教えて、お婆様
今回はこの世界の魔法についての大まかな解説となっております。
細かい部分を訂正いたしました。
誤字や表現を少し直しただけで、ストーリーに変更はありません。
ようやく足腰がしっかりしてきて、自由に歩いたり走り回る事が出来るようになった。
重心が高いせいか良く転びそうになるが、気を付ければジャンプも余裕である。
日々のトレーニングの賜物であろう。
自分の足で自由に動き回れるようになって、家の外に出る機会も自ずと増えた。
親の畑仕事に付いていって手伝おうとしてみるが、さすがにまだこの体では碌な手伝いは出来ない。
専ら親の姿を見て仕事を覚えたり、村の様子や人々の様子を観察しているのが主だ。
村の光景はファンタジー小説に出てくる田舎の農村そのままである。
地面は舗装されておらず、土が踏み固められて道が出来ている。
家屋がその道に沿ってまばらに建っており、村の中心だけ少し固まって建てられているぐらいだ。
村にある家々のほとんどは木と土で出来ており、あまり大きくない平屋がほとんどである。
森が比較的村の近くにあるが、外敵になるようなものが居ないのか、特に塀や堀のような物はなかった。
電柱等はもちろん無く、夜の明かり等は油を燃やすのが普通のようだ。
ただ、油も安く無いらしく、基本的に村の人たちは陽が沈むと床に就き、陽が昇ると共に活動するというサイクルだ。
もちろんうちも同じである。
おかげで、今は早寝早起きの健康そのものである。
元のセカイでは、こういう生活が良いというのは分かっていながら、寝ると次の日になってしまう気がして、ついつい遅寝遅起きの生活をしてしまっていた。
そんな俺は、今裏道を通って村のはずれにある一軒家を目指している。
最近は午前中に親の仕事に付いて行き、昼からはそこに通うのが日課なのである。
家からはちょうど村の反対側であるため、子供の足では立派な遠出だ。
しかし、この家には魔女がいるのだ。
そう「魔法を使う女性」の魔女である。
母親のモニカから、その魔女のことを聞いた俺は、一も二も無くすぐさま魔女の家を訪ねる事にした。
そして、今日もその家の前に着いた俺は、ドアをノックした。
「だれかね?」
誰何する声と共に現れたのは、妖艶な美貌をたたえるファンタジーお約束な女性──ではなく、伝統的な鷲鼻でしわくちゃな老婆である。
髪は真っ白、背は大きく曲がり、枯れ草色のローブをまとった姿だ。
これで、大きな壷を混ぜながら「ヒヒヒヒ」等と笑っていれば完璧な悪役魔女である。
しかし、その顔の皺は笑顔で刻まれたかの如く、人の良さが染み出している。
「おばばさま、今日も魔法についておしえてください!」
「なんだルーイかい、お前も変わった子だねー。 お前ぐらいの子は皆外で走り回ったり、遊んでるって言うのに、魔法の勉強したいだなんて」
「はやく魔法が使えるようになりたいんです」
「ホッホッホ、魔法を勉強したいというのは良い心がけじゃな。 本当は、他の子供達ともっと遊んで欲しいんじゃが……まあ仕方ないかの……。 ほれ、入りなさい」
老婆が開ける扉の隙間から家に入り込むと、むわっと噎せ返る濃い緑の香りが鼻腔を刺激する。
一段上がった座敷に、すり鉢や見覚えの無い草がいくつも置かれている。
何かの薬の調合をしていたようだ。
父親曰く、お婆様は村の薬師でもあり、魔女でもあるらしい。
以前、寝返りを覚えて訓練と称して寝返りをしまくる姿を見られ、お払い騒動になった際に来てくれたのも、このお婆様だ。
御祓いに呼ばれるのが魔女というのも何かおかしい気もするが、どうやら問題ないらしい。
なにかと他の村人達もお世話になっているようで、村長ではないが村の皆から大事にされ、尊敬されているらしい。
「さて、昨日はどこまで話したかの?」
「魔法の属性と種類についてです。」
「そうそう、そうじゃった。 この世界にはおおまかに四種類の属性がある。 火・水・風・土じゃの」
「人によっては雷・氷等も数える者がおるが、雷や氷は四種類の属性の延長線上のものであるという考え方が一般的じゃ」
「これ以外にも、どの属性にも属さない無属性。 そして、言い伝え等で語られる光や闇などの属性がある。 光と闇に関しては、現在確認されておらんがの」
「あと、人によって不得意な属性というのがあって、得意な属性に比べて結果が出難いことがある。 一応、無理をすれば不得意属性も使えるが、効率から言えば論外じゃの」
「属性についてはこんなものじゃな」
「魔法の種類については、大きく分けて二種類。 覚えておるかの?」
「はい、ひとつは自分の魔力と大気中にある魔力を混ぜて使う一般的に「魔法」と呼ばれるものと、精霊の力を借りて使う「精霊魔法」の二つです」
「うむ、正解じゃ。 あと己の魔力を自分の体内だけで使って、自らの内だけに影響を及ぼすものもあるが、これは魔法の一部とも言えるし「体術」の一環とも言われとる」
まさに王道と言った感じの設定で、わかり易くて良い。
特に光や闇等と言った部分に、中2心が非常にくすぐられる。
言い伝えとやらの事も是非知りたいが、ここは大事な事だからこそ順序良く学んでいくべきだろう。
とりあえず、昨日教えてもらった内容で、気になった点からだ。
「お婆様、体の中の魔力と大気中の魔力が分けられてる気がするんですが、なにか違いがあるんですか?」
「ホホホ、ルーイはなかなか鋭いのう。 そうじゃ、魔力には二種類あっての、体の中で作られるものを「小気」大気中にある魔力を「大気」と呼んでおる」
「この二つは良く似ているが、大きく違う点がある。 小気は体の内側で作られ、そして内側にしか作用しないのじゃ。 大気のほうは大気中に溢れており、濃度の差はあれど世界全体を覆っておる。 そして、体内に取り込むことは可能じゃが、体が受け付けぬのか小気のようには使えない。」
「じゃあ、小気があれば魔法は誰でも使えるということですか?」
「実は小気自体は、生き物ならば多かれ少なかれ誰しも持っておるのじゃよ」
「え!? でも、魔法は誰でも使えるって訳じゃないんですよね?」
最初にお婆様に会って教えてもらったのが、魔法は誰でも使えるものではないということだ。
これには、俺も相当あせった。
何せ、楽しみにしていた魔法が使えないとなれば、異世界に来た楽しみが大きく減ってしまうのは間違いない。
てっきり魔法が使えない者は小気が無いからだと思ったのだが、どうやら違うらしい。
「魔法を使うにはもうひとつ必要なのじゃよ。 小気と大気を混ぜ合わせ魔法として加工する【領域】がの」
「【領域】……ですか?」
「そうじゃ、【練魔領域】などと呼ぶものも居るし、ただ単に【領域】と呼ぶものも居る」
「これがないと、どれだけ小気があろうと、魔法を行使することが出来ぬ」
「大気の一端を体に取り込み、この領域で小気と混ぜ合わせる。 そして詠唱等で魔力に方向性や形を与えて、領域を基点に体外の大気へと伝え、奇跡を起こすのが魔法じゃ」
「一般に魔法の才能と呼ばれるのは、小気の量と、練魔領域の有無かつ大きさの事を指すのじゃ」
「その領域というのは、生まれつきで決まっていて、後から得るという事は出来ないのですか?」
「一般的には生まれつきで決まっており、後から獲得は無理と言われとるの」
「では、領域の大きさの拡張は出来ますか?」
「そうじゃの、確か成長と共に若干は拡張されると聞いた事がある。 ただ、これに関してはババもあまり詳しくはないのう……」
小気に関しては問題は無いようだ。
しかし、領域というものが必要で、これは生まれたときに有無が決まっており、後天的な獲得は無理ということだ。
これがないと魔法が使えないという言葉を心の中で反芻する。
そして、背筋を伸ばし、拳を軽く握り締め、お婆様のほうに向き直る。
魔法の使い方などももちろん気になるが、その前にどうしても聞いておかねばならない事があるのだ。
此処に来るのが日課となっても未だ聞けていない事が──。
咽に痞えそうになる言葉を、お腹に力を入れることで、何とか咽から捻り出す。
「──お婆様、僕に魔法の才能はありますか……?」
真正面から、お婆様の薄く開けられた青い目をじっと見つめる。
つばを飲み込む音が、相手に聞こえるんじゃないかというぐらい大きく聞こえ、もう何分もお婆様の目を見ている気がする。
視界の外側の色が褪せ、世界が自分に向かって収束している感覚に陥る。
胸の内に広がった不安の泥が、口から出そうになった所で、お婆様がしわくちゃの顔をさらに破顔させた。
「ホホホ、何と言う顔をしておるんじゃ、ルーイ」
「お、お婆様……」
「いや、すまんすまん。 心配せんでもお主には魔法の才能はちゃんとあるぞい」
その言葉が頭に染み渡ると、不覚にも我を忘れ飛び上がらんばかりにガッツポーズをしてしまった。
危うく叫び声をあげそうになったほどだ。
宝くじで一等が当たるとこんな感じなのかもしれない。
自分が予想していた喜びよりも、何倍もの喜びが体中を駆け巡っている。
俺の想像力が貧弱だっただけなのかもしれないが、魔法が使えるという事実に自分がこれほど喜ぶとは思っていなかった。
フィクションの世界で語られるだけの魔法、お金をいくら積んでも手に入ることの無い魔法。
そんな夢の力が俺にも使える!
今の俺なら秘蔵データーが入ったパソコンのハードディスクがぶっ壊されても、笑って許せてしまえるだろう。
いや……たぶん……きっと……。
お婆様はそんな俺の様子を見て驚くと共に、顔をしわくちゃにさせてうなづいている。
「おぬしがそんなに喜ぶとはのう。 やはりおぬしも年相応の子供という事じゃな」
「そりゃそうですよ! 魔法が使えるんですよ!」
「ホホホそうじゃの。 だがおぬしはどうも普通の子供とは違う気がするのじゃよ」
「おぬしぐらいの子供が、こうやって魔法を学んでいる時点で普通ではないのじゃが、先ほど魔法が使えるかと聞いてきた時の顔なぞ、大人が決死の覚悟を決めた時のような顔をしておったぞ」
「もしかしたら、ルーイはなにか凄い天稟を授かっておるのかもしれぬのう……」
「そ、そんな顔をしてましたか……?」
これからの人生にとってかなりの重要事項だったため、つい顔に出てしまっていたようだ。
お婆様のいうとおり、今ですらかなり2歳児の常識から外れた行動をしているのだから、気をつけないと……。
浮かれた気持ちを静めるために、軽く咳払いをし、座っていた元の場所に座りなおす。
「ではお婆様、僕に魔法を教えてもらえないでしょうか?」
「ホホホやはりそう来るじゃろうの。 しかし、続きはまた今度じゃな」
そう言い視線を窓に向けるお婆様に釣られ、空を見るといつの間にかに陽が傾きだしていた。
電気が無いこの世界では、陽が落ちると辺りは真っ暗になってしまう。
早く魔法を使ってみたいという気持ちは強いが、そろそろ帰らないとまずい。
犯罪等とは無縁の村ではあるが、俺はまだまだ小さい子供である。
遅くなれば両親を心配させてしまうだろう。
それに、あせらなくても時間はたっぷりある。
なにせ、俺はまだ2歳だからね。
そうと決まれば、さっさと帰って親を安心させるとしよう。
「わかりました。 じゃあ今日はこの辺で帰ります。 お婆様ありがとうございました!」
「ホホホ、どうせまた明日も来るんじゃろう?」
「ハイ、出来れば魔法を実際に使ってみたいのですが……」
「止めても聞きそうにないし、お主の場合は放って置くと一人でも何かしそうじゃからの、準備しておくから明日また来なさい」
「ありがとうございます!!」
「気をつけて帰るんじゃぞ」
お婆様の言葉を背に受けながら、重い頭に気をつけ、転ばない程度に急ぎ足で帰路に着いた。
出来るだけ穴が無いように考えたつもりですが、多分あるんだろうな~。
とりあえず今回はざっくりとだけなので、今のところは大丈夫な……はず。
しかし、書けば書くほど、こんな書き方でいいのだろうかと不安が募ります。
何度も読みながら修正を加えて行くのですが、迷走感がかなりしています。
とりあえず、経験の浅い自分は書くことを第一に頑張りたいと思います。