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悪魔の子

足元から長い長い影が目の前に伸びている。


思っていたより、お婆様の話に夢中になっていたようで、空が赤く染まり始めている。

しかし、それも仕方ない。

ようやく、ようやくである……。

この世界に来て、早2年。

大人の意識に、満足に動けない赤ちゃんの体というのは、なかなかに面倒なもので、色々我慢しなければならないことも多かった。

だが、そんな体もまだまだ未熟なれど自由に動き回れるようになって、元の世界では御伽噺の中だけのものだった魔法にもうすぐ触れることが出来るのだ。

これが、浮かれずに居られようか……。



否!!



意味もなく後ろを振り向いて指をビシッ!と虚空へと突きつける。

端から見ると、急に振り向いて空を指差し、ニヤニヤしている姿は不審者そのままである。

2歳児で良かった。

しかし、どうしても頬は緩み、足元はふわふわと浮き立ってしまう。

こんなに「嬉しい」と思ったのは、何時以来だろうか……。

足を動かしながらも、記憶を掘り返してみるがなかなか思い出すことが出来ない。

少なくともここ数年でこれほど喜んだ記憶がない。

学生を終え、就職し、歳を取る毎に感情が鈍磨していた気がする。

自分でも気が付かないうちに、変化の無い生活に慣れてしまっていたようだ。

いや、慣れたから変化の無い生活になったのだろうか……。


なかなかヒットしない記憶の検索をやめ、明日は何をさせて貰えるのか等に思考を変えて行く。

お婆様は準備しておくって言ってたけど、何の準備だろうか?

漫画や小説なんかの定番だと、この辺で魔力の量を測ったり、属性の判別を行ったりとかが来るんだが、さてさて。

属性なんかは人によって得意不得意が有るって言ってたけど、俺は何が来るかねー。

やっぱり、分かりやすい火が良いだろうか?

うーん、攻撃魔法と言えば、火の属性が一番想像しやすいんだが……。

しかし、他の魔法も色々ネタは思いつくからそれはそれで捨てがたい。

ていうか、いっその事全部の属性に適正有りなんていうチートでも全然構わないんだがな!

あぁ、早く使ってみたい!


もちろん、そんな魔法を使って活躍する妄想も次から次へと止まらない。

とっくに卒業したはずの中2病の再発である。

一人で万の軍隊を相手にし、ドラゴンすらもバッタバッタとなぎ倒す、何処の勢力にも属さず、どこかの聖帝様みたいに退かぬ・媚びぬ・省みぬな生活──省みないのはちょっとまずいか?──をしてみたい。

そんなありえない事が本当に出来るかもしれないのだ。

可能性はもちろん低いかもしれないけど、それでもゼロじゃない!

決して届かないってのが、もしかしたら届くに変わった訳だ。

これはやるしかないだろ。


「あぁ、今晩は眠れないかもしれないな」



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



舞い上がっていた俺は、村の中心に差し掛かった辺りで、ひとつミスを犯してしまった事に気が付いた。

普段お婆様の家との行き帰りには、村の裏道を通っている。

そう、わざわざ村の中心を避けて遠回りしているのだ。

なぜ、そんな面倒な事をしているかというと、その理由は現在目の前にいるこいつらのせいである。


「おい、悪魔野郎がいるぞ!」

「うわっ! こっち見た!」

「みんな呪われるぞ! 逃げろーーハハハハハハ! 」


そう言って逃げる振りをしつつ、遠巻きにニヤニヤこちらを見る子供が三人。

歳は5、6歳と言ったところだろうか。

見るからに悪ガキといった感じである。

その中でも一番背の大きい少年が、この村のガキ大将的な存在で村長の息子のケルビンだ。


やっぱり村長の息子というと、良い物を食べて栄養状態が良いから、体が大きくなるのだろうか?


眉をハの字にしながら、そんな事を考えていると、何も反応を返さない俺にイラついたのか、ケルビン達がさらに野次を飛ばしてくる。


「お前は悪魔だから髪が黒いんだろ!」

「悪魔はとっとと魔王のところにでも行けよ!」

「そうだ! そうだ! 悪魔は村からでてけー!」


うーん、どうしたもんか……。

こいらに会うと何時もこうなのである。

確かに俺の髪は真っ黒で、元の世界の俺と同じ髪色である。

両親のエイナルとモニカは茶髪と金髪だ。

最初は、考えたくも無いが何かしらの不貞行為があり、その結果が俺なのかも? 等と、考えたこともあったが、両親の仲は見る限り問題無しというよりも、かなり良好と言えるだろう。

もしかしたら、俺の見えない所でゴタゴタがあったとも考えられるが、二人の様子を見ているとそうとも思えない。

それに、他の村人も今まで見た中には黒髪の者は居なかった。

少なくとも、この村の誰かと……なんて事は無いだろう。

村の者に黒髪が居ないのに、俺の頭は真っ黒。

さらに、お婆様を呼んでのお払い騒動に、2歳児とは思えない言動。

これらの事から、村の大人達も露骨な態度には出さないが、どこかよそよそしく、そんな空気を子供達も感じているのかもしれない。

そして、初めて絡んできたこいつらに、身体的特徴で人を中傷するのは良くないと、2歳児にあるまじき言動で注意したのがまずかったのかもしれない。

どうやら子供ながらに立派に自尊心を持っているらしい。

自分が子供のときの事等もう覚えていないが、俺も持っていたのだろうか?

2歳の子供に言い負かされるというのは、6歳ぐらの子供でも屈辱に感じたようで、それ以来、俺の姿を見かけると、他の子供達も加えて罵倒してくるのである。

流石にこんな子供立ちの悪口如きに、腹を立てたりはしないが、言われて嬉しい事もないので、普段は会わない様にしていたんだが……今日は失敗してしまった。


どう切り抜けようか考えてると、ケルビン達は痺れを切らして遂に石を投げつけてきた。

これは流石に勘弁して欲しい。

小さな石とはいえ、こちらは2歳児だ。

いくら中身がおっさんだからと言っても、体はまだまだ小さく柔いのである。

頭にでも当たれば、下手をすれば大怪我だ。


「ちょっ、ちょっとやめてください! 当たったらどうするんですか!?」


非難の声を上げてみるが、止めるどころか、ようやく返って来た反応に気を良くしたのか、更に悪口を言いながら石を投げつけてくる。


「よし、悪魔なんか俺たちがやっつけてやるぞ!」

「おー! 皆やれーやれー!」


飛んでくる石の量が増して、これは一旦戻ったほうが良さそうだと考えて、踵を返そうとしたその時。

石礫のひとつが、ちょうど顔目掛けて飛んできた。

今の2歳児の体では華麗に避ける等と言った芸当はもちろん無理で、咄嗟に右手で頭を庇うのが精一杯だった。


「グッ!」


石は右手の甲に命中したようで、鋭い痛みが走る。

右手を見てみると、傷口から血が滴り地面に小さな丸い染みを幾つか作り出している。

指を軽く動かしてみると、どうやら骨が折れたりとかはしていないようだ。

流石に子供のする事とは言え、直接危害を加えられて若干心がイラつく。

石を投げつけて来た子供達を睨み付けると、石を当てるつもりまでは無かったのか、血を見て怯んだのか石を投げる手は止まり、ばつが悪そうな表情をしている。

だが、その中でもケルビンだけは後に引けないのか、威勢よく声を上げながら、他の子供達をまだ煽動しようとしていた。


「ほら! お前らもっと投げろよ!」

「で、でも、すごい血でてるじゃん……」

「だ、だから、どうしたってんだよ! あんなの掠り傷じゃん! もう少しであの悪魔をやっつけられるんだぞ!」

「も、もういいんじゃない?」

「なんだよお前ら、びびってんのか!? だったら俺一人でやっつけてやるよ!」


そう言うと、ケルビン足元の先ほどよりも大きな石を拾い上げ、こちらに向かって投げてきた。

いい加減応戦しようかと思ったその時、飛んでくる大きな石を弾き飛ばして、俺を庇うような形で影が割って入ってきた。


「なにしてるんだ、君達!」


「うっ!」


俺を守るように割って入ってきたのは、父親のエイナルである。

突如の大人の乱入に、ケルビンも流石に驚いている。


「こんな小さな子供相手に、3人で苛めるなんて恥ずかしくないのか君達!」


「そ、そいつは悪魔だから、俺達がやっつけてるんだ」


他の子供達の目があるためか、大人相手にも引いてやるものかという感じで答える。

だが、俺の事を悪魔と言いつつも、悪い事をしているという自覚があるのか、その言葉尻は弱弱しい。


「この子は──ルーイは悪魔なんかじゃない! 歴とした君達と同じ人間だ!」


「嘘だ! そいつの髪の毛真っ黒じゃん!」

「この村にそんな色の髪の毛した奴いないもん!」

「それに、こいつ2歳の癖に変な事ばっかり言うもん。 レックスん所の弟は同じ2歳でも全然違うし」


変な事ばかりとは本当に失礼な奴らだ。

いじめなんて格好悪いと、懇切丁寧に諭そうとしただけじゃないか。

まあ、ちょっと2歳児らしくない諭し方だった気もしないでもないが……。


「だからと言って、自分より弱い者を多人数でよってたかって弄る様な事が正しい事だとは、僕は思わない!」

「それはとても恥ずかしい事だ」


「フ、フンッ! 俺知ってるんだからな!」

「こいつは、おっさんの子供じゃないって事!」

「母親が悪魔と生んだ子だって! 生んだ母親も平気で育ててるおっさんも、家族全員呪われてるって、大人達が言ってたんだからな!」


「ちょっ──「だまれ!!」」

「僕の事はどう言われても構わないが、家族の侮辱だけは許さないぞっ!!」


世話になってる両親の事まで言われて俺も怒ろうとしたら、先に親父のほうが俺以上に切れた。

普段母さんの尻に叱れつつも、ニコニコしてる温和な親父が、こんなに声を荒げて怒ったのは初めてである。

元の俺よりも年下で、一見頼りなさそうな感じなのだが、家族の事を馬鹿にされて真剣に怒る姿のなんとも頼もしく、そしてなぜか羨ましく感じてしまった。

俺も二人の両親のために、こんなに真剣に、純粋に怒れるのだろうか……。

もともとソロ思考な俺は、誰かのために本気で怒るといった事が無かったし、そんな場面に出会うことも無かった。

そんな俺が今の両親の為に──家族だからというだけで本気で怒ることが出来るのだろうか……。

もちろん、出来て欲しいと思う。

だけど、親子として以前に、俺の存在のせいで迷惑を掛けてしまってる両親に申し訳ないという気持ちの方が強い。

俺の為に本気で怒ってくれる親父に、俺はこの人を息子として、家族として本気で向き合えるんだろうか……。


「ルーイも妻も呪われてなんか居ない」

「確かにルーイはお婆様にお払いをしてもらった事はあるが、悪魔の子なんかじゃないってお婆様も言って下さってる」

「僕の言葉は信じられなくても、お婆様の言葉なら信じられるだろ?」


「フ、フンッ! お婆様がどう言ったって、関係ないもんね!」

「俺は騙されないからな!」

「おい! お前ら行くぞっ!」


そう言いケルビンは自分の家のほうに駆けていき、取り巻き連中も慌てて追いかけていった。


「大丈夫かルーイ?」


「うん、ちょっと切っただけだよ」

「骨とかは大丈夫みたい」


手を軽く振って、閉じたり、開いたりして見せた。

多少痛みのあるものの、動かすのに支障が在るほどではない。

これなら、すぐに傷もふさがるだろう。


「そ、そうか、良かった」


大した怪我でないことがわかったようで、安堵したエイナルは表情を緩めて胸をなでおろした。

しかし、直ぐに真剣な顔に戻すと、優しく抱きしめてきた。


「ごめんな、ルーイ……」


「なんで、謝るのお父さん……」


……やめてくれ。

親父や母さんが悪いんじゃない。

というか、謝るのならば俺のほうだ。

俺の髪の色や、言動が二人に迷惑を掛けてるのは間違いない。

しかし、二人は何も悪くないのに、自分達のせいだと思っている。

親というものはそう言うものなのかもしれないが、後ろめたい気持ちで一杯になる。

謝らせてしまっているのもそうだし、容姿とかけ離れた精神を持つ俺は、二人を騙してる気がして仕方が無い。

俺が本当に二人の子供だって、心から思えるようになればこんな気持ちにもならないんだろうか……。

あぁ、なんだか胸の中がぐちゃぐちゃで、何がなんだか分からなくなってきた。


「帰ろ……お父さん」


「……そうだな、モニカが待ってる」


少し赤くなった目を擦り、怪我をしていないほうの手をそっと握ってきた。

手は暖かく、思いのほかごつごつしていた。





この話はなかなか纏まらず苦労しました。

というか、今現在ですら混乱中です。

結構、手直ししたはずなんですが、たぶんまた投稿後に手直ししそうです。


書き方なんかも、かなり悩んでいます。

会話の間間にはスペースは要れないほうがいいのかどうなのかとか。

一応主人公視点で書いてるつもりなんですが、書いてると結構こんな書き方っていいのか?等と感じたり。

とりあえず、初心者がなんでもかんでも、いきなり上手くやろうとしても無理!という結論にいたり、とりあえず投稿いたしました。

もし、アドバイス等ありましたら是非よろしくお願いいたします。

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