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天啓

「いい天気だなー」


 雲一つ無い紺碧の空を見上げる。

 小さな鳥達が戯れ、青い舞台を舞い踊る。

 頬をそっと撫でられ視線を落とすと、涼やかな風が青々と茂った草の上を駆けて行く。

 近くを流れる小川からは、水の細やかな演奏が聞こえてくる。


 そんな心地良いこの風景の中、俺が何をして居るかと言えば……。


 畑の草むしりである。


 ただ、ひたすらに無心に雑草をむしる。

 むしる。

 むしる。

 むしる。


 脇を見れば、腰の高さぐらいまでむしった草が積み上がっている。

 連日、草をむしっているはずなのに、一向に終わりが見えてこない。

 暖かな太陽の恵みを受けて、凄い勢いで雑草は生える。

 あぁ、太陽が憎い。


 元の世界の両親はサラリーマンであり、農作業等ほとんどした事が無かった俺。

 こちらの世界に来て、始めて携わる本格的な農作業。

 初めこそ新たな体験で、興味深く楽しかったが、やはりそこは良く聞く話。

 農作業は、思ったよりも過酷な重労働である。

 しかも、こちらの世界はほぼ全ての工程が手作業で行う。

 石等を取り除くのもそうだし、土を耕すのも、畝を作るのも、雑草をむしるのも、収穫を行うのも全てである。

 もちろん農薬等も無いから、虫を駆除したりするのも手作業だ。

 食べ物の安全性から言えば、無農薬なのは良いのかもしれないが、効率の面から言えば手間隙が掛かりすぎる。

 科学の変わりに発達している魔法でなんとかならないものだろうか?


「お! かなり草が減ったな」


 エイナルが鍬を片手に、曲がった腰を叩いて伸ばしている。

 なんというか、爺むさい。


「むしってもむしっても、きりが無いよ」

「この時期は仕方がないな。 でも、これをしっかりやらないと良い作物が取れないから、しっかりやらないとダメだぞ」

「それはそうなんだけど、もっと簡単に雑草を減らす方法とか無いの?」

「うーん、魔法でそういう事が出来るっていうのを、聞いたことが有るような……うーん、思いだせん!」


 魔法あるのかよ。

 雑草を減らす魔法ってどういう魔法だ?

 どうやってやるのかが分かれば、魔法の練習がてらにこっそり試してみるんだが……。


 というか、本当に魔法って何でも有りだと感じさせられる。

 実際には、魔力が足りずに実行出来ない事が多いのだろうが、属性に気をつけて、魔力さえあれば何でも出来るんじゃないかと最近思う。


「そういえば、昔お婆様がやっているのを見たことが有るわよ」


 少し離れた所で、草むしりを行っていた母のモニカが、草を抱えてこちらにやってくる。

 俺がむしった量の倍はあるだろう。

 ちょっと悔しい。

 ちなみにこの草は家畜の飼料にするらしい。


「師匠が?」

「ええ、確か火の魔法を使ってたのかな?」

「雑草を火で焼くのか? 確かにそれなら簡単だけど、危なくないか? 下手すりゃ火事になるし、作物に燃え移ったら目も当てられないぜ」

「そうなんだけど、その後いつもなら凄い勢いで生える雑草が、凄く少なかったのよ」

「どういうこと?」

「う~ん、私にもわからないけど、お婆様は土を浄化したとか言ってたかな?」

「もしかして、その後そこで作物が沢山取れたとかなかった?」

「よく分かったわね! そうなの! その年の畑は凄い豊作だったみたいよ」


 これは、焼畑農耕みたいなものじゃないだろうか?

 本来は森林なんかで行う農耕だった気がする。

 昔学校の授業で、砂漠化の進む原因の一つみたいな感じで教わった覚えが有る。

 デメリットばかり教えられて、悪い農耕方法のようなイメージがあるが、実際は数十年で畑と森林を循環させる農耕で自然にも優しいものだったはずだ。

 今回は、草地での話しなので全く同じじゃないんだろうけど。

 雑草の勢いが落ちたのは、たぶん地面に落ちた種が焼けて発芽しなかったからだろう。

 そういえば、公園の管理してる人が、バーナーで雑草を焼いている光景を見たことが有る。

 あのバーナーがまるで魔法の道具のように見えたもんだ。


「じゃ、じゃあ、家でも試してみようぜ!」


 言うが早いか、急いで家に帰ろうとするエイナル。

 少し落ち着け。

 数年家族として一緒に生活していて、エイナルが良い奴だというのは非常に実感しているし、妻のモニカには頭が上がらないが、いざとなれば頼りになる事も知っている。

 俺の事で色々苦労しているだろうに、そんな事をおくびにも出さず、明るく前向きな奴だ。

 ただ、若さゆえかたまに後先考えずに走り出すことが有る。

 息子としては、もう少し落ち着きを持ってもらいたいものだ。


「ちょっと待ってよ! 確かに浄化した年は沢山作物が取れたんだけど、次の年は逆に不作気味になったそうよ」

「もう一度、浄化してもらったら良かったんじゃないか?」

「勿論やった上での事よ」

「うーん、一度しか効果が無いのか。 でも、一度でも効果が有るならやって見ないか?」

「それで、次の年から不作になったらどうするのよ! それに、その後小火騒ぎなんかもあったんだから、やめておいた方が良いわ」


 それが懸命だと思う。

 多分不作になった原因は、元々森林ほど地力がないであろう草地の為、一年で地力を使い切ったとかだと思われる。

 元々焼畑農耕は広大な土地が必要な農耕方法だ。

 狭い土地を村人で分け合ってる現状に、合っている方法だとは思えない。

 そして、小火なんぞ起こせば、それ悪魔のせいだなんだのと言われるのが目に見えている。

 

「僕もやめておいた方が良いと思うよ。 火事になったら大変だし」

「ルーイまで反対かよ。 うーん、じゃあ仕方ないから、普通にやりますかね……っと!」


 除草が出来た部分へ、再び鍬を振るい始める。

 

「そうそう、地道が一番よ! 今でもとりあえず暮らせてるんだから、変な事せずに頑張りましょ」


 そう言いながら俺の隣にしゃがみこんで、草むしりを再開する。

 母親であるモニカは若干保守的である。

 たまに突っ走る父、それを止める母と言った構図が家では出来上がっている。

 なかなか良い夫婦だ。

 子供としては嬉しく思い、そして少し羨ましくも思える。


「よし! もうすぐ昼だからこの辺が終わったら昼ご飯にするか」

「じゃあさっさと済ませましょ。 ルーイは昼からお婆様のところに行くのよね?」

「うん、今日も行くって言って有るよ」

「毎日毎日熱心だな。 父さんが子供のときは勉強なんて見るのも嫌だったんだがなー。 ちなみに、今はどんな事をしてるんだ?」

「最近は文字のほかにも、算術を教えてもらってるよ」

「おぉ! もう算術が出来るのか!? 実は父さんも少し出来るんだぞ!」


 出来るともまだ言ってないんだが、えらい食い付きようだな。

 算術はまだ早かっただろうか?

 というか、識字率自体低いらしいこの世界だと、算術がちゃんと出来る人は少ないのかもしれないな。


「じゃあ、問題出すぞ! 父さんと母さんがいます。 父さんはアプルの実を3個、母さんは5個持っています。 二人ともお昼ご飯に1個ずつ食べてしまいました。 さて、残りは何個でしょうか?」


 うん、母親のほうがアプルの実を沢山持っている設定の辺りが、地味に二人の力関係を表してるよね。

 

「……えーっと、父さんが2個で……、母さんが1、2、……4個。 合計で6個かな?」


 考えるほどの問題でもないが、流石に即答もまずいかなと思い、指を折りながら数える振りをした上で、少し伺うように答える。

 最近、こう言った演技が微妙に上手くなってきた気がする。

 あんまり嬉しくないけど。


「おぉ! 正「うーん、凄い!!」」


 モニカがいきなり抱き付いて頬ずりをしてくる。


「流石、私の子だわ! やっぱり天才ね! 天才なのね! あぁ、きっとこの子は偉い学者様か商人になるわ!」


 凄いテンションで撫で繰り回される。

 簡単な計算一つで喜びすぎだろう。

 まあ、親ってのは得てしてこんなものなのかもしれないが。

 されるがままにしている俺は、母親とは言え美人なモニカに抱きしめられて嫌ではないが、流石にちょっと恥ずかしい。

 体格のせいで屈んだモニカのおっぱいが、ちょうど顔の辺りに来るのだが、これがエイナルのものだと思うと少しイラッと来たので、自分も抱き付こうと近寄って来るエイナルを雑草の山を使って牽制しておいた。


 いつか俺もこんなおっぱいを手に入れよう。




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




「おーい、エイナル!」

「うん? あぁ、ガイか。 どうした?」


 村の方から、少しくすんだ金髪に、チョコレート色に焼けた肌をした男がこちらに歩いてくる。


「おっ! 皆で畑作ってたのか。 ルーイもまだ小さいのにお手伝いとは偉いな!」


 そう言って、俺の頭をガシガシと撫で回す。

 今日はこんなのばっかりだな。


「やめてよ、ガイおじさん!」

「ハッハッハ! 照れるな照れるな! 褒めてるんだから、喜んでおけ!」


 いつもながら、無駄にテンションの高いおっさんである。

 エイナルの昔からの友人で、俺のことを避けたりしない数少ない大人の一人だ。

 常に豪快に笑っており、若干暑苦しいが、人の良いおっさんで面倒見も良い。

 元冒険者とかで剣や弓の覚えも多少あるらしく、他の村人達から狩りの際には頼りにされている。

 ただ本人曰く冒険者としての才能が無かったらしく、すっぱり諦めて田舎に帰ってきたらしい。

 突っ走るときのエイナルを強化した感じなのだが、このおっさんの影響であんな感じになったではないだろうかと、俺は考えている。


「それで何か用か?」

「あぁ、それがよ、どうやら近くの森にゴブリンが出たらしくてな。 何か起こる前に討伐しようって事で、今日の晩に村長の所に男共は集まれだそうだ」

「ゴブリンか、村の近くまで出てくるなんて珍しいな。 どれぐらいの数がいたんだ?」

「いや、見かけたのは一匹らしいんだがゴブリンだからな。 一匹見たらなんとやらだ。 本当に一匹だけのはぐれだったとしても、もし村の近くに巣なんぞ作られたらたまったもんじゃねーし、さっさと狩った方が良いだろ」


 ゲームなんかでもお馴染みのゴブリン来ましたよ。

 まだ俺自身は見たこと無いが、小人のような姿をしており、人間を襲う魔物として認識されているそうな。

 一匹一匹の力は強くなく、知能もそこまで高く無いが、ゲーム等で出てくる雑魚というほど優しい相手ではないらしい。

 ガイのおっさんが言うとおり、まさにゴキブリのような奴らで、繁殖能力がかなり凄く一匹見かけて下手に放置すると短い期間で巣を作り、気が付いた時には数百匹になっていたなんてことも有るらしい。

 他にも、繁殖するに当たって人間の女性を襲うことも有り、ゴキブリ以上に嫌われている魔物である。

 なので、ゴブリンを見かけたら早急に討伐することになっている。


「そうだな。 少しでも早いほうが良いだろう。 今晩、村長の家だな!」

「ねぇ、ゴブリンってどの辺りで見つかったの?」

「うん? 確か南東の森の少し入った辺りだって聞いてるぜ。 何か有るのか?」

「いえ、この子がいつもお婆様の所に出かけてるから、ちょっと心配で……」

「おぉ、そう言えばルーイは最近ばあ様の所へ入り浸ってるんだったな! 今回の発見地点とは反対側だし大丈夫じゃないか? しっかし、その年で熟女好きとは、なかなか業が深いねー!」

「そんなんじゃないよ! 師匠には文字や算術を教えてもらってるんだよ!」


 まったく、このおっさんは何時もこんな調子で困る。

 小さな子供に言う冗談じゃないだろ。

 ほら見ろ、モニカが凄い睨んでるじゃねーか。

 おっさんはおっさんで、気が付いているのかいないのか、まったく気にしてないし。


「ガッハッハッハ! そうかそうかあのばあ様が師匠か! そりゃすげーな!」

「もう良いよ。 僕はそろそろ師匠の所に行くから」

「あっ! こら待ちなさい! やっぱり一人は危ないから、ゴブリンの討伐が終わるまでお婆様のところへ行くのはやめた方が良いわ」

「大丈夫だよ! ガイおじさんが言う様に師匠の家は西側だし、暗くならない内に早く帰るから」

「でも……」


 家の母はどうも心配性だな。

 とは言え、小さい子供相手なら心配になるのも当たり前か?


「分かった。 ルーイ気をつけて行くんだぞ。 あとお婆様によろしくな!」

「ちょっ、エイナル!」

「大丈夫だよ。 この子は賢い。 ルーイを信じてあげよう」

「うー、分かったわよ……。 ルーイ本当に気をつけて行くのよ」

「うん! 出来るだけ村の中を通るようにするよ」


 本当なら村の中はあまり通りたくないが、二人に心配はあんまり掛けたくないしな。

 エイナルは村の中を通ることに、少し眉を顰めたが何も言わなかった。

 ガキ共に見つからないように、気をつけて通り抜けるとしよう。


「よし、じゃあ俺は帰って飯にするぜ! じゃあ、ちゃんと伝えたからな!」

「あぁ、ありがとうな! また今晩!」


 ガイのおっさんはヒラヒラと手を振って帰って行った。


「さて、俺らもさっさと帰って昼ご飯にしようぜ!」

「そうね」


 それ以降特に会話も無く、それぞれが手早く仕事を片付ける。

 モニカと俺で手早く残りの草をむしり、そこをエイナルが簡単に掘り返した所で今日の農作業は終了となった。





■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




「師匠ー、ルーイです」


 日に焼け、煤けた色になっているドアを叩く。


「ほいほい、ちょっと待つのじゃ」


 中から軽い足音がこちらに近づいてくる。

 ドアの前で止まると、若干立て付けの悪い音と共にドアが開かれた。


「ちと遅かったの。 今日は来ないのかと思うたぞい」

「いえ、ちょっと午前中の作業が長引きまして……って、師匠! 幻術の魔法は如何したんですか!?」


 目の前にいる師匠は、幻術で作られた老婆の姿ではなく、本来の少女姿である。

 慌てて周りに誰もいないか確認するが、元々村の外れに位置する場所の為、他に人の気配はない。


「師匠! 誰かに見られたら如何するんですか!?」

「うん? あぁ、これか。 いや、お主にはばれてしもうたし、もういいかの~なんて思ったりしての」


 慌てる俺とは対照的に、何でもなさそうに答える師匠。

 最近、日に日に適当な性格になってきてるんだけど、こっちが素なのだろうか?

 人間も年を取ると、色んなことに対して適当になったりするけど、そういえば師匠も結構な歳なんだよな。

 

「いやいやいや、今まで頑張って隠してきたんじゃないんですか?」

「うーん、それなんじゃが、よくよく考えてみれば別にばれても問題ないかと思うての。 昔ならいざ知らず、今ならハーフエルフだからといって露骨に差別も受けんじゃろうし、もし受けたら受けたで村を出てみるのも良かろうて。 昔の約束も十分果たしたじゃろうしの」

「そ、そんな、師匠は村を離れようと思ってるんですか?」

「もしもの場合は、そうなっても構わんと思っておるだけじゃよ。 お主の事も有るし、今の所離れる予定は無いぞい」

「それなら、ばれない様に気をつけましょうよ。 どっちでも良いならばれない方が良いでしょ」

「分かった、分かったのじゃ、とりあえず中に入るが良い。 今日はちと晩に用事が出来たでな、あまり時間がないのじゃ」


 入り口を閉めながらそう言い、部屋の奥の何時もの定位置へ移動する。

 俺も師匠に続いて、いつもの向かい側の席に腰を落とし、先ほど気になった点を聞く。


「さっき言ってた晩の用事って、もしかしてゴブリンの件ですか?」

「なんじゃ、お主も知っておったのか?」

「はい、さっきガイおじさんから聞きました」

「あぁ、ガイの小僧か。 そういえば、エイナルと昔から中が良かったの。 しかし、ゴブリンの事を知っておったのに、此処まで一人で来るとはの……あんまり親に心配かけるものではないぞ」


 どうやら、俺が今日来たのはゴブリンの話を知らなかったからと思っていたようだ。

 確かに、魔物が近くを彷徨いているとなれば、外出は控えるよね。

 もちろん、両親に心配掛けるのは本意ではない。

 しかし、ゴブリン如きに俺の魔法への探究心は止められいのだ!


「大丈夫ですよ。 今日は早めに帰りますし、出来るだけ村の中を通るようにしますから。 それに、いざとなれば僕の魔法でゴブリン如きイチコロですよ!」

「ハッハッハ、今のお主では詠唱を行ってるうちに、食べられてしまうのが落ちじゃな」

「ぐぬぬ、まあそうなんでしょうけど、少しぐらいは夢見ても良いじゃないですか」

「ゴブリンとは言え、魔物相手に魔法使いが単独でやりあうなんぞ、余程の腕利きか、ただの自殺志願者じゃろうよ」


 残念な事に、この世界の魔法使いというのは、単独で戦うのには向いていない。

 魔法を使用するには呪文の詠唱に時間が掛かるため、どうしてもその時間を稼ぐ必要が有る。

 パーティ等であれば、他の者が時間を稼いでいる内に詠唱出来るだろうが、単独となると戦いながら詠唱を行うといった離れ技を行わなければならない。

 中にはそれを行う凄い魔法使いもいるらしいが、そこまで来ると魔法使いというよりは、魔法戦士という感じである。

 事実、この世界の魔法使いは体を鍛える事も、修行の一つらしい。

 実は師匠も、ああ見えて強かったりするのだろうか?


「分かってますよ。 本気でやりあおうだなんて思ってませんし、見かけたら速攻で逃げます!」

「まあ、すぐ討伐されるはずじゃから大丈夫じゃろうが、本当に気を付けるんじゃぞ」


 本物のゴブリンを見たことが無い俺には、いまいち実感がわかないが、師匠の言葉には普段より若干真剣味が増しているような気がする。

 やはり、俺が思っているよりも危険なものなのだろう。


「それで、今日は何をするんじゃ?」

「土魔法について、教えて欲しいです!」

「うーん、土魔法か、儂は土属性があまり得意ではないから、あまり期待するでないぞ。 して何が知りたいんじゃ?」

「そろそろ土魔法の練習も行おうと思うんですが、どんな魔法が有るのかと思って」


 色々、思いつくのは有るけど、どうせなら師匠の意見も聞いておきたい。

 俺が思いつかない魔法も有るかもしれないしね。


「そうじゃのう、基本的なのは穴を掘る魔法や、土を操作して壁を作ったり、岩の塊を飛ばしたり等かの。 穴を掘るのは色んな場面で使えるし、土を操作する魔法は熟練すれば、小さな建物等も作れるらしいぞ」


 やはり、その辺か。

 俺も自分で考えた際に、直ぐに出て来たのがこれらの魔法だ。

 実際汎用性が高く、使えて損は無いと思うのだが、面白味にかける気がする。

 何事も基本は大事だと思うが、遊び心も大事である。

 何かないものか……。


「それらは僕も良いと思うのですが、他にも何か無いでしょうか? 僕が思いついたのだと、土を操って足場を悪くする魔法や、体に纏って鎧の様にしたり、出来るか分かりませんが金属の精製とかなんですが」

「ふむ、面白い使い方を考えるの。 実際に使えるかは分からんが、試してみても良いんじゃないかの?」

「一応試してみるつもりですが、他にも何かないかと思いまして」

「そうじゃのー、土、土、土……他に何かあったかのー?」


 二人共が、腕を組み頭を捻りながら考え込む。

 俺の想像力が乏しいのか、先程あげた魔法と似たようなものしか思いつかない。

 やはり、最初に挙げた基本の魔法を、練習していくのが無難だろうか。


「おぉ、そうじゃ! あれがあった!」


 椅子を後ろに倒す勢いで立ち上がると、本棚の中から一冊の古い本を引っ張り出してくる。


「これじゃ、これ!」


 表装はかなり朽ちており、本の題名が読み取れない。

 かろうじて読める文字に『人形』というの単語がある。


「何の本ですかこれ? 人形って書いてる見たいですけど」

「うむ! これは大昔の人形使いが書いた本でな。 『ゴーレム』について書かれておるのじゃよ」


『ゴーレム』


 その単語を聞いた瞬間、雷が閃いた様に頭からつま先へ駆け抜けるような感覚が走った。


「これだっ!!」

「な、なんじゃ! どうしたんじゃ!?」

「これですよ、これ! 僕が探していたのはきっとこれに違いない! 流石、師匠!!」

「は? え……と、と、当然じゃ! 何しろ儂はお主の師匠じゃからの! 儂に掛かればこのぐらい当然なのじゃ!」


 薄い胸を仰け反らす師匠はとりあえず置いておく。

 視線を机の上に落とし、天啓とも言える一冊の本を見つめる。

 先程まで、ただの古びた本にしか見えなかったものが、今では淡い光を放つ聖書のようにさえ見える。

 歓喜が体中を駆け巡り、興奮しているのが自分でも良く分かる。

 震える指先が、愛おしい者に触れるかのごとく、本をそっとなでる。


 これがあれば、あの夢が叶えられるかもしれない。

 いや、必ず叶えてみせる!!

 どんな障害が在ろうとも、必ずそこに至ってみせる!!


 俺はようやくこの世界に来た真の意味を悟ったのだ。



 そう、俺は……俺が今此処に存在するのは……。









 俺の俺による俺の為のメイドゴーレムを作る為だったんだっ!!!








ようやく色々と物語が動き出して参りました。

村に迫り来るゴブリンの危機!

天啓と共にもたらされたルーイの夢は叶うのか!

乞うご期待です!


作者のレベルアップの為にも、ご意見・ご感想等、宜しければお願いいたします。


ちなみに、エイナルが出した問題に登場したアプルの実は、りんごのような果実で近くの森で採れる一般的な果物です。

煮て良し、焼いて良し、生で食べても良しの優れものです。

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