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少年よ大志を抱け

やわらかな日差しが差し込む窓の下、自分の身長の半分ぐらい有りそうな薄い紙の束が広がっている。

家の者がいない時間を使って行っている日課の読書である。

今では、文字もかなり読めるようになり、会話も大体理解出来る様になった。


元の世界で学生をやっていた時は、英語なんかも勉強したが、一向に身に付かなかったものだ。

やはり勉強している言語だけの生活と、覚えるしかないという環境が良かったのかもしれない。

もしくは、赤ちゃんになって物覚えが良くなったかのどちらかだ。


おかげで絵本ぐらいならば、ほぼ完璧に読めている。

今手に持っている本は「勇者クラウスと七界の魔王」という本だ。

内容は、勇者クラウスが世界を支配している七人の魔王を退治していくと言う王道話である。

この本でちょっと面白いのが、この七人の魔王の特徴と言うのが、元の世界で言われてる「七つの大罪」ととてもよく似ている点だ。

「怠惰」が「憂鬱」と入れ替わっていたり、若干の違いはあるようだがほとんど同じである。

そして、この本が全てが空想と言う訳ではなく、史実を多く含んでいるらしいという点である。

流石に、元の世界に「魔王」なんてものは居なかった。

この世界はやはり「異世界」であると言うことだ。

まったく異なる世界ではあるが、人間の考える範囲と言うのは似たり寄ったりなのかもしれない。


(しかし、子供向けにしては道徳的というか深い内容だな……)

(内容を簡単にまとめると、魔王の特徴として書かれている七つの感情は、人に悪事を働かせる理由となるので、気を付けろって感じかな)

(もしかして、これ絵本だけど子供向けって訳じゃないのか?)


元の世界に居た頃に、識字率の高く無い地域では、絵本で教育等を行うみたいな事を聞いたことがある。

この絵本は、字があまり読めない大人にも、分かりやすく啓蒙するための本なのかも知れない。

もしそうだとすると、この世界の識字率は高くない可能性がある。


(というか、日本が異様に識字率が高いってのは、聞いたことがあるな)

(字を書けるのが当たり前すぎて、識字率なんて考えたこと無かったけど……)


日本とはかなり文化レベルの差がありそうだ。


(うーん、やっぱり元の世界と同じ感覚で物を考えないように、気をつけたほうが良さそうだ)



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



赤ちゃんになってから1年が過ぎたようだ。

先日、親が一歳のお祝いをしてくれたのである。

と言っても、盛大なものではなく、普段の料理より少しだけ手の込んだ料理が用意された程度だ。

これは、うちの両親がケチだとか、そう言う訳ではない。

非常に残念な事に、うちはそれ程裕福な家ではないのだ。

大きくは無いが自分の畑を持ち、作物を育て、近くの森で狩猟を行い生活をしている。

一般的な田舎の農民一家なのである。


俺がよく読んでいた異世界転生物の小説とかだと、貴族やある程度裕福な家庭に転生して、メイドさんなんかとキャッキャウフフな生活を送るものが多かった気がするのだが……。


(あぁ、分かっていたさ……)

(部屋の様子から裕福では無さそうだと言うことや、俺を見に来るのが親がほとんどで、後は近所の人達が稀に来るだけだとか、分かっていたさ!)


(でも、でも、それでも!)


(それでも、メイドさんが居て欲しかった!!!)


俺の偽らざる、魂からの慟哭である。


異世界転生物の小説で、一番何に心惹かれるかと聞かれれば、即答で「メイドさん」である。

チート能力や、反則的な力を使って、敵をなぎ倒していく展開ももちろん大好きではあるが「メイドさん」とは比べるべくもない。

滅私の精神で影に日向に「主」に尽くし、いざ「主」に危険があればその身を省みずに盾となる、まさに奉仕の象徴。

そして「主」はそんな従者に相応しい「主」たれと努力する。

その二つの姿はなんと美しいことか。


(ついでに、夜のご奉仕なんかもしてくれるとなれば、尚グッド!!)

(って、いやいや、エロい事は問題じゃないな)

(そう! さながら王と騎士のような関係だ!)

(愚直なまでに「主」を信じ、命すら相手に捧げるその精神!)

(くーっ! 熱い! 熱いぜ!)


元の世界でも、本当にメイドを雇えないかと真剣に考えたのは、一度や二度ではない。

職業としては、家政婦等が実際にあるものの、俺の考えている「メイド」とは全く持って別物である。

家事等をしてくれるのは同じだろうが、所詮はそれだけである。

契約や交渉によっては、それ以上の事も可能かもしれないが、それは決定的に間違っている気がするのだ。


メイド喫茶も何度か行ったことがあるが、満足からは程遠いものであった。

まず、メイドの所作からして(わざ)とらしいのだ。

ただただ可愛らしく見せようと、ぶりっこのような仕草で媚を売って来る。

あまつさえ、オムライスの上にケチャップでハートを描いて、キュンキュンである。

俺の怒りのボルテージもギュンギュンである。

しかも、料理の質に比べて値段が恐ろしく高い。

完全な冷凍食品でないだけ、まだましなのかもしれないが、値段に釣り合う物ではなかった。

そして、ゲームと称してメイドさんとじゃんけんを5回行い、負けるとウーロン茶に色々トッピングされたものを飲むと言うものがあった。

5回中3回勝利し、2回分のトッピングをされる際に、初回からタバスコを投入するメイドに戦慄を覚えたものである。

その後投入された蜂蜜も、素晴らしい自己主張を繰り返すタバスコには勝てなかった。

口直しに同席した友人からバナナを貰って食べたが、あの時ほどバナナに感謝した事は無かっただろう。



(メイド喫茶ゆるすまじ!)



やはり、お金などの打算的な物を挟まず成り立つ関係だからこそ憧れるのだ。

しかし、そんな関係が成り立つのはフィクションだからこそだというのは、十分分かるだけの歳は取っている。

現実で、そんな関係が結べるのは何処の世界でも、かなり特殊な部類なのは間違いない。

ただ、この世界でメイドと言うものが一般的なものかは知らないが、社会システム等が違えばそんな関係を獲得する難易度は変わってくる。

文化レベルや、奴隷制の有無、風習等によっては、元の世界よりも簡単にメイドを雇い、主従の誓いを交わせるかも知れない。

少なくとも文化レベルに関しては、元の世界より低そうなので、期待が持てる。



(俺は必ず理想のメイドさんを手に入れてみせる!)



そう俺が部屋の窓から見える青々とした空に固く誓っっていると、家の扉が開く音が聞こえ、二つの足音がこちらに向かってくる。

窓に向けていた視線を部屋の入り口に移すと、ちょうど二人の男女が部屋に入ってきた。


「ルーイ、今日は天気が良いから、モニカと3人で外でご飯を食べるぞ!」

「ウフフ、直ぐに用意して持っていくから先に行ってて」

「おうよ! よし、ルーイ全速力だ!」


男はそう言い俺を軽く抱き上げて、高い高いしながら、笑顔で部屋を出て行こうとする。

中身が大人な自分としては、この高い高いはかなり怖い。

昔ならいざ知らず、今の俺の身長からするとかなりの高さだ。

しかも、全速力と言うだけあって、走りながらである。


「ちょっと、エイナル! あぶないでしょ!」


女性が慌てて俺を奪い取り、怒りの形相で男を睨む。


「落としたらどうするつもりよ!」

「す、すまん。 ちょっと調子に乗りすぎた」

「そうやって、すぐ調子に乗ってルーイが怪我をしたらどうするの!」

「だ、だから、すまん。 ごめんなさい。 許して……」


俺の窮地を救った女性に延々と説教され、男は床に正座し既に涙目である。

男は見た目から頼り無さそうな感じがしているが、見掛けだけではないようだ。

恐ろしい目に合わされたが、流石に段々可哀相になってくる。


「謝る相手は私じゃなくて、ルーイでしょ!」

「あ、あぁ、ごめんよルーイ。 悪かった、許してくれ」 

「ルーイ、ごめんなさいだって。 どうする、許してあげる?」


流石に大の大人が目の前で土下座して謝る姿に、許さない訳にはいくまい。


(ていうか、正座と土下座ってこの世界にもあるのかよ)


そんなことを考えながら、男のほうを見ていると縋る様な目で俺を見上げていた。

もう少し反省してもらっても良いのだが、そろそろお腹も減ってきたので、さっさと許すことにする。




「はぁい、おとーしゃん、おかぁしゃん」





2話から少し間が空いてしまいました。

一応、ちょこちょこ書いてるのですが、なかなか話が進みません。


今回はようやく、主人公の名前と両親の名前が出てまいりました。

もっと上手く名前を出す方法があると思うのですが、腕が追いつきません。

初めての小説なので、お見苦しい点が多々あると思いますが、どうぞこれからもよろしければお付き合いください。

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