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第四幕 邪霊調伏 夜の彼は……

4月2日までパソコンのネットが繋がらないのて゛、それまでは前書きのみ書いていきたいと思います。

今回は龍清のもうひとつの姿をお見せします。

あ 時刻は午後8時、空は星々の小さな光が散りばめられる真夜中の風景。

 本来ならこんな時間帯に外を歩くものなどそうはいない。だが今、人目を避けるように暗い所を歩く一人の姿があった。


「はぁ、やっぱり今日は碌な事にならない一日だったなぁ……」


 愚痴を零しながら歩くその人物は龍清だった。

 誤解の無いように言っておくと、決して彼は家を追い出されたわけでも、家を出て行ったわけでもない。


「っていうか、いつもいつも爺様は僕に押し付けてさぁ……自分のもとに来た依頼なんだから自分で解決すればいいのに……」


 文句たらたらな彼の衣装は、昼間とはまた違った、と言うより、現代の常識では異質と言える衣装を纏っていた。

 水干と呼ばれる幅広の袖を持つ和服に水色の袴、足は足袋と浅沓(あさぐつ)と呼ばれる木製の靴を履いており、その姿は、さながら平安時代の公家を連想させる。

 無論、コスプレの類ではない。この姿は彼のような家の者にとっての正装、仕事着のような物なのだ。


「大体爺様はいつもそうだ。何でもかんでも僕に押し付けてさあ。たまに僕が反論したら、『この先の短い老いぼれに重労働を強いるとは、なんと不孝な孫になってしまったのか。儂の教え方が悪かったのかのぉ……』とかわざとらしく泣き崩れて……今でも十分現役でしょうが!!」


 弾みで叫んでしまったが直ぐに我に戻り、周りを気にしながら足早にその場を去る。

 真夜中にこんな格好でいるのを誰かに見られたら色々厄介なのだ。


「はぁ……もう気持ちを切り替えて御勤めを果たそう。えーっと、確かこの先の……」


 どこか諦めた顔で人目を避けて歩き続ける事数分。到着したのは町はずれにある工場の廃墟だった。


「爺様の話では、件の悪霊はこの辺にいるって話だけど……」


 周りを見渡しながら一歩一歩敷地内へと入っていき、怪訝そうな顔をしたと思ったら、突然何かを察したかのように駆け出す。

 たどり着いたのは工場の裏手に位置する場所。そこにいたのは……


『ウゥ……ウゥウ……』


「これは……」


 普通の人が見ても、おそらく廃墟の裏に無造作に生える雑草程度しか見えていない事だろう。

 龍清にははっきり見えていたし感じてもいた。人の姿をした半透明の存在を、その存在が纏う言いようのない不穏さを……


『ウゥ……オォオオオオッ!!』


 突然その存在が叫び声をあげたかと思うと、近くにあったドラム缶が数個突然浮かび、まるで意思を持つかのように龍清に襲い掛かってきた。


「ひぁああああっ!?」


 勿論、その場にいては押しつぶされる事間違いないので、とっさに後ろへ逃げて難を逃れるが、龍清は予想外と言った心境だった。


「何が『どうせ未練たらたらで死んだ地縛霊だからお前一人で事足りるだろう』だよ! ここまで澱みが溜まってるなんて!!」


 祖父の力を考えれば、この事を知らなかったはずがない。

 毎度のことながら、自分を何度嵌めれば気が済むのか。龍清の中で諦めより怒りが込み上げてくる。


『ウォオオオオッ!!』


「……っ!?」


 今度は相手が獣のような咆哮を上げると、途端に龍清の足が動かなくなる。

 まるで石化でもしたようにピクリとも動かせなくなり、そこへ目の前の相手がゆっくりと近づいてくる。


「爺様め……」


 悔しさと怒りがないまぜになった顔を浮かべるが、こういう不幸な事態に見舞われてくる中で身に付いた頭の冷静な部分が彼に告げていた。


 “破天荒で悪戯好きな祖父だが、見当はずれの事を言ったことはまずない”と。


「……ああもう! 帰ったら後でうんと文句言ってやる!!」


 もうやけくそ。そう自分でも解る位に叫ぶや否や、動く腕を袖の中に伸ばし、取り出したのは三枚の長方形の紙。

 それに何かを込めるように呟きながら相手めがけて飛ばす。


「……破!」


 そして龍清の掛け声一つで、三枚の紙は突然相手の前で爆発した。


『ウゥ!?』


 突然の爆発に相手がひるむと、龍清の足が動くようになる。

 そして、相手の動きが乱れたこの時を逃さない。


「はっ!」


 更に三枚の紙、霊符を取り出すと、それを相手の足元に投げつけ、それが相手を三方向から囲むような形になる。


「現世に留まりし御霊よ、その魂に澱む穢れを祓い、あるべき場所へと還りたまえ。急々如律令!」


言霊と共に印を切ると、三枚の霊符は先ほどの爆発の時と同じ光を放った瞬間、相手を囲むように光の渦のようなものが立ち上る。


『オォオオオオオッ!!』


 悲鳴の如き叫び声と共に光の渦が収まると、さっきまで龍清の目の前にいた人の姿をした『何か』は、影も形もなくなっていた。


「……ふぅ、一件落着かな」


 服をパタパタさせて砂埃を払いつつ周りを見渡すが、他にそれらしい存在を見ないし感じない。おそらくこれで依頼は終わったものだろう。


「それにしても爺様め……あそこまで強くなってる悪霊だなんて、教えてくれてもいいじゃないか。人目を避けて陰陽事に務める僕の身にもなってほしいよ……」


 この町では、一般では決して認められない職種の者達が人々に認知され、頼られている。

 表向きは占術で人の運勢を占い、時には加持祈祷によって病気の快癒などを祈り、しかしこうして人目のつかない所では、人に害をなす悪霊を調伏し、人々の平穏を保つ。

 このような職種の者達を、町の人々は「陰陽師」と呼んでいる。龍清もまた、そんな家に生まれ、「御勤め」と呼ばれる悪霊調伏を行っている一人なのである。


「毎度毎度、僕に調伏仕事を丸投げしたと思ったらこれだもん。もう今日と言う今日ははっきりと言ってやらなきゃ。僕だっていつまでも丸めこまれてばかりじゃ……っ!?」


 文句を言い募らせていたその時、背筋に今までとは違う何かを感じ、後ろを振り返るが何もいない。キョロキョロと周りを見渡すが、やはり何もいない。


(気のせい。いや、でも……)


 確かめるように両腕を掴むが、やはり気のせいには思えなかった。

 悪霊とは違う、もっと何か、おどろおどろしい感じが残っているようだった。


「は、早く帰った方が良いかも。遅くなったら、また爺様に何か言われそうだし……」


 未だ悪寒に似た感覚に戸惑いながら、足早にその場を去っていく龍清。

 一刻も早く、その感じから逃れようと思っていた彼は、この時気づく余裕などなかった……





















 自分の背を見つめる、不気味な影の存在に……

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