第八幕 合従連衡 立ちはだかる異怪
衝撃的(笑)な再開を果たした龍清と少女ですが、更に衝撃的な相手と出くわしました。
さあ、二人はどうなるのか!?
「う、うわぁあああああっ!?」
遅いくる怪物から反射的に、龍清は悲鳴を上げて、先ほどの部屋のドアを開けて逃げ込む。
だが、突然の事に咄嗟だったので失念していた。
「なっ!」
「……あっ」
その部屋に、まだ着替え途中の少女がいた事を。
さっきと違って服を着ていようといたのだが、ちゃんと着ているのはズボンだけで、上着の方はまだ着てる途中だった。
「あ、あぁ……あんたはーーーーー!!」
「ま、待って! 今はそれどころじゃ……」
背中越しだったとはいえ、上着が捲れあがってるような状態だったので、上半身の女性特有の膨らみが見えていたかもしれないが、龍清は当然、それを気にしている余裕はなかった。
さっきとは別の、もっと重大な理由で。
そして少女が龍清に殴りかかるより早く、それは龍清の後ろから迫ってきた。
『ギァアアアアアッ!!」』
「げっ! こいつは!!」
ドアを周りの壁ごと破壊し、蝙蝠にも鳥にも似た怪物が襲い掛かってきた瞬間、少女はさっきまでと違う反応を見せる。
対し龍清は得体の知れない相手に怯え、その場から逃げ惑う事しかできなかった。
「まったくもう! どんだけあたしを追っかけてきたら気が済むのよこいつは!」
「えっ!? もしかしてこの化け物に追われてるの!?」
「その話は今は後! ってか、いつまで人の体見てんのよ変態!!」
「だから好きで見てるんじゃないって! そういうなら早く服を着てよ!!」
傍から見て緊張感の無い会話を続ける中、怪物の目は二人ではなく、部屋の隅に向けられていた。
そこにあったのは何かを包んである布であった。だが、その包みに相手が目を向けてる事を知り、少女は動揺を露わにする。
「やばっ!」
素早く上着を着ると、一目散にその包み目掛けて駆け出し、怪物もその包みに向かって動き出す。
そして手を伸ばして包みを手にすると同時に、迫ってきていた怪物は、鋭い爪を少女と包みめがけて振り下ろす。
「っ……こんのっ!」
かろうじてそれをかわすと、少女は体をひねって怪物の顔に右足で蹴りを叩き込む。
『ギャウッ!?』
一瞬ひるんだその隙に怪物の下から滑り込み、腰を抜かしてる龍清の元へ近づき、その手を掴む。
「逃げるわよ!」
「うぇ!? ちょ、ちょっと!」
そのまま部屋を出ようとすると、怪物が向きを変えて襲い掛かってきた。
「やばっ!」
「ひぃいっ!?」
その時、思わず龍清は袖から呪符を投げつけた。
呪符には「雷」と書かれており、それが張り付いた途端、青白い雷撃が怪物に襲い掛かった。
『グギャアアアアアッ!?!?』
「き、効いた?」
「やるじゃん、あんた!」
怪物が雷撃で怯んだその隙に、二人は屋敷の一階へと逃げ込むのだった。
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「「ぜぇ……はぁ……」」
二人が逃げ込んだのは、一階の部屋の一室。
玄関入ってすぐの大広間ほどではないが、そこそこ広い部屋だ。そこでさっき入ってきたドアを背に、二人は呼吸を整えている。
尤も、龍清の方は頭が混乱から脱却できていなかった。
「な、何だったの今のは……?」
「何って化け物。それ以外に答えようがないんだけど……」
それは見ればわかる。と言いたかったが途中でやめる事にした。
彼女の顔を見るに、それ以上の事は何も知らないであろうことが察せられたからだ。
「それにしても、君は一体……てっ!?」
少女の方を向いたかと思えば、直ぐに目を逸らしてしまった。
何事と思い少女は視線を下に向けて、直ぐに理解する。
二階の部屋で怪物と対峙した時だろう。上着の前が裂けて前開きの状態になっていたのだ。
幸い大事なところは隠れているものの、少女の顔は龍清と同じく赤くなっていく。
「っ……あんたまた!」
「だ、だからわざとじゃないって!」
わざとではない。そうはっきりと言えるのだが、前二回の事もあり、もういっそ殴られた方が済むのかもしれないと、龍清は考え始めていた。
だが、本人の予想に反して何も起こらないので視線を戻してみると、少女は裂けた上着の裾を引っ張って何かしていた。
「? 何をして……」
「こっち見んな!」
「は、はい!」
強く言われてしまい、再び視線を逸らし、それから少しした後。
「……よし、こんなもんか」
向いていいと言われたので改めて少女の方を見てみると、彼女は裂けた上着の裾を胸の辺りにもってきて、それを結んでいた。
当然、胸元はしっかりと隠された。反面、ウエストは露わになってしまっているが、あのままの姿よりはまだましと言えるだろう。
だが龍清はそれよりも、自分に何もしてこない少女の方が気になって仕方なかった。
「……怒ってないの?」
「人に裸見られて怒らない奴がいると思う?」
「……すいません」
他意はなかったとはいえ、そう言われると返す言葉もない。
俯く龍清だが、少女の視線はさっきまでジト目だったが、直ぐに元に戻る。
「でも今そんなこと言ってられないし、あいつどうにかするまで不問にしとく」
「そうだね……でも、あんなのにずっと追いかけれていたの?」
さっきの部屋での彼女の呟きが、ここへ逃げる間も気になっていた。
龍清の問いにため息のように息を吐くと、その問いかけに答える。
「まあね。逃げても逃げても、どっかからか現れてずっとこんな感じ。子供の頃からあんなのに追われてるし、いい加減うんざりなんだけどね」
「こ、子供の頃からって……」
初めて会った時もそうだが、この少女は一体どんな生活を送ってきたのか。
しかも、あんな化け物からずっと逃げながらだ、壮絶の一言で済まされるのだろうか?
そう思い、もう一声かけようとした、その時。
「「……っ!?」」
後ろで何か異変を感じ、前へ駆け出すようにその場を離れる。
すると、それを見計らっていたかのように、ドアも壁も破壊して怪物がやってきた。
「グギャアアアアッ!!」
距離を取った二人だが、少女は柔道の受け身を取るように一回転するが、龍清はそのまま顔から転ぶように床に顔をぶつけてしまう。
「……どんくさいわねえ」
「そ、そんなこと言ったって……」
気を取り直して立ち上がって振り返ると、一歩、また一歩と怪物が迫ってくる。
「……どうするの? また逃げる?」
「……ううん。もうやめた」
そう言うと、少女は大事に抱えていた包みの結び目を解き、中身を落とさないように背中に回して首の辺りで結びなおすと、立ち上がって拳に力を込める。
「もういい加減、あいつらとの鬼ごっこにうんざりしてきたとこだし、ここで倒せば問題ないでしょ!」
「あんな怪物を相手に……無茶だよ、本当」
「何よ? 嫌ならあんたは逃げてもいいのよ」
「本当はそうしたいところだけど……」
頭を掻いていた手を袖の中に伸ばすと、そこから呪符を取り出し、構えを取る。
「僕も人に仇なす存在を調伏するのが勤めだからさ、怖いからって、逃げ出すわけにはいかないんだよね!」
「……へぇ、あんたそんな顔もできるんじゃん」
感心したように呟く少女と共に怪物の方を向くと、既に怪物は部屋の中に完全に入ってきていた。
「じゃ、せいぜい足を引っ張らないでよね?」
「善処します」
『グゥウッ……グギャアアアアアッ!!』
その言葉を合図にするかのように、怪物は二人目掛けて再びその巨体を突進させてくるのだった。
次回は鬼門中の鬼門、戦闘描写です。
一応言っておきますが、あまりクオリティは期待しないでね?(おい




