都に迎え入れることも問題ないだろう」
それから一同は馬車に乗りセネスの町に戻ることになる。
ジギスムントが連絡を取りベルンハルトの事を相談するとマンフレートは、
「構わんお前が判断したなら家族も一緒にシェルム・リューグナーに連れて来るといい。
ラインハルトには私の方から後で言っておこう。
今、言うとまたバカな宣伝に利用されそうだからな」
「それだと先生のお立場が悪くなりませんか」
「構いやしないさ今さらラインハルトの機嫌をとっても始まらん。
もうあれとは長い付き合いだからな。
明後日の巡回の時間の間ならラインハルトも奴の取り巻きも出かけているからその時間に迎えを送ろう。
遅れることができんのは承知してくれ」
「分かりました、ではそれまでに家族を含めて準備をさせます。
とはいえ全員合わせても5人もいないと思いますが」
「それならこちらも助かるな。
では明後日の10時にはそちらに着く頼むぞ」
「分かりました、では詳しい事は明後日に直接報告します」
約束の日時にはベルンハルトとイレーネそして意識の戻らないアリュウとアイシェラを連れて迎えの飛行機に乗る。
アリュウとアイシェラの意識が戻らない事に関してジギスムントが信頼のできる医者が王都にいるとのことで行為に甘える事にした。
飛び立って1時間を過ぎた頃ジギスムントに言われ空から見下ろしたその王都のいや地上戦艦の巨大さにベルンハルトが驚きの声を発する。
甲板に降りると飛行機ごと艦内に収容されエレベーターを降りることになる。
そこでジギスムントはコンスタンツェにイレーネを任せるとベルンハルトとアリュウとアイシェラを連れてマンフレートのいる区画に向かう。
「俺が今、世話になっている人なんだが。
その人はセ-ルマン・アルシミ-だ。
なので勝手に出歩けないんでな悪いがしばらく付き合ってもらおう。
間違ってもマッド・サイエンティストでは無いので2人のことは心配しなくてもいい。
俺の私見だがこの艦で1番まともな人だからな」
「重ね重ねのご好意に感謝いたしますジギスムント殿」
「堅苦しく考えなくてもいい、その2人がエアツェールングの森から気絶してでてきたなら誰だって訳ありだと思うさ。
まあ絶対とは約束できないがきっと良くなるさ」
車を停めると2人でアリュウとアイシェラを抱えてマンフレートの部屋までいく。
事情を聞いたマンフレートはアリュウとアイシェラを連れてついてくるようにと言う。
「大丈夫なのか、先生勝手に出歩いて」
「この辺りの区画の監視システムは抑えてあるからな心配いらん。
それにあの部屋にはラインハルトも治療に来るからな。
顔を合わせんほうがいいだろう」
「相変わらず謎の多い先生だな。
まあ今さらではあるんだがな、この艦を1番よく知っているのは先生だからな」
「別に隠しているつもりはないがね。
あまり余計な事を知るとラインハルトの機嫌を損ねるからな私なりに配慮しているだけさ。
この部屋だ、設備は揃っている」
案内された部屋に入ると言われるままにアリュウとアイシェラをベッドに寝かせる。
「気になるのはこの首から下げている宝石だが。
デゥセルヴォと同じものではないのか」
そう言うとマンフレートはアリュウの首から下げている宝石を手に取り、
「この紋章はまさか・・・。
実在していたのか」
驚きをともなった呟きとともにそう言うとジギスムントを振り返り、
「ジギスムント、それにベルンハルトだったかな。
この2人のことを他に知っているのは誰になる」
「私と娘のイレーネの2人になります」
「この2人とはどのくらいの付き合いなのだ」
「私も知り合って火が浅いので彼女と少し話をしただけですね」
「シャ-ル・ヴィエルジュは見たのかね」
マンフレートのただ事では無い様子にベルンハルトは正直に答えることにする。
「はい、エアツェールングの森で」
「この2人のことは口外しないように約束できるかね」
「それは大丈夫です」
「ではそのようにお願いしよう。
ラインハルトを含めて艦内の誰にも言わないようにな。
娘さんの方にも言わないように言っておいてくれ」
それからマンフレートはアリュウとアイシェラを簡単に診察するが体に異常は無く本人が目を覚ますまで待つしかないと結論づける。
その夜アリュウとアイシェラの事は伏せてマンフレートはラインハルトに報告書を手渡し協力したベルンハルトとその家族を連れてきたことも伝える。
合わせてドラゴンの件は外部には漏らせないのでベルンハルトはしばらくはマンフレートの預かりとすることも。
夕刻のエルフの件のおかげかラインハルトの機嫌は良く揉めることなくその件は了承される。
アリュウとアイシェラが目を覚ますのはその日から明後日のことになる。