才能の片鱗?
連続で同じ人物が会話している部分を、一つにまとめました。
ケケン……ケケン……。
窓から聞きなれた鳴き声が聞こえてくる。
外を見てみると、まだうす暗い中を鶏ぐらいの大きさの茶色い鳥が、走り回っている。
ボモロ鳥という鶏に似た家畜で、お祝い等の際にご馳走として食卓に上る鳥だ。
脂が良く乗っており、元の世界で普段食べていた鶏よりも味が濃く、なかなかに美味い。
日の出の少し前に先ほどのような変な声で鳴くため、目覚まし代わりにもなっている。
30分もしない内に、東の空が白み始めてくるだろう。
まだ暗い部屋の中、さっさとベッドから抜け出し、寝巻きから服を着替える。
体調は普段と変わらないが、寝起きにもかかわらず、テンションが異様に高くなっているのが自分でも良くわかる。
なにせ待ちに待った日が、遂にやって来たのだから仕方が無いと言うものだ。
そう、俺の魔法生活第一日目となる記念すべき日が!
昨日は散々な目にあって、最高の気分から最低まで真っ逆さまだったわけだが、嫌な事があっても、一晩寝るとかなり気にならなくなる自分の性格が、こういう時はありがたい。
とは言え、ケルビン達に会う度に絡まれていては堪らないので、何かしら対策を立てたい所ではあるが、これと言って良い解決方法が思いつかないのもまた事実である。
ここは、亀の甲より年の功で、お婆様に相談してみるとしよう。
黒髪の事についても何か知っているかもしれないしな。
ただ珍しい髪の色だから差別されていると言うのならまだ良いのだが、実際に悪魔は黒い髪をしているとか、呪われると黒い髪になる等と言った事場合は面倒なことになる。
脱色するか染めるとかしないと、どこに言っても酷い扱いをされそうだ。
お婆様に話を聞いて、対策を考えることにしよう。
現状では情報が少なすぎて埒が明かない。
とりあえず、お婆様のところへ行くのは昼からなので、朝食と畑仕事に付き添っての観察をするとしよう。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
トントン!
「お婆様、ルーイです」
──ガタンッ!──
「ル、ルーイかい!?」
「はい、そうですが……」
何やら慌てたような反応が返って来た。
待ちきれなくて、いつもよりかなり早く来てしまったのだが、まずかっただろうか?
お婆様にも色々用事があるだろうし、ちょっと浮かれ過ぎていたかもしれない。
「ふう……、開いてるからお入り」
「失礼します」
少し反省しつつ戸を軽く押し、室内へと入る。
お昼を過ぎたばかりで、外は太陽が降り注いでいるが、室内は小さな窓から入ってくる明かりのみで、少々薄暗い。
この前ほどではないが、やはり草の匂い強い。
改めて室内を見回すと、壁には乾燥した草や植物の根の束が掛けられており、棚には所狭しと色んな石や物が雑多に置かれている。
家主以外はどこに何があるかわからないような混沌振りである。
ある意味魔女の家らしいと言えばらしい。
そんな家主は、いつもと変わらない姿で部屋の奥に陣取り、色んなものを机の上に広げている。
「えらく早かったねぇ。 そんなに待ちきれなかったのかい?」
「はい! もちろんですよ!」
あまりに待ち遠しそうにしていたため、親父が気を使って午前の仕事を早めに切り上げてくれたのである。
「ホホホ、そうかいそうかい、直ぐに準備ができるから、ちょっとそこに座って待っていなさい」
お婆様に勧められた通り、机の横に設置されている椅子に座り、改めて机の上の品々を見てみる。
お約束の水晶玉に始まり、色の付いた欠片が入った試験管や、どう使うのか不明な器具等が並べられている。
水晶玉に関しては、この家に来るようになった最初の頃に、触らされた覚えがあるが、これが魔法の才能があるかどうかを見極める道具なのだろうか?
「どうかしたかえ?」
「この水晶玉は、この前触ったやつですよね? これで魔法が使えるかどうかがわかるんですか?」
「そうじゃよ、こいつは大気を溜め込む性質があっての、練魔領域を持っているものが触れると、大気が揺らいで水晶玉の中が光ったり影が出来たりするんじゃよ。 この揺らぎが大きいものほど魔法の才能があると言うことじゃな」
「僕はどうでしたか?」
「ルーイはなかなか見所があるようじゃぞ。 努力次第では良い魔法使いになれるかもしれんの」
流石に飛びぬけた魔法の才能があるとか、ご都合主義的な事は起こらないようだ。 残念。
しかし、魔法が使えると言うだけでも御の字である。
努力次第では良い魔法使いになれるという、お婆様の太鼓判も頂いたので、此処はひとつ頑張ってみますかね。
「どれ、用意が出来たので、始めるかの」
「はい。 まず、何をするんですか?」
「まずはこれじゃな……」
机の上に並べた器具の中から、試験管を取り出してくる。
複数の試験管が並べられており、その中にはそれぞれ赤・青・緑・黄の4色の欠片が入っている。
「これを使って、お主の属性を調べるぞい」
「お婆様、この中に入っている物は何ですか? 色的にそれぞれが4属性を表してるっぽいのはわかるのですが」
「ホッホッホ、これは精霊石の欠片じゃよ」
精霊石キター! ゲーム等でよく耳にする中2心溢れる単語である。
しかし、この世界では初めて聞く単語だ。
ゲームなんかだと、凄い貴重品だったり、世界を揺るがすような代物だったりするんだが、こっちではポピュラーな物なのだろうか?
「この世界には、精霊がいるのはもう知っておるの? その精霊達が沢山いる場所で採れるのが、この精霊石という物でな。 精霊が死ぬ際に、その力の一端が結晶化して出来たものだと言われておる。 石には生み出した精霊の力が残っておって、装備品などに加工することで魔法の威力を上げたり、魔法への耐性を付与したりする事が出来るのじゃよ」
「そんな凄いものなら、貴重なのでは?」
「そうじゃの、拳ぐらいの大きさの物で、大きな屋敷が買える位じゃの。 じゃが、今此処にあるやつは純度も低く、小さな欠片じゃからの大した値打ちはないんじゃよ。 昔は村の近くの森で、結構採れておっての。 他所からも一攫千金を狙った若者が押し寄せて来たもんじゃが、今では取り尽してしまって、こんな小さな欠片が稀に見つかるぐらいじゃな」
ゴールドラッシュのようなものだろうか。
拳ぐらいの大きさで屋敷が建つと言うのだから、金よりも価値が高いのかもしれない。
希少性も然ることながら、有用性も高いと来れば価値が高くなるのは当然である。
今度、森に行く事があったら、ちょっと探してみるとしよう。
もし仮に見つけられれば、人生イージーモードに突入だからな。
まあ、村の寂れ具合からして、本当に取り尽してしまっているんだろうけどね。
だけど宝くじも買わなきゃ当たらない訳だし、やっぱり夢は持たなくちゃ!
「こんな欠片では大した価値も無いんじゃが、属性を調べる試薬にはなるんじゃよ。 早速やって見るかの。 手を出してみなさい」
言われたとおり、手を差し出す。
「ちょっと、チクッとするぞい」
そういうと、小さな裁縫針を軽く蝋燭の火で炙り、差し出した手の指先に軽く突き刺した。
鋭い痛みと共に、指先に赤い小さな珠が出来上がる。
そして、出来上がった赤い珠を、無色の液体が入った湯飲みのような器に垂らした。
「ホッホッホ、泣かずによく我慢できたの」
「いや、流石にこれぐらいで泣きませんよ」
「そうかい、そうかい。 ルーイは我慢強い子じゃの。 ホッホッホ」
完全に子ども扱いである。
まあ、見た目は子供なんだけど。
「ほれ、これを傷口に塗り込んでおきなさい。 ババ特性の、カモネ草で作った傷薬じゃ。 よー効くぞい」
小さな陶器の器が差し出され、濃い緑色をした軟膏が中に入っている。
カモネ草というのは、村の周辺に良く生えている草で、蓬のように葉を磨り潰すと傷薬として使える。
お婆様特性と言うことなので、たぶんカモネ草以外にも色々入っているのだろう。
折角なので、お礼を言い針で刺された辺りに摺りこんでおく。
「よし、それでは調べてみるかの」
お婆様は慣れた手つきで先ほどの液体を、精霊石の欠片が入った試験管に少しずつ注ぎ込んでいく。
全て注ぎ終わったところで、呪文のようなものを唱える。
唱え終わると、部屋の窓に移動し、吊るしてあった布で窓を覆い部屋を暗くした。
先ほどは判らなかったが、並べられた試験管が発光しているのが見て取れた。
特に4本目が、一番明るく発光しており、切れかけの豆電球ぐらいだろうか?
次に2本目が4本目より少し弱い光を放っている。 他の試験管にいたっては更に弱い発光となっている。
「お婆様これは?」
「これはの、お主の血液に含まれた小気に反応して、精霊石が発光しておるんじゃよ」
「じゃあ、この光が強い精霊石の属性が僕の得意属性ってことですか?」
「そうじゃ、4本目の発光が一番強いから、ルーイが一番得意なのは土属性じゃの」
「また、微妙な所がきましたね……」
土属性と言われて、頭に浮かぶのが土で壁を作ったり、穴を掘ったり、地震を起こしたり、岩を飛ばす等そんな辺りである。
なんというか、印象として……非常に地味である。
ゲームなんかでも、他の属性に比べて補助的な魔法が多かったり、攻撃方法が地味だったりとそんな印象が強い。
地震を起こして敵全体にダメージを与える魔法なんていうのもゲームで見かけるが、屋外の平野で地面が揺れたからといって、混乱したり動けなくなる事は在るかもしれないが、何でダメージが入るんだ? とよく思ったものである。
それとも、地形が変わるぐらいの地殻変動が起こすというのだろうか。 これならばダメージも納得だが大掛かり過ぎるだろ。
それに比べ、火属性なら単純に燃やしたり爆発すれば、それだけで攻撃になるし、水も相手を凍らしたり押し流したり、ウォーターカッター等もある。 風は竜巻や真空の刃辺りだろうか?
やはり、それらと比べると土属性は、ちょっとがっかりである。
「微妙というのは、どういうことじゃ?」
「いえ、他の属性に比べると何と言うか……地味かなと」
「ホッホッホ、確かに派手さはあんまりないかのぉ。 じゃがの、土属性も捨てた物ではないぞ」
「例えば?」
「そうじゃの、畑を耕したり、落とし穴を作って狩をしたり、家の土台を作るなんて事が出来るぞい。 どうじゃ、工夫次第で生活の色んなものに役立つんじゃぞ」
どうじゃ凄いだろ! みたいな感じで言ってくる。
うん、役に立つ! 凄い役に立つと思う!
でもね……でもね。 違うんだよお婆様。
そう言うんじゃないの。
魔法って言ったら中2病の王道の中の王道な訳ですよ。
そんな、魔法が使える!ってなって、どんな事する?って時に「HAHAHA! 魔法のおかげでこんなに簡単に畑が耕せてヤ○マー要らずさ!」
って、違うよ! それ王道じゃなくて農道だよ!!
確かに両親は喜んでくれるだろうけど、全然違うよ!
もっと、こう浪漫溢れることに魔法を使いたいんですよ。 押し寄せる化け物を派手に魔法でぶっ飛ばすとか、万の軍勢を相手に一人で戦争するとか。
なんか物騒なものばかり出てきたけど、とりあえずそういうスーパーヒーロー的なことがやってみたい訳ですよ。
なのにこの魔法の在る異世界でも、リアルという名の壁が俺の前に立ちはだかると言うのだろうか。
どこの世界でも現実は無情である……。
「そ、それは凄く役に立ちますね……。 ワーイ、ウレシイナー」
「棒読みのような気もするが、何にせよ魔法は工夫次第じゃ。 工夫さえ出来ればお主が望むことも出来るじゃろうて……(多分)」
「なにか、最後のほうに聞こえた気がしますが、そうですよね! 工夫が大事ですよね!」
「うむ、そうじゃ! 頑張って魔法道を歩むが良いぞ!」
「はい! お婆様!」
こうなったら何が何でも努力と根性と気合で、土属性の王道を歩んでやると俺は固く決意した。
「ところで、お婆様……」
「どうしたんじゃ、急に落ち込んで?」
「いえ、僕の一番得意な属性が土というのは納得したのですが、他のも光ってると言うことは一応使えるんですよね?」
「うむ、土よりは効率は落ちるじゃろうが、使えるはずじゃ」
効率が落ちると言うのがどれほどかは判らないが、一応使えると言うことなので、土属性以外での浪漫も一応捨てずに置いておこう。
「しかし、土もそうですが、他の属性も光が弱々しいんですけど、あんまり才能はないんでしょうか?」
「何を言う取るのじゃ。 これだけ光っておれば凄いほうじゃぞ」
「えっ!? そうなんですか?」
てっきり、光が弱いので才能ないのか?と思ったのだが、どうやら違うらしい。
この子何言ってんの?みたいな目で見られてちょっと悲しいです……。
知らないものは仕方が無いじゃないか。
「うむ。 お主が得意なのは土>水>火=風といった感じじゃが、苦手な火や風ですら弱いながらもしっかり光っておったからの。 普通の者なら苦手属性は、ぼんやり光ってるかどうかというぐらいじゃ。 お主以上に才能のあるものも沢山おるじゃろうが、これで才能が無いと言ったら、世の魔法使いに刺されるぞい」
そこまでとは、思わなかった。
お婆様のテンションが若干高かったのは、これが理由だったのか。
とりあえず、魔法の才能があって困るものじゃないので嬉しい限りである。
「一応、成長と共に小気の量と練魔領域の大きさは、若干じゃが増えるとされておるから、お主の場合は更に才能が伸びるじゃろうて」
何と!
これは、漲って来たーー!
「では、早速魔法を使ってみたいのですが、どうやればいいですか!?」
「ホッホッホ、まあそう慌てるでない。 魔法を実際に使う前に小気を扱えるようにならんとの」
今こそ王道をひた走らんとする寸前に、盛大にブレーキを踏まれる。
やはり、才能があって呪文を唱えれば簡単に使えると言うものではないと言うことだ。
「小気を扱うには、どうすれば良いのですか?」
「まずは、己の中にある小気を感じる所からじゃの。 そして、小気を感じられるようになったら、それを自分の意思で操作出来るように練習するのじゃ」
「小気を感じろと言われても、どうやれば良いのかまったくわかりませんが……」
「うーむ、こればかりは人それぞれ感覚が違うらしくての、具体的な方法と言うのは無いんじゃよ。 とは言え、2年もやっておれば自分にあった感じ方と言うのは、分かるものじゃよ」
「な、なんですと……」
2年という言葉に、自然と両手と両膝が地面へと落ちた。
もっと簡単に魔法が使えるものだと思っていたのだが、甘かった様だ。
誰しも一度は通るであろう、自分の中に隠された力を探す修行をしないといけないだなんて……しかも、2年も。
座禅を組んで瞑想のようなものをしてみたり、アニメや漫画のキャラの真似をしてみたり、なにやら記憶の奥底に埋めて忘れ去ったはずの黒いものが、垣間見えた気がした。
いや、しかしよく考えてみれば、ここは異世界であり、小気というものは実在するわけで、それが実際に己の内に在ると言うのならば、それは痛い行動ではなくれっきとした修行と言えるのではないだろうか?
そう! 誰に見られようと一切恥ずかしい事ではなく、魔法の修行として良くある光景として受け入れられるはず!
ならば、これは王道!
胸を張って、小気を感じる修行を行おうではないか!
まあ、2歳児の俺が魔法の修行してるだなんて知られると面倒なので、実際にやるのは誰も見ていない部屋でやるとしよう。
決して恥ずかしいとかじゃないんだけど、これは仕方ない!
あー、仕方ない!
「ルーイ!」
「は、はい!? なんですか?」
「いや急に固まったかと思うと、変な笑い方をしだしたので、声を掛けたんじゃがどうかしたのかえ?」
ちょっと、変な方向にテンションが上がってしまったようだ。
たぶん、奥底に眠る黒いものを見たせいだろう。
「とりあえず、大丈夫なんでもないです!」
「そうかえ? じゃあ、試しにやってみるかえ?」
「分かりました。 あ、ちなみにお婆様はどんな風にやってるんですか?」
「ババかね? そうじゃの、何て言えば良いのか……例えるなら体の中に渦巻く風があっての、その風を感じるという具合じゃの。 感じ方は人それぞれじゃから、小気をあると確信してイメージする事が大事じゃの」
うん、まったく分かんない。
体の中に風なんか全然感じない。
やはり、個人差と言うことなのだろう。
とはいえ、やるしかないのは変わらないので、気合を入れ試しにやって見る。
「と、とりあえず、いきます!」
「2年は掛かるものじゃ、そう緊張せずに気楽にやるがええ」
「は、はい」
と言ったものの感じる方法が思いつかないので、半ばやけくそな気持ちで記憶の黒い部分から、それらしいものをチョイスする。
背筋を伸ばした状態で足を肩幅に開き、若干腰を落とし、体の力を抜く。
そして、両手を臍の下辺りにもって行き、息を吸うと共に手を腰まで上げ、息を吐くと共にまた下げる。
所謂「丹田呼吸法」である。
たぶん、色々間違っていると思うが、イメージする事が大事とお婆様も言っていたので気にしない。
呼吸を何度も繰り返していると、段々と心が落ち着いてくる。
考える事が徐々に減ってきて、その分臍の下の丹田に意識を向ける。
しばらく呼吸を繰り返していると、丹田の辺りに何か暖かい光の玉のような物を感じるようになって来た。
更に、その玉へと意識を集中させる。
玉はやがて回転を始めて、光の流れが出来始める。
光の流れは、血管を流れる血液のように、体全体を流れ循環しだした。
これが、小気か?と考えた途端に、光の流れを見失いそうになり慌てて集中しなおす。
余計なことを考えないようにして、光の流れを追う事にだけ集中する。
段々とではあるがその流れを感じるだけでは無く、調整出来るようになってきた。
上半身への流れを絞って、下半身へ流れる量を増やしてみたり、光の玉の回転を早めて光の循環を速くしたり出来るようだ。
しかし、足の指を個別に動かそうとした時の様な感じで、素早く正確というには程遠い。
そして更にこの光を追っていると、体の中に別の空間のような物を感じる事が出来た。
方眼紙のように、網の目上に線が引かれた空間である。
自分の体の中に、別の空間があるという感覚は初めての感覚で、不思議な感じがする。
この感覚を忘れないように、心に刻み付ける。
色々試してみて一段落付いた所で、光の流れや体の中の空間を捕まえている感覚を手放した。
数回、呼吸を繰り返し落ち着いたところで、目を開いた。
眼前には、目を見開いて口をぽかーんと開けているお婆様の姿がある。
心なしか、お婆様の姿が霞んで見える。
目を擦って再度見てみると、ちゃんといつものお婆様である。
「あ、あのお婆様大丈夫ですか?」
恐る恐る声を掛けてみるが、ただの屍のように反応が無い。
目の前で手を振ってみるも、これまた反応無しである。
「まさかボケたか?」
「ボケとりゃせんわい!!」
急に動き出したのお婆様に驚き、飛び退いた。
「ルーイッ!」
「ハイ!ごめんなさい!」
「うん? 何を謝っておるのじゃ?」
「い、いえ、何でもないです!」
ボケたとか言った事を怒られると思い咄嗟に謝ってしまったが、どうやら違うらしい。
「お、お主、今小気を操ってなかったかえ?」
「えぇっと、やっぱりあれが小気だったのでしょうか?」
「儂が見ていた限りでは、小気がお主の体を循環しておった様に感じたんじゃが、どうやったんじゃ?」
「どうと言われましても……」
どう説明したものだろうか。
前世の事なんて言っても、頭がおかしいか子供の嘘としか取られないだろうし、自分でもこんなに簡単に出来るとは思ってなかったわけで。
とりあえず、前世の関係の事は省いて説明しよう。
「呼吸を落ち着けてですね。 何となく自然体で、集中していると光の玉のような物を感じて、更に集中してるとその玉が回転し始めて光の流れが出来たって感じでしょうか」
「他には何か感じたかい?」
「そうですね……、光の流れはある程度調整出来る事が分かりました」
「な、なんじゃと!? どの様に調整できたんじゃ!?」
「特定の部位に流れる量を調節したり、流れる早さを変えることが出来ました」
「……なんということじゃ……」
さっきまでの勢いが急に消え、ストンと椅子に着席した。
「……な、何か拙い事をしたんでしょうか?」
お婆様の様子に、急に不安になってくる。
そんな、俺の様子にお婆様は慌てたように首を左右に振る。
「イヤイヤ、悪い事ではないのじゃよ。 寧ろその逆じゃ。 お主は、普通2年は掛かると言われとる小気の感覚を、言われたその場で獲得したのじゃ。 あまつさえ、さらにその先の小気の操作までやってしもうたのじゃから、開いた口が塞がらんとは正にこの事じゃ」
「あっ、すいません。 あと、体の中に別の空間があるような感覚も感じたのですが……これって……」
「ファーーー!」
なんか、お婆様から変な音が出た!
体も小刻みに震えている。
「……ルーイ、お主は儂の心臓を止める気かえ?」
「いえ、そんな気は滅相も」
「はあ……、それはおそらく練魔領域じゃろう……」
「あ、やっぱりそうなんですかね? なにやら方眼紙のように網目状の線が描かれている感じがしました」
「お主の感じ方はそうだったんじゃな」
「しかし、練魔領域までもとは……どうなっておるんじゃ」
「2歳で流暢に言葉をしゃべり、魔法に強い関心を示し、小気や領域の感覚すらも直ぐに獲得してしまう……お主本当に一体何者なんじゃ?」
「……お婆様も、僕の事を悪魔の子だと思いますか?」
「いや、すまんすまん。 悪魔で無いと言う事は、ババが確認しておるし間違いないぞい。 今のはババが悪かった。 許しておくれ」
「……いえ、謝らないでください。 僕の方こそすいません。 本当になんでこんなに色々な事が出来るのか分からないんです」
「そうかい、やはりお主は何か大きな運命を背負っておるのじゃろう。 それが何かまではわからんが、今から魔法を学んで損にはなるまい。 しっかり励みなさい」
「はい!」
今回はいつもの2倍ぐらいの文章量になってしまいました。
最初組んだプロット的には、これ以上に内容を詰め込む予定だったのですが、さすがに無理すぎて分割しました。
文章はこれぐらいが良いのかや、無駄な文章を書きすぎているのか等、自分では良く分かりません。読んでくださる方の感想や評価を頂けましたらとても嬉しく、そして非常に助かります! どうぞよろしくお願いいたします。