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第九幕 絶体絶命 迫りくる死の使い

 今回はいよいよお待ちかねのバトルです!

 えっ? 誰も待ってない? では今後は龍清の女装シーンを増やすことに……


龍清「でたらめ言わないでください!!」

『グギャオオオオオッ!!』


 突っ込んできた怪物は勢いのままに口を開いて襲いくるが、二人は左右に分かれて攻撃をかわす。


「こんのっ!」


 そして少女は素早く、相手の支えになってる背中から生えてる翼腕に蹴りをかます。


「どうよっ!」


 手応えを感じていたが、怪物は少女の方を振り向いたかと思うと、右腕を振るい、鋭い爪を横に薙ぎる。


「いっ!?」


 よけきれない! そう思ったその時、今度は反対側にいた龍清が動いた。


「爆!」


 翼腕に張り付いた三枚の呪符が、掛け声と共に爆発したのだ。


『グゥウッ!?』


 その爆発により、一瞬手の動きが鈍った事で、少女は間一髪爪をかわし、隙を狙って一気に怪物の懐に飛び込む。


「腹の方は流石に軟らかいでしょ!」


 そういってさっきとは別の足を思いっきりあげて怪物の腹を蹴りあげる。

 決まったと思ったが、少女は自分の腹を覗き込む怪物の平気そうな顔と、動き出した左腕を見てしまう。


「ちょっと!?」


 さっきとは違いそれほど速くはないが、自分に向かって伸びてくる腕と爪に、逆の方向へと逃げる。

 だが、怪物の腹部から出てきた直後、少女は尻尾に捕まってしまう。


「この、離せ! 離しなさい!」


 尻尾に度々肘打ちを食らわすが、当然効果がなく、蹴ろうにも足が届かない。その内に徐々に自分を絞める力が強くなってくのが解る。


「……やっば」


 そろそろ本気で胴が悲鳴を上げ始めた所へ、尻尾に何かが張り付くのが見えた。


「我が力、集いて破魔の刃と成りて、穢れを断ち切らん!」


 声のする方向を向くと、そこには口上と手を動かす龍清の姿が。


「急々如律令!」


 そして二つ指で一文字に切り裂くような手の動きと共に、怪物の尻尾が、彼の言葉を体現するように切断された。


『グギャオオオオっ!?』


「うわっ!?」


 切断された尻尾と共に落っこちた少女は、その後尻尾の中から抜け出して龍清と合流する。


「もうちょっとあたしがいる事も考えてほしいわね」


「そう言われても……他に有効な手が思いつかなかったんだけど……」


「まあ、助かったから良しとするけど……」


 だが、正直二人の顔は芳しくない。

 さっき切断された尻尾は霧散したかと思うと、切断面に集まって再び尻尾の形をなすのであった。

 さっきまで二人はそれなりに攻撃をした。なのに向こうはダメージをまともに受けた様子が無く、唯一それっぽい所も再生してしまう有様だ。


「……ちょっと不利すぎない?」


「まあ、本気で相手するのはこれが初めてだけど、何となく予想してたわ」


「……今さらだけど逃げるって選択肢は?」


「あると思う? んで、あいつがそれを許すと思う?」


「ですよねー……」


 解っていたことだが、既に怪物は少女だけでなく、龍清までも完全に視界に収めている。完全に逃がす気なしだ。

 しかしここまで圧倒差を見せつけられると正直心が折れそうだ。と言うより、龍清は既に折れかけてる気分だ。


「まあ、こっちもちょっと小出ししすぎたかもね。一発でかいのぶちかませば、少しは逆転できるんじゃない?」


「でかいのって……」


 子細を聞こうとした途端、少女は龍清の肩に手を置く。

 その行為が意味するところを理解できなかったが、次の言葉に龍清は言葉を一瞬詰まらせる。


「っつうわけで、何とかして」


「えっ? 僕任せ?」


 自分の肩に手を置いてのまさかの委任に思わず間の抜けた表情をしてしまう。

 「冗談だよね?」そう聞きたかったが、それを察したのか、少女の方が先に口を開く。


「さっきまで雷だの爆発だの切断だの、あたしよりすごいことしてたくせに、まさかとっておきの一つもないとか言わないでよね?」


「いや、それなら君だって、この前とび蹴り食らわせたりしてたよね?」


「仕方ないでしょ? 向こうは何か打撃効かないっぽいんだし」


「それなら僕の術も効果がないみたいだったのに……」


『ギャアアアアッ!!』


 そうこう言いあってる間に怪物は二人いる所を襲い掛かってきた。

 何とか二人はかわすが、このままでは埒が明かないのも事実だった。


「とにかくあんたが何とかしなさい! あたしが何とか気をひきつけておくから!」


「ああもう! どうなっても知らないからね!?」


 こうなったらやるしかない。何とか自分を奮い立たせ、袖の中の呪符を取り出す。

 一方の少女はその隙に翼腕を殴ったり蹴ったりで、うまく怪物の意識を自分に向けさせている。

 とはいえ、そう長くは持たないだろう。


「今のうちに……」


 その隙に龍清は、呪符を部屋の壁に張り付けていく。

 怪物の所為でそれほど動けるスペースは広くないが、一枚、また一枚と、前に張った呪符との位置関係を見ながら呪符を張っていく。

 だがその間にも、少女の方は限界に近づいてきた。


「ちょっと……流石にここまでってずるくない?」


 かなり体を動かしたため呼吸は乱れ始め、さっきまで相手に当てていた拳や足にはじんわりと痛みが広がってきている。

 既にかなりの数打撃を叩き込んだはずなのに、怪物はそれをまるで、蚊に刺されたほどにも感じている様子はなかった。


『グゥ……ギャウッ!』


「うおっと!?」


 横に薙ぐ腕をかわすが、右肩の辺りに一筋の傷ができる。

 しかも背後は壁、もうこれ以上はかわすだけの余力がない。


「ちょっと、早くしてよ! これ以上は持たないわよ!?」


「解ってる……って!」


「えっ? おわっ!?」


 龍清が自分目掛けて何かを飛ばしてきたのを反射的に躱す少女。その行動が龍清にとっては必要だった。

 少女がさっきまでいた壁の背後に呪符が張り付くと、その瞬間、部屋の雰囲気が一気に変わる。

 龍清が部屋のあちこちに張った五枚の札、それが光を放ったかと思うと、それぞれが光の線を放ち、互いに別の呪符へと飛んでいく。それによって形作られたのは、星の形。


「木火土金水、五行相剋、万魔覆滅、急々如律令!」

 

 言霊を唱え終わると共に、星の形となった光は怪物を包み、巨大な光の柱を立ち昇らせた。


『グギャアァアアアアアッ!?!?』


 光に包まれた怪物は、その光の柱の中で悶え苦しむように激しく体を動かす。

 その間に二人は合流したのだが、あっけにとられる様子の少女に対し、龍清は安堵の表情をしていた。


「う、上手くいったみたい。よかった……」


「何が「どうなっても知らないから」よ、すごいのやっぱ持ってたんじゃない」


「いや、これ結構難しいんだからね? それに本来、一挙殲滅型の術みたいだから、単独の相手にどこまで効くかどうかはまだ……」


『グァアアアアアッ!!』


 突然聞こえた怪物のけたたましい鳴き声に振り向くと、怪物は胴の両腕で体を支え、背中の翼腕で光の壁に爪を立てていた。

 するとどうだろう。龍清の奥の手をまるで嘲笑うかのように、怪物を閉じ込めていた光の柱はガラスが割れるように破壊されてしまう。

 再び二人を、さっきより険しくなったように思える双眸に、二人の顔はお互いにはっきりわかる程蒼白になっていた。


「ちょ、ちょっと何よあれ! あんなに派手だったのに見かけ倒し!?」


「だから効くかどうか解らないって言ってたじゃないか!! っていうか、もう完全に打つ手がなくなったんだけど、どうするの!?」


「あたしにだってわかるわけないでしょ!!?」


 そんな口論の間に、怪物は腕を伸ばしてくる。そしてそれに一足早く気付いたのは、龍清だった。


「危ない!」


 それは本当に反射的だった。

 少女を突き飛ばした刹那、怪物の腕は龍清をそのまま壁に押し付ける。

 鋭い爪は彼の体や顔に刺さってないようだが、かなり勢い良く壁に叩き付けたその衝撃は、推して知るべし。



「こいつ……」


 少女は今すぐ駆け出そうとした、龍清を助けるためにだ。

 だが、さっきの陽動で消耗し、思うように体が動かず、その隙を怪物は逃さなかった。


「なっ……あうっ!?」


 翼腕が足で虫を潰すように、少女を踏みつけた。二人は完全に捕らえられてしまったのだ。


 ミシミシ……


「がっ!? うぅ……」


 自分を壁に押し付ける力が強くなっていくのが解る。

 さっきの事を相当怒ってるのだろうか、怪物は少女を逃がさないようにしつつも、龍清をずっと睨みつけていたかと思うと、おもむろにもう片方の腕を振り上げる。

 その腕は今までのように振り上げるのではなく、怪物の顔と同じくらいの位置で水平に、爪が壁に刺さるように上げる。その狙いは勿論……


(……あっ、もう終わったかも)


 誰でもこの後どうなるか、解る事だろう。

 爪を自分に突き刺し、それで頭か顔か、いずれにしても突き刺された自分は全てにおいて終わる。

 頭はそこまで考え付いたが、ここでいつもの龍清とは違う物が胸中に浮かんでくる。


(死ぬのか? ここで、僕は……)


 生あるもの、いずれ死を迎える。こんな家業をしている龍清は、齢14にして、それを理解していた。していたつもりだった。

 生きる者の宿命、それがいつか自分にも来る。それは何十年先かもしれないし、明日の事かも知れない。日々を過ごしながら、頭の片隅にずっと置いていた思考だ。

 それが今、目の前に来てる。だがここにきて、彼にとって当たり前の瞬間なのに、今までと相反する感情が膨れ上がっていた。


(……嫌だ)


 より強い力で壁に押し付けられ、呼吸も苦しくなってくる。

 そして焦点がぼやけ始めた視界が、自分に向けられる鋭い凶器が、今まさに迫ろうとするのを捕らえてた。


「やめろーーーーー!!」


 部屋全体に響くように少女の声が聞こえる。だが逆にそれを合図にするように、怪物の爪が自分に向かって空を裂いていく。

 だがこの時、その場にいた誰もが気づかなかった。

 この場にある一つの物が、光を放ち始めていたことを……


(僕は、僕は……!!)


 そして、彼の中で膨れ上がる思いに応えるかのように、それは輝きを増していった事を……

 さあ、次回は龍清が……


龍清「女の子になるとか言う気でしょ? なりませんからね!」


 ちっ! 先手を打たれたか。


 ともあれ、次回をお楽しみに!

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