表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第3話

 ミケ-レはその足を止めて突如町に現われた紅のシャ-ル・ヴィエルジュ=ラックシャ-シ-と黄金のシャ-ル・ヴィエルジュ=ティ-タァ-ナァを見つめる。


「なんだあれは何者だろうとジャマはさせんぞッ!」


 ミケ-レの指示で他の騎士達もシャ-ル・ヴィエルジュ=フランチェスコを次々と起動させる。

 数で勝ることをいかし部隊を2つに分けてラックシャ-シ-とティ-タァ-ナァに駆けさせる。



 シメオンは向かってくるフランチェスコをその目に捉える。

 ティ-タァ-ナァ達は一斉にその手のウォ-ハンマ-を天に掲げる。

 ウォ-ハンマ-から空に向かって電撃が放たれ続けると黒雲が生まれ始める。

 瞬くまに空一面が暗雲に覆われ雷鳴が轟きわたる。

 

「ケラヴノス」


 シメオンのその言葉に呼応するように暗雲から無数の落雷が放たれる。

 向かってくるフランチェスコ達が次々と落雷に撃たれ瞬くまに蒸発して消え去る。



 アクバルは向かってくるフランチェスコに対して、

 ラックシャ-シ-達が一斉に右手の錫杖を突き刺すと地面が鳴動を始める。

 ティ-タァ-ナァ達を中心に地面がひび割れ、


「オン・ヴァルカン ・ソワカッ!」


 アクバルのその叫びが響き渡るとティ-タァ-ナァの足元の地面の割れからマグマが噴き上がる。

 噴出すマグマに飲み込まれフランチェスコ次々と燃え消えていく。

 ミケ-レは驚愕の目でフランチェスコが落雷とマグマに飲み込まれて消えていくのを見つめる。

 驚き戸惑うミケ-レのフランチェスコにラックシャ-シ-から金剛杵が放たれる。

 正確に操縦席を撃ち抜いたその1撃でミケ-レとヴィエルジュのパオラの体は粉砕されフランチェスコが地に伏す。



 ジャマな物が無くなったところでラックシャ-シ-とティ-タァ-ナァ達はお互いに体を向けあう。

 その真ん中に突如1人の漆黒の少女アイシェラが宙に現れる。

 開いたブラウスから見える肌漆黒の宝石が力強く光輝く。

 アクバルがチャンドラからの解析報告に驚く。


「重力異常だとあの女の仕業かチャンドラッ」

「はい彼女を中心に重力の歪みが」

「どういうことだヴィエルジュにそんな力を持たせることは不可能だ。

 ならばソルセルリ-なのか」

「チャンドラ全員に警告をしろ」


 ラックシャ-シ-が臨戦態勢に入り一斉にその手の錫上を身構える。

 アイシェラを中心に重力の揺らぎを高まる重力が波紋となって空間を歪めながら押し広げてゆく。

 アイシェラを中心に球形状に歪められた空間が町に巨大な穴を穿つ。

 ラックシャ-シ-とティ-タァ-ナァが空間の歪みで造りだされた、すり鉢状の大地の底に落とされていく。

 

「戦闘フィールドの形成を確認、グラヴィリィオンを召還します」


 アイシェラの胸の漆黒の宝石が光り輝く。

 衣服が亜空間に転送されるとその体を中心にクリスタルフィールドが形成される。

 亜空間に圧縮されていた漆黒の巨人がクリスタルフィールドごとアイシェラをその胸に収めるように現われる。

 

「グラヴィリィオンの召還を完了。

 シュヴァリエを招聘します」


 グラヴィシオンの操縦席のアイシェラの結晶の前の座席にアリュウが転送される。


「シュヴァリエの招聘を完了。

 以降はシュヴァリエの判断に従います」



「漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュだと。

 チャンドラ地上にあのような機体はあったか」

「該当する機体はありません。

 お待ちください盾の紋章を確認します」

「盾だと・・・」


 その言葉にアクバルが盾の紋章に目を向ける。

 アイシェラが召還した漆黒のシャ-ル・ヴィエルジュ。

 グラヴィリィオンの武装は左腰の刀と左腕のバックラ-。

 その左腕の小型の円形の盾に描かれた紋章。

 崩れる塔に絡みつく2匹の蛇その塔の足元では炎が燃えている。


「分かりました、あれは神殺しの紋章です。

 黒騎士(ノワ-ルシュヴァリエ)です」

「神殺しだと・・・」


 ラックシャ-シ-の操縦席でアクバルは呻くように言う。


「さすがに数が多いな。

 アイシェラ、ペガーズを召還だ」

「ウィ、デサント・ダン・ペガ-ズ」


 アイシェラが召還した漆黒の馬ペガ-ズにグラヴィリィオンが跨る。

 アリュウはティ-タァ-ナァ達に向かってグラヴィリィオン駆け走らせる。

 オリュンポスのティ-タァ-ナァはウォ-ハンマ-を右手に長大な盾を左手に持っている

 左手の盾が縦に2つに割れると射出口が現われ光の矢が次々と放たれる。


「アイシェラ、ブーメランを」

「ウィ、アンヴォカシオン・ブーメラング」


 飛び迫る矢を左右にかわしペガ-ズから巨大なブーメランを受け取る。


「グラヴィリィオン・クーペヴォレ」


 グラヴィリィオンがその手のブーメランに重力子を込めてティ-タァ-ナァに向けて放つ。

 迫るブーメランに対してティ-タァ-ナァが電磁シールドを展開させる。

 空間を挽き裂きながら電磁シールドごとティ-タァ-ナァが5体ブーメランに両断されていく。

 ティ-タァ-ナァ達は一斉にその手のウォ-ハンマ-を天に掲げる。

 ウォ-ハンマ-から空に向かって電撃が放たれ続けると閉ざされた空間内に黒雲が生まれ始める。

 瞬くまに空一面が暗雲に覆われ雷鳴が轟きわたる。

 

「ケラヴノス」


 シメオンのその言葉に呼応するように暗雲から無数の落雷が放たれる。

 先ほどとは違いティ-タァ-ナァ達がその落雷を受け胸の水晶球にへと収束増幅されていく。


「高エネルギーの収束を確認、発射まで37秒」


 その言葉を受けてアリュウは、


「アイシェラ、弓を」

「ウィ、アンヴォカシオン・アルク」


 グラヴィリィオンはペガ-ズから弓を受け取り構える。

 弓とグラヴィリオン各部の水晶球が漆黒の輝きを放ち右手に漆黒の矢が生まれる。


「アストゥラピ・アフティダ」


 シメオンのその言葉にティ-タァ-ナァ達の胸部装甲が展開し水晶球から雷光が柱となってグラヴィリオンに迫る。


「グラヴィリィオン・コンプリメレッシュ」


 グラヴィリィオンの弓から放たれる漆黒の矢は無数に分かれティ-タァ-ナァの雷光を飲み込んで突き進む。

 撃ち抜いたティ-タァ-ナァ達を次々と素粒子レベルで圧潰させて飲み込み漆黒の矢は蒸発する。

 

「ばかなこれがバビロニアの遺産の・・・」


 シメオンの言葉は蒸発するマイクロ・ブラックホールに飲み込まれてかき消える。

 ティ-タァ-ナァ達はシメオンのシャ-ル・ヴィエルジュを最後に全て漆黒の矢に飲み込まれて消滅する。



「マイクロ・ブラックホールを矢として放ち、ティ-タァ-ナァ達を放たれた雷撃のエネルギーごと素粒子レベルで崩壊させて飲み込んだのか」


 アクバルはその凄まじいまでの力に恐れおののく。

 ラックシャ-シ-達は一斉に錫杖を天にかざす。

 錫杖から炎が溢れ宙で寄り集まると大火球が生みだされる。



「オン・メラ ・ソワカッ!」


 アクバルのその叫びが響き渡ると大火球がグラヴィリィオンに迫り宙を駆ける。


「アンヴォカシオン・ランス」


 グラヴィリィオンはペガ-ズから槍を受け取ると脇に構える。

 

「グラヴィリィオン・バールクリール」


 グラヴィリィオンとペガ-ズの各部の水晶球が漆黒の輝きを放ち馬の首を真っ直ぐ前に突きだすと額の角が長く伸びる。

 全身を重力子バリアで包みこみラックシャ-シ-達に向けて駆け走る。

 大火球さえも突き破り迫るグラヴィリィオンに対して


「オン・アグニ ・ソワカッ!」


 アクバルのその叫びにラックシャ-シ-達が一斉に各部装甲を展開させる。

 開いた溝から炎が燃えあがり全身を炎に包まれたクシャ-シ-達が空に跳び上がる。

 右手の錫杖を長大に伸ばし回転させるとそれをプロペラ代わりにグラヴィリィオンに飛び迫る。

 ラックシャ-シ-の左手から一斉に炎をまとった金剛杵が放たれる。

 巻き起こる爆発をものともせずにグラヴィリィオンはペガ-ズとともに天を駆け上がる。

 空を舞うラックシャ-シ-達がその燃える錫杖を両手に持ち替え振り下ろしていく。

 迫り来るラックシャ-シ-をそのスピードで粉砕しながらグラヴィリィオンはペガ-ズと天を駆けぬける。



 アクバルのラックシャ-シ-は地に降り地面に膝をつく。

 残されたのはアクバル1人である。

 グラヴィリィオンはペガ-ズから降りるとその場にとどまりアクバルの様子を窺う。

 アクバルはラックシャ-シ-を立ちあがらせると、


「ナウマク・サマンダ・ボダナン・アグニ・ソワカ」


 クシャ-シ-は炎を全身から噴き上げると2つの頭を持つ炎の巨人にへと変貌する。

 炎の巨人は足の裏が触れる地面を爆発させてグラヴィリィオンへと駆け走る。

 グラヴィリィオンがその右手を壮絶な加速で迫る炎の巨人にかざす。

 その掌から凄まじい冷気を伴った吹雪が吹き荒れる。

 全身にまとう炎を刹那でかき消されてラックシャ-シ-の全身が冷気で凍りつきはじめる。


「バカなアグニの加護を受けているラックシャ-シ-だぞ。

 これが神殺しの力だというのか」


 アクバルのラックシャ-シ-が凍りつくと重力圧が機体を捉えて締めあげる。

 

「おのれッ!神殺しこの次こそは必ず・・・」


 アクバルの断末魔の悲鳴を飲み込み凍りついたラックシャ-シ-が砕け散る。



 明け方ローニャの町は混乱からようやく立ち直り始めていた。

 逃げた人々も町に戻り瓦礫の撤去などを始めている。

 幸いと言うべきか町の人間に死者はでずに軽いケガをした者がわずかにいただけであった。

アリュウ達はジャコモ達3人も連れて教会に戻る。

 窓ガラスとドアが壊れているがそれ以外に被害は無かった。

 アレッシア、ジュリア、ジョヴァンナ、オッタビオ、エンリコそれとルイ-ザを寝かせると全員で片づけを始める。

 散らかったガラスの破片を集め終えるとトマソがジュリオ連れて巡回に訪れる。


「ジョルジャさん、シスター・シモーナは無事ですか」

「トマソさん、はい今は出かけていますが誰もケガをしたものは無く無事です」

「そうですかい、それはよかった。

 いくつか建物が壊れていますが町で亡くなった者はいないようです」

「みんな無事なんですね。

 町が壊れたのに不謹慎かもしれないですがよかったですわ」


 そこにアリュウがジャコモをともなって現われる。


「よお、トマソのおっちゃん。

 いいところできたな」

「知らない顔が増えているみたいだな」


 アリュウの後のジャコモにトマソは目を向ける


「こいつが噂のジャコモ・アルベルティだ。

 昨日ここの発電機を奪いにきたんだ」

「それで昨日テリアの騎士団のシャ-ル・ヴィエルジュが現われた訳か」

「それはこいつでなくってあの口髭のおっさんだけどな」

「そうなのか、1体だけだったからてっきりジャコモだと思っていたが」

「それでちょっと気になったことがあるんだけど。

 ジャコモは発電機を盗むのにシャ-ル・ヴィエルジュを使ってないんだ。

 ここの地下の発電機を見たけど普通の人間なら無理だけど騎士なら担げる大きさだ。

 なのになんでジャコモ・アルベルティの名前がでてきたんだ」

「それは連絡がきたんだよ。

 この付近で発電機が盗まれたってあとに」

「どんな奴だそれは」


 トマソはジュリオを振り返り、


「確かフィリッパさんは若い女の人だって言ってましたよ。

 凄く美人だったて」


 ジュリオの答えにトマソは怪訝な顔をする。


「ああ、これは確かに見落としていたな。

 定期便の馬車でさえ安全って言えないのにそんな若い女を使いにだすなんてありえないからな」

「すみません、ちゃんと報告しなくて」


 言われてジュリオもそのことに気付いて慌てる。


「まあ、俺もちゃんと確かめなかったからな。

 予想するに誰かが俺達町の保安官を利用するつもりで情報を流したってことだな。

 察するに昨日のテリアの騎士団か。

 それでお前さんを捕まえたときにもすぐにきた訳か」

「だろうな、情報を流してこの辺の町に分散していたんだろうな」

「となるとまだ何人かいる可能性もあるってことか」

「そうだな騒動になる前に・・・」


 そのとき教会の裏手で大きな音が響く、


「思っていたより早くきたな」

「いいのか慌てなくて」

「ガキ共にはアイシェラが一緒だからな。

 並みの騎士なら問題ないさ」


 

 教会の裏では襲撃者を察知していたアイシェラが漆黒の刃の光剣(ウィスパ-)を手にテリアの騎士団と戦っている。

 

「30人くらいか、以外に少ないわね。

 やっぱり昨日のが主力だったのかな」

「女1人だかまわん一斉に斬りかかれ」

「じゃ1人でなければどうするのかな」


 アイシェラがアウラを高めるとその体が蜃気楼のように揺れる。

 刹那、蜃気楼が5人に分かれる。

 5人に分かれたアイシェラは一斉に剣を薙ぎ払う。

 5つの旋風が騎士達を宙に巻き上げ地面に叩きつける。

 叩きつけられた騎士達は全員気を体がズタズタになったような衝撃で体が動かせない。

 

「やりすぎだろう。

 それじゃ自分の足で帰ることもできないじゃないか」


 声に振り向くとアリュウがジャコモとトマソをともなってそこにいた。


「うぅ、だってこんなに弱いって思わなかったから」

「これが平均値なんだって、手加減することも覚えろよ。

 トマソのおっちゃん悪いがガキ共を見ていてくれ。

 顔を見られないほうがいいだろう」

「そうだな、じゃ俺は中に入っているよ」


 トマソが中に入るとアリュウとアイシェラは手分けしてズタズタになっている全員の気脈をもとに戻す。


「その体じゃしばらくは戦えないだろう。

 お前達の仲間はあと何人いるんだ、おとなしく言えよ」

「あとは団長のロベルトさんだけだ・・・」

「団長ってミケーレのおっさんじゃないのか」

「いやミケーレは副団長だ。

 普段は仮面で顔を隠して滅多に人前にはでないのでミケーレが騎士団を代行で指揮している」


 ジャコモの言葉に振り向きかけたそのとき教会の表の方から悲鳴が響く。


「アレッサンドラッ!」

「しまったっ!そっちか」


 ジャコモとアリュウが駆け走ろうとしたときジャコモの胸に矢が突き刺さる。

 殺気の無い1矢であった。

 アリュウが矢の放たれたほうを振り向くと年老いた女が弩を手にそこにいた。

 矢を当てたことでのショックであろうか地面に尻をつけて震えている。


「アイシェラ2人を任せる」

「分かったわ」



 アリュウが教会の表にまわるとジュリオが壁に叩きつけられて気絶していた。

 他には誰の姿も見えない。

 幸い骨も内臓も無事のようだ。

 中からトマソが走ってくる。


「子供達はジョルジャさんに任せている。

 何があったんだ」

「アレッサンドラ、ジャコモのヴィエルジュがさらわれたようだな。

 子供達のほうは無事なんだな」

「ああ、問題ない」

「見誤ったか、てっきりルイ-ザを狙っていると思っていたんだけどな」

「どういうことだ」

「ジャコモが奪った発電機を横から奪おうとしている奴がいるってことさ」

「全てをジャコモに押し付けて逃げようって魂胆か」

「そうだな、ジュリオは無事だ、

 今はジャコモが危ない」


 そう言うとアリュウはジュリオを担ぎ上げ中で寝かせると急いで教会の裏のアイシェラとジャコモのいる場所に走る。

 トマソもその後について走る。

 


 ジャコモの横に座るアイシェラの傍にアリュウが立つとアイシェラは静かに首を振る。

 遅れてトマソが汗だくで走ってくる。


「トマソのおっちゃん、運動不足じゃないのか」

「バカいえ、お前達騎士なんぞと一緒にするんじゃねえ。

 何があった」

「騎士専用の毒だったわ。

 毒といっても騎士の体細胞に反応して組織崩壊を起こさせるウィルスだけれど」


 アイシェラがジャコモの状態を説明する。


「大丈夫なのか、そんなもの」

「騎士以外の普通の人間には無害さ。

 それに空気に触れると死滅するからな感染の恐れも無い」


 トマソの不安にアリュウが答える。

 アリュウはまだ震えている老いた女に向かう。


「この毒を誰に貰った王都でもなければ手に入らない代物だ」


老いた女の目は怯えて困惑を如実に語っている。

 

「あいつは発電機を返すつもりだったんだぜ

 言え誰がお前を唆したんだ」

「若く美しい女だった。

 発電機を取り戻すのに協力してほしいとそれで足止めだけすればいいからと。

 騎士なら矢で死ぬ事もないからと・・・」

「パパッ!」


 振り向くとルイ-ザがジャコモに駆け寄っている。


「すぐに逃げろあの娘にお前を見せたくない。

 意味はわかるだろう。

 自分の町に戻ってもうここにはくるな。

 早く行け」


 老いた女は立ち上がると振り向くことなく駆け去っていく。

 ルイ-ザはジャコモに抱きついて泣いていたがすぐにもう1人この場にいないことに気付く。


「アレッサンドラ、アレッサンドラはどこ・・・。

 パパが大変なんだよ、アレッサンドラ・・・」

「アレッサンドラはさらわれたよ。

 パパをそんな目に合わせた奴にな」


 ルイ-ザは目に涙を浮かべて、


「お願いアレッサンドを助けて・・・。

 今はこれしか持ってないけれど」


 そう言うとルイ-ザは手にしていたウサギのぬいぐるみを差しだす。


「あとで私にできることは何でもするからアレッサンドを助けてッ!

 お父さんとお母さんの思い出はもうこの子しかないの。

 私にとって大切な物なのだからこの子を置いて逃げる事はしないわお願い」


 アリュウはそのぬいぐるみを受け取り、


「分かった、アレッサンドラは必ず連れ帰ってやるよ」


 アリュウはルイ-ザにそう言うとアイシェラを連れて歩きだす。



 パイオネットと言う名の二輪駆動車に跨ってアリュウは荒野を駆けている。

 その背中にはアイシェラがアリュウの腰に手を回しって乗っている。

 視界が荒野の中の崩れた砦跡を捉える。

 その前にパイオネットを停めるとそこに置いて中に入る。

 いたるところが崩れているが歩くのに難が無い方を選んで進む。

 しばらく進むとまともに残っている区画にでる。


「当たりだな」


 床の砂や埃が荒れているのを見てアリュウが呟く。

 あとはその跡をたどるだけである。

 しばらく進むと広間のような広い部屋にでる。

 中には発電機が4つ置かれている。

 その前に1人の人物が立っており足元には・・・、


「アイシェラはアレッサンドラを頼む」

「分かったわ」


 前に立っている人間が振り向く若く美しい女の顔だ。

 そこでアリュウは少し疑問に思う。

 てっきり本人でなくヴィエルジュを手駒に使っていると思っていたからだ。


「ロベルトってのはお前か」

「ジャコモは即死だと思ったのだがな。

 娘のほうに聞いたか」


 野太く低い男の声だその顔とのアンバランスさがなお不気味さを増す。


「娘は何も知らなかったさ。

 残念だったなジャコモは生きているぞ」

「それはおかしいな。

 フェデリカは確かに殺したと言っていたがな」

「伏せろッ!アイシェラ」


 アイシェラが伏せると同時にアリュウは右手を振り上げる。

 アリュウとアイシェラを中心に風が巻き起こる。

 放たれて迫る矢が風に払い落とされる。


「あの老婆がヴィエルジュかよ。

 えげつない性格しているな」


 ヴィエルジュならば感情の制御もできるので殺意を消すのも難しくなかったであろうことにアリュウは気付く。


「当然だ、ママの顔以外に美しいものは僕の周りには必要ないからね」

「発電機の横取りといい相当歪んでいるな。

 ミケーレのおっさんを矢面に立たせて裏でこそこそしていたのも発電機を狙ってか」

「彼は妻や妹達を王に差し出しているからね。

 何も言わなくても頑張ってくれたよ」

「お前もママを差し出したんじゃねえのかよ」

「違うッ!あの日ママは自分から命を絶ったんだ。

 だからママは誰にも汚されず綺麗なまま死んだんだ」


 倒錯気味に語るロベルトにアリュウは、


「外に出ようぜ、ここじゃ発電機も壊れちまう」

「いいだろう、僕が伊達や酔狂で騎士団長に選ばれたんじゃないってことを教えてあげるよ。

 他の雑魚とは一緒にするなよ」


 アリュウとロベルトそれにフェデリカが外に出るとアイシェラはアレッサンドラに駆け寄り手当てを始める。



 外に出るとロベルトはシャ-ル・ヴィエルジュ=フランチェスコを起動させる。

 

「君もシャ-ル・ヴィエルジュを早く呼び出しなよ」

「その必要はないさ」


 アリュウはパイオネットに跨ると可変させ砲撃モードに移行させる。

 パイオネットはアンビュスカとしての能力で精製した炎を内部で増幅させる。

 

「オビュ・ドゥ・ヴォルカン」


 内部で増幅され凝縮された火球がフランチェスコにぶつかると大爆発を巻き起こす。


「うそだッ!シャ-ル・ヴィエルジュをこうも容易く破壊できるなど武器など」


 燃えあがる操縦席でロベルトは困惑しながら叫ぶ。


「ようやくママの復讐ができるのに。

 あの発電機さえあれば王都以上の兵力だって・・・」


 操縦席の後の水晶からヴィエルジュ=フェデリカが這うようにでてくる。


「ロベルト・・・」


 顔を覆っていた人口皮膚が熱で溶けていくなかロベルトの前にまわり優しく抱きしめる。


「ロベルト、大丈夫ずっと私が守るから」


 熱で意識が朦朧とするなかロベルトはフェデリカの微笑を見つめる。


「ああ、母さんそこに行ったんだね。

 ずっと捜していたんだ。

 ずっと・・・」


 フランチェスコが大爆発を巻き起こして大地に沈む。

 しばらくするとアイシェラがアレッサンドを背負って出てくる。

 

「どうだ容態は」

「自白剤が使われていたけれど思ったより少なかったわ。

 しばらくすれば意識も戻るでしょう」

「とりあえず、先にローニャの町に戻って発電機はトマソのおっさんに任せるか」

「そうね、発電機は亜空間に閉まっておいたわ」

「じゃ、行こうか」


 ローニャの町の教会に戻るとアレッサンドベッドに休ませる。

 ルイ-ザはアリュウとアイシェラに礼を言うと心配そうにその横に寄り添っている。

 教会の外で発電機をだしてしばらくするとアレッシアに連れられトマソがジュリオとやってくる。


「じゃ、あとは任せるぜトマソのおっちゃん」

「おう、これは責任を持って返しておくぜ。

 それと昨日約束したピザだ。

 うちのカミさんの自慢のピザだ。

 熱いうちに食ってくれ」

「そうか、じゃついでにこれも返しておいてくれ」


 アリュウは懐から取り出したウサギのぬいぐるみをトマソに放り投げる。


「お釣りだ。

 これじゃ多すぎるからな」


 そう言ってピザを一口かじって口に放り込む。

 まだ暖かく優しい味がする。

 横からアイシェラも1枚とってそのまま齧りつく。

 

「うん、おいしい。

 トマソさんの奥さんってお料理上手なんですね」

「おう、自慢のカミさんだ」


 アリュウはアイシェラと町の外に向かって歩きだす。


「もう出て行くのか」

「ああ、引き受けた仕事があるんでな」

「そうか、まあ元気でな。

 また寄る事があれば顔くらい見せてくれ」


 去っていくアリュウとアイシェラの背中をトマソはしばらく見送り続ける。



 その城の中には人は誰もいないが自動化された機械の管理システムが城を常に清潔に保っていた。

 人気の無い廊下を突き進みアリュウは別館の方に向かう城の5階からしか入れないその入り口に女が1人待っていた。

 アリュウが歩み寄ると女は顔のベールを外す。

 女は20代後半で美しい赤毛を肩まで伸ばしている。

 アリュウに頭を下げ中に案内する。


「依頼の報酬ですがお受け取りいただけましたでしょうか」

「ああ、問題ないこの王都にあるものなら何でも貰っていいんだろう」

「ええ、もう私たちには必要のない者ですから。

 100年以上も昔になりますわ、あの人と2人で聖地を訪れたのは。

 こう見えても結構おばあちゃんなんですよ私。

 あの人と2人困っている誰かのためにとこの身を投げ打つ覚悟で赴いたんです。

 だからあの契約にも何も疑問を持たずに受け入れました。

 たったそれだけで大勢の人を救えるならばと・・・。

 今思えばバカだったんですね私達。

 感覚が麻痺してしまうのにそれ程時間はかかりませんでしたわ。

 気がつけば誰かを救うどころか誰をも私達にかけられた呪いに巻き込んでしまいましたわ。

 あの時あの契約の正体に気付いていればこんなことにはならなかったのでしょうにね」


 案内されて辿りついたのは大きな観音開きの扉の前だ。

 女が扉を開けると中から男の呻き声が聞こえる。

 中に入ると大きなベッドの上で鍛え上げられた体の男が1人裸で悶えていた。


「契約内容は私以外の人間の女を毎日抱き続けることですわ。

 私には触れないことも含めて」

「神様から見ても仲睦まじい夫婦だったんだな」

「ええ、今でもそう思っています。

 それなら、そんなバカな契約などかわさなければとお思いでしょう。

 ですがあの時の私達にはそれが最善のことに思えたのです。

 それだけで大勢の人々を救えるならと思ったのもありますが、何よりそんなことで2人の絆が壊れることなどないと信じていたのです。

 ですが100年の時は長すぎました。

 そしてこの先も死ぬ事もできずに続くと思うと・・・。

 次第に彼から距離を置くことが増えました。

 そして私のそんな態度が彼の心を壊してしまいました。

 今ではこの城の自動機械の言うがままに女を抱き続けるだけの人形になってしまいましたわ」

 

 男は女に気付いているのか声にこちらを振り向いたまま虚ろな目でこちらを見続けている。


「今までありがとう、そしてごめんなさい。

 先に行って待ってるわね。

 世界中の誰よりも愛しているわニコロ」


 女がそう言う終わるとその首をアリュウが刎ねる。

 男は虚ろな目のまま、


「シモーナ・・・」


 呟きをかき消すような一陣の風が吹き男の首を体から斬り離す。

 アリュウはその手に炎を灯し男と女に放る。

 自動機械が消火にくるまでは部屋は燃え尽きているであろう。

 アリュウは部屋のドアを静かに閉めて城の外に足を向けて歩きだす。

 

 

 テリアの王都の入り口でアイシェラは歩いてくるアリュウを見つけて駆けだす。

 その後からはジョルジャも歩み寄る。


「お仕事終わったの」

「ああ、この街での仕事は終わりだ」


 ジョルジャがアリュウに訪ねる。


「王様はいなくなったんですよね、これからこの街はどうなるのですか」

「聖地からアヴァールがやってきて王様の死を確認するだけさ」

「この町の人達はどうなるのでしょうか」

「それはこの街の住人しだいさ。

 残された物を分かち合うか奪ういあうか。

 どのみち王がいなくなれば聖地からはもう何も与えられなくなるからな。

 発電機も何もかも聖地のメンテナンス無くしてはいずれは動かなくなる。

 何も無くてもゆるやかに滅んでいくだけさ」


 アイシェラがジョルジャに訪ねる。


「ジョルジャはこれからどうするの」

「私はローニャの町に戻ります。

 これからは私がシモーナ様の代わりに少しでも力になれればと思います」

「そうか、じゃここでお別れだね。

 町のみんなにもよろしくね」

「ええ、ありがとうございました」


 アイシェラにアリュウが呼びかける。


「さあ、行こうかアイシェラ」

「ウィ、モア・マ-テル」


 アリュウとアイシェラは王都に背を向け荒野にへと踏み出す2人の旅を続けるために。

 ジョルジャはアリュウとアイシェラの旅立っていく背中を見えなくなってもしばらく見送り続ける。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ