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いつかまた、めぐり逢うなら君と。  作者: 三波エル


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プロローグ:夢

時間がある時に気が向いたタイミングで更新予定です。初心者ですが優しく楽しんでいただけると嬉しいです。




 そこでは、美しく、紫がかった長髪の少女が、透き通った茶髪の青年に抱きしめられていた。

____薄暗い部屋の中、少女の息遣いだけが響いていた。彼女は冷え切った指先を震わせながら、浅く弱々しい呼吸を繰り返す。


そんな彼女を見た青年は悲痛な笑みを見せたが、すぐに取り繕う。青年は少女に声をかける。自身の腕の中で震える、大切な人。ありったけの"それ"を込めて。

朦朧とする意識の中でも、彼の声だけは、はっきりと届いた。



『…』


__暗闇を照らす、暖かな日差しのような、"それ"。どんな時でも、いつも自分を優しく包み込んでくれた、"それ"。変わらずに彼女に届く、"それ"。彼女は、青年から今まで沢山の"それ"を受け取ってきた。嬉しい時。悲しい時。楽しい時。時には、喧嘩した後でさえ。"それ"を受け取らなかった日は、なかったようにすら思う。少女は、思い返せば返すほど、溢れてくる思いに苦しくなった。それは、例え泥のように鈍った思考の中でも、絶対に青年へ伝えたいことだった。



__しかし、彼に何か言葉を返すには、彼女は既に手遅れな状態となっていた。声を出そうと思っても、体は言うことを聞かない。もう自分ではどうすることもできず、途方もない悔しさが彼女を襲った。彼女はただ心からの"それ"を込めて、散りゆく花のように、僅かな笑みをこぼす。その笑みは、彼女が彼に"それ"を伝える、たった一つ残された最後の手段だった。


『…!』


それを見た青年は必死に彼女へ語りかけるが、悲しきかな、次第に彼女の身体からは温度が消えていく。少女は閉じゆく瞳の中、最後の力を振り絞り、そっと彼の頬に触れる。触れた場所から伝わる彼の温もりに心底安堵し、少女はこの腕の中で、永い夢を見ることを受け入れた。




___やがて、少女の体から最後の体温が消え、そこからさらにしばらくして、窓の外から活動を始めた鳥の囀りが聞こえるようになった頃、彼は決意した。




『…もし再び巡り会えたなら、僕は必ず君の傍で生きよう。君を守る盾となり、君を支える剣となる。君が寂しい時には側で寄り添い、君が嬉しい時には共に笑おう。』

だから僕は、もう一度、君に会いたい___。




人形のように重くなってしまった彼女の手をそっと取りながら、彼は告げる。彼女への、別れ際の精一杯の言葉を紡いだ。それは、聞こえているはずもない彼女への、青年からの最後の恋文だった。




そうして、彼女の重みを心に刻んで、寝台に彼女を静かに横たえると、彼は周囲にこの事を伝えるために部屋を出た。外に控えていた使用人たちを呼び、そこからは先は、感情を認識する暇もないほどに呆気なく進んだ。各所に手紙を送る。_親族や友人への訃報に葬儀の手配、遺品整理。やりたくなくてもやらねばならないことが数多くあった。彼女の死を知ったものは皆、愛らしい少女との別れを惜しみ、涙した。彼女を失った悲しみは青年の心の中に巣食っていたが、青年は皆を率いる立場ゆえ、いつまでも立ち止まっている訳にはいかなかった。_もうすぐ、春が終わる。春が終われば夏が始まり、仕事もどんどん忙しくなる。無情にも、青年が職務に奔走するうちに、月日はどんどん流れていった。






____そうした日々の中で、青年は時々、1人の時間に大きな櫻を訪れた。彼女と何度も来た、屋敷からそう遠くない、大樹。春になると、木下には数えきれない菫が咲き、幻想的、と彼女が大層気に入っていた場所である。彼女だけでなく、青年自身も、大樹の下で凛と咲くその紫色の花を、大人しいようで意外と芯のある少女とどこか似ていると、悪くないと思っていた。_少女がいた頃にはまだ新芽が残っていたが、今はもう、青々としていた時期も終わり、赤黄に染まり始めていた。



…青年は、思考する。_あれからここへ来て、彼女へ心を馳せる度に、いつも思い出すことがあった。そう疑いたくはないと思いつつも、ずっと、胸に秘めている問い。ふと、抱えきれなくなりそうになる時があった。あの日、消えゆく彼女に誓った【約束】。




"『…もし再び巡り会えたなら、僕は必ず君の傍で生きよう。君を守る盾となり、君を支える剣となる。君が寂しい時には側で寄り添い、君が嬉しい時には共に笑おう。』"





『……しかし果たして、その時君は僕を、僕は君を、本当に憶えているのだろうか?』




___声に出てしまっていたその呟きは、誰に拾われることもなく、落日の空へと消えていった。

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