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はやく大きくなーれ

赤ちゃんになってから一週間ぐらい経っただろうか?

体の感覚がハッキリしていないのと、直ぐに眠たくなる性でイマイチ正確な時間が把握できていない。

というか、この世界が異世界だとすると、時間の基本からして元の世界と違う可能性も十分ある。

何とかして確かめたい所だが、如何せんこの体ではどうしようもない。

せめて、視覚や聴覚がもう少しハッキリしないと、情報収集も儘なら無いのが現状だ。

なので、最近は専ら思索にふけっている。


最初こそ、これは夢で寝て目を覚ませば、いつものパソコンのディスプレイが見えるものだと思っていたが、流石に三日も経てばこれが現実だと考えざるを得なくなってくる。

そこから、赤ちゃんに転生という想像と実際に我が身で体験する現状に、一日落ち込み凹んでみたりもした訳で……。

だが、元々こういうのに憧れが有ったのと、30代となって自分の未来に閉塞感を感じていたという事も有り、とりあえず出来ることをやってみようと前向きに考えることにした。

現実逃避とも言えるが、気にしない!


(しかし、今は何も出来ないんだよな。)

(とりあえず、少しでも早く動けるように体を動かそう。)

(まずは目指せ! 寝返り!)




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




赤ちゃんになって、約二ヵ月の月日が流れた。


最近ようやく、視覚や聴覚が少しハッキリして来た。

まだ完全では無いものの、以前より物がハッキリ見えるようになり、音も綺麗に聞こえる。

おかげで色々分かったことが増えてきた。


まず、俺が気が付いた際に覗き込んで来た女性が、どうやら俺の母親だということ。

他にも良く俺を見に来る男性が居て、その人が父親のようだ。

父親らしい男性は、茶色の髪で瞳も茶色の中肉中背と言った感じで、普通の青年といった感じである。

多分、二人とも元の俺よりも若い。

何故か、テレビの中の芸能人がいつの間にか自分より年下である事に気が付いた時の、モヤッとした感じがしたりしなかったり……。

そんな二人は、俺のことをかなり大事に思ってくれているようだ。

頻繁に様子を見に来たり、その際に浮かべている笑顔を見ればまず間違いないだろう。

俺の動き一つ一つに大喜びしてる様は、まさにアイドルになったような気分である。


(まあ、中身はおっさんなんだがな!)


そして、此処が日本では無いという事も、ほぼ間違いないだろう。

両親の話す言葉も日本語でなければ、服装も日本ではまずお目に掛からないようなデザインの物であり、作りも荒い質素な物である。

部屋の壁や床も木と土で出来ており、調度品にしても質素なものばかりだ。

パソコンはもちろん電化製品自体見当たらない。

近代文明の産物を排した生活を行っていると言うよりは、文明レベルが元の世界よりかなり低いというほうがしっくり来る。

あとは、ここが元の世界と同じかどうかが問題なのだが、確信出来るだけの材料はまだ無い。


(異世界転生物の王道である魔法でも拝めれば一発なんだがな……。)

(というか、もう異世界で良いから、魔法だよ魔法!)

(どうせなら魔法を見てみたいし、使ってみたい!)

(是非是非、魔法が誰でも使える世界でありますように!)


などと、勝手な妄想を思い浮かべながら、日課の運動を行う。

寝返りは既にマスターしており、裏も表も自由自在である。

調子に乗って寝返りをしまくった結果、気づかないうちに部屋に入って来ていた親に、高速で転げまわる姿を見られ、御払いのようなものをされたのは、ご愛嬌だろう。

中身がおっさんの為、基本泣いたりする事も無いせいか、両親がかなり不安がっていたりする。

流石に我が子が一般的な子供と、どこか違うというのを感じ取っているようだ。

そういうわけで、最近は極力赤ちゃんらしい行動を心掛けているつもりだ。


(あんまり心配掛けるのも嫌だしな……。)


赤ちゃんになって2ヶ月が経過したが、まだ流石に自分の親というにはしっくり来ない。

30年以上別の世界で生活していた経験が有り、その世界ではもちろん別の両親が居た訳だ。

親というとどうしても、まだ元の世界の両親を思い出してしまうのが現状だ。

ただ、こちらに来て2ヶ月の間、無償の愛を注いでくれる二人には、それなりの親愛の感情を抱いているのも確かだ。

出来れば変な心配を掛けたくないし、笑顔でいて欲しいと思っている。


(はぁ……、父さんと母さんどうしてるかな……。)


この場合の両親とは、もちろん元の世界の両親のことである。

親について考えていると、どうしても元の世界の両親のことを思い出してしまう。

世の中色んな親が居ると思うが、元の両親は間違いなく良い親の部類に入るだろう。

俺自身大事に育ててもらったとも思ってるし、感謝もしている。

「尊敬できる人は?」と聞かれれば「親」と即答出来る位に尊敬もしている。

自分が送っていた、家庭も持たず気ままな学生のような生活と比べると、如何に親が凄いのかを実感させられたものだ。

そんな親が、俺が居なくなってどれだけ心配しているかは、容易に想像が付く。

元の生活に大して未練は無いが、両親に心配を掛けていることだけは、後ろ髪を引かれる思いである。


とは言え、現状出来る事は非常に限られおり、今はまだ自分が寝かされている小さなベッドの中を転がるのが精一杯である。


(さて、今日も始めますかね……。)


うつ伏せの状態から重たい頭を持ち上げ、四肢に力を入れ這いずる様に前進を行う。

世に言う「ハイハイ」である。




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




そろそろ、赤ちゃんになって6ヶ月ぐらいになるだろうか?

俺は今、スニーキングミッション中だ。

監視の目を掻い潜り、誰にも悟られないよう任務を遂行している。

そっと周囲に人の気配が無いことを探りながら、注意深く目標へ移動していく。

途中の障害物等も、今や俺の脚を止める事は出来ない。

なにせ、今やハイハイのみならず捕まり立ちまで、マスターしているのだからな!


(フッ、少々の段差程度、我の敵ではない! フハハハハ!)

(ハハハ……。)

(ハハ…………。)

(ハァ……さっさと行くか……。)


最近、変な方向にスイッチが入る時が増えた気がする。

色々きているのかもしれない、色々と。


とりあえず、誰にも見つかることなく目的の物の元まで無事やって来ることが出来た。

と言っても、親は今外出しており不在だし、移動と言っても部屋内を横断した程度の話だ。

危険などあるはずも無く、親に見つかったところでベッドに連れ戻されるだけだ。

だが、俺にとっては大事な用があるのだ。


それは、部屋の隅に小さく積まれている「本」である。


近頃は親が出かける時を見計らって、この本を眺めるのが日課になっている。

親が寝静まるのを待って、隠して置いたエロ本をこっそり読んでいた昔に戻ったようだ。

違いが有るとすれば、本の内容がエロ本から絵本に変わってる所だろうか。

あと、書かれている文字が、俺の知っている日本語ではなく、見たことも無い字なのも大きな違いだ。

ただ、絵本なおかげで内容は何となく分かる。

どうやらこの本に描かれているのは、勇者が悪い敵をやっつけて世界に平和をもたらした的な良くあるお話のようだ。


(元の世界で言う、桃太郎みたいなもんかね。)


細かい言葉の意味は分からないが、絵と見比べながら言葉の意味を考えていく。

これだけだと正解かどうか分からないので、親に読んでもらうべく、目の前でこの本に関心を持ってますよアピールももちろん忘れない。

と言っても、話してる言葉もまだ良くわかっていない訳だが……。


ちなみに、この本が部屋の隅に積まれているのも、そこ以外に本を置こうとした際に俺がぐずった結果によるものだったりする。

普段ほとんど泣かない俺がぐずるのは、中々に効果的なようだ。

30代のおっさんがぐずるのは如何なものかと思うが、見た目は1歳にも満たない子供だから問題はあるまい。


(とりあえず、あせらずじっくりやりますかね。)

なかなか物語が進みませぬ。


ヒロインとかヒロインとか登場させたいけど、まだ先になりそうです。

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