第七幕 幸何不幸 再会と的中と?
今回は龍清が遭遇します。何とかは見てのお楽しみに!
とりあえず一言、どーしてこーなったんたろー(白々しい)
その日の夜。今日も今日とて、龍清は御勤めの為に夜の町を出歩いていた。
淡く薄い青色の水干に水色の袴を着こなし、今日も祖父からの頼み(と言う名の押し付け)で悪霊調伏を終えたのであった。
普段なら祖父への不満を口にしているのだが、今日の龍清はそんな気分ではなく、足早に家路に着いていた。
(早く帰らないと……)
その思いで頭は一杯であった。
この前から続く悪寒、今朝の予知夢、そして潤たちとの会話で出てきた突然死の謎。
ここまで不吉の兆候を感じさせる、或いは想起させる事に出くわせば、誰でも夜中をゆっくり歩こうと考える者はいないだろう。
浅沓の乾いた音を響かせながら家路を急いでいると、龍清の視界にある建物が入る。
「……あれっ?」
その途端、急ぎ足だった龍清の足が、ぱたりと止まってしまった。
彼が今見据えているのは、横広の二階建ての屋敷である。
その屋敷はひと月かふた月程前、住人が引っ越しで町を出て行ったので、今は空き家になっているのだが……
(……おかしい。何で人の気配を感じるんだろ?)
見てみても、屋敷には電気一つついてない。それほど年数がたってないのでそれほど古い印象はないが、庭の草はかなり伸びており、手入れがされていないのが解る。
もっと近づいてみないとはっきりとわからないが、少なくとも人がいる感じなどしない筈だが、龍清は確かに、人のいる気配を感じるのだ。
「……行ってみよう」
それは彼にしては珍しく湧いた好奇心か、はたまた無意識に陰陽師としての何かが働いたのか、龍清は屋敷の敷地へと、足を踏み入れるのだった。
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「……おかしいな」
敷地を跨ぎ、屋敷の中へと入って行った龍清であったが、やはり人影らしきものは見かけない。
まだ屋敷の一階部分しか見て回ってないので決めつけるのは早計だが、玄関ドアの開閉音だけでも結構な音がしたのだ、気づいていいはずだ。
ちなみに龍清は今、手のひらに野球のボールぐらいの大きさの光球を持って散策している。屋敷の電気をつけると、第三者に怪しまれるので、色々面倒な事になると考えたからである。
「気のせいなのかな……」
そう思って階段を上り、二階の床を歩いて探していた時だった。
「……あっ」
恐らく二階の部屋の一つだろう。ドアは閉まっていたが、その隙間から光が漏れ出ていた。
外から見た時は光など見なかったので、恐らく、自分が入った後に誰かがつけたのだろう。
ゆっくりと足音を立てないように気を付けながら部屋の前に近づき、ゆっくりと開けた隙間から中の様子を覗きつつドアを開けていく。
「……あれ?」
人が通れるぐらいに開いたドアから体を割り込ませるように入ってみると、部屋の中には誰もいなかった。
ゆっくりと部屋の中に入り、改めて見渡してみるが、部屋の中は椅子も机もないもぬけの殻状態で、人気など微塵も感じられない。
「おかしいなあ……やっぱり気のせい?」
思わず部屋を見渡しながら言葉を口にした、その時だった。
「誰! そこにいるの!」
「っ!?」
明らかに自分ではない何者かの声。思わず龍清の腕は、片腕の袖の中へと伸びていた。
声のした方向へ向くと、そこにあったドアが今まさに開かれようとしていた。
「……えっ!?」
だが、相手の顔を見たその時、龍清の緊張感に満ちた顔は一転、驚愕の色に満ちる。それは開け放たれたドアの向こう側にいた相手も同様であった。
それもその筈、龍清と顔を合わせたその相手とは……
「あ、あんたはあの時のへたれ!」
「き、君はこの間の!」
ついこの間、カツアゲに絡まれてたところを助けてくれた、あの少女だったのだ。
「ちょっと、何でこんなところにいるのよ!」
「それはこっちの台詞だよ! 君こそどうして……っ!?」
「何よ、どうし……あっ」
突然言葉を詰まらせる龍清に疑問を抱いた少女は、そこで己の今の姿を改めて認識する。
初めて会ったときはポニーテールにしてた黒髪は下され、毛先から水が滴っている。
体に吸い付くようについている水滴と、体から仄かに立ち上る湯気が、彼女がこの先で何をしていたのかという事を容易に想起させる。
そして、それをしていたであろう彼女の体は当然、一糸纏わぬ姿なわけで……
「あっ、あああっ……」
徐々に顔を林檎のように紅潮させていく少女を見て、龍清はようやくフリーズから立ち直り、慌てふためく。
「ご、ごめん! 今すぐ出ていくから……」
「こ……このスケベーーーーーー!!」
「ひぃいいいいいっ!?」
突然殴りかかってくる少女に思わず驚き、腰を抜かしたおかげで彼女の拳は自分の後ろの壁に叩き付けられる。
頭の上に壁の屑がぱらぱら降ってくるが、気にしてる余裕など今の龍清にはなかった。
逃げなければぼこぼこにされる。確信めいた予感と、それを避けるための方法だけが、今の彼の思考を完全に占めているのだから。
そして目の前の少女は、その予感が現実であることを示すように龍清に襲い掛かる。
「このスケベ! 変態! 強姦者ーーーーー!!」
「ちょっ! 落ち着いて! 僕だって好きで見たわけじゃ……」
「問答無用!!」
「話を聞いて! って言うか見えてる、見えてるから色々と!!」
「っ!!? 忘れろ忘れろ忘れろーーーーー!!」
自分でも失言だったと気付く余裕すらなく、繰り出される拳に蹴りを必死に避けながら、先ほど入ってきたドアに近づく。
「失礼しましたーーーーー!!」
到着と同時に勢いよくドアを閉めると、そのドアに拳が当たる音を最後に、その場は静けさを取り戻す。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」
あの様子では、顔がぼこぼこどころか、そのまま殴殺されてしまうのではないか。
そう思える程に、龍清は先ほどの攻撃の数々に身の危険を感じていた。いや、自業自得と言えばそうかもしれないが……
「…………」
ふと気になって、龍清は背中のドアに耳を当ててみる。
少しは落ち着いただろうか? さっきまでの喧騒が嘘のように、いまだしんとしていた。
「とりあえず、もう少ししたら話を……っ!?」
その時、再び何かの気配を感じる。
今度は人の気配ではない、悪霊の存在を感知したときと同じ感覚、だがそれだけではない……
「っ……この感じ。もしかして……」
額から冷や汗が垂れるのを感じとりながら、感じ取った方向に顔を向けると。そこにはやはり……
『ウゥウッ……』
「悪霊……」
この世にいるのに、まるで実体がないかのような存在感。間違いなく悪霊がそこにいた。
再び袖の中に腕を入れ、中の呪符を取り出そうとする。
『……ウッ!』
その時、目の前の悪霊に異変が起こる。
『ウッ、ウゥウッ……!!』
「えっ……苦しんでる?」
自我を失ってるとはいえ、霊力によるダメージを与えれば、当然悪霊も苦しむ。
しかし、自分はまだ何もしてない。なのにどうして苦しみだすのか。答えは直ぐに訪れた。
『ウゥ……オォオオオッ!!』
突如、悪霊の背中から黒い靄のような物が吹き出し、それが徐々に悪霊の体に纏わりついていく。
「えっ……なにこれ?」
悪霊に纏わりつく靄は徐々に形を成していく。それは最早人の形ではなかった。
胴の部分は二回り以上も大きくなり、背中に当たるところから腕のようなものが生え、それが全身を支えてるようだ。
足は無く、長い尾があるばかり、それでいて両腕の部分は鋭い爪を持っており、蝙蝠と鳥を合わせたような顔をしている。
最早悪霊の面影などほとんどない。かろうじて、腹部に悪霊の顔だった部分が残っているだけだ。
さっきまで人の姿をしながら、今は鳥獣のような姿の化け物に。
「こ、これって……まさか……これが!?」
『グギャアァアアアアアッ!!』
彼の疑問の正解だと告げるように、けたたましい咆哮を上げると、悪霊が変じた怪物は勢いをつけ、彼目掛けて一気に襲い掛かってくるのであった。
どーしてこーなったんたろー(しつこい)
という訳で皆さん、次回はこのへたれスケベに着せる女装品を持参して来てください♪
龍清「なにいってるんですか!?」