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世界滅亡は突然に

作者: 篠宮六郎

 緊張で手汗が酷く、口の中もからっからだ。

 きっと顔色だって悪くて、そんな俺は幽霊と呼ばれて差し支えない。


 流行りの曲やネット界隈で有名な曲が幾つも流れ、冬なためか暖房も強くかかっている。

 見知らぬ人がゲームに熱中するその場所、ゲームセンターで、一人俺は透明な立方体を前に震えていた。


"くっくっく……貴様に取れるかな?"


 赤いレバー、コイン投入口、キモカワで人気のなめちゃんことナメクジ。


"くはっはっは……足が笑っているぞ?"


 騒音激しいこの場所で直接脳内に響くテレパシーのような謎の声。

 だけど、けれど伝わってくる臨場感はその声の言葉が真実だということを示していた。

 そう、こいつは魔王を自称し、言ったんだ。


"あれを十回以内に取らなければ……世界は滅亡だ。ほっほっほ……"


 あれ――塩に溶けそうになってるなめちゃんと好物の飴を舐めるなめちゃんとアヘ顔ダブルピースをしてるなめちゃんに囲まれた黒い球体。

 それをゲットしなければ……世界が、滅ぶ……。


「なんで!?」


 そんな当たり前のツッコミは言われて数分が経過した後だった。


「おかしくね!? 色々おかしくね!?」

"ぐふふっふ……突然元気になりよった……錯乱でもしたか?"

「そりゃするわ! 一人でカラオケ行った帰りに好きな子が好きなぬいぐるみ見つけてよっしゃ取ろうってコイン入れた瞬間に世界滅亡の話聞かされたら動きも止まるわ!」

"うわぁ……一人でカラオケとか……しかも下心丸出しだし……"

「ヒトカラは現代では普通なの! それに思春期なの!」


 友達いないけどな!

 泣いてないけどな!


"ふへっへっへ……いずれにせよ貴様は……"

「あとその笑い方! 統一してくれよ! もう小悪党みたいになっちゃってんでしょうが!」

"うむ? おかしいのう……効果的に印象付けるには色々な表情を見せるのが一番とあったのだが……"

「色々な笑い方って意味じゃないからな!? なんで魔王が啓発本見てんの!? 恋したいの!? 恋しちゃってんの!?」

"き、貴様に話すことではないわ"

「なにちょっと照れてんだよ! 渋い中年ボイスで照れられてもなにも楽しくないよ!?」

"……貴様うるさい"

「拗ねてんじゃねぇよ!」


 そりゃうるさくもなる。感嘆符を連打したくもなる。原稿用紙があったら三枚は感嘆符で埋めたいくらい。


「なんで……なんでUFOキャッチャーで世界滅亡決めるんだよ」


 恐ろしいのはこいつが言っていることが本気だということだった。

 なにか証拠があるわけじゃない。違う世界を滅亡させてきた、ってわけでもない。

 ただ単純に伝わってくるのだ。

 こいつは世界を滅亡させるだけのなにかがある、って。


"わしこれ好きでな"

「そんな理由で……。なんで俺なの?」

"次の人にしよーって思ってた"

 性質の悪すぎる当たり屋だった。


 さて、吐き出したいことを全て吐き出してみて冷静になってみれば、俺の手にいま世界の命運がかかってるわけだ。その重みばかりはテンションやノリで回避できるほど甘く優しいものじゃなかった。

 そもそもそんなものはリア充に任せていただきたい。

 勇者ってやつは大概リア充だしな!

 と現実逃避してみたところで悲しきかな、黒い球体は依然として存在して、あれをゲットしなければ世界は滅ぶ。どう滅ぶかは知らないけれど、この人間味溢れた自称魔王があっという間に世界を滅ぼす。


 黒い球体を凝視した。


 なめちゃんに囲まれた球体はすっぽりとなめちゃんにハマっている。けれどストラップがぴんと天に伸びていて、その穴にアームを通せば取ることはできるだろう。

 しかしストラップの穴とアームの大きさは見立てでは同等だった。

 近場のゲーセンを荒らし渡っている伝説のキャッチャーマン(ニート)なら余裕かもしれないけれど、俺にそんな技術はない。運だ。


「……よし」


 クレジットは10を表示していて、一回目。

 右に動かし、次に奥に動かすシンプルなタイプのUFOキャッチャー、そのレバーを俺は倒した。


"どぅっどぅっどぅっどぅっ"


 魔王が音楽に合わせてメロディーを口ずさんでいる。ノリノリだ。とても楽しそうだ。こっちはそれどころじゃないってのに。


「ここだっ!!」


 目標地点に到達したことを見計らってレバーを奥に倒――折れた!?


「あ……」

"あ……"

「えと……」

"……"

「これは、その……」

"……"

「……」

"滅亡"

「やっぱり?」


 そして世界は滅んだ。


前半に比べて後半の勢いが……。

それに伴ってオチが……。

なんともいえない消化不良の感覚。

いや読んだ側の方がきっと消化不良だろうから、申し訳ないと謝ります。

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